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4月編
第5話 文月栞、『学園で二番目のイケメン』に出逢う。
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前回までのあらすじ。
ファーストキスを『学園一のイケメン』曽根崎逢瀬に奪われた文月栞。
ただいま絶賛傷心中です。
「文月さん、ちょっといい?」
私に話しかけてきたのは、担任の新米教師――みんなからは『今ちゃん先生』と呼ばれている、愛嬌のある女教師だ。
「ごめんなさいね、読書中に」
「いえ。私になにか……?」
私は辞書をパタンと閉じて小首をかしげる。
「文月さん、まだ部活決まってないでしょう」
「部活……」
すっかり忘れていた。図書委員やってるだけで、いろいろありすぎて……。
「図書委員の仕事も忙しいでしょうけど、この学園の生徒は必ず部活に所属してなきゃいけないの。悪いけど、なるべく早く入部届出しておいてね」
「わかりました」
私に言いたいことを伝えると、今ちゃん先生はパタパタとせわしなく歩き去っていった。
部活か……。
図書委員の仕事をメインにやっていきたいから、どこか幽霊部員で所属させてくれるとこ、探そうかな……。
私は昼休みにでも部室を回ってみることにした。
当日の昼休み。
まずは茶道部に寄ってみたが、正座は足が痺れて難しいので断念した。
どうせなら、身体を動かせる部活のほうがいいのかな。
この学園は金持ちな生徒の親が多額の寄付をしているとかで、体育館とは別に運動部ごとに練習場があてがわれているというのだから驚きだ。
私は適当に学園の敷地内をぶらぶら歩いて、目についた空手部の道場に入ってみることにした。
「こんにちはー……」
ひょこっと、入り口から頭だけ覗き込む。
「あ、栞ちゃん、いらっしゃーい」
「ヒィッ!?」
な、なんで空手道場に曽根崎逢瀬がいるんだ!?
「そ、曽根崎くん、とうとうストーキングまで始めたんですか……!?」
「違うよ、偶然だよ、安心して」
そう言われても安心できないほど、奴は前科持ちである。
「逢瀬、知り合いか?」
「俺の初恋の人だよ」
空手着を着た男子が曽根崎に話しかける。
『初恋の人』という表現はまあセーフだろう、事実だし。
もし『恋人』とか言ってたらブッ飛ばしてた。
「初恋か、ロマンティックだな」
空手着の男子がそう言うので、思わず吹き出してしまった。
「あ、ごめんなさい」
「いや、自分には似合わない言葉だったなと我ながら思う」
私が謝ると、空手着の男子は無表情のまま頭をかいた。
「紹介するよ、こいつは二ノ宮銀城。俺の友達で二年生」
「本来なら、逢瀬と自分は同級生になるはずだったんだがな」
そういえば、曽根崎は一年生で留年してたんだった。
「二ノ宮先輩」
「銀城でいい」
「銀城先輩はなんで曽根崎くんと友達なんですか?」
銀城先輩はキリッとした凛々しい顔つきのイケメンである。同じイケメンとはいえ、曽根崎とはタイプというかジャンルというか……まあ方向性が違う。
こんな真面目そうな先輩がチャラそうな曽根崎と友人というのは意外であった。
「ああ、逢瀬にはよく助けてもらうからな、気づいたら仲良くなってた」
「こいつ、方向音痴でさ。入学式のときも迷子になってたから一緒に登校して、それからすっかり大親友だよ」
曽根崎は笑顔で銀城先輩と肩を組むが、銀城先輩は無表情のままなので、本当に仲いいのか……? と訝しく思う。
「今は銀城と一緒に昼飯食ってたんだけどさ、栞ちゃんもよかったら一緒に食べない?」
「いえ、私はもう済ませてきたので」
「なーんだ」
曽根崎はつまらなそうに頭の後ろで手を組んだ。
「栞……というのか、君は」
「あ、申し遅れました、一年A組の文月栞と申します」
「ふむ……」
銀城先輩は私を頭の先から足の先までじっくり眺める。な、なんだ、この人。
「文月、君はかなり鍛えているようだな。筋肉のバランスがいい」
「へ? ど、どうも……」
制服着てるのにそんなことわかるの?
「よければ、お手合わせ願えないだろうか」
そう言うやいなや、銀城先輩は私に正拳突きを食らわせてきた。
「――あっぶねえな、何しやがる!」
間一髪で避けて、道場の真ん中まで跳び下がる。
「おい銀城、栞ちゃんに何すんだよ!」
「口調が変わった……? 今までの態度は演技か……?」
文句を言う曽根崎を無視して、ブツブツと呟く銀城先輩。
ホント、人の話を聞かねえやつばっかか、この学園は。
「君の実力、見極めさせてもらおう」
そう言いながら、銀城先輩は一方的に私に攻撃してくる。
――ああ、こんなとこ来るんじゃなかった。
小学校や中学校で、私に攻撃してくる男たちを思い出す。
銀城先輩の攻撃を避けながら、私の腹の中で、何か沸騰して煮えたぎるものがある。
「君のその鍛え上げられた身体は、避けるためだけのものか?」
銀城先輩は、出会ったときからずっと表情が変わっていない。無表情のまま、私を攻撃してくる。顔が美しいだけに、無表情で襲ってくる男というのは不気味なものだった。
「――だったら、アタシからもいかせてもらうぜ、センパイ!」
私は思い切り足を振り上げる。
――踵落とし。
靴を履いたままだったから多少は痛いだろうが、いきなり襲ってきた銀城先輩が悪い。
その私の踵を、腕をクロスして受け止めて、
「……降参だ。もういい」
と、銀城先輩は呟くように言った。
「んだよ、もう終わりかよ」
と私が煽るが、
「銀城、正直に言え。――何色だった?」
「……女子の知られたくない事情は話せない」
曽根崎に質問された銀城先輩は初めて表情を崩した――顔を真赤にしていた。
「……先輩、アタシのパンツ見たんすか」
「言わないでくれ! せっかく伏せたのに!」
銀城先輩は意外とウブらしく、真っ赤にした顔を両手で覆う。ちょっと可愛い。
「銀城も、こういう可愛いとこ見せたら女子にモテると思うんだけどなあ」
「モテないんですか?」
曽根崎の言葉に、私は疑問を差し挟む。
私だったら、『学園一のイケメン』と呼ばれてる曽根崎よりも、実直そうな銀城先輩のほうを選ぶけどなあ。いや、私には猫春がいるけど。
「モテるにはモテるんだけど、いつも無表情で、バカ真面目で堅苦しい性格しててさ。周りからは『二番の男』とか『学園で二番目のイケメン』とか言われ放題だよ」
「学園で二番目のイケメン……」
微妙なあだ名だな……。
「大会の成績もテストの順位もいつも二位だから『二番の男』という呼び名はある意味正しいんだがな」
「自分で言ってて悲しくないんすか先輩」
銀城先輩はいつの間にか、あのキリッとした無表情に戻っていた。
「それにしても、君は強いな、文月。あの踵落としはなかなか効いた」
「そりゃどうも」
「自分は強い女が好きだ。結婚を前提に付き合ってくれ」
「は、……は?」
突然のプロポーズ。いや、意味わからん。
「銀城! 栞ちゃんは俺のだぞ!」
「いやお前のでもねえよ!?」
抱きつく曽根崎を力ずくで押し返す。
「申し訳ありませんが、私にはすでにお付き合いしている方がおりまして」
「そうか……残念だ……」
銀城先輩はちょっとシュンとした顔をする。これもちょっと可愛い。
「では、その男と力比べをして、強い方と付き合うというのは……」
「ダメです。絶対ダメです」
猫春が死んじゃう。
「是非我が空手部に入部してほしいところだが、幽霊部員は基本認められない。残念だが」
「そうですか……」
銀城先輩に幽霊部員として籍を置いてもらえないか交渉したが、あえなく拒否されてしまった。無念。
「まあ、体験入部というていで、たまに身体を動かしに来てくれたら歓迎はするぞ」
「はあ……まあ、ストレスたまったときとかに気が向いたらまた来ます」
来る機会があるかはわからないが、そんな話をして道場をあとにした。
「なに、栞ちゃん、部活探してるの?」
「今ちゃん先生に頼まれて……っていうか曽根崎くん、なんでついてくるんですか」
「だって、お昼食べ終わったし」
私が睨みをきかせても、曽根崎はどこ吹く風である。
「幽霊部員やりたいなら、紹介してあげようか?」
「えっ、あるんですか、幽霊部員やらせてくれるとこ」
「うん、俺も幽霊として所属してるから」
曽根崎は唇に人差し指を当てて、「他の女の子も入りたがっちゃうから、俺と栞ちゃんだけの秘密ね?」と笑う。
さすがイケメンと言われてるだけあって、そういうポーズは画になるのである。
案内された場所は、学校の敷地の端っこにある部室棟。
曽根崎が部室のドアの暗証番号を入力すると、カチッと鍵が開いた。
「失礼しまーす」
「こ、こんにちは……」
曽根崎がドアを開け、私は後ろから部室内を覗き込む。
「おっ、曽根崎くん、久しぶりじゃ~ん」
「イケメン神が来たぞー!」
「眼福じゃ~」
部室の中には女の子が数人、椅子に座っていた。
――ここは漫画研究会、通称『漫研』。
どこの学校にもたいていひとつは存在する部活の一つであろう。
ただ、この学園の漫研は、曽根崎以外はほぼ女子が占領していた。
「ちょうど良かった! 曽根崎くん、絵のモデルになってよ! いま修羅場なんだよね!」
「ありゃ、タイミング悪いときに来ちゃったな」
「そう言わないで! マジで! マジでヤバいの! 締め切り!」
曽根崎は女子部員に引っ張られて、様々なポーズを指定される。
「あぁ~曽根崎くん八頭身だから漫画のモデルにしやすくて助かるわ~」
「ホント神……」
「もうひとり男がいたらBL漫画の絡みとか描けるんだけどな~。ねえ、二ノ宮くんも連れてきてよ」
「銀城多分キレるからやめたほうがいいよ」
どうも漫研の女子たちは私のクラスの女子達とは何かが違う。イケメンであることを認めつつ、その美しさを漫画に利用することしか考えていない。
要するに、『学園一のイケメン』という肩書に魅了されていない。
「え? だって私達、二次元にしか興味ないし」
「曽根崎くん、二次元じゃないし」
「ある意味過ごしやすい環境ではあるね」
漫研の部員たちの言葉に、曽根崎はうなずく。
「っていうか、眼鏡でみつあみっていう地味な格好だったから漫研にすっかり馴染んでたけど、この子はどちらさま?」
「俺の運命の人」
「あーはいはい、リア充乙」
漫研の女子たちはまったく興味がなさそうである。
私は漫研の部員たちに事情を説明した。
「あー幽霊部員ね、おっけーおっけー。こちらとしても、幽霊とはいえ部員の数が多いと補助金増えるから助かるわ」
漫研の部長らしき女子は笑顔で快諾してくれた。
「部費さえ払ってくれればウチは幽霊でも大歓迎。たまに漫画でも読みに遊びにおいでよ」
「ありがとうございます」
私はペコペコと頭を下げる。
そういうわけで、私は無事、漫画研究会への入部届を提出する運びとなったのである。
「部活決まってよかったね、栞ちゃん」
部室棟を出て、曽根崎はにこやかに話しかけてくる。
「……私、無理やりキスされたこと、まだ許してませんからね」
「あ、やっぱりこの程度じゃチャラにはならないよね~」
茶化すように笑う曽根崎、本当に腹が立つ。
「でも許してもらおうとも思ってないよ。俺は本当に栞ちゃんが心から好き。それだけはわかってほしかった」
「……私にそんなこと言われても、困ります」
私にはすでに付き合っている相手がいて、曽根崎の想いは決して報われない。
「いいよ、どんどん困って。俺の存在が栞ちゃんの心の根底を揺さぶることができるなら、それで充分」
「……それは、どういう意味ですか?」
「栞ちゃんは賢いから、わかるでしょ?」
曽根崎は目を弧の形に細めて、笑う。その笑顔はゾッとするほど美しかった。
「――俺は必ず、栞ちゃんを手に入れるよ」
そう言って、曽根崎は立ち去った。
私はその背中を茫然と見送り、立ち尽くす。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
〈続く〉
ファーストキスを『学園一のイケメン』曽根崎逢瀬に奪われた文月栞。
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「文月さん、ちょっといい?」
私に話しかけてきたのは、担任の新米教師――みんなからは『今ちゃん先生』と呼ばれている、愛嬌のある女教師だ。
「ごめんなさいね、読書中に」
「いえ。私になにか……?」
私は辞書をパタンと閉じて小首をかしげる。
「文月さん、まだ部活決まってないでしょう」
「部活……」
すっかり忘れていた。図書委員やってるだけで、いろいろありすぎて……。
「図書委員の仕事も忙しいでしょうけど、この学園の生徒は必ず部活に所属してなきゃいけないの。悪いけど、なるべく早く入部届出しておいてね」
「わかりました」
私に言いたいことを伝えると、今ちゃん先生はパタパタとせわしなく歩き去っていった。
部活か……。
図書委員の仕事をメインにやっていきたいから、どこか幽霊部員で所属させてくれるとこ、探そうかな……。
私は昼休みにでも部室を回ってみることにした。
当日の昼休み。
まずは茶道部に寄ってみたが、正座は足が痺れて難しいので断念した。
どうせなら、身体を動かせる部活のほうがいいのかな。
この学園は金持ちな生徒の親が多額の寄付をしているとかで、体育館とは別に運動部ごとに練習場があてがわれているというのだから驚きだ。
私は適当に学園の敷地内をぶらぶら歩いて、目についた空手部の道場に入ってみることにした。
「こんにちはー……」
ひょこっと、入り口から頭だけ覗き込む。
「あ、栞ちゃん、いらっしゃーい」
「ヒィッ!?」
な、なんで空手道場に曽根崎逢瀬がいるんだ!?
「そ、曽根崎くん、とうとうストーキングまで始めたんですか……!?」
「違うよ、偶然だよ、安心して」
そう言われても安心できないほど、奴は前科持ちである。
「逢瀬、知り合いか?」
「俺の初恋の人だよ」
空手着を着た男子が曽根崎に話しかける。
『初恋の人』という表現はまあセーフだろう、事実だし。
もし『恋人』とか言ってたらブッ飛ばしてた。
「初恋か、ロマンティックだな」
空手着の男子がそう言うので、思わず吹き出してしまった。
「あ、ごめんなさい」
「いや、自分には似合わない言葉だったなと我ながら思う」
私が謝ると、空手着の男子は無表情のまま頭をかいた。
「紹介するよ、こいつは二ノ宮銀城。俺の友達で二年生」
「本来なら、逢瀬と自分は同級生になるはずだったんだがな」
そういえば、曽根崎は一年生で留年してたんだった。
「二ノ宮先輩」
「銀城でいい」
「銀城先輩はなんで曽根崎くんと友達なんですか?」
銀城先輩はキリッとした凛々しい顔つきのイケメンである。同じイケメンとはいえ、曽根崎とはタイプというかジャンルというか……まあ方向性が違う。
こんな真面目そうな先輩がチャラそうな曽根崎と友人というのは意外であった。
「ああ、逢瀬にはよく助けてもらうからな、気づいたら仲良くなってた」
「こいつ、方向音痴でさ。入学式のときも迷子になってたから一緒に登校して、それからすっかり大親友だよ」
曽根崎は笑顔で銀城先輩と肩を組むが、銀城先輩は無表情のままなので、本当に仲いいのか……? と訝しく思う。
「今は銀城と一緒に昼飯食ってたんだけどさ、栞ちゃんもよかったら一緒に食べない?」
「いえ、私はもう済ませてきたので」
「なーんだ」
曽根崎はつまらなそうに頭の後ろで手を組んだ。
「栞……というのか、君は」
「あ、申し遅れました、一年A組の文月栞と申します」
「ふむ……」
銀城先輩は私を頭の先から足の先までじっくり眺める。な、なんだ、この人。
「文月、君はかなり鍛えているようだな。筋肉のバランスがいい」
「へ? ど、どうも……」
制服着てるのにそんなことわかるの?
「よければ、お手合わせ願えないだろうか」
そう言うやいなや、銀城先輩は私に正拳突きを食らわせてきた。
「――あっぶねえな、何しやがる!」
間一髪で避けて、道場の真ん中まで跳び下がる。
「おい銀城、栞ちゃんに何すんだよ!」
「口調が変わった……? 今までの態度は演技か……?」
文句を言う曽根崎を無視して、ブツブツと呟く銀城先輩。
ホント、人の話を聞かねえやつばっかか、この学園は。
「君の実力、見極めさせてもらおう」
そう言いながら、銀城先輩は一方的に私に攻撃してくる。
――ああ、こんなとこ来るんじゃなかった。
小学校や中学校で、私に攻撃してくる男たちを思い出す。
銀城先輩の攻撃を避けながら、私の腹の中で、何か沸騰して煮えたぎるものがある。
「君のその鍛え上げられた身体は、避けるためだけのものか?」
銀城先輩は、出会ったときからずっと表情が変わっていない。無表情のまま、私を攻撃してくる。顔が美しいだけに、無表情で襲ってくる男というのは不気味なものだった。
「――だったら、アタシからもいかせてもらうぜ、センパイ!」
私は思い切り足を振り上げる。
――踵落とし。
靴を履いたままだったから多少は痛いだろうが、いきなり襲ってきた銀城先輩が悪い。
その私の踵を、腕をクロスして受け止めて、
「……降参だ。もういい」
と、銀城先輩は呟くように言った。
「んだよ、もう終わりかよ」
と私が煽るが、
「銀城、正直に言え。――何色だった?」
「……女子の知られたくない事情は話せない」
曽根崎に質問された銀城先輩は初めて表情を崩した――顔を真赤にしていた。
「……先輩、アタシのパンツ見たんすか」
「言わないでくれ! せっかく伏せたのに!」
銀城先輩は意外とウブらしく、真っ赤にした顔を両手で覆う。ちょっと可愛い。
「銀城も、こういう可愛いとこ見せたら女子にモテると思うんだけどなあ」
「モテないんですか?」
曽根崎の言葉に、私は疑問を差し挟む。
私だったら、『学園一のイケメン』と呼ばれてる曽根崎よりも、実直そうな銀城先輩のほうを選ぶけどなあ。いや、私には猫春がいるけど。
「モテるにはモテるんだけど、いつも無表情で、バカ真面目で堅苦しい性格しててさ。周りからは『二番の男』とか『学園で二番目のイケメン』とか言われ放題だよ」
「学園で二番目のイケメン……」
微妙なあだ名だな……。
「大会の成績もテストの順位もいつも二位だから『二番の男』という呼び名はある意味正しいんだがな」
「自分で言ってて悲しくないんすか先輩」
銀城先輩はいつの間にか、あのキリッとした無表情に戻っていた。
「それにしても、君は強いな、文月。あの踵落としはなかなか効いた」
「そりゃどうも」
「自分は強い女が好きだ。結婚を前提に付き合ってくれ」
「は、……は?」
突然のプロポーズ。いや、意味わからん。
「銀城! 栞ちゃんは俺のだぞ!」
「いやお前のでもねえよ!?」
抱きつく曽根崎を力ずくで押し返す。
「申し訳ありませんが、私にはすでにお付き合いしている方がおりまして」
「そうか……残念だ……」
銀城先輩はちょっとシュンとした顔をする。これもちょっと可愛い。
「では、その男と力比べをして、強い方と付き合うというのは……」
「ダメです。絶対ダメです」
猫春が死んじゃう。
「是非我が空手部に入部してほしいところだが、幽霊部員は基本認められない。残念だが」
「そうですか……」
銀城先輩に幽霊部員として籍を置いてもらえないか交渉したが、あえなく拒否されてしまった。無念。
「まあ、体験入部というていで、たまに身体を動かしに来てくれたら歓迎はするぞ」
「はあ……まあ、ストレスたまったときとかに気が向いたらまた来ます」
来る機会があるかはわからないが、そんな話をして道場をあとにした。
「なに、栞ちゃん、部活探してるの?」
「今ちゃん先生に頼まれて……っていうか曽根崎くん、なんでついてくるんですか」
「だって、お昼食べ終わったし」
私が睨みをきかせても、曽根崎はどこ吹く風である。
「幽霊部員やりたいなら、紹介してあげようか?」
「えっ、あるんですか、幽霊部員やらせてくれるとこ」
「うん、俺も幽霊として所属してるから」
曽根崎は唇に人差し指を当てて、「他の女の子も入りたがっちゃうから、俺と栞ちゃんだけの秘密ね?」と笑う。
さすがイケメンと言われてるだけあって、そういうポーズは画になるのである。
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「失礼しまーす」
「こ、こんにちは……」
曽根崎がドアを開け、私は後ろから部室内を覗き込む。
「おっ、曽根崎くん、久しぶりじゃ~ん」
「イケメン神が来たぞー!」
「眼福じゃ~」
部室の中には女の子が数人、椅子に座っていた。
――ここは漫画研究会、通称『漫研』。
どこの学校にもたいていひとつは存在する部活の一つであろう。
ただ、この学園の漫研は、曽根崎以外はほぼ女子が占領していた。
「ちょうど良かった! 曽根崎くん、絵のモデルになってよ! いま修羅場なんだよね!」
「ありゃ、タイミング悪いときに来ちゃったな」
「そう言わないで! マジで! マジでヤバいの! 締め切り!」
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「あぁ~曽根崎くん八頭身だから漫画のモデルにしやすくて助かるわ~」
「ホント神……」
「もうひとり男がいたらBL漫画の絡みとか描けるんだけどな~。ねえ、二ノ宮くんも連れてきてよ」
「銀城多分キレるからやめたほうがいいよ」
どうも漫研の女子たちは私のクラスの女子達とは何かが違う。イケメンであることを認めつつ、その美しさを漫画に利用することしか考えていない。
要するに、『学園一のイケメン』という肩書に魅了されていない。
「え? だって私達、二次元にしか興味ないし」
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「っていうか、眼鏡でみつあみっていう地味な格好だったから漫研にすっかり馴染んでたけど、この子はどちらさま?」
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私は漫研の部員たちに事情を説明した。
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「ありがとうございます」
私はペコペコと頭を下げる。
そういうわけで、私は無事、漫画研究会への入部届を提出する運びとなったのである。
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「栞ちゃんは賢いから、わかるでしょ?」
曽根崎は目を弧の形に細めて、笑う。その笑顔はゾッとするほど美しかった。
「――俺は必ず、栞ちゃんを手に入れるよ」
そう言って、曽根崎は立ち去った。
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『著者より』
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