非モテ男は轢いてもOK! ~トラックを避けた先にあったのは、リア充ハーレム状態の学園生活…そして俺を異世界に転生させたいクソ女神の殺人計画~

本多凱音

文字の大きさ
1 / 8

プロローグ.目覚めよ勇者

しおりを挟む
「……なさい……目覚めなさい。勇者よ。目覚めなさい?」

 呼ばれたので仕方なく目を開けた。
 せっかく気持ちよく大の字で寝ていたのに。

「目覚めましたが、それで? なんすか?」
「勇者よ。突然ですが貴方は死にました。私の名前はアンナチュラル……異なる世界から来た女神です」
「これはご丁寧に」

 上体だけ起こし会釈をした俺に彼女は柔和に微笑んでくる。

 自称『異世界の女神』。
 それはとても眩しい人だった。
 なにせ、物理的に輝いているのだから。

 俺は制服姿で、豪奢な造りをした神殿で目を覚ました。
 鏡みたいに寝そべる俺の姿が映る地べたを、女神アンナチュラルは祭壇に置かれた椅子に腰かけて見下ろす。

 くたびれた学ランな俺と違い、羽衣をなびかせ如何にも『私は女神です』と誇張してきた。
 極め付けは……腰から伸びる九本の白い尾だった。恐らくあれが後光の正体らしい。

「記憶が曖昧なようですね。トラックに轢かれた影響でしょう」

 なるほど。俺の死因は事故死か。

 ははーん。なんか漫画やラノベでよく見た展開だぞ。

虎孔開陽とらくかいひ様。貴方にはこれより私の異世界へ赴き、魔王を討伐してきてほしいのです」
「強力なスキル、か、武器をください!」

 この手の『お約束』にはだいたい相場が決まっている。

 死んだ実感? この女の人が女神である保障?
 ビンビンに伝わってくる。

 これが〝死を受け入れた〟状態なんだろう。

「--くそがッッ!!」

 ……あれ??
 まあ死にたてらしいから、こういう聞き間違えもあるだろう。

 
 見ればわかる。生きている時は感じなかった魂の重みが今は。

 その女神がまさか、聞こえるくらい大きな舌打ちをする、そんなわけ。

「それは追々……。まずは転生前に、開陽様のこれまでの生涯をふり返る時間としましょう」

 神殿が暗転、姿見のような物体が空間に滲み出てきたかと思えば。
 それはモニターで。そこに映し出されたのは、俺の人生だった。

 これが俗にいう走馬灯というやつか。

 さして面白みのない、いや。見るに堪えないものだった。
 山場といえば高二の夏、密かに想いを寄せていた幼馴染みに勇気を出して告白した。
 
 同じ大学に行こうとお願いするもフラれ、幼馴染みの彼氏が学年トップの成績を誇る俊才。これが性格は最悪な男子だったため、虐めの標的にされ進級直後に俺は学校に通えなくなった。よくあるテンプレートってやつだ。

 走馬灯だからもしやと期待したが。
 両親の姿は一秒も登場しなかった。

 親と死別し施設で育った俺は施設の人間からは虐めを認知されていたため、不登校になっても責められない。

 夏休みに入った直後、進級から一度も出席していない今のままでは授業についていけないと、担任の事務的な対応で自主退学を説得され。施設の院長から、別の街に住む旧友の経営する学校に復学を頼んでみると言われ、意を決し再出発を目指す。

 ……で。
 体感一億年ぶりに着替え、自分の意志を学校に直に伝えに行こうとしたところ、暴走した軽トラに轢かれ死ぬなんて。

 軽トラにはねられる場面で映像が終わった。

 戦慄の顔で宙を舞う顔のドアップだ。
 なにもそんな場所で終映にしなくても。

「そういや。女神様、俺、車に吹っ飛ばされたのに、なんで身体が綺麗なままなの?」

 傷はおろか血の一滴もない。

「……汗、すごくない……?」
「ともかく! 死を受け入れ女神の管理する異世界に転生しなければならなくなりました! ああチートスキルをご所望でしたね、こちら一覧の中から好きなものをお選びください!」

 部屋が明るくなる直前、アンナチュラルの顔は冷や汗でいっぱいだった。
 
 焦っている? でも、なにを……?

「アンナチュラル様! いい加減およしなさい!」

 びっくりした! ……妖精?

 背中の羽で飛んでいるらしいが。仙人みたいな白ヒゲのインパクトが強くて別の生き物と一瞬見間違えた。

「世界を救うためとはいえ、このような騙すような真似」
「『騙す』?」
「騙してなんかないし! 言いがかりとかマヂだるいんですけど!」

 狼狽えるっていうか。キャラ崩壊を起こしていた、女神様。

「申し訳ございません。ただいま偽造前の本物の走馬灯をお見せします」

 また辺りが暗くなって同じ映像が再生されるかと思えば。

 鏡の中の俺は、軽トラックに轢かれそうになる……
 ……ギリギリのところで、回避していた。

「え……じゃあ、つまり」
「開陽様、貴方は、まだ死んでいません」
「----ハァアア!?」

 てことはなに!?
 アンナチュラルが急かした理由、記憶が曖昧なうちに転生させられかけたってこと!!

 途端に生命力が、怒りが沸いてきた。

「生きているんなら、元の世界にとっとと返してください!」
「すぐに帰還魔法の準備を」

「……だめなんですけど」

 俺に手を構えた老妖精を、玉座から下りた女神の一喝が阻止した。

「この男はこれまでの勇者候補でも群を抜いた逸材。こんな人生負け組の引きニートがやっと世界で役に立つ時がきた」

 崩壊したこっちの糞キャラが素なのかよ!

「お言葉ですが。貴方様はこれまでも自分の管理する世界でないのに、勇者の素質があるというだけで死んだ魂を横取りしてこられました。母君に甘やかされて育ったばかりに。挙句に死んでもない人間を転生させようなどと。先代の女神である母を見習い、心を入れ替える日を待ったわたくしもまた甘かった。これからは心を入れ替えて精進するよう厳しく」

 ばん!!
 --『ばん!!』?

「そんなに母上が好きなら、まず自分が会いに行きな」

 女神アンナチュラルの振るったハエ叩きで。
 
 妖精は無数の光を散らし消えた。
 
 騒ぎを聞き付けた妖精達は、恐怖に狼狽える。

 光に包まれていた俺も、恐怖をこの女神に覚えた。

 帰還魔法、とかいうのが発動した!?

「ばぁーか。運動神経ゼロみてーな見た目しやがって。私自慢の転生トラックよけた神罰だよ。ぜってー死んで異世界救ってもらうからな。神様なめんなよ! ザーコ! ザァアーコ!!」

 女神の指パッチンひとつ。魔法陣の展開した地面が割れ。

 それで俺は、落とし穴にすっぽり落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...