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第10話(最終話)営業ノルマ達成、そして……
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長らくお世話になった雅宗に別れを告げ、リリムは地獄へと帰還した。
魔界銀行に向かい、ノルマを達成した契約書を提出して、魂を集めたことを証明しなければならない。
「おや、リリムさん、お元気がなさそうですね」
「そ、そうですか? そんなことないですよ!」
「まあ、いいでしょう。契約書に書かれた人間の魂を査定しますので、少々お待ちください」
銀行には他にも契約ノルマを終えた悪魔たちが集まっており、魂の査定が終わるのを待っている。
彼らが集めた魂があれば、差し押さえられた魔王の魂を解放することができるはずだ。
「ったくよぉ、マジでふざけんなよ魔王だからってよ……」
「魂を解放して、国庫の鍵の在り処を聞き出したら、全員でボコボコにして地獄の果てまで追放してやろうぜ」
営業に駆り出された悪魔たちはフラストレーションを貯めていた。
そこへ、リリムが慌てた様子の銀行員に呼び出される。
「ちょ、ちょっとリリムさん! なんですか、この契約書は!」
「えっ、どうしたんですか? ま、まさか、魂の中に掘り出し物が……!?」
純度の高い清らかな魂であれば、高値がつくことがある。悪魔の間では「掘り出し物」と呼ばれていた。そもそもそんな善人が悪魔と契約するとは考えづらいからだ。
「なぁ~に寝ぼけたこと言ってるんですか! あなたの契約書に不備があるんですよ!」
「ええっ!? そんなはずは……」
銀行員は、契約書の特定の箇所を、爪でコンコンと叩く。「ほら、ここ!」
『甲が乙の願いを叶えたとき、乙は甲に塊(かたまり)を譲渡する』――
「『魂』が『塊』になってますよ! この文字、魔界語では『粘土』という意味ですよ!」
「あ、ホントだ。漢字って難しくて……これじゃ『粘土を譲渡する契約』だぁ……」
「この契約書、全部誤字で無効になってますよ」
「え」
なんと、リリムがこれまで苦労して集めてきた魂は、すべて取り逃がすことになった。
彼女はとんでもない失態で床に崩れ落ちる。
「……でも、菊子さんの魂も、雅宗さんの魂も、地獄に落とす必要ないんだ……よかったぁ……」
「なにか言いましたか、リリムさん?」きょとんとしている銀行員が、リリムを鋭く見つめた。
そんな銀行員の後ろに、誰かが立つ。
「あ、魔王様」
「魔王様!?」
突然現れた騒動の発端に、悪魔たちが騒ぎ出した。
「いやぁ、みんな、世話をかけたな」
「あの、魔王様、もう大丈夫なのですか……?」
「ん? うん、お前たちが出かけてる間に、温泉テーマパークの売上が上がってな。借金を返済できたんで、差し押さえられていた魂が戻ってきたのよ」
ガハハ、と笑う魔王に、あっけにとられる悪魔たち。
「――魔王を袋叩きにしろォ!」
「えっ、なんで!? 一件落着じゃろ!?」
その後、魔王は玉座から引きずり降ろされたという。
リリムの自宅。
「――雅宗さん、私が契約書を誤字ってたの、知ってたんでしょ」
『ああ。バズバズだっけ? そいつの契約書を見せられたときに気づいたからな。これは上手く利用できると思った』
「本当に抜け目がないんですから、もう……」
リリムは雅宗に電話しながらプーッと頬を膨らませている。
「まあいいですよ。今度のお休みに人間界観光するので、またお家に泊めてくださいね。約束ですよ!」
リリムの机には、人間界特集の組まれた観光雑誌が置かれていた。
営業の仕事で行けなかった観光名所には付箋も貼ってある。
彼女は次の人間界訪問を楽しみに、長い尻尾を揺らすのだった。
〈了〉
魔界銀行に向かい、ノルマを達成した契約書を提出して、魂を集めたことを証明しなければならない。
「おや、リリムさん、お元気がなさそうですね」
「そ、そうですか? そんなことないですよ!」
「まあ、いいでしょう。契約書に書かれた人間の魂を査定しますので、少々お待ちください」
銀行には他にも契約ノルマを終えた悪魔たちが集まっており、魂の査定が終わるのを待っている。
彼らが集めた魂があれば、差し押さえられた魔王の魂を解放することができるはずだ。
「ったくよぉ、マジでふざけんなよ魔王だからってよ……」
「魂を解放して、国庫の鍵の在り処を聞き出したら、全員でボコボコにして地獄の果てまで追放してやろうぜ」
営業に駆り出された悪魔たちはフラストレーションを貯めていた。
そこへ、リリムが慌てた様子の銀行員に呼び出される。
「ちょ、ちょっとリリムさん! なんですか、この契約書は!」
「えっ、どうしたんですか? ま、まさか、魂の中に掘り出し物が……!?」
純度の高い清らかな魂であれば、高値がつくことがある。悪魔の間では「掘り出し物」と呼ばれていた。そもそもそんな善人が悪魔と契約するとは考えづらいからだ。
「なぁ~に寝ぼけたこと言ってるんですか! あなたの契約書に不備があるんですよ!」
「ええっ!? そんなはずは……」
銀行員は、契約書の特定の箇所を、爪でコンコンと叩く。「ほら、ここ!」
『甲が乙の願いを叶えたとき、乙は甲に塊(かたまり)を譲渡する』――
「『魂』が『塊』になってますよ! この文字、魔界語では『粘土』という意味ですよ!」
「あ、ホントだ。漢字って難しくて……これじゃ『粘土を譲渡する契約』だぁ……」
「この契約書、全部誤字で無効になってますよ」
「え」
なんと、リリムがこれまで苦労して集めてきた魂は、すべて取り逃がすことになった。
彼女はとんでもない失態で床に崩れ落ちる。
「……でも、菊子さんの魂も、雅宗さんの魂も、地獄に落とす必要ないんだ……よかったぁ……」
「なにか言いましたか、リリムさん?」きょとんとしている銀行員が、リリムを鋭く見つめた。
そんな銀行員の後ろに、誰かが立つ。
「あ、魔王様」
「魔王様!?」
突然現れた騒動の発端に、悪魔たちが騒ぎ出した。
「いやぁ、みんな、世話をかけたな」
「あの、魔王様、もう大丈夫なのですか……?」
「ん? うん、お前たちが出かけてる間に、温泉テーマパークの売上が上がってな。借金を返済できたんで、差し押さえられていた魂が戻ってきたのよ」
ガハハ、と笑う魔王に、あっけにとられる悪魔たち。
「――魔王を袋叩きにしろォ!」
「えっ、なんで!? 一件落着じゃろ!?」
その後、魔王は玉座から引きずり降ろされたという。
リリムの自宅。
「――雅宗さん、私が契約書を誤字ってたの、知ってたんでしょ」
『ああ。バズバズだっけ? そいつの契約書を見せられたときに気づいたからな。これは上手く利用できると思った』
「本当に抜け目がないんですから、もう……」
リリムは雅宗に電話しながらプーッと頬を膨らませている。
「まあいいですよ。今度のお休みに人間界観光するので、またお家に泊めてくださいね。約束ですよ!」
リリムの机には、人間界特集の組まれた観光雑誌が置かれていた。
営業の仕事で行けなかった観光名所には付箋も貼ってある。
彼女は次の人間界訪問を楽しみに、長い尻尾を揺らすのだった。
〈了〉
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