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21 スクランブルエッグ
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冬の朝、今日はにわとりのマッキアがたまごを二個産んだ。
農民たちが軒先に集まって「今日は、イザベラ様からどうぞ」と、にこやかにたまごを差し出してくれた。
いつもは一人ひとつでもありがたいこの時期、二つもいただけるとは思わなかった。
卵は貴重だ。
冬場は数日に一つしか手に入らず、普通なら粥やスープの具として少しずつ使うものだ。
村人たちは、遠慮深く頭を下げ、にっこりと笑って見送ってくれた。
私はそっとたまごを手に取り、温かい手のひらで包む。
この時代のたまごは現代より小ぶりで、殻は少し厚く丈夫だ。
殻の冷たさの奥に、ほのかなぬくもりが感じられた。
「ありがとう……」
感謝の言葉を口にして、私は農民たちに笑顔をむけた。
さっそく、たまごを使って料理をすることにした。
この時代には現代のような台所はないけれど、領主の屋敷には厨房がある。
屋敷の厨房は、居間から離れた石造りの建物に設置されていた。
厨房には、広い炉(※火をおこす場所)が二つならんでいる。
半円形の大きな炉の前にひざまずいた私は、灰かき棒で灰を横へ寄せ、炭を炉の中央へ集めた。
乾かしたオリーブの小枝と細い薪を置いて、火打石を打ち鳴らし、火をつける。
やがて炎が立ち上がり、炉の内側に広がっていく。
この時代にはフライパンがないため、小さな鉄鍋を使ってたまごを焼いていく。
砂糖やハチミツ、塩や胡椒は貴重品なので、かわりにハーブの『タイム』を生で少量きざんでいれる。
タイムをいれると、卵の甘みが少しだけ引きしまるのだ。
このハーブは地中海原産の多年草だから、この地域では畑や庭の片隅によく生えている。
そうして、スクランブルエッグが完成した。
スクランブルエッグという料理名はこの時代には存在しないけれど、それに似たたまご料理は存在する。
現代のバター多用した『ふわふわ型』とはかなりちがうし、しっかり火を通す意識が強い時代なので、ややかための仕上がりだ。
でも、オリーブ油が卵を包むので、ボソボソした感じでもない。
完成したスクランブルエッグを、三つに分ける。
私がひとつ、ルカがひとつ、執事のドメニコにもひとつ。
厨房で焼き上げた卵料理は、浅い陶皿にうつした。
縁にわずかに焦げ目のついた黄色の塊から、きざんだ香草の匂いが立ちのぼる。
白布をかけ、私はそれを屋敷の奥へ運んだ。
食堂は、まだ朝の光がやわらかく差し込む時間だった。
高い窓から入る日差しが、長卓の上の木目を浮かび上がらせている。
私は席に着き、少し遅れてルカ、そして執事のドメニコが向かいに腰を下ろした。
皿を置くと、卵の香りが卓に広がる。
「今朝とれた卵を焼いたものです。みんなでいただきましょう」
私がそう言うと、執事のドメニコは皿を見つめ、そっと息を吸う。
「きれいな焼き色ですな」
「派手さはありませんが、腹持ちはいいはずです。仕事をする前には、ちょうどいいでしょう」
三人分に切り分けられた卵料理が、それぞれの皿に置かれる。
外側はしっかりと、中はやわらかく焼き固められていた。
一口食べると、卵の素朴な甘みと、香草のほろ苦さが広がる。
ハーブのタイムを少し入れているため、噛んだ瞬間、かすかな草の香りが立ち、油の重さだけが残らずに消えていく。
「……おいしいですね」
ルカが「ああ、うまいな」と静かに答える。
執事のドメニコも一口食べて、にっこりと笑った。
「こうして分け合えるだけで、心が温まりますな」
「ええ、そうですね」
私も微笑み返す。
そうして、私たちは自然のめぐみに感謝をしながら、たまごを丁寧に口に運んだ。
農民たちが軒先に集まって「今日は、イザベラ様からどうぞ」と、にこやかにたまごを差し出してくれた。
いつもは一人ひとつでもありがたいこの時期、二つもいただけるとは思わなかった。
卵は貴重だ。
冬場は数日に一つしか手に入らず、普通なら粥やスープの具として少しずつ使うものだ。
村人たちは、遠慮深く頭を下げ、にっこりと笑って見送ってくれた。
私はそっとたまごを手に取り、温かい手のひらで包む。
この時代のたまごは現代より小ぶりで、殻は少し厚く丈夫だ。
殻の冷たさの奥に、ほのかなぬくもりが感じられた。
「ありがとう……」
感謝の言葉を口にして、私は農民たちに笑顔をむけた。
さっそく、たまごを使って料理をすることにした。
この時代には現代のような台所はないけれど、領主の屋敷には厨房がある。
屋敷の厨房は、居間から離れた石造りの建物に設置されていた。
厨房には、広い炉(※火をおこす場所)が二つならんでいる。
半円形の大きな炉の前にひざまずいた私は、灰かき棒で灰を横へ寄せ、炭を炉の中央へ集めた。
乾かしたオリーブの小枝と細い薪を置いて、火打石を打ち鳴らし、火をつける。
やがて炎が立ち上がり、炉の内側に広がっていく。
この時代にはフライパンがないため、小さな鉄鍋を使ってたまごを焼いていく。
砂糖やハチミツ、塩や胡椒は貴重品なので、かわりにハーブの『タイム』を生で少量きざんでいれる。
タイムをいれると、卵の甘みが少しだけ引きしまるのだ。
このハーブは地中海原産の多年草だから、この地域では畑や庭の片隅によく生えている。
そうして、スクランブルエッグが完成した。
スクランブルエッグという料理名はこの時代には存在しないけれど、それに似たたまご料理は存在する。
現代のバター多用した『ふわふわ型』とはかなりちがうし、しっかり火を通す意識が強い時代なので、ややかための仕上がりだ。
でも、オリーブ油が卵を包むので、ボソボソした感じでもない。
完成したスクランブルエッグを、三つに分ける。
私がひとつ、ルカがひとつ、執事のドメニコにもひとつ。
厨房で焼き上げた卵料理は、浅い陶皿にうつした。
縁にわずかに焦げ目のついた黄色の塊から、きざんだ香草の匂いが立ちのぼる。
白布をかけ、私はそれを屋敷の奥へ運んだ。
食堂は、まだ朝の光がやわらかく差し込む時間だった。
高い窓から入る日差しが、長卓の上の木目を浮かび上がらせている。
私は席に着き、少し遅れてルカ、そして執事のドメニコが向かいに腰を下ろした。
皿を置くと、卵の香りが卓に広がる。
「今朝とれた卵を焼いたものです。みんなでいただきましょう」
私がそう言うと、執事のドメニコは皿を見つめ、そっと息を吸う。
「きれいな焼き色ですな」
「派手さはありませんが、腹持ちはいいはずです。仕事をする前には、ちょうどいいでしょう」
三人分に切り分けられた卵料理が、それぞれの皿に置かれる。
外側はしっかりと、中はやわらかく焼き固められていた。
一口食べると、卵の素朴な甘みと、香草のほろ苦さが広がる。
ハーブのタイムを少し入れているため、噛んだ瞬間、かすかな草の香りが立ち、油の重さだけが残らずに消えていく。
「……おいしいですね」
ルカが「ああ、うまいな」と静かに答える。
執事のドメニコも一口食べて、にっこりと笑った。
「こうして分け合えるだけで、心が温まりますな」
「ええ、そうですね」
私も微笑み返す。
そうして、私たちは自然のめぐみに感謝をしながら、たまごを丁寧に口に運んだ。
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