理系女子が16世紀イタリアに似た異世界の貴族令嬢に転生。追放されたので、魔法科学で領地の文明水準を引き上げます

ねこまんまる

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26 武器に細工をする

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ルカが私に問いかけてくる。
 
「どのくらいの量の塩を教会に寄進するつもりだ?
馬一頭で運べるのは、せいぜい、230リブラほどだろう」
 
リブラは、16世紀イタリア・トスカーナ地方の重さの単位。
現代の地球の日本で、230リブラは約80キログラムくらい。
たとえるなら、農家や倉庫であつかう大きな米袋4つ分であり、家畜としての豚(※若~中サイズ)1頭とほぼ同じ重量となる。

ルカは、言葉をつづけた。
 
「230リブラの塩を教会に寄進した場合、礼として返ってくるのは、おそらくグロッソ銀貨が数枚だけだ。
領地の立て直し資金としては、足りない。
少なくとも、グロッソ銀貨が100枚はほしいが、そうすると、馬10頭の小隊か、複数回の往復で大量に塩を運ぶ必要がある」
 
たしかに、この領地を立て直すための資金としては、銀貨100枚はほしいところだ。
完全に再建することはできなくても、それだけあれば、小麦・大麦・豆などの種子穀物がたくさん買えるし、農具の修理もできる。

グロッソ銀貨100枚を得るためには、教会には、1.5~2.5トンくらいの塩を運ばなければならない。

考えたすえに、私はうなずいた。
 
「わかりました。大量の塩を馬一頭で運べるように、魔法科学でどうにかしましょう」
 
「塩を運ぶ当日は、俺も護衛としてルッカ共和国までついていくからな」
 
「いいんですか? では、おねがいします」



夜。

屋敷の離れにある私の工房には、鉄粉・油・木炭の匂いがただよっていた。

作業台の上には、一本の剣……サイドソードが横たわっている。
16世紀イタリアで広く使われた、標準的な傭兵の剣だ。

片手用・両刃で、刺突と斬撃のどちらにも対応できる。
フェンシングや初期のレイピア術の基礎となった剣である。

私はつかの付け根の部分に、小さな魔石をうめこむ作業をしていた。

細工師が使うタガネ(※鉄の彫刻工具)を手に取り、柄の金具を慎重に叩く。
コツ、コツ、と金属が薄く開き、やがて指先ほどの“くぼみ”がつくられた。

そのとき、扉がきしむようにして開き、ルカの声がした。

「剣に、細工してるのか?」

鎧を脱いだ格好で、彼が工房の灯りの中へ入ってくる。
私は、作業の手をとめてうなずいた。

「はい。魔石を剣に固定しようとしています」

作業台の横に置いた紫色の魔石――アメジストが、炉火に反応するように淡く光った。

魔石というのは、この世界に存在する特有のもので、古くから存在する『魔力を宿した宝石』の総称だ。

ルカは眉をひそめる。

「おまえ……剣に魔石をくっつけるつもりか?
それで武器が強くなるなんて、聞いたことがないぞ」

「一般的な技術だけでは、そうでしょうね」

私は魔石をつまみ、削った金具のくぼみにそっと置いた。

「この魔石は、衝撃で魔力を放つ“起動石”なんです。
刃に直接埋め込むより、柄に近い部分に固定したほうが、作動しやすい」

「……その魔石は、アメジストで作られているな。市で見かけるような安物なんかじゃない。
どこで見つけてきたんだ?」

「嫁入り道具として、以前に両親からもらったんです。ずっと部屋に大切に隠していたんですが、交易商か、金細工師に売って領地の資金にするつもりでした。
でもいまは、ルカのために使うべきだと判断したんです」

この時代のヨーロッパでは、宝石は輸入が中心だ。
アフリカ(エジプト周辺)、中東、インドなど、遠隔地から仕入れられることが多い。
交易コストがかかるため、値段も高くなる。

私は真鍮の小さな固定爪をあてがい、宝飾職人と同じ手順で魔石を剣に固定していく。

――カン、カン、カン。

この音は、鍛冶というより金銀細工のアトリエの音だ。

しばらくして、魔石は金具にしっかりと噛み合った。

布で汗を拭き、軽く剣を持ち上げた。
柄の根元から、ふわりと光が走る。
刃そのものには触れていないのに、金属がふるえた。

ルカが息を呑んだ。

「……魔石が、うまく反応したな」

「はい。これは刃を魔法化するのではなく、“振る動作”に魔力を重ねる補助具として働きます。
剣の重さは変わりませんが、振る瞬間だけ――」

私は軽く振って見せた。
空気が一瞬だけ、ヒュッと細く裂けるような音がする。

「重心が軽く感じられます。馬上戦で疲労を軽減できます」

ルカは剣を受け取り、ただ静かに見つめた。

「……おまえ、俺のために?」

「ええ。
既製品に手を加えただけですけど……あなたに持ってほしかった」

炉の火が、ルカの横顔に赤い影をつくった。

彼は魔石の埋め込まれた柄を指先でそっとなぞり、低い声でつぶやいた。

「この剣は……大事にする。
壊れても、おまえのところに持って帰る」

魔石がうめこまれた剣を、ルカは宝物のように見つめていた。
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