18世紀末ヴェルサイユに似た乙女ゲーム世界に転生した悪役令嬢は、断罪を回避したい

ねこまんまる

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17 舞踏会の招待状

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私はゆっくりと視線を落とした。
彼の言葉には、飾りがない。
優しさとも違う——軍人らしい、真っ直ぐな感覚。

けれど、その“真っ直ぐさ”が胸に刺さる。

「中尉……あなたは本当に不思議ですわね。
悪役と言われる女に、そんな言葉を向けるなんて」

「俺は、俺が見たものだけを信じる」

彼はそう言うと、背を向けた。
夕光の中で、近衛の軍服が静かに揺れる。

「……部屋まで、ついていく。
ウワサの刃より、兵士の影のほうが安全だろう」

その言葉には、ひとりの人間として私を“見ている”者の声だった。

彼に護衛されながら、私は歩き出す。
胸の奥に、小さな灯がともる感覚がした。

胸の奥で、そっと誓う。
 
負けない……
私は、ゲーム通りには断罪されない。

マリアンナがヒロインでも。
彼女が転生者でも。
清楚を装った裏の顔を持っていても。

私は断罪されずに、この宮廷で生き抜く。


 
十月のヴェルサイユは、パリ近郊のため、基本は現代と同じで秋はすずしい。
 
朝晩の冷え込みが強く、庭園では並木の葉がゆるやかに色づき、小道には朝露を抱いた落葉が散りはじめる。

18世紀末でも、ヴェルサイユは舞踏会の本場、社交の中心だった。
ただ、財政難や政治不安、アントワネットへの批判の高まりにより、ルイ16世治下では舞踏会の頻度は18世紀前半より減少傾向にある。

そんな朝、
宮殿にある私の部屋の扉を、ひかえめに叩く音がした。

「――セシルお嬢様。失礼いたします」

朝の身支度を手伝う役目の侍女が、銀盆を抱えて入ってくる。
銀盆には、薄青の封筒と、香りづけの花弁が添えられていた。

「本日の“知らせ”をお持ちいたしました。王妃陛下より、『白百合舞踏会』のご案内が届いております」
 
侍女は礼儀正しくカーテシーし、封筒を差し出す。
白地に金の紋章。
舞踏会の案内状としては最高格式のものだ。
 
ヴェルサイユの令嬢たちは、起床後すぐに侍女から“その日の宮廷予定”を知らされる。
 
王妃のサロン、ミサ、音楽会、観劇、そして夜宴。
特に舞踏会の告知は、侍女が最も慎重にあつかう仕事だ。
 
白百合舞踏会――
それは、乙女ゲームにあったイベントだ。
 
王妃が主催する、秋季最大の正式舞踏会。
王妃の前に立つ席次は、令嬢たちの“未来”そのものを決める。

侍女は言葉を続ける。

「本年は、王妃陛下が今秋の社交のひらきとして、“若い令嬢を広くお招きになる”と聞きおよんでおります。
昨夜、女官たちのあいだでも話題になっておりました」

侍女は、私の寝間着のリボンを整えながら、そっと声を落とした。

「衣裳部屋へ、パニエとローブ・ア・ラ・フランセーズ(※ドレス)の確認に参りませんと。
白百合舞踏会で王妃陛下の御前に立つには、少しのほつれでも、宮廷では“家の管理の甘さ”と見なされてしまいますから」

……本当に、あのイベントがはじまるのね。

私は封筒を開き、アントワネットの香水を含ませた薄紙と、金のインクで刻まれた招待文を見つめた。

恋愛イベント『王妃主催の白百合舞踏会』。
 
それは、華やかな音楽と光の祭典であると同時に――
令嬢たちの立場を左右する、もっとも厳しい“審判の夜”でもあった。
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