学園一のイケメンにつきまとわれています。

永久保セツナ

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8月編(夏休み編)

第18話 文月栞、デート勝負に巻き込まれる。二日目【桐生編】

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「はじめに申し上げておきますが、当方は貴様に恋愛的興味は一切ございません」
夏休みデート勝負、二日目。
デートの待ち合わせ場所に現れた桐生京介は開口一番、そう宣言した。
「ただ緋月様のご命令に従ってデート勝負に参加するだけです。勘違いしないように」
そう言いつつきちんとした服装でデートに来てくれるの、ホント律儀っていうか……。
私――文月栞は一日目と同様、Tシャツとズボンというラフな格好である。なんか申し訳なくなってきた。
「そのくらい正直なほうがかえってありがたいです。私も桐生先輩と付き合いたいとは思っていません」
私も正直に自分の気持ちを打ち明ける。
「ただ、桐生先輩には神楽坂先輩へのストッパーになってほしい。そのために仲良くしておきたいですね」
「ビジネスライクな関係、なかなか良いご提案だと思います」
私の言葉に、桐生先輩は素直にうなずく。
「正直なところ、緋月様は以前縁談を破棄した良家のご令嬢と結ばれたほうが幸せなように思えるのです」
「私もそう思います」
神楽坂緋月先輩は私をいたく気に入っているようだが、昨日のデートで価値観の違いというか、住む世界が違うのがはっきりした。
その良家のご令嬢とやらは会ったことないので知らないけど、価値観が近い人間と結ばれたほうが、お互い幸せだと思う。
今回は桐生先輩と少しでも仲良くなって、そのご令嬢との縁談を復縁する手助けになればいいな、程度に思っている。
神楽坂先輩が私に執着し続けている限り、きっと神楽坂先輩は幸せにはなれない。なぜなら私に振り向く気がないから。
腹心である桐生先輩の努力が実を結んで、神楽坂先輩が目を覚ましてくれるといいけど……。
「デートの内容ですが……当方は貴様の好きなものや趣味など存じ上げません。とりあえず映画に行きますのでお好きなものを選びなさい」
そう言って、桐生先輩はおみくじ町の隣りにある大きな街の映画館に連れて行ってくれた。
私はテレビでCMを見て気になっていたアクション映画を選ぶ。ついでに飲み物とポップコーンも買っておく。
「貴様はこういうのがお好みですか」
「恋愛映画よりは見てて楽しいですね」
恋愛系はなんか、見ててムズムズする。かゆくなるというか。
「それは同感です。気が合いますね」
無表情な先輩が、かすかに表情を柔らかくしたような気がした。いや、気のせいかもしれない。間違い探しレベルで些細な違いすぎてよくわからない。
アクション映画はとても楽しかった。笑いあり涙あり、また笑いあり。アクションシーンも大迫力でとてもハラハラワクワクした。やっぱり映画館の大きなスクリーンはテレビで見るのとは大違いだ。マナーの悪い客がいなかったのも幸運だった。
「は~っ、面白かった! 先輩はどうでしたか?」
「そうですね、面白かったです」
桐生先輩は相変わらず無表情だったが、つまらない、という表情ではなかった。……なんか、だんだん先輩の表情が読めるようになってきてないか? 何考えてるのかは未だによくわかんないけど。
映画館を出ると、街の人混みはおみくじ町の比ではない。夏祭りを思い出す。気をつけないとはぐれてしまいそうだ。
桐生先輩も同じことを考えていたらしく、私の手首を掴む。
「……普通こういうの、手をつないだりしません?」
「はぐれなければ何でもいいでしょう。こんな大きな街で迷子にでもなられたら探すのに一苦労ですし、緋月様にも叱られてしまいます。仕方なく、です」
照れ隠しなのか何なのか、桐生先輩はぶっきらぼうな態度である。
「まあ、何でもいいですけど。次はどこ行きます?」
「……最初に申し上げたとおり、当方は貴様の好みなど存じ上げません。ですので、一般的な女性が好みそうな場所へ向かいます」
「わかりました」
一般的な女性の喜ぶ場所が果たして私の好みに合うのかは分からないが、せっかくの申し出だしおとなしく受けておくことにした。
……なぜだろう、神楽坂先輩よりも桐生先輩のほうが一般人に近いせいか、厚意を素直に受け取ることが出来る。
桐生先輩に手首を引かれ、たどり着いた場所はスイーツバイキングだった。
たしかに女子はこういうの好きなイメージある。
「女性は甘いものが好きだと伺いました」
スイーツを選んで、私たちは席につく。
「私より先輩のほうが食べてる量多くないですか? 甘いもの好きなんですか?」
ふわふわのパンケーキにシロップをたっぷり、生クリームをふんだんに乗せて、いちごやブルーベリーまで添えてある。てんこ盛りって感じだ。
「……ノーコメントで」
桐生先輩はそっと目をそらす。
……少し、可愛いと思ってしまった。
「そういえばミミズ腫れ、すっかり治りましたね」
以前――六月に神楽坂邸に監禁されたとき、桐生先輩が助けてくれたことがある。
そのとき神楽坂先輩からお仕置きだか罰だか知らないけど、桐生先輩は顔に鞭を打たれ、ミミズ腫れになってしまったのだ。
その傷はすっかり癒えて、もう痕も残っていない。
「あのときはえらい目に遭いました」
桐生先輩は無表情のまま、じとっ……と恨めしげな目で私を見る。
「えらい目に遭ったのはこっちも一緒ですよ。変態な主人を持つと苦労しますね」
「緋月様への誹謗中傷は許しません」
パンケーキを頬張りながら言われてもなあ……。
「あのときは助けていただいて本当にありがとうございました」
私はペコリと頭を下げる。
「何度お礼を言ったら気が済むのですか、貴様は」
桐生先輩は鬱陶しそうに目を細める。
「いやあ、だって、命の恩人ですし」
「別に緋月様は命まで取る気はなかったと思いますが……」
いや、だって「ひと晩かけてじっくり食べる」って言ってたし、カニバリズムだよねアレ。死ぬよね普通に。
「あ、クリームついてますよ」
私は何の気なしに桐生先輩の頬についた生クリームを指ですくって、ペロッと舐める。
「!?」
桐生先輩は目を大きく見開いて固まってしまう。
「? どうしました?」
「ふ、文月栞……貴様、よくもそんなことを自然体で……」
「え?」
「いえ……いえ、なんでも……」
桐生先輩は明らかに動揺していた。どうしたんだろう。
「いや~、ここのスイーツ美味しいっすね~」
私はあまり気にせずスイーツに夢中だった。

スイーツバイキングでたらふく食べて店を出る。
……デートとはいえ、桐生先輩にお金を払ってもらうの、なんか申し訳ないな。
デート慣れしてる女なら男におごってもらうなんて当たり前のことなんだろうが、私は不慣れなので落ち着かない。
とはいえ、一度は「割り勘にしましょう」と提案して却下されてしまったので仕方ない。
バイキングの料金くらいなら自分で払えるのに……。
「お待たせいたしました」
店の前で待ちぼうけしていると、桐生先輩が店から出てきた。
「そろそろ帰宅時間ですね、家までお送りいたします」
「ありがとうございます」
桐生先輩のご厚意を素直に受け取る。
「そうそう、会計をしていたらこれをいただいたのですが」
桐生先輩が手を伸ばすので受け取ってみると、ケーキを模したストラップだった。
「へ~、こんなのもらえるんですか。可愛いですね」
「その……カップル限定でお揃いのものを渡しているそうです……」
桐生先輩がもうひとつ、同じストラップを指でつまんでいる。
「貴様とカップルだと思われたことは屈辱ですが、まあお土産代わりに差し上げます」
「はあ、どうも」
「では、帰りましょうか」
ふいっと顔をそらし、桐生先輩はまた私の手首を握る。
……先輩の耳が赤いのは、気のせいだろうか。
まだそんなに寒い時期でもないんだけどなあ……。

さて、家に帰った夜。
私はメッセージアプリのトークルームを開く。
『栞ちゃん、桐生先輩の評価は何点?』
『……前から思ってたんですけど、デートに点数をつけるってなんか失礼じゃありません?』
『だって、数値化しないと客観的に優劣つけられないでしょ』
曽根崎の言うことはもっともなのだが、なんかこう罪悪感があるなあ……。
『栞さん、遠慮なく評価をつけてください』
現在五点で暫定一位の神楽坂先輩も急かしてくる。
『うーん……十点満点中……七点、くらい……』
『桐生、わたくしを差し置いて点数を抜かすとは従者失格ですよ』
『申し訳ありません、緋月様』
『はいはい、神楽坂先輩脅迫しないでください』
これで暫定一位は桐生先輩になった。
『七点の理由は?』
銀城先輩が訊ねてくる。
『もともと桐生先輩は私に好意がないのであまり高得点もどうかと……でも映画もスイーツも庶民の私にレベルを合わせてあって好感触です』
『ハハハ、ますます神楽坂先輩の失態が目立つな』
『曽根崎くんはわたくしに宣戦布告したいのですか?』
『はいはい、喧嘩しない』
なんで私、デート勝負に巻き込まれた上に仲裁までしなきゃいけないんだろう。
『あ、そうだ、桐生先輩。いただいたストラップ、大事にしますね』
私は早速スマホにつけている。スマホカバーがストラップつけられる仕様で良かった。
『ほう。栞さんにプレゼントまで。ほーう』
『お許しください緋月様、不可抗力です』
『従者を脅すの、どうかと思いますよ』
デート勝負二日目は、桐生先輩の意外な側面が見られて案外楽しかった。

〈続く〉
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