18世紀末ヴェルサイユに似た乙女ゲーム世界に転生した悪役令嬢は、断罪を回避したい

ねこまんまる

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19 アラン中尉の手助け

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侍女は、いま私が着ているドレスのすそを整えながら静かに言った。

「お嬢様のお召し物は、王妃陛下のお好みに合わせてございます。その美しいお姿、まさに『王妃の前に立つべき令嬢』でございます」

王妃のお気に入りの色合いから外れれば、それだけで『趣味が悪い』『陛下を理解していない』と陰口が飛ぶ。
 
18世紀ヴェルサイユの舞踏会は、単なる踊りの場ではない。
政治と婚姻交渉の見本市なのだ。

ゲームだと、この舞踏会で私の“断罪フラグ”が立つのよね。

王太子の前でヒロインを侮辱し、『悪役令嬢セシル』は皆の前で糾弾される。
そののち、修道院送り――それが、原作の筋書き。

でも、私はこれまでにも、いくつかフラグを折ってきた。
今回だって、折れないはずがない。

そのとき、重厚な扉の向こうで、かすかな足音が止まった。

──コン、コン。

音は強すぎず、しかしためらいもない。
宮殿で定められた、正式なノックだった。

「セシル・ド・ヴァロア嬢。近衛隊より、お取次ぎを願います」

アランの声だ。
扉越しの声は低く、抑制されている。
名を名乗らないのも、ヴェルサイユでは珍しくない。
近衛士官は“王の権威の一部”であるため、個人として名前を出すのは好まれなかった。

私はいったん、部屋の奥に視線を走らせた。
侍女はすでに控えの間に下がっている。

「どうぞ」

返事をすると、扉が開かれた。
本当なら、近衛士官は令嬢の私室へ無断で足を踏み入れてはいけない。

ひらいた扉のあいだから、アランが顔を出した。

「レディの支度部屋に入るのは、本来は禁じられているが……」

「近衛隊士官には、ある程度の特権があるのでしょう?」

「王妃陛下の安全のため、という理由があればな」

部屋に入ってきたアランの灰色の瞳が、豪華なドレスに着替えた私を見て止まる。

「……似合うな」

「それは、礼儀の賛辞? それとも、本音かしら?」

「本音だ」

言い切られて、緊張で息が詰まる。
少しの沈黙のあと、アランの声が低くなった。
 
「マリアンナ・ド・ヴィルヌーヴ伯爵令嬢は、舞踏会で決定打を狙ってくるだろう。
彼女の侍女が、このまえ王太子殿下の従者と接触していた。おまえの席次(※舞踏会での立ち位置)を、中央列から外そうとしていた形跡がある」

「……やっぱり」

舞踏会では、どの位置に立つかというのは令嬢にとって重要だ。
中央列だと、王妃の真正面になる。
その場所に立つ令嬢は、王家に『注目すべき娘』と認められているのだ。
 
あの乙女ゲームでは、王太子などの攻略対象者との会話が発生しやすい位置なのが、舞踏会での中央列。

私は父の地位ゆえ、舞踏会では中央の位置におかれてきた。
中央の列から席を外された場合、マリアンナにとって、攻略者たちの攻略がやりやすくなるだろう。
 
アランは、一枚の紙を差し出した。
 
「王妃の侍女頭からの内示だ。舞踏会での立ち位置が書かれている。おまえは『王妃の日々の勤行に忠実に参加している』という功績で、舞踏会での席次は中央の列が維持されている」

「……あなたが、動いてくれたのね?」

王妃のサロンに出席する令嬢の態度は、近衛隊と女官たちの報告書で細かく記録されている。
 
アランが私に関した『良い報告』をしてくれたおかげで、さりげなく私の印象が押し上がり、舞踏会での立ち位置が中央列で維持されたのだ。

「俺は事実を報告しただけだ」
 
彼はそっけなく言う。
 
「おまえが王妃陛下に対して無礼な真似をしていないのは事実だからな」

胸の奥が、じんと熱くなる。

「ありがとう」
 
お礼を言うと、彼は耳まで赤くした。

「……舞踏会のあいだ、王太子殿下はおまえに“第一舞踏(※最初のダンス)”を申し込む可能性が高い」
 
舞踏会の第一舞踏。
最初に踊るメヌエットは、社交上もっとも重い意味を持つ。
 
王太子が選ぶ相手は、将来の妃候補だと見なされる。
あの乙女ゲームでは、誰からダンスを申し込まれるかは、『好感度』と『舞踏会での立ち位置』で変化した。

ゲームでは、舞踏会でセシルが高慢にふるまい、ヒロインをあざ笑ったため、ヒロインのマリアンナは攻略対象者たちに守られて王太子からダンスにさそわれる。
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