19世紀イングランド風の異世界。未来で悪役になる貴族の息子を、メイドの私が溺愛して運命を変えます

ねこまんまる

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1 魔法が使えるハウスメイド見習い

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19世紀末、ビクトリア後期のイギリス。

この時代のイングランドは、もっとも『メイドらしい時代』と呼ばれている。

黒いワンピースに白いエプロン、厳しい階級制度、住み込みの大邸宅。
現代日本で見た“典型的なメイド像”は、まさにこの時代に完成したのだ。

そんな世界に、私は転生した。
 
ここは、19世紀末のイングランド……に、よく似た異世界。
前世でプレイしていたRPG風ADVゲーム『ミスト・テイル』の世界だ。

ADVは、Adventure(アドベンチャー)ゲームの略。
ざっくり言うと、文章と選択肢が中心で、物語を読むタイプのゲーム。

イングランドは、イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を構成する四つの地域のひとつだ。
 
イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド――これらが合わさって、イギリスとなる。

私が生まれたのは、イングランドのリンカンシャー州。
東イングランドの広大な農業地帯で、そのフェンランド(※沼地)近くの小村が私の故郷だ。

父は農場の労働者、母は洗濯と家仕事。
子どもは8人。
私はその三女として生まれ、11歳でロンドンの屋敷へスカラリーメイド(※皿洗い専門メイド)として奉公に出されることになった。

仕事は村の教会の牧師が紹介してくれた。
19世紀には履歴書も求人広告も一般的ではなく、親戚や村の牧師、教会などの“口コミのネットワーク”で職が決まっていた。

19世紀のメイドは、ほとんどが貧しい家庭の娘だ。
それは私も同じだった。
労働者階級や農村の家々は子どもが多く、次女、三女、四女が働きに出るのは当たり前。
家計を助けるため、親が「○歳になったら奉公に出す」ことを決めていた。
 
学校に行けず、読み書きも不十分な子どもが多かった時代。
女性にとって、メイドは『確実に働ける職』だった。

工場は危険が多く、この時代はまだ店の数が少なく、事務の仕事ができるのはまだ先のこと。
産業革命の影響で農村が貧しくなり、娘たちはロンドンや都市部の屋敷に奉公に出るようになった。

そうして私は、牧師の推薦状を手に、ロンドンのメイフェア地区にある侯爵家へ向かった。
初めて仕えるのは、メイフェアの中央に屋敷を構える“ベイワース侯爵家”だ。

メイフェアはロンドンの中心部にあり、現代でも最上級の高級住宅街。
ピカデリー通りとハイドパークに挟まれ、古くから貴族や大地主、銀行家、政治家が集まって暮らす地域である。
そこでの屋敷は大きく、使用人も数十人規模。
まさに“貴族の街”だった。

ベイワース侯爵家は、メイフェアの並木道路沿いにある、壮麗なタウンハウス(連棟式邸宅)。
赤レンガや石造りのジョージアン様式で、4階建て。
ジョージアン様式は、左右対称を重んじる建築だ。

私は11歳でスカラリーメイドとして住み込みを始め、13歳でハウスメイドの見習いになり、気づけば17歳になっていた。
いまでは経験者としてあつかわれる立場だ。

一日の労働時間は十四~十六時間。
給金は安く、ほとんどが貯金か家への仕送りになる。


 
まだ外が青みを帯びた闇に沈んでいる頃。

私は屋敷の裏口からそっと入り、石造りの廊下を歩いた。
大きな屋敷では、使用人が誰より先に朝を迎える。

メイド見習いの私は、屋敷の中で一番下の階層だから、仕事はほぼ雑務だ。

いま着ている仕事着は、灰色の木綿でできた地味なワンピース。
 
袖は仕事のたびに肘まで巻き上げ、エプロンは生成り色の厚布。 
頭には小さな布のキャップをつけているだけで、飾り気は一切ない。
 
黒ワンピと白エプロンを着れるのは、中流か上級メイドだけだ。
私も早く昇進して、そのメイド服を着てみたい。
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