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4月編

第4話 文月栞、学園一のイケメンに襲われる。

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前回までのあらすじ。
隣のクラスの男子、中島猫春と図書館で偶然出逢った文月栞。
翌日図書室で再び会った栞と猫春だったが、図書室で曽根崎逢瀬が猫春に因縁をつけてくる。
紆余曲折あって、栞は猫春と晴れて交際することになったのであった。

翌日、一年A組の教室。
「ちょっと、文月! 逢瀬くんをフッたってマジ!?」
特に仲が良くも悪くもない女子が話しかけてくる。
それほどまでに昨日の出来事は衝撃のニュースとして学園中を駆け巡ったのだろう。
「はい、今は隣のクラスの中島くんと交際しております」
「え? あ、ああ……そうなんだ……」
私は聞かれてもいない事実を付け加えると、相手は困惑した反応をする。
「え~っ、『学園一のイケメン』をフッちゃうなんて勿体ないね。でもまあ、ライバルが減ってラッキーって感じかな」
『学園一のイケメン』という異名を持つ曽根崎逢瀬を狙っているらしい女子がキャイキャイと騒ぐ。
いくらイケメンって言っても、あんな金髪でチャラそうな男のどこがいいんだろう……。
私はどちらかというと、猫春みたいな真面目で純朴そうな男子のほうが好みだ。
まあ好みは人それぞれか、と一人納得して、私は英和辞書を読む作業に戻る。
辞書を読むのは好きだ。わからないことがあったときに辞書を引くだけでなく、読み物として読むと、辞書はいろんなことを教えてくれる。
あと、分厚いから盾にも鈍器にもなるのが最高だ。
……喧嘩は卒業したはずなのに、そんな思考に至ってしまうのは、まだまだ根性が抜けきっていない証拠だ。
猫春のためにも、優しくて真面目なキャラを演じなければならない。
よし、と私は気合を入れて、授業開始のチャイムとともに気持ちを切り替えた。

その日の放課後、図書室。
私と曽根崎が図書委員として図書室に入ると、すでに窓際の席に猫春が座っていた。
猫春がこちらに気づいて、そっと手をふる。
それだけで嬉しいような気恥ずかしいような気持ちになって、私もそろっと手を振り返した。
曽根崎はそれを見て、つまらなそうな不満そうな顔をする。
「ちぇっ、中島のやつ、栞ちゃんの本当の姿も知らないでへらへらしやがって」
「曽根崎くん、言っておきますが、もしあのことをバラしたら――」
「はいはい、言われなくてもわかってますよっと」
曽根崎は口をとがらせながら、貸し出し受付に入っていった。
私も続いて受付に入ると、受付の奥に随分本が積んであった。
これらは返却された本の山だ。私達の前――おそらく昼休みに入った図書委員が元の本棚に戻しておいてくれなかったらしい。
「曽根崎くん、私は本の整理をしてきますから、受付から動かないように」
「え? 俺、手伝わなくて大丈夫?」
曽根崎は大量の本を指差して目を丸くする。
「力仕事は慣れてますから」
私は本を十数冊まとめてひょいと持ち上げる。
「さっすが栞ちゃん、そこに痺れる憧れるゥ~」
「褒めても何も出ませんよ」
そんなお決まりの文句を言って、私は書架の奥へと本を運んでいく。
本に貼られた図書番号のシールを頼りに、私は所定の位置へと本を戻し、ついでに軽く並び替えておく。
というのも、立ち読みをした生徒がテキトーに本を戻す場合があって、それも直さなければならない。
本の量もあるし、骨が折れる。今日はこの仕事だけで終わりそうだな、と思っていた時。
――私の背後から、男の手が伸びてきて、本棚にもたれかかった。
振り返ると、やはりというか、曽根崎の顔がすぐ近くにある。いわゆる壁ドンのような体勢になっている。
「……曽根崎くん。受付から動くなって言いましたよね」
「栞ちゃん……二人きりになってるのに、どうして敬語のままなの?」
話を聞いているのか、この男は。
「ねえ、中島と別れてよ」
「まだ何もしていないのに?」
「何かする前に別れてって言ってるの」
「曽根崎くんには関係ないですよね?」
なんでお前に猫春との交際を口出しされなきゃいけないんだ。
私はだんだんイライラしてきて、眉間にシワが寄る。
「関係あるよ。栞ちゃんは俺の初恋なんだから」
突然、曽根崎の顔が近づいてきて、唇を塞がれる。
「――ッ!?」
手に持っていた本がバラバラと落ちる。でも、図書室の奥だから、誰もその音には気づかない。
そう――机で本を読んでいる恋人の猫春でさえも。
「は……っ、俺……栞ちゃんのことが、本当に好きで……っ、なんで俺を選んでくれないの……?」
「んん……っ」
何度も何度も、執拗にキスを繰り返す。
不意にカチャカチャと音がして、何の音だろう、と見ると、曽根崎がベルトを外そうとしている……?
――こ、コイツ、ここで致す気か!?
「……神聖な、図書室で……」
私は後ろ手に本棚から分厚そうな本を触覚で選んで掴む。
サカってんじゃねえよ、この猿ッ!」
ドゴン。
六法全書が曽根崎の頭に見事に命中して、彼は私にもたれるように倒れた。
まずい、ったか!?
――いや、どうやら気絶しているだけみたいだ。
私は安堵のため息をつく。
ひとまず保健委員である猫春と、猫春だけでは身長のある曽根崎を運べないので、図書室の司書教諭の二人がかりで保健室まで運んでもらった。
私は一人、受付で留守番をしている。
はあぁ、と私は大きなため息をついた。
――ファーストキスを、曽根崎に奪われた。
猫春ともまだキスしたことないのに。由々しき事態である。
もうやだ、あいつ……。
私は受付に両肘をついて、頭を抱えたのであった。

〈続く〉
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