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13.一服してください
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学舎としての設備を整えているだけあって、削銘の私邸……中でも食事場は思わず舌を巻く広さがある。
少なく見ても百人分の食卓は確保されているとアイスは自慢げに言っていた。
その食堂に用意された夕食に、俺達はもちろんのことアイスさえ目を見張った。
「召し上がる気がないと、騎士ともあろう方が?」
「なんで開陽さん以外、全員の夕食がカップ麺なんですか!?」
卓を叩くアイスに割烹着を着たキヨは鼻でせせら笑うように。
「使えそうな食材は一人前分しかなかったんですから、一流企業の最高傑作、これ以上ないご馳走ですよ? さあ開陽様はこちらを」
キヨの使い魔がミチルたちの料理を運んできた。
俺の方はというと。当然キヨが直々に配膳をする。
ちゃんとした料理。
一流の料亭も青ざめそうな味と健康の両方を極めたような献立を用意された。
「冷めないうちに」
「これも……定められた運命か」
三分経った麺をすするミチルも必然だと諦めた。
「使い魔がぁ、割烹着を着てるぅ……!」
割烹着を使い魔に着せるというキヨの高度な使役術にミチルの護衛騎士は興奮。
「それにしても、物騒な話もあったものですわね。悪いお風邪も流行っていると聞きますし。開陽様も、ついでにみなさんもお気を付けあそばせ」
夕食の仕込みの途中だった。
昼間、食堂でいつも俺達に料理を作っている削銘の部下が、謎の奇病に倒れたのは。
削銘は『開陽を狙った女神が食材になにかを盛った』と推測している。
病の原因が呪い、呪いのような症状を引き起こす道具による線も疑っていた。
そこで呪物に長けたキヨに安全な食材を選別させたのだ。
キヨは今晩だけ夕食当番に立候補し、削銘は調理場を貸した。
「主神の差配……だからといって、献立に開陽さんのそれとこれだけ差があるのは不公平です!」
「第一、俺、これ食べても大丈夫なやつ?」
キヨを前に俺は躊躇った。
「当然、だな」
「まあひどい旦那様。しっかりと選別しましたよ」
カップ麺をすすり感心するミチル。
頬を張ったキヨ。
「キヨの目を見てください! こんなに澄んだ目なのにお疑いになるのですか……!?」
「澄んだ目は、すなわち俺をどうこうする気満々って意味では」
俺はミチルに同意した。
今の話は全て、削銘がキヨを通じて皆に話したという体だ。
倒れた料理番が実在するかどうかも、キヨ本人だけが知っている。
キヨにあまりにも都合のいいストーリーが成り立っていた。
料理の違い……キヨの手が加わっているかどうか。
ほかには及ぼしたくない『細工』が施されているのでは?
「私が毒見をします!」
「いやアイスさん、アイスさんがそこまでする道理は」
「毒見は護衛の務めとして毎日やっています」
騎士には呪いに対して強力な耐性がある。
「でもなぁ、今回は」
いつもとは『ジャンル』が違いそうで、首を縦には振りづらいものがあった。
「アイス様、開陽様のおっしゃる通りです。危ない食材を使ったと疑われるキヨが悪いんです。こちらは責任を持って処分しましょう。開陽様には違うご夕食を直ちに」
手早く料理を下げようとした。
そのキヨを背後からミチルたちが羽交い絞めにした。
やましいことがないなら、せっかく作った料理を処分するのはもったいない。
頷いた二人に、覚悟を決めたアイスは俺が最初に飲むはずのスープを一口すすった。
「……うッ!?」
「アイスさん! アイスさんしっかり!」
喉を押さえ呻くアイス。
卓に伏せる様子を見届けたかの二人は抱き合っていた。
「こ、これで、食べたアイスがどんなことになるのか、見れるっ」
「てめぇらは悪魔だ! こういう時どうするんだっけ、救急車!? それとも胃洗浄!?」
勇者の資格をくれるなら医学の知識も寄越せよなアホ女神!
「……おいしい!」
「「「へっ……?」」」
美味しい美味しいと連呼して焼き魚や煮物をもぐもぐ。
あっという間に平らげてしまった。
「はぁあ~……。堪能しました。こんなに美味しい料理を作れるとは思いませんでした。見直しましたよキヨさん!」
「ざぁああ……ね~ん」
ミチルは開陽の晩御飯がなくなったと苦笑。
「アイスさんの分のカップ麺を食べればいいし。それより」
二人がなかよくなるきっかけに繋がり結果オーライだった。
相手の胃袋を掴む、なるほどあながち間違いじゃない。
こんなことなら。俺も一口くらいは。
ただひとり、キヨは顔面蒼白に怯えていた。
「キヨ?」
「か、顔色が、悪いな……」
「しろぉおおい」
俺に料理を食べてくれなかったことがそこまでショックだったのか?
にしてはリアクションがオーバーな気がした。
「あ、本当は料理になんか慣れないから気疲れしたんだな。しょうがない、先に部屋で休んでいて。後でなんか持っていくよ」
カップラーメンが用意できたなら即席めんの備蓄もまだあるだろう。
俺達でキヨを部屋まで案内しようとした。
「よかったらこのまま隣で、一生、料理を作ってくれないだろうか……?」
俺達から奪ったキヨをアイスが抱擁した。
「た、たすけて開陽様!」
「やっぱりなんか盛ったんだな!?」
顎を指でくいっと持ち上げ、さながらミュージカルの俳優の男役のように迫るアイスから俺の後ろに隠れるキヨ。
「おいおい。どうして逃げるんだい、強引なのは嫌いな鬼さんなのかな」
「神の遣いと魔族は一緒にはなれません!」
「開陽さんに求婚している貴方がなにを言っている。愛は、垣根を越えるダイナマイトなのさ」
普段とは違うアイスの変貌ぶりにミチルは笑いを堪える。
「どんな魔法を食事に混ぜれば、こんな悲惨な事態になるんだよ……?」
「そそそッ、ヒぃ……『これ』見れば、一発だろ……ッ」
「ああ。解毒剤、あなたにならつくれますか」
惚れ薬の解毒剤をミチルの護衛騎士に作ってもらうよう頼んでみた。
薬以外が原因でも、この人は詳しそうだし。
「見た感じ……錯乱しているだけのようだしぃ。お姉様の、魔力量ならぁ……三十分も経たず自然浄化するんじゃあ……ない、かし……らぁ?」
やすりを擦り合わせるような声で溜められると安心できない。
「恐怖する顔も愛おしい」
騎士スキルの縮地でキヨを捕獲したアイス。
壁際まで追い込んだところを。
「とんだ悪い魔族ちゃんだ……(ハート)」
あれがただの薬の効果で。
アイスの性格が反映されたものではないとすると。
「あれがキヨの思い描いた、俺の理想象なのか」
「開陽さま――」
「お断りします。本日の受付は終了しました」
訴えてくるキヨを俺は拒んだ。
これでキヨにとってもいい薬になっただろう
「『薬』だけに」
「洒落に隠した、その、ほ、本音は?」
今止めたらアイスにたたっ斬られそうだった。
少なく見ても百人分の食卓は確保されているとアイスは自慢げに言っていた。
その食堂に用意された夕食に、俺達はもちろんのことアイスさえ目を見張った。
「召し上がる気がないと、騎士ともあろう方が?」
「なんで開陽さん以外、全員の夕食がカップ麺なんですか!?」
卓を叩くアイスに割烹着を着たキヨは鼻でせせら笑うように。
「使えそうな食材は一人前分しかなかったんですから、一流企業の最高傑作、これ以上ないご馳走ですよ? さあ開陽様はこちらを」
キヨの使い魔がミチルたちの料理を運んできた。
俺の方はというと。当然キヨが直々に配膳をする。
ちゃんとした料理。
一流の料亭も青ざめそうな味と健康の両方を極めたような献立を用意された。
「冷めないうちに」
「これも……定められた運命か」
三分経った麺をすするミチルも必然だと諦めた。
「使い魔がぁ、割烹着を着てるぅ……!」
割烹着を使い魔に着せるというキヨの高度な使役術にミチルの護衛騎士は興奮。
「それにしても、物騒な話もあったものですわね。悪いお風邪も流行っていると聞きますし。開陽様も、ついでにみなさんもお気を付けあそばせ」
夕食の仕込みの途中だった。
昼間、食堂でいつも俺達に料理を作っている削銘の部下が、謎の奇病に倒れたのは。
削銘は『開陽を狙った女神が食材になにかを盛った』と推測している。
病の原因が呪い、呪いのような症状を引き起こす道具による線も疑っていた。
そこで呪物に長けたキヨに安全な食材を選別させたのだ。
キヨは今晩だけ夕食当番に立候補し、削銘は調理場を貸した。
「主神の差配……だからといって、献立に開陽さんのそれとこれだけ差があるのは不公平です!」
「第一、俺、これ食べても大丈夫なやつ?」
キヨを前に俺は躊躇った。
「当然、だな」
「まあひどい旦那様。しっかりと選別しましたよ」
カップ麺をすすり感心するミチル。
頬を張ったキヨ。
「キヨの目を見てください! こんなに澄んだ目なのにお疑いになるのですか……!?」
「澄んだ目は、すなわち俺をどうこうする気満々って意味では」
俺はミチルに同意した。
今の話は全て、削銘がキヨを通じて皆に話したという体だ。
倒れた料理番が実在するかどうかも、キヨ本人だけが知っている。
キヨにあまりにも都合のいいストーリーが成り立っていた。
料理の違い……キヨの手が加わっているかどうか。
ほかには及ぼしたくない『細工』が施されているのでは?
「私が毒見をします!」
「いやアイスさん、アイスさんがそこまでする道理は」
「毒見は護衛の務めとして毎日やっています」
騎士には呪いに対して強力な耐性がある。
「でもなぁ、今回は」
いつもとは『ジャンル』が違いそうで、首を縦には振りづらいものがあった。
「アイス様、開陽様のおっしゃる通りです。危ない食材を使ったと疑われるキヨが悪いんです。こちらは責任を持って処分しましょう。開陽様には違うご夕食を直ちに」
手早く料理を下げようとした。
そのキヨを背後からミチルたちが羽交い絞めにした。
やましいことがないなら、せっかく作った料理を処分するのはもったいない。
頷いた二人に、覚悟を決めたアイスは俺が最初に飲むはずのスープを一口すすった。
「……うッ!?」
「アイスさん! アイスさんしっかり!」
喉を押さえ呻くアイス。
卓に伏せる様子を見届けたかの二人は抱き合っていた。
「こ、これで、食べたアイスがどんなことになるのか、見れるっ」
「てめぇらは悪魔だ! こういう時どうするんだっけ、救急車!? それとも胃洗浄!?」
勇者の資格をくれるなら医学の知識も寄越せよなアホ女神!
「……おいしい!」
「「「へっ……?」」」
美味しい美味しいと連呼して焼き魚や煮物をもぐもぐ。
あっという間に平らげてしまった。
「はぁあ~……。堪能しました。こんなに美味しい料理を作れるとは思いませんでした。見直しましたよキヨさん!」
「ざぁああ……ね~ん」
ミチルは開陽の晩御飯がなくなったと苦笑。
「アイスさんの分のカップ麺を食べればいいし。それより」
二人がなかよくなるきっかけに繋がり結果オーライだった。
相手の胃袋を掴む、なるほどあながち間違いじゃない。
こんなことなら。俺も一口くらいは。
ただひとり、キヨは顔面蒼白に怯えていた。
「キヨ?」
「か、顔色が、悪いな……」
「しろぉおおい」
俺に料理を食べてくれなかったことがそこまでショックだったのか?
にしてはリアクションがオーバーな気がした。
「あ、本当は料理になんか慣れないから気疲れしたんだな。しょうがない、先に部屋で休んでいて。後でなんか持っていくよ」
カップラーメンが用意できたなら即席めんの備蓄もまだあるだろう。
俺達でキヨを部屋まで案内しようとした。
「よかったらこのまま隣で、一生、料理を作ってくれないだろうか……?」
俺達から奪ったキヨをアイスが抱擁した。
「た、たすけて開陽様!」
「やっぱりなんか盛ったんだな!?」
顎を指でくいっと持ち上げ、さながらミュージカルの俳優の男役のように迫るアイスから俺の後ろに隠れるキヨ。
「おいおい。どうして逃げるんだい、強引なのは嫌いな鬼さんなのかな」
「神の遣いと魔族は一緒にはなれません!」
「開陽さんに求婚している貴方がなにを言っている。愛は、垣根を越えるダイナマイトなのさ」
普段とは違うアイスの変貌ぶりにミチルは笑いを堪える。
「どんな魔法を食事に混ぜれば、こんな悲惨な事態になるんだよ……?」
「そそそッ、ヒぃ……『これ』見れば、一発だろ……ッ」
「ああ。解毒剤、あなたにならつくれますか」
惚れ薬の解毒剤をミチルの護衛騎士に作ってもらうよう頼んでみた。
薬以外が原因でも、この人は詳しそうだし。
「見た感じ……錯乱しているだけのようだしぃ。お姉様の、魔力量ならぁ……三十分も経たず自然浄化するんじゃあ……ない、かし……らぁ?」
やすりを擦り合わせるような声で溜められると安心できない。
「恐怖する顔も愛おしい」
騎士スキルの縮地でキヨを捕獲したアイス。
壁際まで追い込んだところを。
「とんだ悪い魔族ちゃんだ……(ハート)」
あれがただの薬の効果で。
アイスの性格が反映されたものではないとすると。
「あれがキヨの思い描いた、俺の理想象なのか」
「開陽さま――」
「お断りします。本日の受付は終了しました」
訴えてくるキヨを俺は拒んだ。
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