非モテ男は轢いてもOK! ~トラックを避けた先にあったのは、リア充ハーレム状態の学園生活…そして俺を異世界に転生させたいクソ女神の殺人計画~

本多凱音

文字の大きさ
9 / 40

8.未来の奥さんは取り扱い注意

しおりを挟む
 日曜日。
 昨日から続いた引っ越し作業もようやくのひと段落を迎えた。

 手伝ってくれる、心強い(?)人がいるもんで。

「これで、荷物はぜんぶ運びました」
「ありがとう、ございます」

 軽々と部屋に持ち込んだ箪笥タンスから離れたその人は俺が気遣うと。

「これぐらい当たり前です。あ、昨日の話し合いのこと、もうお忘れになっていらっしゃる」

 奴隷紋を見せつけるように胸を張った。
 
「敬語、不要ですよ。開陽様はキヨの、ご主人様、なんですから」

 奴隷紋を、一緒に手伝っていたアイスに見せつけるように。
 俺じゃなくて。

「アイス、剣を収めて」

 剣を鞘に収めるよう俺に言われ、しぶしぶアイスは従った。

「で、ですが」
「安全は、ほら保障されたし。学園長も言ってたしさ」

 この自称・俺の妻。
 得体の知れない来訪者を自由にしたのは、削銘とミチルの護衛騎士の判断だった。

 ミチルの護衛騎士の鑑定によれば、奴隷紋の主導権は俺で間違いない。

 魔族は神聖な存在への抵抗力があって、女神は支配下に置けない。
 つまり。言い方は悪くなるが先日の教師よりずっと信用できる。

 俺に危害は加えられず自由にするのは問題なく。

 むしろ監禁状態が不信感に繋がり、周囲を攻撃するのが怖い。
 ミチルを護衛対象にする騎士としての意見だ。

 騎士に身を案じられているその張本人は、部屋で爆睡中。
 言わずもがな、俺の立場は再び女神の策謀で危うくなっている。削銘にああ言ったものの自分の意志でこっちに移ったんだから、こういう場面では起きていてほしい。

 削銘の決定にアイスは賛同しかねた。
 警戒を緩めずにいる状況は心配だが、内心、守られている立場からではその疑いに対する嬉しさが若干勝ってしまう。

 それに、俺の不安は別にあった。
 従わせられない魔族を奴隷に送り込んだ女神の狙い。

 俺の気持ちを揺さぶる思惑。
 キヨの発言に現実性が増した。

 一難去って、と昨日から眠っても全然疲れが取れなかった。

「ごめん、ちょっと横になる。その前にシャワーも浴びるよ」

 削銘から、私邸の風呂場は自由に使っていいと許可はもらっていた。
 私邸とは言っても生徒を二人匿える学園の一施設。全体の造りも学園の別棟の方がより正しい表現だった。

「お背中の方、お流しします」
「オーイなにナチュラルについてくる?」

 洗面器とタオルを片手にピッタリ憑いてくるキヨの方が。
のけ反る俺にキョトンとした表情で言ってきた。

「汗、かいたって」

 薔薇の花が開くように。

「昨夜は一晩中、縛られた妻を前に、欲情していたから」
「一晩中の見張りに気が休めなかっただけですが!」

 俺が一番安全だから、削銘ですら見張りを交代できなかった。

「やはり魔族、無防備な状態で襲うなど、卑劣極まりない……!」
「あら。うるさい蚊が飛んでいますわね。掃除が行き届いていなかったのかしら。殺虫剤を樽で焚いた方がいいかも」

 俺、汗流したいだけなんですけど。

 それで、なんで殺し合う一歩手前みたいな表情で女の子が睨み合うの?

「どう? 引っ越し作業、今日は手が空いているから手伝いに来たよ?」
「久志兄ちゃん」

 久志が様子を見に来た。

「あれ、もう終わった?」
「終わったと、いうか。新たな問題に直面している最中というか」
「おや、こちらの方は?」

 俺の背中に引っ付いたキヨに久志が首を傾げた。
 俺の背後に引っ付かないでください。

「お初にお目にかかります。キヨ、と申します」
「ああ、これはご丁寧に」
「開陽様の妻兼、奴隷です」

 ギョッと目を開く俺、アイス。

「へぇ、開陽に本当の家族ができてうれしいよ」

 正体不明からの意味不明な挨拶に笑顔で返しやがった。

 久志兄ちゃんメンタルも常時はにかんでんの?

「作業で疲れている? 少し休んだら」
「そうさせてもらいます……」

 耳まで遠くなってきた。

「仮眠したら元気になる。疲れを取ったら、街に出よう」
「……街?」
「一週間に一度、日曜日には最も学園長の加護が強まって、最寄りの街になら遊びに行けるようになるんだよ」

 ああ。
 だから今日は休みだって言うのに、昨日より静かだったんだ。

「休んでいる間はアイスが開陽の側についていて、キヨさんは僕と」

 今の、なんか台本くさかったな。
 何も考えず接触したのではなく、なにかしらの勘が働いていたようだ。

「キヨが、あなたと……?」

 あっなんか、やばいこと考えている目になってないか。
 その見開いた目がどんな感情なのかわからないけど。

 久志じゃなく、後ろの護衛の騎士に敵意を持ったのか。

「……素敵な方ですね」
「え、僕がですか?」
「開陽様の身を案じての発言、率直に言って、感服いたしました」

 なんか、賞賛してね?

 久志の方が予想外の返しにキヨにタジタジと狼狽えていた。

「お連れの女性も、さぞ名のある騎士様とお見受けしました」
「私の時より、反応が露骨……!」
「…………」

 敵意を抱くアイスまで狼狽する始末だった。

 久志の一時的な代理である護衛騎士。その本人はキヨを警戒していた。俺の肌にも伝わってくる殺気だ。

 俺とは関係のない異性には寛容らしい。
 それでも、兜を被っても女性と見抜いた。やはり恐ろしい。

「さすが久志様……開陽様の慕う『おにいさま』でございますね」
「い、いやぁ。僕なんかそんな」

 なんだか、イイ感じにまとまっている。

 なにはともあれ。また包丁でも出すんじゃないかと思ったからたすかった……。

 久志のことも、アイスのようにではなく。
 ちゃんと名前で呼んでくれているし。

「……あれ。え、ちょっと待って」
「開陽さん?」
「アイス、俺、今めちゃくちゃ疲れているから、たぶん聞き逃したと思うんだけど」

 変なことを確認したようで。
 眉をひそめたアイスに俺は申し訳ない気持ちを吐き出すつもりで言った。

「俺、久志兄ちゃんのこと……いつ、あの人に話したっけ?」

 久志の方は、キヨに名乗ったか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...