29 / 168
第一章
第三話 31 頭の良し悪しで笑うな
しおりを挟む
聖月がしばらく黙りこんでいると、蒼は怪訝な顔をしてこちらを向いていた。
「おい、どうしんだよ。ぼうっとして」
あなたのことを考えていましたなんて言えなくて、聖月は慌てて手を横に振って蒼の言葉をごまかすように喋った。
「い、いや! なんでもないよ」
「あっそう」
蒼は、聖月の態度に何も興味なさそうに生返事を返してきた。
その答えをしたあとに、蒼は退屈そうに欠伸を一つした。そのまま蒼は、手を上にのばすとストレッチをして、もう一度眠そうな欠伸をまたした。大口を開けて、欠伸をしている蒼はまだ幼そうに見える。
だが、欠伸が終わり一息ついた蒼は、聖月と比べるまでもないほどに大人っぽい雰囲気を放っている。やはり、何度も思ってしまうが蒼は聖月の友人である十夜に似ていた。
顔も似ているが、何より似ているのはその雰囲気だ。
十夜にも色香を持っていて、年相応の青年の雰囲気ではないが、蒼も同様にどこの道に居るような同年代の男とは違うオーラを持っていた。
それが、どういうオーラとは聖月には分からないが、特別に人々を惹きつける《何か》を二人が持っているのは確かだ。きっと、それは聖月には持っていない《何か》なのだろう。
人の本質は似ていると、雰囲気まで似ているものなのかもしれない。でも、雰囲気は似ているといっても性格はあまり似ていない気がした。
蒼は、妙に本心が見えないようで分からない感じがするが、十夜は持っている感情を聖月に曝け出してくれている。それは、十夜が聖月のことを心から許していて預けているからすべてを見せてくれるのだろう。
まだ、蒼とは会ったばかりだが、今後蒼と付き合って仲良くなったとしても、聖月には彼が聖月には十夜みたいに本当の自分を見せてくれないような、そんな予感がしていた。それが、彼のオーラからそう聖月に思わせているのかは、聖月には分からない。
どうして、蒼にそんなイメージを持ってしまうのか、聖月は自分自身理解していなかった。
人間は、自分に持っていないものを酷く欲しがって、渇望し、求め、時には嫉妬さえしてしまう生き物だ。多分聖月も、自分にないものを持っている蒼をどこか憧れているのかもしれない。そんな思考をしていた聖月に蒼は質問を投げかけて来る。
「聖月は、どこの高校に通ってるんだ? 聞いてなかったよな、俺」
「えっ」
聖月は、その質問の回答に困った。聖月は自慢ではないが頭が悪い方だ。偏差値は50が平均の頭脳だということは知っているが、もちろん聖月の高校はそれよりもかなり下だ。
県内の偏差値ランキングを見ても、下から数えたほうが聖月の高校は探しやすいほどだった。たぶん――というかきっと兄の清十郎に聖月はいいところを吸い取られてしまったのだ。成績もそうだが、身体的能力も彼のほうが聖月のはるか上にある。ついでに清十郎の高校はランキングでも上から数えたほうが早い。
そう思わないとやっていけないぐらい、聖月と清十郎は似ていなかった。清十郎と、蒼は話を聞く限り同じ高校の出身だった。つまり清十郎は蒼の先輩で、蒼は清十郎の後輩ということになる。その聖月の高校と、蒼のT高校を比べるとかなりの差がある。
差がありすぎて、困ってしまうほどだった。ざっと見積もっても、偏差値は2、30は違うのではないのだろうか。
そんな恐ろしいことを考えたくなくて、聖月は頭を抱え込んだ。聖月はどうやって蒼に伝えればいいのかと、必死に考える。素直に言ってしまえばいいのだが、あいにくそんな勇気を聖月は持ち合わせていない。
もし、いったとしたらどんな思いが蒼のなかに浮かび上がるのか安易に予想できてしまう。蒼の性格では、絶対に聖月を馬鹿にして蔑むような目で聖月のことを見るのは確実だ。
ここで勝手に相手の気持ちを決め付けてもダメだとは思うのだが、どうしても今までの蒼の行動やしぐさを見るかぎり聖月はそれしか思い浮かばない。たぶん100パーセントそんな反応を彼はするだろう。
馬鹿にされて、嬉しい人はいないが聖月ももちろんその馬鹿にされたくない人間の一人だ。 黙り込んでしまった聖月を、蒼は疑ったのか口を開いた。
「あれ? やっぱり言ってた? 俺、そしたら全然思い出せないんだけど」
蒼は、思い出そうと首を傾げて考え込むような仕草をしている。聖月は何も言えずに、頭をもたげさせていた。そんな聖月の気持ちに気づいているのか、気付いてないのか蒼は回答を急かすようなことを言ってくる。
「あ、やっぱりいってないよな。てか、なに聖月は黙り込んでんの?」
「……いや…」
蒼はその聖月の言葉を肯定と受け取ったのか、嬉しそうに頷いている。興奮しているのか、蒼は聖月の肩に手を回してきた。その急な行動に目を見開かせている聖月を置いて、蒼は楽しそうな声音で話す。
「ほらな、やっぱり聖月は言ってなかったよ。……おい、顔が青いぞ」
「え…?」
「すっげえ真っ青だけど、気分でも悪いのか?」
「……いや気持ち悪くはないけど……」
「なんだよ、心配させんなよ」
「はぁ…」
蒼は心配そうに、聖月のことを見つめていた。その目には一点の曇りがない。聖月はそんなに自分の顔色が悪いのかと、確認するために手で顔に触れてみた。
確かに聖月の肌は、いつもより冷たかった。これでは、たしかに青白くなるのも無理はないだろう。
この原因はきっと蒼に聖月の高校を聞かれたせいであろう。聖月は打開策を練ってみたが、何もいい案は出てこなかった。どうせ、いま誤魔化したところでまた聞かれることになるのは確実だ。今ここで、はっきりと自身の高校をいったほうがのちのちいいだろう。
結局聖月は考えた末に、ある一つの答えにたどり着いた。蒼は、何も話さない聖月に焦れたのか口を動かす。
「んで? どこなんだよ、聖月の高校は」
蒼のその真剣な目線と口調に当てられて聖月は、覚悟を決めた。ここで馬鹿にされたって元を辿れば聖月の成績が悪いせいでこんなことになったので、呪うべきは自分だろう。
「…I高校だけど」
息の掛かる距離まで近づいてきた蒼に向かって、聖月ははっきり言い切る。もうどうにもなれという想いで、聖月の胸はいっぱいになる。蒼の目は、鋭くそして綺麗だった。蒼はその美しく端正な顔をくしゃりと歪めた。そして、聖月の肩に置いていた手をゆっくりと外してしまう。
嫌な予感がした。
「っぷ」
蒼は表情をこれでもかと歪ませて、手を叩き音を立てると大笑いした。聖月のまさに嫌な予感が的中する。しかも笑い方がかなりいやらしい。
――何が『っぷ』だ。こんな笑い方なんて、勝手に人の高校を聞いておいてそんなのないんじゃないのか――…
聖月は、そう反論したかったが現在進行形で蒼が大笑いしているので、言ったとしても聞いてくれないだろう。蒼の性格上笑うことは予想していたが、ここまで笑われるとは聖月自身思っていなかった。
――失礼なやつだな!
とでも蒼に怒って言えればいいのだが、ここまで笑われてしまうと怒りを通り越して聖月は呆れしか出てこない。かなり清々しい、笑いっぷりだ。
まさか聖月の口から県内でも偏差値ワーストクラスの高校が出てくるとは考えていなかったのだろう。もっとI高校より偏差値が上の高校を思い出していたに違いない。そうではないと、ここまで笑えない。
蒼は聖月のそんな複雑な気持ちを無視するかのように、お腹を抱えてヒーヒー笑っている。
「ぶっ……! く、くくく…っ、おいおいそれ冗談じゃねぇよなぁ」
その蒼の笑いっぷりは誰かに似ていた。この笑い方は聖月の知り合いに似ている。
そうだ――と聖月は思い出す。この笑い方は、友人の十夜にそっくりだ。馬鹿にしたような見下した感じもそっくりである。
また、蒼と十夜に似た共通点を見つけて聖月はこっそりとほくそ笑んだ。だけれど、今聖月はそんな事で笑っている場合ではない。
「こんな冗談なんて言いたくないっての」
「それもそうか……ぶっくくく…ダメだ…! 笑い死ぬ…っ」
蒼は口で両手を多い、笑いを堪えているようだがまったくその手は役に立っていない。声が押さえきれていないのだ。まずはなから蒼は声を押さえようなんて努力はしていないだろう。笑いすぎたのか、足をバタバタと上下に動かして蒼はその場をやり過ごしようとしているようにも見えた。
「なんだよ、お前はそんなに俺の高校がおかしいっていうのかよ」
聖月はその馬鹿笑いに嫌気がさして、不貞腐れて口を尖らしていう。その聖月の反感に、蒼はまた心を抉る言葉を聖月に向けて言い放った。
「くく…いや、馬鹿にしてるわけじゃねえんだよ。でも、そこまで聖月が馬鹿だと知って笑いが…ぷっ」
「おい、結局馬鹿にしてんじゃねえかよ!」
聖月はつい声を荒上げてしまう。蒼は、笑いすぎて涙が目から出ていた。
やっぱり、蒼は性格が悪いし思いやりが欠けていた。それこそ十夜と比べたらおこがましいくらいに、蒼のほうが性悪だった。だが、嫌みを感じるがそこまでというわけではない。少し時間がたてば許してしまうぐらいの、弱い怒りを感じる程度だ。
あと何日恨めばいいのか分からないというほどでもない。きっとそう聖月が思ってしまうのも、蒼の生まれ持った才能なのかもしれない。
やっと落ち着いたのか蒼は、ゆっくりと口を動かす。その声は、自分を納得させるような独り言にも思える声音であった。
「昨日の朝食のときに見た聖月のブレザーが、俺もどっかで見たことのあるやつだとは思ってたんだよ。でも、I校はどこにでもあるベタな紺のブレザーだったし、いやぁ…気付かなかったなぁ…」
「永遠に気付かなくくてよかったんだけど」
「でも、結局いつかは気が付くと思うぜ?」
「そうだけどさ…」
蒼は話の間ずっと、聖月のことをじいっと見つめていた。きっと蒼の心の中では、聖月を蔑んでいるに違いない。『そんなあんたって頭悪かったのか』という蒼の気持ちが雄弁にその視線から、痛いほど伝わってきている。
やっぱり、蒼のほうが十夜より性格が悪い。
そんな視線に耐えられなくて、聖月は少し前から気になっていた質問を蒼にする。
「そういえばケイってどこの高校にいってんの?」
ケイと聖月が初めて会ったときに、彼はデザイン性のある制服を着ていた。朱色を基調にした、聖月が見たことがない綺麗な制服だったのだ。聖月と同じようなブレザーだったが、聖月は紺でケイは赤っぽく朱色だったし無地ではなく赤と黄色のチェックもズボンにあった。
あのデザインからして、公立ではないだろう。
あのデザインで公立だったら、かなりの人数が受験のときに応募してくるだろう。そんなに人気校だったら聖月も知ってるとは思うが、聖月は知らなかった。つまり、公立ではなく私立という可能性がとても高い。
あの見た限り質のブレザーで、しかもあのときのケイが胸につけている校章は気品溢れるものだったので、推測するに十中八九ケイが通っているのは私立ということになる。聖月が蒼に疑問の目を向けていると、その疑問を蒼は答えてくれた。
「あぁ…ケイはS学園だよ」
聖月の耳にすんなりとした低音の音階の声で入って来たのは、予想していなかった高校名だった。
「え…」
思わず、そんな頓狂な声が聖月の口から出てくる。蒼がいう、S学園というのは馬鹿高い大金が掛かる所謂お金持ち学校だった。ここからだいたいS学園は電車で一時間ほどかかる場所にある、都心の私立高だ。
学力は平均であるが、やはり私立高ということもあってコースたくさんあり普通の高校よりも学部が分かれている。
なので、豊富なコースを求めて入学してくる子が多く、私立高で大変高額な学費であるが人気なのことでも有名な学校だ。そんな高校名が、蒼の口から発せられていることが驚いた。
聖月はどんどんと湧きでてくる疑問が多すぎて、頭が混乱してきた。聖月は、頭を使うことが苦手なのだ。
「で、でもさ…あそこってすっげえ金かかんじゃん。奨学金とか?」
「いや、ケイは…そのなかの中の下の学力だからそんなことねえよ」
「そ、そうなんだ…」
聖月は、二度驚いた。施設に入っている子供は、極端に私立に行かないことが多い。その理由は単純で、お金がないからだ。お金がないから、私立で発生する大量の学費が払えない。だから、それで私立ではなくなるべく公立に進むようにしている。
何かの才能があったりしてパトロンがいる子供が行くこともあるらしいが、それは稀なことであるらしい。他の方法としては奨学金を貰って私立にいく子供のほうが、割合的には多いだろう。聖月は、ある疑問が浮かんできてそれを蒼に問うた。
「じゃあケイは、もとからお金を貰っていたってこと?」
「ん…まぁ……そうだね……。でもまぁ、あいつはお金がバンバン入ってくるからなぁ…」
「え? 何かいった?」
「いや…何でもねえよ」
「……」
蒼が小さい声で何事かをいったので、最後のほうの言葉を聖月は聞き逃してしまう。何か言ったのかと聞いても、蒼はまた先程のように誤魔化してしまった。
聖月はなんともいえない感情を感じていると、静かな蒼の部屋に小さいドアを叩くノックの音が響いた。
「おい、どうしんだよ。ぼうっとして」
あなたのことを考えていましたなんて言えなくて、聖月は慌てて手を横に振って蒼の言葉をごまかすように喋った。
「い、いや! なんでもないよ」
「あっそう」
蒼は、聖月の態度に何も興味なさそうに生返事を返してきた。
その答えをしたあとに、蒼は退屈そうに欠伸を一つした。そのまま蒼は、手を上にのばすとストレッチをして、もう一度眠そうな欠伸をまたした。大口を開けて、欠伸をしている蒼はまだ幼そうに見える。
だが、欠伸が終わり一息ついた蒼は、聖月と比べるまでもないほどに大人っぽい雰囲気を放っている。やはり、何度も思ってしまうが蒼は聖月の友人である十夜に似ていた。
顔も似ているが、何より似ているのはその雰囲気だ。
十夜にも色香を持っていて、年相応の青年の雰囲気ではないが、蒼も同様にどこの道に居るような同年代の男とは違うオーラを持っていた。
それが、どういうオーラとは聖月には分からないが、特別に人々を惹きつける《何か》を二人が持っているのは確かだ。きっと、それは聖月には持っていない《何か》なのだろう。
人の本質は似ていると、雰囲気まで似ているものなのかもしれない。でも、雰囲気は似ているといっても性格はあまり似ていない気がした。
蒼は、妙に本心が見えないようで分からない感じがするが、十夜は持っている感情を聖月に曝け出してくれている。それは、十夜が聖月のことを心から許していて預けているからすべてを見せてくれるのだろう。
まだ、蒼とは会ったばかりだが、今後蒼と付き合って仲良くなったとしても、聖月には彼が聖月には十夜みたいに本当の自分を見せてくれないような、そんな予感がしていた。それが、彼のオーラからそう聖月に思わせているのかは、聖月には分からない。
どうして、蒼にそんなイメージを持ってしまうのか、聖月は自分自身理解していなかった。
人間は、自分に持っていないものを酷く欲しがって、渇望し、求め、時には嫉妬さえしてしまう生き物だ。多分聖月も、自分にないものを持っている蒼をどこか憧れているのかもしれない。そんな思考をしていた聖月に蒼は質問を投げかけて来る。
「聖月は、どこの高校に通ってるんだ? 聞いてなかったよな、俺」
「えっ」
聖月は、その質問の回答に困った。聖月は自慢ではないが頭が悪い方だ。偏差値は50が平均の頭脳だということは知っているが、もちろん聖月の高校はそれよりもかなり下だ。
県内の偏差値ランキングを見ても、下から数えたほうが聖月の高校は探しやすいほどだった。たぶん――というかきっと兄の清十郎に聖月はいいところを吸い取られてしまったのだ。成績もそうだが、身体的能力も彼のほうが聖月のはるか上にある。ついでに清十郎の高校はランキングでも上から数えたほうが早い。
そう思わないとやっていけないぐらい、聖月と清十郎は似ていなかった。清十郎と、蒼は話を聞く限り同じ高校の出身だった。つまり清十郎は蒼の先輩で、蒼は清十郎の後輩ということになる。その聖月の高校と、蒼のT高校を比べるとかなりの差がある。
差がありすぎて、困ってしまうほどだった。ざっと見積もっても、偏差値は2、30は違うのではないのだろうか。
そんな恐ろしいことを考えたくなくて、聖月は頭を抱え込んだ。聖月はどうやって蒼に伝えればいいのかと、必死に考える。素直に言ってしまえばいいのだが、あいにくそんな勇気を聖月は持ち合わせていない。
もし、いったとしたらどんな思いが蒼のなかに浮かび上がるのか安易に予想できてしまう。蒼の性格では、絶対に聖月を馬鹿にして蔑むような目で聖月のことを見るのは確実だ。
ここで勝手に相手の気持ちを決め付けてもダメだとは思うのだが、どうしても今までの蒼の行動やしぐさを見るかぎり聖月はそれしか思い浮かばない。たぶん100パーセントそんな反応を彼はするだろう。
馬鹿にされて、嬉しい人はいないが聖月ももちろんその馬鹿にされたくない人間の一人だ。 黙り込んでしまった聖月を、蒼は疑ったのか口を開いた。
「あれ? やっぱり言ってた? 俺、そしたら全然思い出せないんだけど」
蒼は、思い出そうと首を傾げて考え込むような仕草をしている。聖月は何も言えずに、頭をもたげさせていた。そんな聖月の気持ちに気づいているのか、気付いてないのか蒼は回答を急かすようなことを言ってくる。
「あ、やっぱりいってないよな。てか、なに聖月は黙り込んでんの?」
「……いや…」
蒼はその聖月の言葉を肯定と受け取ったのか、嬉しそうに頷いている。興奮しているのか、蒼は聖月の肩に手を回してきた。その急な行動に目を見開かせている聖月を置いて、蒼は楽しそうな声音で話す。
「ほらな、やっぱり聖月は言ってなかったよ。……おい、顔が青いぞ」
「え…?」
「すっげえ真っ青だけど、気分でも悪いのか?」
「……いや気持ち悪くはないけど……」
「なんだよ、心配させんなよ」
「はぁ…」
蒼は心配そうに、聖月のことを見つめていた。その目には一点の曇りがない。聖月はそんなに自分の顔色が悪いのかと、確認するために手で顔に触れてみた。
確かに聖月の肌は、いつもより冷たかった。これでは、たしかに青白くなるのも無理はないだろう。
この原因はきっと蒼に聖月の高校を聞かれたせいであろう。聖月は打開策を練ってみたが、何もいい案は出てこなかった。どうせ、いま誤魔化したところでまた聞かれることになるのは確実だ。今ここで、はっきりと自身の高校をいったほうがのちのちいいだろう。
結局聖月は考えた末に、ある一つの答えにたどり着いた。蒼は、何も話さない聖月に焦れたのか口を動かす。
「んで? どこなんだよ、聖月の高校は」
蒼のその真剣な目線と口調に当てられて聖月は、覚悟を決めた。ここで馬鹿にされたって元を辿れば聖月の成績が悪いせいでこんなことになったので、呪うべきは自分だろう。
「…I高校だけど」
息の掛かる距離まで近づいてきた蒼に向かって、聖月ははっきり言い切る。もうどうにもなれという想いで、聖月の胸はいっぱいになる。蒼の目は、鋭くそして綺麗だった。蒼はその美しく端正な顔をくしゃりと歪めた。そして、聖月の肩に置いていた手をゆっくりと外してしまう。
嫌な予感がした。
「っぷ」
蒼は表情をこれでもかと歪ませて、手を叩き音を立てると大笑いした。聖月のまさに嫌な予感が的中する。しかも笑い方がかなりいやらしい。
――何が『っぷ』だ。こんな笑い方なんて、勝手に人の高校を聞いておいてそんなのないんじゃないのか――…
聖月は、そう反論したかったが現在進行形で蒼が大笑いしているので、言ったとしても聞いてくれないだろう。蒼の性格上笑うことは予想していたが、ここまで笑われるとは聖月自身思っていなかった。
――失礼なやつだな!
とでも蒼に怒って言えればいいのだが、ここまで笑われてしまうと怒りを通り越して聖月は呆れしか出てこない。かなり清々しい、笑いっぷりだ。
まさか聖月の口から県内でも偏差値ワーストクラスの高校が出てくるとは考えていなかったのだろう。もっとI高校より偏差値が上の高校を思い出していたに違いない。そうではないと、ここまで笑えない。
蒼は聖月のそんな複雑な気持ちを無視するかのように、お腹を抱えてヒーヒー笑っている。
「ぶっ……! く、くくく…っ、おいおいそれ冗談じゃねぇよなぁ」
その蒼の笑いっぷりは誰かに似ていた。この笑い方は聖月の知り合いに似ている。
そうだ――と聖月は思い出す。この笑い方は、友人の十夜にそっくりだ。馬鹿にしたような見下した感じもそっくりである。
また、蒼と十夜に似た共通点を見つけて聖月はこっそりとほくそ笑んだ。だけれど、今聖月はそんな事で笑っている場合ではない。
「こんな冗談なんて言いたくないっての」
「それもそうか……ぶっくくく…ダメだ…! 笑い死ぬ…っ」
蒼は口で両手を多い、笑いを堪えているようだがまったくその手は役に立っていない。声が押さえきれていないのだ。まずはなから蒼は声を押さえようなんて努力はしていないだろう。笑いすぎたのか、足をバタバタと上下に動かして蒼はその場をやり過ごしようとしているようにも見えた。
「なんだよ、お前はそんなに俺の高校がおかしいっていうのかよ」
聖月はその馬鹿笑いに嫌気がさして、不貞腐れて口を尖らしていう。その聖月の反感に、蒼はまた心を抉る言葉を聖月に向けて言い放った。
「くく…いや、馬鹿にしてるわけじゃねえんだよ。でも、そこまで聖月が馬鹿だと知って笑いが…ぷっ」
「おい、結局馬鹿にしてんじゃねえかよ!」
聖月はつい声を荒上げてしまう。蒼は、笑いすぎて涙が目から出ていた。
やっぱり、蒼は性格が悪いし思いやりが欠けていた。それこそ十夜と比べたらおこがましいくらいに、蒼のほうが性悪だった。だが、嫌みを感じるがそこまでというわけではない。少し時間がたてば許してしまうぐらいの、弱い怒りを感じる程度だ。
あと何日恨めばいいのか分からないというほどでもない。きっとそう聖月が思ってしまうのも、蒼の生まれ持った才能なのかもしれない。
やっと落ち着いたのか蒼は、ゆっくりと口を動かす。その声は、自分を納得させるような独り言にも思える声音であった。
「昨日の朝食のときに見た聖月のブレザーが、俺もどっかで見たことのあるやつだとは思ってたんだよ。でも、I校はどこにでもあるベタな紺のブレザーだったし、いやぁ…気付かなかったなぁ…」
「永遠に気付かなくくてよかったんだけど」
「でも、結局いつかは気が付くと思うぜ?」
「そうだけどさ…」
蒼は話の間ずっと、聖月のことをじいっと見つめていた。きっと蒼の心の中では、聖月を蔑んでいるに違いない。『そんなあんたって頭悪かったのか』という蒼の気持ちが雄弁にその視線から、痛いほど伝わってきている。
やっぱり、蒼のほうが十夜より性格が悪い。
そんな視線に耐えられなくて、聖月は少し前から気になっていた質問を蒼にする。
「そういえばケイってどこの高校にいってんの?」
ケイと聖月が初めて会ったときに、彼はデザイン性のある制服を着ていた。朱色を基調にした、聖月が見たことがない綺麗な制服だったのだ。聖月と同じようなブレザーだったが、聖月は紺でケイは赤っぽく朱色だったし無地ではなく赤と黄色のチェックもズボンにあった。
あのデザインからして、公立ではないだろう。
あのデザインで公立だったら、かなりの人数が受験のときに応募してくるだろう。そんなに人気校だったら聖月も知ってるとは思うが、聖月は知らなかった。つまり、公立ではなく私立という可能性がとても高い。
あの見た限り質のブレザーで、しかもあのときのケイが胸につけている校章は気品溢れるものだったので、推測するに十中八九ケイが通っているのは私立ということになる。聖月が蒼に疑問の目を向けていると、その疑問を蒼は答えてくれた。
「あぁ…ケイはS学園だよ」
聖月の耳にすんなりとした低音の音階の声で入って来たのは、予想していなかった高校名だった。
「え…」
思わず、そんな頓狂な声が聖月の口から出てくる。蒼がいう、S学園というのは馬鹿高い大金が掛かる所謂お金持ち学校だった。ここからだいたいS学園は電車で一時間ほどかかる場所にある、都心の私立高だ。
学力は平均であるが、やはり私立高ということもあってコースたくさんあり普通の高校よりも学部が分かれている。
なので、豊富なコースを求めて入学してくる子が多く、私立高で大変高額な学費であるが人気なのことでも有名な学校だ。そんな高校名が、蒼の口から発せられていることが驚いた。
聖月はどんどんと湧きでてくる疑問が多すぎて、頭が混乱してきた。聖月は、頭を使うことが苦手なのだ。
「で、でもさ…あそこってすっげえ金かかんじゃん。奨学金とか?」
「いや、ケイは…そのなかの中の下の学力だからそんなことねえよ」
「そ、そうなんだ…」
聖月は、二度驚いた。施設に入っている子供は、極端に私立に行かないことが多い。その理由は単純で、お金がないからだ。お金がないから、私立で発生する大量の学費が払えない。だから、それで私立ではなくなるべく公立に進むようにしている。
何かの才能があったりしてパトロンがいる子供が行くこともあるらしいが、それは稀なことであるらしい。他の方法としては奨学金を貰って私立にいく子供のほうが、割合的には多いだろう。聖月は、ある疑問が浮かんできてそれを蒼に問うた。
「じゃあケイは、もとからお金を貰っていたってこと?」
「ん…まぁ……そうだね……。でもまぁ、あいつはお金がバンバン入ってくるからなぁ…」
「え? 何かいった?」
「いや…何でもねえよ」
「……」
蒼が小さい声で何事かをいったので、最後のほうの言葉を聖月は聞き逃してしまう。何か言ったのかと聞いても、蒼はまた先程のように誤魔化してしまった。
聖月はなんともいえない感情を感じていると、静かな蒼の部屋に小さいドアを叩くノックの音が響いた。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる