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18 舞踏会当日
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舞踏会では、ドレスに身を包んだ未婚の令嬢たちが王妃の前に列となって並び、その立ち位置ひとつで将来が決まる。
王太子や王妃付きの近衛隊士官、若い官僚たちも参加し、踊りと会話を通じて「未来の妃」や「後見すべき令嬢」を見定めようとしている。
たしか乙女ゲームでは、王妃との好感度が一定以上あり、宮廷マナー(ステータス)が一定値以上で、参加ルートが解放される。
足りない場合は招待状は届かず、ミニイベントに分岐する。
マリアンナは、絶対に参加するだろう。
そして、なにか仕掛けてくる。
そう考えていると、侍女が言葉をつづける。
「白百合舞踏会は、1週間後に執り行われるとのことでございます」
「……1週間後」
「はい、お嬢様。宮殿内でも、昨晩から女官たちが大変あわただしくしておりまして。
衣裳部屋の仕立て屋にすぐ連絡いたします。
舞踏会までの日数を考えますと、ローブ・ア・ラ・フランセーズ(※ドレス)のそでと裾は、本日中に枠組みをととのえませんと」
侍女の声には、18世紀の宮廷で生きる者ならではの緊張が宿っていた。
舞踏会はただの華やかな催しではなく、令嬢にとっては“人生を決める査定の日”。
「お嬢様、今朝のうちに王妃陛下の侍女頭へ返答をお届けいたします。
ご出席の旨、よろしいでしょうか?」
私は、金のインクで刻まれた文面を見つめた。
王妃主催――白百合舞踏会。
1週間後。
あとから部屋に入ってきた侍女たちは息をひそめ、私の一言を待っている。
「ええ……もちろん出席するわ。いまから準備をととのえましょう」
そう告げると、侍女たちは一斉に礼をし、すぐさま動き出した。
◇
舞踏会当日の朝。
侍女たちは、いつもより早く部屋に入ってきた。
手には湯気の立つ桶、白粉の箱、絹の下着。
「お嬢様。舞踏会当日でございます。髪結い師が一刻後にまいりますので……まずは身支度を」
私は身を起こし、侍女たちが着替えのために私の寝衣をほどいていく間、外の霧が晴れていくのをぼんやり見つめた。
木製の椅子に座ると、侍女が温かいローズウォーターで私の顔と腕を拭ってくれる。
「お肌をしっとりさせておかないと、白粉がうまくつきませんわ」
薔薇の香りが部屋に広がり、続けて白粉が薄く私の肌にのせられていく。
18世紀の白粉は米粉と白鉛を混ぜたもの。
光を受けると、陶器のような質感が生まれる。
次に頬へ薔薇色の紅を少しだけ。
「強すぎる紅は王妃陛下のお好みに合わないので」と、侍女は慎ましく指先で馴染ませた。
髪結い師が到着したのは、その直後だった。
「さあ、マドモワゼル。白百合舞踏会となれば、最高の髪型でなければなりません」
髪結い師は器用にクシを操り、私の金色の髪を高く結い上げていく。
羊毛のパッドを挟み、髪を針金で固定し、さらに白粉を軽く振って色を整える。
侍女が羽根飾りと小さな銀の髪飾りを用意した。
「王妃陛下のお好みに合わせ、派手すぎないよう……でも、隣の令嬢より見劣りせぬように」
18世紀の宮廷では、髪の高さひとつで“家の財力とセンス”が測られた。
最後に、髪結い師が確認しながら言った。
「これなら鏡の回廊でも、美しく光を受けるでしょう」
つぎに、ドレスの着付けだ。
侍女が白い手袋をはめ、吊り下げられたドレスをおろして私に着せていく。
鏡に映る私は、もう“ただの令嬢”ではなかった。
胸元には小さな真珠、髪は羽根飾りで優雅に盛られ、ドレスの銀糸は光を吸い込むように輝く。
王太子や王妃付きの近衛隊士官、若い官僚たちも参加し、踊りと会話を通じて「未来の妃」や「後見すべき令嬢」を見定めようとしている。
たしか乙女ゲームでは、王妃との好感度が一定以上あり、宮廷マナー(ステータス)が一定値以上で、参加ルートが解放される。
足りない場合は招待状は届かず、ミニイベントに分岐する。
マリアンナは、絶対に参加するだろう。
そして、なにか仕掛けてくる。
そう考えていると、侍女が言葉をつづける。
「白百合舞踏会は、1週間後に執り行われるとのことでございます」
「……1週間後」
「はい、お嬢様。宮殿内でも、昨晩から女官たちが大変あわただしくしておりまして。
衣裳部屋の仕立て屋にすぐ連絡いたします。
舞踏会までの日数を考えますと、ローブ・ア・ラ・フランセーズ(※ドレス)のそでと裾は、本日中に枠組みをととのえませんと」
侍女の声には、18世紀の宮廷で生きる者ならではの緊張が宿っていた。
舞踏会はただの華やかな催しではなく、令嬢にとっては“人生を決める査定の日”。
「お嬢様、今朝のうちに王妃陛下の侍女頭へ返答をお届けいたします。
ご出席の旨、よろしいでしょうか?」
私は、金のインクで刻まれた文面を見つめた。
王妃主催――白百合舞踏会。
1週間後。
あとから部屋に入ってきた侍女たちは息をひそめ、私の一言を待っている。
「ええ……もちろん出席するわ。いまから準備をととのえましょう」
そう告げると、侍女たちは一斉に礼をし、すぐさま動き出した。
◇
舞踏会当日の朝。
侍女たちは、いつもより早く部屋に入ってきた。
手には湯気の立つ桶、白粉の箱、絹の下着。
「お嬢様。舞踏会当日でございます。髪結い師が一刻後にまいりますので……まずは身支度を」
私は身を起こし、侍女たちが着替えのために私の寝衣をほどいていく間、外の霧が晴れていくのをぼんやり見つめた。
木製の椅子に座ると、侍女が温かいローズウォーターで私の顔と腕を拭ってくれる。
「お肌をしっとりさせておかないと、白粉がうまくつきませんわ」
薔薇の香りが部屋に広がり、続けて白粉が薄く私の肌にのせられていく。
18世紀の白粉は米粉と白鉛を混ぜたもの。
光を受けると、陶器のような質感が生まれる。
次に頬へ薔薇色の紅を少しだけ。
「強すぎる紅は王妃陛下のお好みに合わないので」と、侍女は慎ましく指先で馴染ませた。
髪結い師が到着したのは、その直後だった。
「さあ、マドモワゼル。白百合舞踏会となれば、最高の髪型でなければなりません」
髪結い師は器用にクシを操り、私の金色の髪を高く結い上げていく。
羊毛のパッドを挟み、髪を針金で固定し、さらに白粉を軽く振って色を整える。
侍女が羽根飾りと小さな銀の髪飾りを用意した。
「王妃陛下のお好みに合わせ、派手すぎないよう……でも、隣の令嬢より見劣りせぬように」
18世紀の宮廷では、髪の高さひとつで“家の財力とセンス”が測られた。
最後に、髪結い師が確認しながら言った。
「これなら鏡の回廊でも、美しく光を受けるでしょう」
つぎに、ドレスの着付けだ。
侍女が白い手袋をはめ、吊り下げられたドレスをおろして私に着せていく。
鏡に映る私は、もう“ただの令嬢”ではなかった。
胸元には小さな真珠、髪は羽根飾りで優雅に盛られ、ドレスの銀糸は光を吸い込むように輝く。
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