非モテ男は轢いてもOK! ~トラックを避けた先にあったのは、リア充ハーレム状態の学園生活…そして俺を異世界に転生させたいクソ女神の殺人計画~

本多凱音

文字の大きさ
37 / 40

36.オアシスは600キロカロリー

しおりを挟む
 荒廃とした街に、一発の銃声は轟いた。

「命中した!?」

 スコープ越しに鳥が落ちていく。蜃気楼といった幻覚では表せない、なんとも生々しく羽を暴れさせビルとビルの隙間に消えていった。

 久々の命中だった。銃を放り捨て建物の屋上から、俺は柄にもなく舞い上がって階段を駆け下った。

 どこに鳥は落ちたのか。

 戦車戦闘機の残骸が多過ぎて見えない。
 嬉しんだその分、ぶり返す空腹に目の前が霞んでいった。世界全体が灼熱に放置したアイスクリームみたい。いよいよ洒落にならなくなってきた。

 鳥を発見。
 だが飢えへの抗いによって研ぎ澄まされた感覚が、気配を察知して俺は近くの車に飛び移った。

 転生と過酷な環境で勇者の能力が格段に上昇している、筋力、回避能力ともに。

 地面に渦が発生、俺の足許のなにもかもが呑み込まれる。

 ずんぐりとした二頭身に巨大な顎、アリジゴクのような生き物。
 この世界の広大な土地を移動する巨大な捕食生物、その代表格だ。

 「世界が狭くなっているから、絶滅したと!」

 逃げようにも、砂漠化した大地に何百年もかけて適応したプレデターが俺を喰おうと顎を擦り合わせている。

 たかだか、十七年。さ迷った俺は足では勝てない。太刀打ちできる武器もない。

 稲妻が墜落、地面が急速に沸騰しビルの中まで俺は吹き飛ばされた。

 唖然と顎を開いたまま、丸焦げになった生物の頭の上に、袋を抱えたメテオラが袋を肩に提げた袋を下ろして言った。

「食糧を調達してきた」

○○〇

 陽もすっかり落ちた頃、床に食糧と称した物体をメテオラはぶちまけた。

「今日は大量だった」
「一応、訊くんだけどさ。どこで手に入れた」
「遠出した地域に昔の前線基地があった。そこに放置された装甲車、弾薬庫、ドロイド製造プラントから」

 皿に見立てたベコベコにへこんだヘルメットに盛られた、ネジ、薬莢、タイヤの削りカス。

 俺の片手にはステンレスのコップ。垂れ下がるコードに吊ったランタンの頼りない灯りで中の液体を照らし、覗き込んでは鼻を近付け、噎せた。

「なんだこれ!?」

 濁った液体は古くなったバッテリー液のにおいがした。

 それも当然、だって古びたバッテリー液だもん。

「蓄電設備に少し残っていたのを抜いた」
「これで十七年目。言い続けているが、産業廃棄物は消化できないんだ」
「食わず嫌い。勇者がなんて贅沢。ネジの錆びた部分の通さを知らないなんて、人生損している」

 悪態をついた口直しに、スナック感覚でバリボリ食べオイルを煽ったメテオラ。

 何度生まれ変わる人生でも鉄とかゴム食う瞬間なんてそうそう巡ってこないんだよ。

 俺は空腹でへたれ込んだ。

 今日まで生きてきた奇跡も、どうやらここまでのようだったらしい。それを今の怒りで最後の体力を使い果たしてしまった。

〈ヘファイストスの腕〉でレールガンなんか撃たなきゃ。助けたと当人は感情の起伏もなく宣うが、死んだら意味がないではないか。

 この地域ではアリジゴクで食い繋げていた。激マズだが虫は栄養価が高い。

「あれがこの地上に生き残っていた、最後の一匹だったらどうするんだ」
「諦めが肝心、世界の崩壊は日増しに早まっている」

 メテオラの眺めた外、瓦礫の下には赤黒い地面が水のように広がる。

 あれは『空』だった。

「いつ呑まれてもおかしくない。ここももう駄目だ」
「説得するなら俺の腹にしてくれ」

 逃げようたって、どこにそんな場所がある?

 トラックに轢かれ、メテオラがかつていたこっちの世界に転生し十七年間。

 世界を放浪し元の場所に戻るはずが、いつの間にか水と食料を探す旅になってしまった。

 勇者が救うのに失敗し、崩落を続ける世界。すっかり老いた俺の身体にのし掛かっていたのは、孤独などではなかった。

 腹が減った。
 喉が渇いていた。

「死んだら、元の世界に帰れるのかな……?」

 でもやっぱり、死にたくなかった。

 遠くなる意識。

 車の走行音がした。

 ここのところ十年は生きている人間もドロイドも見掛けていなかった。メテオラがいないと人間が、俺自身、どんな姿だったか忘れて掛けていた。

 怪物さえ今日より前から三年も経った。

「この音楽はなに?」
「いよいよお前も幻聴が聞こえたか」

 エネルギーに変換できるとはいえ、二十年間も戦争で打ち捨てられた産業廃棄物ばかり摂取していれば壊れて当然だ。

 こんな世界で、チャルメラの音楽なんて聞こえるはずが。

「おい、おいおい……うそだろッ!」

 いい香りに鼻がうずいた。

「ラーメンください!」

 足は疑問に感じた俺の意思から勝手に回り出し、口ではラーメンを注文していた。

 湯切りされた麺がスープに沈む丼が登場。

「はいよ、ラーメン一丁。残したら承知しないからね!」
「この、この声は……!」

 屋台に響いた懐かしい声。

「ウケモチ!」
「やっと合流できた。とりあえず二十年の修行の成果を味わってほしい」

 ウケモチの笑顔ももちろんだったけど、俺は一心不乱にかっ食らったラーメンの味に感動をした。

 とんこつラーメンなのに。
 塩気が強くて目に痛い。

 さすがは日本人というべきか、箸の持ち方は身体が憶えていた。

○○〇

 メテオラも屋台で合流し、ウケモチが状況を説明した。

「以前、久志君に転移させられた時があったでしょ。それであなたと一時的にパスが繋がっちゃったみたいでね。事故の直後に巻き込まれこっちに転生したってわけ」

 だが偶然のパスは調整が効かず、互いに距離がズレて、結果合流するだけでも二十年を費やした。

「このラーメンの具材と水はどこで」

 メテオラも味に惚れ込んで原材料まで聞き出そうとしていた。

 なんだよ偉そうな事さんざん俺には言ったくせに、結局ガラクタより麺類が好きで、あれば食べるんじゃないか。

「今はそんなこと聞いている場合じゃないだろ。実際おいしいけど」
「転移した時、自分の神としての能力が上がったみたい。詳しく説明する『必要』はあるんだけど、時間がなくなったみたいね」

 地震。さっきまで俺達が寝床にしていたビルが崩壊した。

「間もなくこの世界は完全に消滅する」
「これくらいの地震なんてしょっちゅうで、身体もすっかり慣れたぞ。余裕はまだあるんじゃないのか」

 深刻な表情のウケモチ。

「言うなれば、そうね。スープに手を出すところまできた、て感じ。替え玉を頼む頃には、自分達は宇宙の藻屑になる」

 ナンデスト?

「どうしよう! どうしたらいいんだ俺達!」

 ラーメン食って生を実感した矢先、跡形も残らず死ぬ!?

 落ち着くよう、ウケモチがハチマキを脱いだ。

「こういう場合、方法は一つだけあるって叫ぶと相場が決まっているものよ」 

 そうだよね、と、アイコンタクトを送られたメテオラが渋々と尋ねた。

「具体的には」
「このラーメンと、の勇者の力が世界を救う!」
「俺!!?」

 なんだこの展開!

 訊きたい事が一気に山と増えたのに。

 メテオラは、どうでもいい感想を俺より先にウケモチに言い切った。

「方法は一つだけって。『二つ』じゃん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...