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第一章
第三話 32 聖月と蒼とケイ
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「どうぞー」
蒼はノックの音に反応して、ドアを叩いた来訪者を促した。
「おじゃましまーす……あ、聖月ッ!」
「え、ケイ?!」
ドアを開けて外に居た人物に蒼は、予想通りだったのか呆れたように言葉を零した。
「やっぱり、お前か」
「やっぱりってなんだよ、蒼」
聖月は、驚きのままに蒼に怪訝な顔を向ける。それを華麗に蒼はかわして、はっきりとした口調でいった。
「どうせそうだと思ったからな」
「はぁ?」
聖月の言葉通り、ドアの外に立っていたのは昨日朝食のときに話をした安楽城 ケイだった。彼も聖月がここにいたことに 少なからず驚いたようで、目が点になっているぐらいに驚いた顔をしていた。アーモンド形の大きな目を丸くして、蒼の部屋にいた聖月を瞠目している。
朝に初めて会った時と同じように、赤っぽく朱色の色のブレザーを着ていて、その胸のポケットには気品がある校章がバッチになってついていた。ズボンはやはり無地ではなく赤と黄色のチェックが入っていて、どうみても公立ではない制服のデザインだった。
陶器のような白くて美しい肌が、走って来たのかほんのりと顔が赤く染まっている。額には、汗が浮かびあがっていて、息も普段よりは荒っぽいものであった。やはり、ケイは美少年だった。
色素の薄いミルクティーのような癖っ毛の、色素の薄い髪と白い肌。大きな目を縁取っている長く多くある睫毛。瞬きするたびに、バサバサと音がしそうなほど、ケイの睫毛は繊細で普通の人よりも多かった。
頬も少女ように白いし、唇も真っ赤だ。もっと髪が長ければ、美少女と間違えても仕方ないと思うほどの綺麗さだった。ケイは聖月の隣にいる座っている蒼に近づいて荒っぽく肩を掴んだと思うと、急に力強く勢いよく揺さぶる。
ぶんぶんという音が出そうなほど、蒼の肩を揺らして首がぐらんぐらんと動いていた。突然のことに、蒼も驚いているのか何も出来ないでケイにされるがままになっている。ケイが怒ったような顔をして、口をへの字に曲げながら蒼を責めた。
「もうっ! なんで聖月のことを蒼は独り占めしてんだよっ」
聖月が心配になってケイに話しかけようとすると、蒼がケイの揺さぶっている腕を掴んだ。掴んだと同時に、強引にケイを拒み腕を自分の肩からどかせる。そして蒼は、呆れた顔で淡々と喋った。その声音には、イラついたものをどこか感じさせる声であった。
「お前だって、朝に喋ってたんだからそんぐらいいいだろ、別に。あー、いってぇな…ケイ…」
「聖月! 聞いた? こんなやつはやめたほうがいいよ!」
「おい、聞いてねえのはお前じゃねぇか」
「…はあ……そうなのか…」
聖月には何がなんの話なのかはまったく分からないが、ケイの勢いに押されてとりあえず曖昧に頷いた。ケイは、痛がっている蒼に気づいているのか気づいていないのか、そのまま無視し蒼に罵声を浴びせている。
罵声といっても「馬鹿」とか、「阿呆」などの可愛く軽いものだったが。まだ二人は聖月の目の前で変なことで言い争っているが、聖月は止めたりせずにその光景をぼんやりと見詰めていた。
ケイと蒼はやはり、仲がいいらしい。蒼がよく昔も今もケイが自分の部屋に遊びに来ているといっていたので、これもケイが勝手に遊びに来たのだろう。
先程部屋に来たケイを予想していたし、それぐらいケイが蒼の部屋に来ているということになる。二人の言い争いも、こちらからみれば下らないようなケンカだった。でも当の本人たちは、真剣なのだろう。そんなところからも、二人がどれだけ親密で心を許していることが分かる。
二人の関係は、言葉のままに気の置けない仲なのだろう。
そんな言い争いのような痴話喧嘩をぼんやりと見ていると、どこか既視感が聖月のなかで生まれる。どこかこの二人は、聖月の知っている人物たちととてもよく似ている気がした。この仲のいい感じが今言い争っているケイと蒼にそっくりなのだ。
記憶を巡らしてみると、ある人物だと聖月はたどり着いた。聖月の友人の十夜と、衛だ。
彼らもこうやってよく、微笑ましいケンカをしている。考えてみると今の状態はちょっと口が悪い、十夜と蒼みたいでなんとも面白い。そう思うと彼らがケイと蒼にぴったりと重なって、つい聖月は笑いをもらした。
「…っふふ…」
「何笑ってんだよ」
その声に気付いたらしい、蒼が何の前触れもなく笑った聖月を不審そうな表情で見ていた。ケイも同様に、蒼と同じように不思議そうな顔をしている。今更だったが、聖月は恥かしくなって口を覆う。
「いや…二人の様子が俺の友達に似てて、ちょっと面白かっただけだから…」
「へぇ~…はぁーん…俺たちに似てるの? 聖月の友達って」
ケイが興味深そうに、聖月に尋ねた。
笑顔を浮かべているケイの顔は、なんとも可愛らしい。天使のような愛らしさを、聖月にこれでもかと見せつけてくる。でも、それがケイの演技だと考えるとたまったものではない。一度そんな風に思ってしまうとちょっとやそっとじゃそのイメージを変えられないのだ。ケイは自分の価値が分かっているような素振りを、前にしていたのでやっぱり演技なのではと聖月は疑ってしまう。
そんなことを考えてしまう自分に、聖月は嫌になった。さも聖月の友達を気になっていますと言いたいとばかりに顎に手を置いて、何かを考え込むような仕草をすると、ケイは口角をあげた。その顔は、どうしてだか聖月には意地悪いものに見える。
何かを企んでいて、悪そうに微笑む悪魔的なものに聖月は見えてしまった。聖月は言うのを躊躇ったが、ケイの目に急かされて答える。
「似てるって、顔とか容姿みたいなものじゃなくて…。あ、でも十夜は蒼の顔にすこしだけ似てるかなぁ…。二人の掛け合いを見てたら、俺の友達にそっくり雰囲気が似てるって思ってさ」
蒼はケイと聖月の話に黙っていたが、この聖月の発言を聞くと口を挟んできた。
「へぇ…ふぅん…俺に顔が似てるんだ。気になるなぁ…聖月、そいつの写真とか持ってねえの?」
「あ、でも、そこまでいうほどあんま似てないって」
「いいから、見せろよ。気になるんだよ」
きっぱりと蒼に言われて聖月は、おどおどとしながら首を縦に振った。
ちらりと蒼の顔を見ると、少し眉をしかめて不機嫌そうだった。これは従ったほうがのちのちよさそうなので、聖月は「分かったよ」とも一度頷く。ケイも蒼と一緒に聖月の隣に座っていた。イケメンたちに挟まれて聖月はついドキドキしてしまう。
「俺にもちゃんと見せてよ」
「わ、わかったよ…」
ケイは、不敵な笑みで聖月に同意を求めていた。その顔が、有無を言わせぬ怖い顔だった。前にあるテーブルが、かなり先程よりも前によけてある。というよりも、誰かがいつかは知らないけれど邪魔だと思って聖月が目を離した隙に蹴ってどかしたのだろう。
しかも聖月が何故かケイと蒼の真ん中に座っていて、今の状況は二人に囲まれてしまった形になってしまっている。これでは、どうあがいても逃げられない。これだと二人に写真を見せなければならないことになってしまった。
どうやら、聖月は言わなくてもいい情報を二人に教えたことになる。こんなことになるんだったら、言わなければよかったと聖月は後悔した。
「ケイタイにクラスで撮った全員の集合写真があるけど、画質悪いから綺麗には見えないと思うよ」
「それでもいいから、見せろ。てか、ちゃんと友達だったらツーショットぐらいあるだろ」
「な、ないんだよ…文句言うなよ…」
すかさず、蒼に文句を言われてしまった。そんなことをいってもしょうがないじゃないか。だって、ないものはないのだから。聖月が機械に弱いということもあってか、写真なんて携帯を買ってから2年ほどたつが数えるほどしかとったことがない。
「早く見せて、見せて!」
「う、うん…」
続けざまに、ケイにも言われて聖月はおたおたと携帯を取り出そうとする。
二人は携帯を取り出したところから、覗き込むようにして画面を見ている。それがかなり自分の顔に近い距離なので、聖月は心臓の音を早める。相変わらずケイはフローラルな甘い香りをただ寄わせているし、さらに熱を聖月はあげることになった。
やっぱり綺麗な人が近くにいると、緊張するものだ。それが女性であっても男性であっても同じことなので、それが2人ということにもなると心臓がいくつもあっても足りないような状況になってしまう。
携帯を聖月が取りだしている間、二人はじろじろと聖月の行動を観察してきた。それも、粘っこくだ。そんなしつこいぐらいの視線を二人分投げつけられ、聖月はくらくらした。
ポケットのなかに携帯を発見し、急いで画像フォルダから目的の写真の場所を見つけようとする。その行為を二人はじれったそうに見つめる。それもそのはずだ。聖月の一連の行動は、ここまで行きつくまでにもう5分は経過しようとしていたからだ。
高鳴る鼓動を感じながら、聖月は目的の写真を見つける。
「あ、あった」
聖月が歓喜の声を発すると、すばやくケイと蒼は食いつき―――より一層聖月の携帯の画面にへばりついた。
「どれだよ、いっぱい人いて分かんねえし」
「うっわ、画質悪っ! 聖月の携帯画質わるっ」
「う、うるさいっ」
二人の責める声に、聖月も声を張り上げた。
ケイは酷いことに、聖月の携帯の悪口までいっている。二人のイラつきは、聖月にもありありと分かった。舌うちでもしそうな雰囲気だ。性能の悪さは聖月ではなく、携帯会社にいってほしいものだ。携帯を中心にして喋っているので一人の男に二人の男が密着するという、奇妙な構図が出来てしまっていた。
「おい、聖月もっとそいつらの顔をどアップにして拡大しろよ」
「わ、わかってるよ。蒼、ちょっとだまってて、集中できない」
聖月は、あまりそんな拡大などの操作をしたことがないので、どうやっていいのか分からなかった。
「聖月の操作遅すぎっ。ちょっと、貸して」
どうしていいのか途方に暮れていると、オタオタしていた聖月についに焦れたのかケイに携帯を取られてしまった。
「えっ、ケイ…ダメだって」
聖月のやめてという訴えも、どこ吹く風か無視されてしまう。だがケイの携帯の扱いはうまく、操作も聖月よりも早くそして技術も上だった。
「えっ…と…聖月の近くにいるんだよね…あっ、聖月見つかった」
「あぁ? どこだよ」
携帯を占拠しているケイを引き寄せて、蒼がいった。蒼がケイの近くにいるために、聖月を乗り越えて乗りだすような形になって携帯を見つめている。なので、今の聖月の視界は蒼の腰で前が見えない。
右に座っているケイが持っている携帯を見ると、たしかにぼやけているが私服姿の聖月が映っていた。蒼が納得したような声音で口を動かす。
「なんで、ちょっとブレてんだよ。撮影者下手だな。…なんで私服なんだよ」
「遠足行ったんだよ。撮影者は先生」
カチカチとケイが操作すると、隣にいる人物に焦点が移される。
「あ、衛だ」
「これか? 俺に似てるやつってやつ」
「違うって。これは俺のもう一人の友達。たぶんもうちょっと右にずれると、十夜がいると思うけど」
「えーっ! 聖月って、こんな人と友達なんだ。いがい~」
6月に近くのバーベキュー場に、クラスのみんなと一緒にいったときの集合写真だった。みんなが私服を着ていて、思い思いの表情を作っている。画面に拡大されて映っているのは、友人の衛だった。
彼の服装もオシャレといればオシャレなのだが、肌の露出が多い。いつもどおりにピアスがたくさんついていて、なんとも痛々しい思いに聖月は襲われる。しかも、舌のピアスを出しての顔だったので、かなりいかつい印象だ。ケイは、聖月の言う通りに右にカーソルを動かして隣にいるだろう十夜に移り変わった。
「コイツ?」
蒼が、疑り深そうに目を細めて聖月に問うた。
「うん」
聖月は、その通りだったので頷く。ケイは目を輝かせて、うっとりといった。
「はぁー…なかなかカッコいいね。たしかに、蒼に似てるかも。でも、こっちのほうが色気があるっていうか、育ちが違うってのが分かるっていうか」
「おい、ケイお前俺にケンカ売ってんのか」
「売ってないよ」
聖月の予想通り、十夜は衛の隣で華やかに笑っていた。絢爛華やかで、色香溢れている彼はその集合写真でも目立っている。静かに笑っているところが、十夜らしい。
「パーツは似てるかもしれねえけど、全体的に全然違うじゃねえか…」
「だから、いったじゃんか」
でも、初めはかなり似ていると聖月は思っていたのだ。だが、性格があまり似ていなかったのでちょっといっては悪いががっかりした。
「…うーん…コイツどっかで見たことがあんだけどなぁ。思い出せねえなぁ……」
蒼が、ぼっそと小さな声で心の声を零す。その声は、もちろん聖月には届いていない。だが、やがてその答えを見つけたようで、先程のがっかりした顔から一変、これからの展開を愉しむような――そんな下劣で野蛮な笑いをその美しい顔に浮かべた。
蒼はノックの音に反応して、ドアを叩いた来訪者を促した。
「おじゃましまーす……あ、聖月ッ!」
「え、ケイ?!」
ドアを開けて外に居た人物に蒼は、予想通りだったのか呆れたように言葉を零した。
「やっぱり、お前か」
「やっぱりってなんだよ、蒼」
聖月は、驚きのままに蒼に怪訝な顔を向ける。それを華麗に蒼はかわして、はっきりとした口調でいった。
「どうせそうだと思ったからな」
「はぁ?」
聖月の言葉通り、ドアの外に立っていたのは昨日朝食のときに話をした安楽城 ケイだった。彼も聖月がここにいたことに 少なからず驚いたようで、目が点になっているぐらいに驚いた顔をしていた。アーモンド形の大きな目を丸くして、蒼の部屋にいた聖月を瞠目している。
朝に初めて会った時と同じように、赤っぽく朱色の色のブレザーを着ていて、その胸のポケットには気品がある校章がバッチになってついていた。ズボンはやはり無地ではなく赤と黄色のチェックが入っていて、どうみても公立ではない制服のデザインだった。
陶器のような白くて美しい肌が、走って来たのかほんのりと顔が赤く染まっている。額には、汗が浮かびあがっていて、息も普段よりは荒っぽいものであった。やはり、ケイは美少年だった。
色素の薄いミルクティーのような癖っ毛の、色素の薄い髪と白い肌。大きな目を縁取っている長く多くある睫毛。瞬きするたびに、バサバサと音がしそうなほど、ケイの睫毛は繊細で普通の人よりも多かった。
頬も少女ように白いし、唇も真っ赤だ。もっと髪が長ければ、美少女と間違えても仕方ないと思うほどの綺麗さだった。ケイは聖月の隣にいる座っている蒼に近づいて荒っぽく肩を掴んだと思うと、急に力強く勢いよく揺さぶる。
ぶんぶんという音が出そうなほど、蒼の肩を揺らして首がぐらんぐらんと動いていた。突然のことに、蒼も驚いているのか何も出来ないでケイにされるがままになっている。ケイが怒ったような顔をして、口をへの字に曲げながら蒼を責めた。
「もうっ! なんで聖月のことを蒼は独り占めしてんだよっ」
聖月が心配になってケイに話しかけようとすると、蒼がケイの揺さぶっている腕を掴んだ。掴んだと同時に、強引にケイを拒み腕を自分の肩からどかせる。そして蒼は、呆れた顔で淡々と喋った。その声音には、イラついたものをどこか感じさせる声であった。
「お前だって、朝に喋ってたんだからそんぐらいいいだろ、別に。あー、いってぇな…ケイ…」
「聖月! 聞いた? こんなやつはやめたほうがいいよ!」
「おい、聞いてねえのはお前じゃねぇか」
「…はあ……そうなのか…」
聖月には何がなんの話なのかはまったく分からないが、ケイの勢いに押されてとりあえず曖昧に頷いた。ケイは、痛がっている蒼に気づいているのか気づいていないのか、そのまま無視し蒼に罵声を浴びせている。
罵声といっても「馬鹿」とか、「阿呆」などの可愛く軽いものだったが。まだ二人は聖月の目の前で変なことで言い争っているが、聖月は止めたりせずにその光景をぼんやりと見詰めていた。
ケイと蒼はやはり、仲がいいらしい。蒼がよく昔も今もケイが自分の部屋に遊びに来ているといっていたので、これもケイが勝手に遊びに来たのだろう。
先程部屋に来たケイを予想していたし、それぐらいケイが蒼の部屋に来ているということになる。二人の言い争いも、こちらからみれば下らないようなケンカだった。でも当の本人たちは、真剣なのだろう。そんなところからも、二人がどれだけ親密で心を許していることが分かる。
二人の関係は、言葉のままに気の置けない仲なのだろう。
そんな言い争いのような痴話喧嘩をぼんやりと見ていると、どこか既視感が聖月のなかで生まれる。どこかこの二人は、聖月の知っている人物たちととてもよく似ている気がした。この仲のいい感じが今言い争っているケイと蒼にそっくりなのだ。
記憶を巡らしてみると、ある人物だと聖月はたどり着いた。聖月の友人の十夜と、衛だ。
彼らもこうやってよく、微笑ましいケンカをしている。考えてみると今の状態はちょっと口が悪い、十夜と蒼みたいでなんとも面白い。そう思うと彼らがケイと蒼にぴったりと重なって、つい聖月は笑いをもらした。
「…っふふ…」
「何笑ってんだよ」
その声に気付いたらしい、蒼が何の前触れもなく笑った聖月を不審そうな表情で見ていた。ケイも同様に、蒼と同じように不思議そうな顔をしている。今更だったが、聖月は恥かしくなって口を覆う。
「いや…二人の様子が俺の友達に似てて、ちょっと面白かっただけだから…」
「へぇ~…はぁーん…俺たちに似てるの? 聖月の友達って」
ケイが興味深そうに、聖月に尋ねた。
笑顔を浮かべているケイの顔は、なんとも可愛らしい。天使のような愛らしさを、聖月にこれでもかと見せつけてくる。でも、それがケイの演技だと考えるとたまったものではない。一度そんな風に思ってしまうとちょっとやそっとじゃそのイメージを変えられないのだ。ケイは自分の価値が分かっているような素振りを、前にしていたのでやっぱり演技なのではと聖月は疑ってしまう。
そんなことを考えてしまう自分に、聖月は嫌になった。さも聖月の友達を気になっていますと言いたいとばかりに顎に手を置いて、何かを考え込むような仕草をすると、ケイは口角をあげた。その顔は、どうしてだか聖月には意地悪いものに見える。
何かを企んでいて、悪そうに微笑む悪魔的なものに聖月は見えてしまった。聖月は言うのを躊躇ったが、ケイの目に急かされて答える。
「似てるって、顔とか容姿みたいなものじゃなくて…。あ、でも十夜は蒼の顔にすこしだけ似てるかなぁ…。二人の掛け合いを見てたら、俺の友達にそっくり雰囲気が似てるって思ってさ」
蒼はケイと聖月の話に黙っていたが、この聖月の発言を聞くと口を挟んできた。
「へぇ…ふぅん…俺に顔が似てるんだ。気になるなぁ…聖月、そいつの写真とか持ってねえの?」
「あ、でも、そこまでいうほどあんま似てないって」
「いいから、見せろよ。気になるんだよ」
きっぱりと蒼に言われて聖月は、おどおどとしながら首を縦に振った。
ちらりと蒼の顔を見ると、少し眉をしかめて不機嫌そうだった。これは従ったほうがのちのちよさそうなので、聖月は「分かったよ」とも一度頷く。ケイも蒼と一緒に聖月の隣に座っていた。イケメンたちに挟まれて聖月はついドキドキしてしまう。
「俺にもちゃんと見せてよ」
「わ、わかったよ…」
ケイは、不敵な笑みで聖月に同意を求めていた。その顔が、有無を言わせぬ怖い顔だった。前にあるテーブルが、かなり先程よりも前によけてある。というよりも、誰かがいつかは知らないけれど邪魔だと思って聖月が目を離した隙に蹴ってどかしたのだろう。
しかも聖月が何故かケイと蒼の真ん中に座っていて、今の状況は二人に囲まれてしまった形になってしまっている。これでは、どうあがいても逃げられない。これだと二人に写真を見せなければならないことになってしまった。
どうやら、聖月は言わなくてもいい情報を二人に教えたことになる。こんなことになるんだったら、言わなければよかったと聖月は後悔した。
「ケイタイにクラスで撮った全員の集合写真があるけど、画質悪いから綺麗には見えないと思うよ」
「それでもいいから、見せろ。てか、ちゃんと友達だったらツーショットぐらいあるだろ」
「な、ないんだよ…文句言うなよ…」
すかさず、蒼に文句を言われてしまった。そんなことをいってもしょうがないじゃないか。だって、ないものはないのだから。聖月が機械に弱いということもあってか、写真なんて携帯を買ってから2年ほどたつが数えるほどしかとったことがない。
「早く見せて、見せて!」
「う、うん…」
続けざまに、ケイにも言われて聖月はおたおたと携帯を取り出そうとする。
二人は携帯を取り出したところから、覗き込むようにして画面を見ている。それがかなり自分の顔に近い距離なので、聖月は心臓の音を早める。相変わらずケイはフローラルな甘い香りをただ寄わせているし、さらに熱を聖月はあげることになった。
やっぱり綺麗な人が近くにいると、緊張するものだ。それが女性であっても男性であっても同じことなので、それが2人ということにもなると心臓がいくつもあっても足りないような状況になってしまう。
携帯を聖月が取りだしている間、二人はじろじろと聖月の行動を観察してきた。それも、粘っこくだ。そんなしつこいぐらいの視線を二人分投げつけられ、聖月はくらくらした。
ポケットのなかに携帯を発見し、急いで画像フォルダから目的の写真の場所を見つけようとする。その行為を二人はじれったそうに見つめる。それもそのはずだ。聖月の一連の行動は、ここまで行きつくまでにもう5分は経過しようとしていたからだ。
高鳴る鼓動を感じながら、聖月は目的の写真を見つける。
「あ、あった」
聖月が歓喜の声を発すると、すばやくケイと蒼は食いつき―――より一層聖月の携帯の画面にへばりついた。
「どれだよ、いっぱい人いて分かんねえし」
「うっわ、画質悪っ! 聖月の携帯画質わるっ」
「う、うるさいっ」
二人の責める声に、聖月も声を張り上げた。
ケイは酷いことに、聖月の携帯の悪口までいっている。二人のイラつきは、聖月にもありありと分かった。舌うちでもしそうな雰囲気だ。性能の悪さは聖月ではなく、携帯会社にいってほしいものだ。携帯を中心にして喋っているので一人の男に二人の男が密着するという、奇妙な構図が出来てしまっていた。
「おい、聖月もっとそいつらの顔をどアップにして拡大しろよ」
「わ、わかってるよ。蒼、ちょっとだまってて、集中できない」
聖月は、あまりそんな拡大などの操作をしたことがないので、どうやっていいのか分からなかった。
「聖月の操作遅すぎっ。ちょっと、貸して」
どうしていいのか途方に暮れていると、オタオタしていた聖月についに焦れたのかケイに携帯を取られてしまった。
「えっ、ケイ…ダメだって」
聖月のやめてという訴えも、どこ吹く風か無視されてしまう。だがケイの携帯の扱いはうまく、操作も聖月よりも早くそして技術も上だった。
「えっ…と…聖月の近くにいるんだよね…あっ、聖月見つかった」
「あぁ? どこだよ」
携帯を占拠しているケイを引き寄せて、蒼がいった。蒼がケイの近くにいるために、聖月を乗り越えて乗りだすような形になって携帯を見つめている。なので、今の聖月の視界は蒼の腰で前が見えない。
右に座っているケイが持っている携帯を見ると、たしかにぼやけているが私服姿の聖月が映っていた。蒼が納得したような声音で口を動かす。
「なんで、ちょっとブレてんだよ。撮影者下手だな。…なんで私服なんだよ」
「遠足行ったんだよ。撮影者は先生」
カチカチとケイが操作すると、隣にいる人物に焦点が移される。
「あ、衛だ」
「これか? 俺に似てるやつってやつ」
「違うって。これは俺のもう一人の友達。たぶんもうちょっと右にずれると、十夜がいると思うけど」
「えーっ! 聖月って、こんな人と友達なんだ。いがい~」
6月に近くのバーベキュー場に、クラスのみんなと一緒にいったときの集合写真だった。みんなが私服を着ていて、思い思いの表情を作っている。画面に拡大されて映っているのは、友人の衛だった。
彼の服装もオシャレといればオシャレなのだが、肌の露出が多い。いつもどおりにピアスがたくさんついていて、なんとも痛々しい思いに聖月は襲われる。しかも、舌のピアスを出しての顔だったので、かなりいかつい印象だ。ケイは、聖月の言う通りに右にカーソルを動かして隣にいるだろう十夜に移り変わった。
「コイツ?」
蒼が、疑り深そうに目を細めて聖月に問うた。
「うん」
聖月は、その通りだったので頷く。ケイは目を輝かせて、うっとりといった。
「はぁー…なかなかカッコいいね。たしかに、蒼に似てるかも。でも、こっちのほうが色気があるっていうか、育ちが違うってのが分かるっていうか」
「おい、ケイお前俺にケンカ売ってんのか」
「売ってないよ」
聖月の予想通り、十夜は衛の隣で華やかに笑っていた。絢爛華やかで、色香溢れている彼はその集合写真でも目立っている。静かに笑っているところが、十夜らしい。
「パーツは似てるかもしれねえけど、全体的に全然違うじゃねえか…」
「だから、いったじゃんか」
でも、初めはかなり似ていると聖月は思っていたのだ。だが、性格があまり似ていなかったのでちょっといっては悪いががっかりした。
「…うーん…コイツどっかで見たことがあんだけどなぁ。思い出せねえなぁ……」
蒼が、ぼっそと小さな声で心の声を零す。その声は、もちろん聖月には届いていない。だが、やがてその答えを見つけたようで、先程のがっかりした顔から一変、これからの展開を愉しむような――そんな下劣で野蛮な笑いをその美しい顔に浮かべた。
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