理系女子が16世紀イタリアに似た異世界の貴族令嬢に転生。追放されたので、魔法科学で領地の文明水準を引き上げます

ねこまんまる

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25 塩をお金にするには

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どうすればいいのか悩んでいると、ルカが壁にもたれたまま、低い声で割って入った。
 
「悪いが、ウワサってのは尾ひれがつくもんだ。あれは“塩”じゃない。
イザベラお嬢様は、薬草の蒸留をやっておられる。瓶に白い結晶ができたのを見て、村人が勝手に“塩”だと言いふらしたんだ」

男の目が細くなる。
 
「では、実際には塩ではないと?」

「蒸留の副産物だ。飲めば苦く、料理には向かない。
だが村人は珍しがってな。まあ、田舎の好奇心ってやつだ」

ギルドの男はしばらく沈黙し、視線を私に移した。
私は微笑を作り、静かにうなずいた。
 
「はい。私はただ、川の水質を調べているだけです。
塩を作るなど、むずかしくてとてもできませんよ……」

ルカの言葉にうながされるように、私は控えめに肩をすくめる。
ギルドの男はしばし考え、懐から書状を取り出した。
 
「では、報告だけは上にあげておきましょう。今回は帰ります。
しかし、公国の目はきびしいゆえ、お気をつけて」

足音が遠ざかると、ルカはようやく息を吐いた。
 
「……あの連中、最初から疑ってやがった。だが、今のところは切り抜けたな」

「ありがとう。あなたの言葉がなければ、きっと追及されていました」

ルカは苦笑し、手を伸ばして机上の木杯を取った。
 
「次は気をつけろよ。塩の話は、この国では命より重い」
  
「わかりました……」
 
少し考えてから、私はルカに言った。
 
「私は、塩をお金にするために、塩を修道院や教会へ“奉納”しようかと思います」
 
「奉納? タダであげる、っていうわけか? それだと、金にならないだろう」
 
「教会や修道院へ『寄進』すると、名目上は無償でも、実際には見返りを得ることが多くあるんです」
 
「見返り?」
 
「たとえば、奉納した塩などの物資は、修道院が市場で換金します。
その収益の一部を、『お礼』などの名目で、寄進者に返すんです」
 
実際、15~16世紀のフィレンツェでは、修道院・孤児院が塩・ワイン・布地などを市場で販売し、物資をタダでくれた寄進者に分け前を返すことがあった。

とくにサンタ・マリア・ノヴェッラ修道院(※のちに薬局を経営)は、薬・香料・酒精の販売で莫大な利益を出し、寄進貴族と分け合っていた。

つまり、修道院に寄進→修道院が販売→対価がお金として戻る、という形で資金を得るのだ。
 
「そうすれば、塩を売ったことにはなりませんから、国からうるさく言われません」
 
「なるほど。修道院に代理で塩を販売させるのか。記録上は、教会活動の支援となるから、おまえが塩を売ったことにはならない」
 
「問題は、どの教会に塩を寄進するか、ですが……。
追放された私は、フィレンツェには入れないので、あの都市以外の教会をえらばなければなりません」

「ルッカ共和国の、サン・フレディアーノ教会はどうだ?」
 
16世紀のルッカ共和国は、イタリア・トスカーナ地方の北西部にあった小さな独立共和国だ。
 
フィレンツェやシエナ、ピサと並ぶ都市国家のひとつ。

フィレンツェからは約70km西にあり、アペニン山脈のふもとに位置する。
アルノ川の支流・セッキア川やセルキオ川に囲まれた、天然の防衛都市。
 
ルカが、言葉をつづけた。
 
「あの教会の裏には、交易ギルドの倉庫街がある。
貴族から寄進された物は、修道士を介して、商人へ渡るようになっているんだ。
港へも近いから、塩貿易で資金回収がしやすいんじゃないか?」

「では、その教会にしましょう」
 
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