俺で妄想するのはやめてくれ!

元森

文字の大きさ
7 / 30

7 西島の方が心配です

しおりを挟む
 その夜、俺は眠れなかった。
 夢見るのも嫌だったし、何より二人の計画が気になってしょうがなかった。計画、っていったいなんだろう。ぐるぐる思考がまわって、寝ようと思っても、寝れるはずもなかった。結果として、修学旅行の前日なのに2時間しか寝てないという悲劇が生まれた。
 ベットから出るとき、すがすがしい朝なのに、眠気が半端じゃなかった。
 自分の顔を見れば、やつれた姿が映っていた。
「なんなんだよ、クソ…」
 今日は修学旅行当日だってのに!
 そう叫んで、地団駄踏みたいぐらいだった。
 パソコンを見れば、政府からいつもの『報告』が入っていた。危険人物はいるかと聞いてくるそのタイミングのよさに、俺は息をつく。俺はパソコンを操作して、『特に異常なし』と打ち込んで送信した。
 一瞬、栗須の顔を横切ったが、頭を振ってその考えを払しょくする。
 …―――こんなんで、大丈夫なんかなぁ。
 俺はためいきをつきつつ、荷物を準備する。
 俺は用意した大きな荷物をもって、電車へ向かった。朝ご飯は、食べる気にもなれなかった。お母さんにたのしんできてね!と言われたが、まったく不穏な予感しかしない。
 電車は、いつも通り、人々の願望にあふれていた。
 学校の最寄りにつくと、ホームに見知った顔が見えた。俺はその人物に駆け寄ると、肩をたたく。
「おはよ、西島」
「増栄くん」
 西島は、いつも通りの綺麗な顔をしていた。手には荷物を抱え込んでいる。だが、顔は普段の可愛らしいものだった。これじゃあ、きっちり寝たということだろう。俺だけがその計画を知っていると気づいて、ため息をつきたくなる。そんな俺の気持ちがでていたのか、西島は不思議そうに聞いてきた。
「なんか疲れた顔をしてるけど、だいじょうぶ?」
「……あんまだいじょうぶじゃない」
 はあ、と息をついたが不安は大きくなるばかりだ。
「どうかしたの?」
「…言っていいんだか分かんないけどさ…」
 西島の問いに、俺はポツリポツリと話を始めた。話して不安に思われてしまうかもしれないけれど、俺は一人で抱え込む余裕はなかった。
 昨日、栗須と角川がなにやら話していたこと。その内容がどうやら俺にかかわる「計画」をしている内容だと、栗須の心の声からわかったこと。それで昨日は不安になって、寝れなかったこと…―――。
 俺が話している間、西島は考え込む表情をしていた。
 話を終えるころには、学校についていた。
「……なんか、やばい香りがする」
「だろ?」
 俺は、何度目かもわからぬため息をはいた。はあ~という息とともに、この気持ちも流れればいいのに。
 西島は、伏目がちに言った。
「…行動班のとき、俺が角川くんを見張ってるから…」
「え?」
 思わぬ申し出に、おれは思考を停止させた。
「だって、西島角川のこと怖いって」
「…怖いけどさ…、たぶん仕掛けてくるのって角川くんだと思うし。俺が何も出来ないように見張ってるから…、増栄くんは栗須くんの心の願望をみてみて」
「……西島…」
 俺は西島の、申し出にじんわりと心が温まった。こんなに西島は俺を心配してくれている。でも、こんな大切な修学旅行のときに、俺ばかりを気にしてもらっても西島に悪い。西島は、本当に怖いのか、身体が震えていた。
 そんな彼にそこまでしてもらうほど、俺は甘ちゃんじゃない。
 俺は、ゆっくりと首を振った。
「ありがとう…、でも、そんなことしてもらっても西島が大変だろ? 普通に、修学旅行すごせば何にも怖いことないから、大丈夫だよ」
「増栄くん……」
 西島は、あっけにとられたように声を緩ませた。
 しばらく考えているようだったけれど、
「でも、無理はダメだよ。俺は、なんとか計画のことを栗須の心の声から聴いてみるよ」
「…ありがとう…」
 たしかに、西島は栗須の心の声をきける。そこからどういう計画をしているのかが確実にわかる。俺はそっちのほうがいいのかもしれない、と考えをかえた。
 二人で話し込んでいたら、学校の外に、修学旅行で貸し切った旅行大型バスが並んでいた。自分のクラスのバスを探すと、俺たちは荷物を乗員にまかせて、乗り込んだ。このバスで航空までいって、それから飛行機で目的地に行く予定だ。
 走れる能力をもっているクラスメイトは、飛行機代が浮くからと自分でもう京都へ向かっている。
 そんな能力があったら、行くまでのかかる交通費は相当削れるだろうな。
「俺もそんな能力あったらなー」
 俺がぼそりとつぶやくと、西島は首をかしげた。
「いや、なんか京都まで自分能力でいってるやついるからさ、そういう能力あったらいいなって」
「ああ、そういうことね。でも、バスで行くっていう臨場感もいいかんじじゃない?」
 西島の言葉に、俺はうなづいた。
「そういう考えもあるかぁ」
 俺たちは、指定されているバス座席に並んで座った。制服で乗り込むクラスメイトたちは、どこか浮足立っている。それもそうだ。これから、飛行機にのって修学旅行というイベントにワクワクするしかないのである。
「おっ、来たな。ポテチくう?」
 後ろの席に座っていた角川は手に持っていたスナック菓子を見せながらいう。
 俺は少し冷や汗をかいた。角川の方を振り向けば、その隣には栗須が仏頂面で座っていた。どこか面白くなさそうな顔をしてて、俺は嫌な予感がしてならない。
「食べる」
 西島が角川の手にあったポテチをもらっている。俺も、目の前にみせられて、小さくうなづいた。
「ありがと」
 受け取って食べると、塩味のおいしい味がした。少ししょっぱいが、それがこの味なんだ。
「これいつ出発すんのかね?」
 パリパリと食べながら、身を乗り出して角川は問うた。
「さあ、もう少しじゃね」
「わかんない」
 俺たちがわからないと首をふると、角川は口をゆがめた。そして、隣で腕を組んでいる栗須に話しかけた。
「なあ、いつだと思う?」
「…知るか」
 栗須のぶっきらぼうな答えに、角川は驚いていた。だが、そのまま肩をこづいている。
「知るかってひでぇな」
「もう少しだろ」
「あー、早く出発してくんないかなぁ。暇でしょうがないっつうの」
 あーだこーだ言っている二人に、俺はなんだかんだで仲いいんだなと思った。隣の西島が俺の目を見て、少し震えている。また栗須が、変なことを考えているのだろうと思って、話を聞くために耳を西島の口元のほうへもっていく―――が。
「だめ!」
 肩に強い衝撃が走る。
「へっ」
 俺は、いつの間にか身体を西島に突き飛ばされていた。理由はしばらくして栗須が嫉妬するようなことを思っていたということがわかったけれど、俺ははじめいったい何が起こっているのかよくわかっていなかった。
 西島が「ほんとうにごめん!」と謝ってくれたが、内心この旅行が波乱に満ちているということを改めて悟ったのだった。
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

処理中です...