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15 不安な心。惨めな自分にアレクはどう立ち向かう...?
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「ナツさーん、この前教えてくれた魔法術、俺なりに改良したんで見てもらっていいですか?」
「えぇ。もちろん。貴方は勤勉ですから、すぐにモノに出来ましたね」
「へへっ! ナツさんに褒められるとやる気アップっすわ! ありがとうございます!」
「いえいえ。私はただ知識を教えただけですので」
春の陽気が包む訓練所。春らしい暖かい空気と照れつける太陽が訓練所に降り注ぐ。
ナツメが騎士団に入団してから1週間。彼の周りには人が絶えない。
あんなに物珍しい目で見られたナツメだが、もうすっかり騎士団に馴染んだ。それはひとえに彼の勤勉さ、物覚えの良さ、そして人柄によるものだろう。
ある時、とある応用魔法に苦戦していたシャープを見ていたナツメが、優しく丁寧に教えてくれたことがあった。
その白魔法は剣術と併せて使う、難易度の高いものだった。シャープはナツメの教えでコツを掴み、その白魔法を使いこなせるようになった。
シャープはとても感謝し、それから魔法のことで困ったことがあればナツメに聞くようになった。
その効果は絶大だった。ナツメがシャープに魔法を教えてから、シャープは確実に白魔法をさらに使いこなすようになった。その過程を見ていたある騎士が、ナツメに魔法のことを聞くようになったのだ。
ナツメは魔法研究所の人間で、魔法に関する知識量はこのソーシード騎士の中で一番だ。教え方は的確で、その人に合った方法で伝える。教えられた騎士は、魔法と剣術を使いこなし、教えてもらった時よりも強くなっている。
その様子を見ていた騎士たちは、ナツメに教えを乞うようになった。彼の優しく丁寧に教える姿は、騎士たちに新しい風を吹かせる。
そうして1週間足らずで、ナツメはこのソーシード騎士にとって無くてはならない存在になった。
ほとんどの騎士が魔法を教えて貰っているが、ナツメは俺の剣術の指導にも手を抜かない。1度言ったことは忘れないし、さらに強くなろうとする強欲さもあった。
遠くにいる新人の騎士は嬉しそうな顔で、風魔法を披露する。それは初めよりずっと洗練された、横目で見ても素晴らしいものだった。
「アレク、すごい顔で見てるけど大丈夫?」
いつの間にか隣にはシャープが立っていた。俺は何度も縦に振り下ろしていた剣を下ろす。すごい顔、と言われてどんな顔?とは聞かなかった。
自分でも眉間にシワが寄っていることには気づいていたからだ。
「あぁ、平気だ。疲れが出たみたいだ」
「ナツに教えたり、ワンの代わりに仕切ることも多くなって、前よりはやることも増えたしね。でも、ナツは手のかからない後輩だから、そこまでストレスはないんじゃない?」
「そうだな。手がかからない優秀な人だから、助かってはいる」
ふぅ、と息を吐く。
そう。『手のかからない優秀な人』だからこそ、俺はきっと悩んでいるんだろう。俺の考えていることを知ってか知らずか、シャープは俺の背中を叩く。
「またなんかあったら言ってね。アレクは一人で溜め込みやすいんだから、吐き出さないと。友達だから、力になりたいんだ」
「ありがとう」
お礼を言うと、シャープは柔らかく笑う。こういう所がきっとワンも救われているのだろう。
「じゃあ俺もワンのところにいってくるね。また夜に」
「あぁ。ワンによろしく言っておいてくれ」
俺から離れていき、手を振るシャープの背中を見る。
――――1人で溜め込みやすい。
両親が死んで、頼れる人がいなかった俺は1人で頑張るしか無かった。だから、いつの間にか『1人で頑張る癖』がついた。
『剣術を極め、敬愛する女王様を守る』
その目標が出来てから、俺はひたすら努力をし続けた。朝にやる剣の素振りの稽古を続けていた。努力し続けれなければ、このソーシードナンバー2という居場所も無くなってしまうだろう。
だから今更弱音を吐いてどうする?
人に頼るってどうやって?
俺のこの立ち位置が優秀すぎる後輩によって揺らぐことの不安を、友人に言ってどうなる?
そんなどうしようもない、比べたって仕方ない、――――そう言われることが目に見えていて誰に弱音を言える?
――――俺がここから消えたとして、誰が悲しむ?
そこまで考えてハッとする。いつも使う右手が震えていた。その手でそっと顔の汗を拭う。
よかった。まだ、この手は動いてくれる。
――――頭の中に、塔の中で一人でいるファイブの姿が浮かんだ。
彼は俺よりもきっと孤独に生きてきた。背中の文様の事を抱えて、誰にも頼られず自分の力で生きてきた。
――――ふと視線を感じる。
ナツメだ。俺が立ちすくんでいる様子を見て、何を思っているのかこちらを見つめている。
彼の目が、薄く目が開いていることが分かる。俺の全てを遠くから見通そうとしている。それが分かり、俺は目を逸らした。
――――俺は何を、しているんだ? どうして、ナツから目を逸らしている?
そんな事をしたら、不審がられる。ただ俺の惨めさが増すだけだ。
しかし、俺はもう耐えられなかった。近くの同僚といえる騎士に「休憩を取ってくる」と言ってその場から逃げ出すように離れる。
俺の声は思ったよりも震えていた。遠くで俺を呼ぶ声が聞こえたが、聞こえないフリをして訓練所を出た。
寮の玄関まで来て、人が帰ってきたのが見えて、俺は慌てて走った。
今にも泣き出しそうな心が求めていたのかもしれない。いつの間にか『いつも朝稽古をしている』場所に着いた。ここはあの塔が隣にあって、誰もいない。俺は草むらに座り込んだ。
ここでなら、1人になれる。こんな惨めな俺を隠してくれる。ちょうど雲が太陽を隠してくれて、陽が届かなくなる。
体操座りをして、青々とした草むらを見つめる。
「――――っ!」
じんわりと涙が浮かぶ。視界が歪む。
――――みっともない。みっともない。みっともない...。
ーーーー恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。惨めで、仕方ない...。消えてしまいたい...。誰も俺を見ないで。心配もしないでくれ。こんな惨めな俺を見られたくない...――――!
「アレク......?」
声を殺して涙を流す俺に、聞き馴染んだ声が聞こえる。
思わず涙に濡れた顔で上を見上げる。そこには驚いた顔をした、ファイブがそこに立っていた――――。
「えぇ。もちろん。貴方は勤勉ですから、すぐにモノに出来ましたね」
「へへっ! ナツさんに褒められるとやる気アップっすわ! ありがとうございます!」
「いえいえ。私はただ知識を教えただけですので」
春の陽気が包む訓練所。春らしい暖かい空気と照れつける太陽が訓練所に降り注ぐ。
ナツメが騎士団に入団してから1週間。彼の周りには人が絶えない。
あんなに物珍しい目で見られたナツメだが、もうすっかり騎士団に馴染んだ。それはひとえに彼の勤勉さ、物覚えの良さ、そして人柄によるものだろう。
ある時、とある応用魔法に苦戦していたシャープを見ていたナツメが、優しく丁寧に教えてくれたことがあった。
その白魔法は剣術と併せて使う、難易度の高いものだった。シャープはナツメの教えでコツを掴み、その白魔法を使いこなせるようになった。
シャープはとても感謝し、それから魔法のことで困ったことがあればナツメに聞くようになった。
その効果は絶大だった。ナツメがシャープに魔法を教えてから、シャープは確実に白魔法をさらに使いこなすようになった。その過程を見ていたある騎士が、ナツメに魔法のことを聞くようになったのだ。
ナツメは魔法研究所の人間で、魔法に関する知識量はこのソーシード騎士の中で一番だ。教え方は的確で、その人に合った方法で伝える。教えられた騎士は、魔法と剣術を使いこなし、教えてもらった時よりも強くなっている。
その様子を見ていた騎士たちは、ナツメに教えを乞うようになった。彼の優しく丁寧に教える姿は、騎士たちに新しい風を吹かせる。
そうして1週間足らずで、ナツメはこのソーシード騎士にとって無くてはならない存在になった。
ほとんどの騎士が魔法を教えて貰っているが、ナツメは俺の剣術の指導にも手を抜かない。1度言ったことは忘れないし、さらに強くなろうとする強欲さもあった。
遠くにいる新人の騎士は嬉しそうな顔で、風魔法を披露する。それは初めよりずっと洗練された、横目で見ても素晴らしいものだった。
「アレク、すごい顔で見てるけど大丈夫?」
いつの間にか隣にはシャープが立っていた。俺は何度も縦に振り下ろしていた剣を下ろす。すごい顔、と言われてどんな顔?とは聞かなかった。
自分でも眉間にシワが寄っていることには気づいていたからだ。
「あぁ、平気だ。疲れが出たみたいだ」
「ナツに教えたり、ワンの代わりに仕切ることも多くなって、前よりはやることも増えたしね。でも、ナツは手のかからない後輩だから、そこまでストレスはないんじゃない?」
「そうだな。手がかからない優秀な人だから、助かってはいる」
ふぅ、と息を吐く。
そう。『手のかからない優秀な人』だからこそ、俺はきっと悩んでいるんだろう。俺の考えていることを知ってか知らずか、シャープは俺の背中を叩く。
「またなんかあったら言ってね。アレクは一人で溜め込みやすいんだから、吐き出さないと。友達だから、力になりたいんだ」
「ありがとう」
お礼を言うと、シャープは柔らかく笑う。こういう所がきっとワンも救われているのだろう。
「じゃあ俺もワンのところにいってくるね。また夜に」
「あぁ。ワンによろしく言っておいてくれ」
俺から離れていき、手を振るシャープの背中を見る。
――――1人で溜め込みやすい。
両親が死んで、頼れる人がいなかった俺は1人で頑張るしか無かった。だから、いつの間にか『1人で頑張る癖』がついた。
『剣術を極め、敬愛する女王様を守る』
その目標が出来てから、俺はひたすら努力をし続けた。朝にやる剣の素振りの稽古を続けていた。努力し続けれなければ、このソーシードナンバー2という居場所も無くなってしまうだろう。
だから今更弱音を吐いてどうする?
人に頼るってどうやって?
俺のこの立ち位置が優秀すぎる後輩によって揺らぐことの不安を、友人に言ってどうなる?
そんなどうしようもない、比べたって仕方ない、――――そう言われることが目に見えていて誰に弱音を言える?
――――俺がここから消えたとして、誰が悲しむ?
そこまで考えてハッとする。いつも使う右手が震えていた。その手でそっと顔の汗を拭う。
よかった。まだ、この手は動いてくれる。
――――頭の中に、塔の中で一人でいるファイブの姿が浮かんだ。
彼は俺よりもきっと孤独に生きてきた。背中の文様の事を抱えて、誰にも頼られず自分の力で生きてきた。
――――ふと視線を感じる。
ナツメだ。俺が立ちすくんでいる様子を見て、何を思っているのかこちらを見つめている。
彼の目が、薄く目が開いていることが分かる。俺の全てを遠くから見通そうとしている。それが分かり、俺は目を逸らした。
――――俺は何を、しているんだ? どうして、ナツから目を逸らしている?
そんな事をしたら、不審がられる。ただ俺の惨めさが増すだけだ。
しかし、俺はもう耐えられなかった。近くの同僚といえる騎士に「休憩を取ってくる」と言ってその場から逃げ出すように離れる。
俺の声は思ったよりも震えていた。遠くで俺を呼ぶ声が聞こえたが、聞こえないフリをして訓練所を出た。
寮の玄関まで来て、人が帰ってきたのが見えて、俺は慌てて走った。
今にも泣き出しそうな心が求めていたのかもしれない。いつの間にか『いつも朝稽古をしている』場所に着いた。ここはあの塔が隣にあって、誰もいない。俺は草むらに座り込んだ。
ここでなら、1人になれる。こんな惨めな俺を隠してくれる。ちょうど雲が太陽を隠してくれて、陽が届かなくなる。
体操座りをして、青々とした草むらを見つめる。
「――――っ!」
じんわりと涙が浮かぶ。視界が歪む。
――――みっともない。みっともない。みっともない...。
ーーーー恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。惨めで、仕方ない...。消えてしまいたい...。誰も俺を見ないで。心配もしないでくれ。こんな惨めな俺を見られたくない...――――!
「アレク......?」
声を殺して涙を流す俺に、聞き馴染んだ声が聞こえる。
思わず涙に濡れた顔で上を見上げる。そこには驚いた顔をした、ファイブがそこに立っていた――――。
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