アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第一章

第二話 24 快楽主義者

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 十夜が準備よくレジャーシートを用意し始めたので、聖月も持っていたカバンを横においてそれを手伝った。レジャーシートの柄は男子がまず買わないであろうな、くまの人気キャラクターを中心としたピンク色のハートが散りばめられている可愛らしいものであった。
 女子から貰ったので仕方がないとは思うが、少し聖月にはきついものがあった。
 これに座るのはいささか勇気のある行動だが、十夜と衛がなんの躊躇いもなく敷き終わったレジャーシートに座ったので、聖月も勇気をだしてそこに座った。
 二人が座っているし、屋上のカギは閉めたので見られるとは思わなかったからだ。
 いそいそとスクールバックから勉強道具を取り出し始めた聖月に、衛の耳も疑うような言葉が聞こえてきた。 
「じゅうくん、首にキスマークついてるよ」
「え?」
「え、う、わおお!」
 聖月は驚いて間抜けすぎる大きな声をあげた。十夜は聖月の驚きの声を無視するかのようにさらりと何でもないかのように衛に答える。
「…ああ、昨日のかも」
「じゅうくん、またセックスしたんでしょ? 生ぬるいにおいがする。オスのにおいぷんぷんだ」
 聖月は二人の会話に倒錯的なものを感じた。よく見ると十夜の首元には、赤いうっ血のような痕があった。蚊にでも刺されたのかと聖月は思っていたのだが、まさかキスマークだったなんて信じられなかった。
 平気で十夜は答えてるし、衛も平然と聞いているのでにわかにはこれが現実だとは思えなかった。今の状況に聖月は眩暈が起こりそうになる。衛は続けざまに言い放った。
「今日は朝帰りってことだね」
「ああ、そうだな。よく分かったな」
「だいたい、においで分かるよそういうものって。今日のじゅうくん甘い香りがするしさぁ。昨日も一夜限りのゆきずりってやつ? よくいるよねーー…うらやましいよ」
 唖然として会話についていけない聖月をおいて、二人の会話はどんどんと進んでいく。聖月もだんだんと発展していく会話につれて、思考が鈍くなっていった。
 二人の言葉は聖月にとって未知の言葉ばかりだった。ゆきずりとか、朝帰りとか、甘い香りとか。そんな昼のドラマみたいな出来事が本当に現実にあるなんて聖月は知らなかった。この二人に着いていけて、会話できるなんて人はそうはいないんではないかと聖月は思う。いたとしたら、かなりの遊び人か色男だろう。
 十夜は快楽主義者だ。
 そのことを聖月は知っている。もちろんのことであるが、衛もだ。
 衛は十夜と中学生のころから知り合いらしいが、そのころから十夜の快楽主義者は変わってないのだという。
 初めにそのことを十夜から聞いた時は、かなり聖月は仰天した。 たしかに十夜は美形でじっと見ていると人間ではないような気もするが、中学生のころからセックスフレンドを持っているとは驚きだ。その歳でいるなんて、考えられない。
 十夜の容姿は鼻筋が整っており高く、唇も下唇が厚いので色香を放つ。目は聖月の兄である清十郎にどことなく似ているように感じるものがあるが、十夜にはどこか甘さがあった。彼の魅力がそこに表れているように聖月は思える。
 その甘さを引き立てる様に男らしい綺麗な眉があるので、十夜はかなりの美形だった。女性に人気があるのも頷ける。
 たとえるなら、施設で働いている神山が白百合だとすると、ケイは可憐なマーガレット、十夜は薔薇のような可憐さを持ち合わせていた。
 髪型はこげ茶色に染めた少し長い髪型で、きちんとはやりの髪型にしているのでお洒落さが際立っている。
 身長も180センチをゆうに超えて足も長いので、スタイルもいい。神様はやっぱり不公平だと聖月は思わず思ってしまう。
 十夜は聖月の目から見ても、カッコいいと素直に思うし、大人びていると思う。
 十夜は深い快楽を求めて女の人も、男の人もためし今ではすっかりバイセクシャルになったと笑っていたが、聖月は到底分かりそうになかったということを話されたときに覚えていた。
 高校生で、セフレを持っていると聞いた時は聖月は腰が抜けそうになった。
 たまに十夜に聖月は性事情を彼に話されることがある。
 昨日はこんなプレイをしてどのぐらいの人数だったかを話を振られることがあるが、その時感じるのは自分に理解できないということだ。自分にはあまり関係のないことだな―――そんな風なことをひしひしと思うだけだった。
 性経験の少ない――というよりはない聖月にとっては十夜の体験し聞かせてくれることは全部未知の世界だったからだ。
 だいたいの性知識を、十夜に教えてもらったといってもいいほど、聖月は性というものに無関心だったし無関係だった。
 十夜にだったら今日一緒にヤりにこいよと、言われた時には丁重にお断りにした。
 一人足りないから聖月も来てくれよ――とお願いされたときには混乱しすぎて、鼻血を吹きだし十夜が逆にパニックになっていたほどだった。
 十夜との出会いもかなりさんざんたるものだったなと、聖月は二人の会話をほとんど聞き流しながら記憶を巡らせた。




 今から一年前のことだった。
 十夜とは高校一年生のときに同じクラスになった。
 入学式の一週間後でそのときの聖月は文字通りの人見知りを発揮し、あまり友達ができていない状況だった。
 放課後の教室で自分の席から夕焼けを、ぼんやりと見ていたら十夜が教室に入ってきたのだ。十夜のことを聖月はもちろん、知っていた。とても整っている容姿もそうだが、いろいろと騒がせな男だったからだ。
 そのころから十夜の色男の噂はかなり入っていた。今までで何人付き合ったとか、美人と付き合っているとか、経験豊富だとか。
 そんな人もいるんだなあと聖月は人ごとのように思っていたのだが、友人として付き合ってみるとその通りの人物だったわけだが。
 自分の席のほうへ向かってくるので何事かと思っていたのだが、十夜はそのまま聖月の前の席に座った。
『俺、喜多嶋 十夜っていうんだけど知ってる? 君塚 聖月くん?』
『…え? う、うん』
 唐突に自分の自己紹介を十夜はし始めた。
 どうして自分の名前を知っているんだろうと疑問を持ちつつも、緊張した聖月はぎこちなくそっけなく十夜に受け答えた。きっと顔は無表情であろう。
 そのあとそんな奇妙な雑談をして少し経つと十夜は席をたった。
 やっと解放されると思って、聖月がほっとしたのもつかの間十夜のポケットから何かが落ちた。
『…なんか、落ちたよ』
『ん?』
 と落としたものを拾おうとして、聖月はその物を見て瞬時に固まった。
 十夜の落としたものは、驚くべきことに学校生活に全く関係ないコンドームの箱だった。
 聖月の薄い性知識でも分かる、避妊用具を十夜は落としたのだ。
 聖月の頭の中は真っ白になった。その箱のところにキングサイズと書いてあることで、十夜のあらぬところの大きさも同時に知ってしまった。その瞬間、頭の中で何かが弾けた。―――何を思ったのかパニック状態の聖月は、教室の窓を開けそのゴムの箱を外に叫びながら渾身の力で投げ捨てた。
 しばらくして外の女の子の悲鳴が聞こえた。
 息を整えながら聖月は、十夜を見るともう今では見ることはない傑作な表情をしていた。
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