非モテ男は轢いてもOK! ~トラックを避けた先にあったのは、リア充ハーレム状態の学園生活…そして俺を異世界に転生させたいクソ女神の殺人計画~

本多凱音

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12.甘じょっぱい温泉の底から

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 いよいよ法的措置に出たい。
 神の世界に法律があるのか知らんけど。

 寮の大浴場で疲れを取っていた矢先だった。

 そんな俺にあの女神は性懲りもなく、場も弁えず、奇襲を差し向けやがった。

 湯舟に浸かった俺を棍棒を触りながら包囲するのはゴブリンの群れ。緑色の肌に頭には小さな角。ザ……ゴブリンだった。

「どうなってんだよ……!?」

 なぜゴブリンの群れが突然湧いたのか。

 完全無防備になる浴場、トイレといった場所は女神の干渉を阻害する魔法が削銘によってほかの場所に比べ強力に仕掛けられている。

 だから強力な魔物ならいざ知らず、雑魚の代名詞みたいなゴブリンが侵入できるとはどうしても。

「女神にやられた、とかやめろよな」

 脱衣所で待機しているアイスも来ない。
 不安はますます強くなる。

「ギシャー!!」

 ゴブリンの一匹が飛びかかり、驚いて身を翻す。
  
 逃げようとした俺は足がもつれ湯舟に向かってうつ伏せに倒れた。
 顔面に受けた水面の衝撃。

 それがなぜか、柔らかくなった。

「…………」
「…………」

 水底に潜行した、水中メガネを装着したキヨと目が合い。

「――ちゅ」
「『ちゅ』じゃねーよ!?」

 キスされそうになって慌てて湯舟から上がった。

「シュノーケリングが趣味なんですか!? なら海行ってやれよ!」
「趣味だなんて……旦那様の湯浴みに奉仕するのは妻として当然の責務。さささ」

 濡れた着物の袖から石鹸、タオルを出すキヨ。

「……お背中、流します」

 まるで隠すように持ち、タオルからうっかり落ちた注射器と飴色の小瓶について。
 状況を考えて俺は敢えて聞かなかった。

 キヨは俺に投薬する計画だった薬を血相を変えて回収した。

 この件は後でじっくり、懇々と詰めるとして。

 結界が破られたこと、アイスが到着できない状況を伝え。
 俺はキヨを庇った。

「これでも、男なもんでね!」

 本音は、守った見返りを考えると怖いから。

 とりあえず目についた洗面器を盾の代わりとした。

「開陽様、そんな……下穿きもない恰好で」

 ド変態呼ばわりするような言い方が気になるけど、今は……。

「やっぱり気になるな!」
「ギシシシャ!?」
「ガシャ、ギシシ……」
「アァー! キイャアー!!」

 言い争いのような鳴き声を発した。

 かと思うとゴブリン達は出口を目指し一目散に逃げ出した。

 なんか。
 俺の後ろにいるキヨを見た途端、様子が変わったようにも見えたけど。

「ギ、ギヤ!」

 アンナチュラル、あの女神め結界まで用意したのか。

 低級の魔物でも、道具を用いるためその辺の『心得』もあるようで。
 だが浴室の扉を押したり引っ張ったりしてもビクともせず、武器で無理やり壊そうと叩くゴブリン。

「それで……ボスは?」

 首領はどの個体か詰め寄ったキヨ。

「ギ、コイツギ」
「ギぃ!?」

 おいおい。

 あっさり首領を差し出す群れ。

「異世界とここを繋ぐための魔導具を女神から渡されているはず。わかりませんか?」

 キヨが首領に強要したのは。

「ジャンプ……さあ跳んでみろよ、さあ、さあ」

 ヤンキーの手口。古いヤンキーの手口だ。

 着地したゴブリンの懐からコロリと。

 ゴブリンに似合わない煌びやかな宝石から強力な魔力が俺の目に見えて溢れていた。
 
 キヨは術を掛け直しゴブリンを転送した。

「どこに?」
「座標を女神の神殿に設定しました。ついでに、おまけで、転移の途中でゴブリンの最上位種、グレーターゴブリンに進化する術も」

 なんでキヨにそんな芸当。

「鬼はゴブリンの最上位に分類される種で、魔力にあてられると進化するのです」

 ゴブリンがキヨに逆らえなかった理由はこれか。

「当分処理に追われた女神は、開陽様を暗殺できなくなるでしょう」
「それはいい気味だな。あと俺の心を読むでない」

 独白くらいゆっくりしたいのに。

 アイスがやっと浴場に入ってきた。

「魔力転移を感知、ご無事ですかキャア開陽さん!?」
「止まってとまって!!」

 裸を見られそうになった俺が咄嗟に言うものだから。
 具足を濡れた床に持っていかれ転倒したアイス。

「強力な結界でしたが、それがなんの前触れもなく解けて中に入ることができました」

 目を、洗面器で前を隠した俺から反らしたまま報告する。

「ゴブリンが攻撃した結果だろうな。それにしても、来てくれて助かったよ」
「当たり前のことをしたまで。正妻として」

 こいつはまったく目を背けないな。

 洗面器に穴が開きそうなくらい瞼全開だし。

 だが女神に一矢報いた。
 一切ブレない危険な性格だが、有能さは削銘のお見立て通り。

「……あれ、でも変じゃないかアイスさん」

 助けに来られなかった理由をアイスに訊いた。

「確か結界って」

 削銘が張った結界は、護衛騎士なら通れるはず。

 語ったアイスは、妙だと首を傾げた。

「それが、削銘様の結界は浴場部分が特定して破壊されていました」
「特定、ここをピンポイントにってことか」
「破壊後、内からも外からも別に結界が張られていたんです。たとえば……侵入者を防ぐ以外に、中にいただれかを逃がそうとしないような」
「アンナチュラルの仕業か……でもなんだ、この違和感は」

 女神が浴室にいる俺の位置を特定できたとしたら、削銘の結界が壊された後。

 結界が壊れたから、俺の近くに遠隔で正確に魔物を送り込めた。

「……俺の仮説を話そう」

 ニコニコと立ち尽くすキヨにふり返った。

「キヨ、君は削銘から、結界を通れる許可も貰ったんじゃない?」

 すべては無防備な俺を閉じ込め、反対にアイスの邪魔が入らないよう自分専用の結界を張り直す。
 そのために結界を壊した。

「削銘は神だ。壊れてすぐ効果を失くすような、そんな脆い護りの中に生徒を置くとは考えられない。低級の魔物が、神の領域を楽に通れた根拠にしたら弱いか」

 ゴブリンは鬼の下位種に属する。
 結界の中にいたキヨが、自分から言い出したこと。

「俺達に女神の心意はわからん。たまたま、あいつには運がいい偶然だったのかもしれない」
「ですが、魔物が難なく開陽さんを襲えた理由は、きっと……」
「開陽様の疑い、怒りが奴隷紋を通じて伝わって……。気持ちいい」

 駄目だ。
 神のいる土地に湧く温泉に漬け込んでもこの煩悩は澄みそうにない。

 後日、結界を張り直す現場には開陽とキヨも立ち合い、安全性を確かめた。

「妻としての御役目が、開陽様のお背中がー!!」
「結局かよ」

 防御性に頷く俺の横で。
 キヨが泣いて一晩中手が付けられなかった。
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