アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第一章

第三話 33 興味深々な二人

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 その後2人は聖月と色々な話して、雑談に花を咲かせた。 
 聖月はどちらかといえば話すよりも人が話をしているところを聞いているのが好きなので、二人の聞き役になっていた。ケイも蒼も喋るのが上手で、どんどんと彼らの話す世界に引き込まれていった。
 お菓子を頬張りながら、二人の興味深い話を聞くのはなんとも楽しいものだった。蒼の話を聞くと、彼自身の成績はすこぶるよいらしい。
 県内トップの進学校に通って、学年でいつも1位やら3位を取れるなんてかなりすごいと思った。聞いただけでも聖月と蒼の知能に差があるのが、露見している。なんだか、聖月は頭がクラクラしたように感じてきた。
 うーん…かなり似てる…。
 聖月は二人の話を聞きながら頭の片隅でそんなことを考えていた。いってはなんだが、どう考えていても蒼と十夜の共通点が多いのだ。
 この二人の会話を聞いていても、十夜と衛の話を聞いているように錯覚してしまいそうになるぐらい似ている。
 掛け合いも間も、瓜二つだ。まるで、同一人物が喋って会話しているようだった。友人になる人物は共通点があるなどと誰かがいっていたのを耳したことはあるが、ここまで似ていると洒落にならない。 ――ここまでいくと、性格的にドッペルゲンガーなのだろうか。
 なんて馬鹿みたいなことを聖月は想像してしまう。
 やはりとは言っては失礼だがケイは勉強があまり好きではないようで、そのことを愚痴にしていた。 こんなことを言っているのも、衛にそっくりだな――なんて聖月の脳内は瞬時に思考していまう。
「やっぱり、俺は勉強はしなくてもいいと思うんだよね。学生だったら、遊んでるだけでいいじゃんねぇ…そうだと思わない、聖月?子供なんだからいっぱい遊んだっていいと思うんだよねー」
 ぼんやりとしていた聖月に、突然ケイが話を振り聖月は慌てて彼の言葉に反応する。ケイらしい意見だった。
「そう思うけど、学生の本分は勉強だって兄さんが言ってたよ」
「えー、聖月の兄さんはまじめだね。あ、てか聖月に兄貴なんていたんだ?」
 初耳だ、とケイは目を輝かせた。声もどこか弾んでる。
「うん、いるよ。あ、写真はないから」
「へー、残念。見たかったなー」
 ケイは大げさに息を吐いて、さもありなんげに言った。
 よくよく考えてみると、兄の清十郎は写真を撮られるのが嫌いだった。親の敵でも見るかのように、嫌っている。そのせいか、思い返してみると聖月の携帯には一枚も兄が映っている写真がない。 あるかもしれないが、映っていたとしても家族の集合写真ぐらいかもしれない。
 聖月も人に写真を撮られるのは苦手だが、兄の毛嫌いは半端ではなかったと記憶している。
 なのに、カメラをいじって聖月のことを撮っていたのだから正直兄は分からない人物だ。子供のころは嫌だといっているのにカメラを持ってカシャカシャと撮られるのが、かなり怖いことだったのを覚えている。大きな兄に、追いかけられるのは子供だった聖月にとっては恐怖そのものでしかない。
 自分を撮られるのは嫌いなのに、カメラで他の人を撮るのが好きなんだから兄は変だ。変人の塊だ。きっとカメラを向けられるとぎこちなくなってしまうのは、このことの弊害なのかもしれない。
 というかきっとそうだ。聖月は兄を恨みたい気分だった。
 先程まで話に入ってこなかった蒼が、聖月に向かって言い放った。顔には微笑を浮かべている。
「なぁ、お前の兄貴って聖月に似てるの?」
「いや、全然似てない。兄さんはカッコいいし」
「身内びいきで見てんじゃねえの…?」
 バカにした言い方だった。なぶるような、そんなニュアンスも含まれているように感じる。
 聖月はその小馬鹿にしたような蒼の言いようにムッときて、怒気を含んだ声で言い返した。目の前で清十郎の悪口を聞いているような気分だった。実際は全然違うのだが、どうしてもそう思ってしまう。
「違う。兄さん頭いいし、女の人にモテモテだし…っ」
 反論すると、蒼はフッと笑みをこぼした。だんだんと顔が歪み、最後にはくしゃりと表情を変えて大笑いし始めた。
「ぷぷっ、なーに聖月ムキになってんの? そーとーブラコンじゃん…っ」
 そのあざけ笑った顔を見て、聖月はしまったと――からかわれたのだとやっと分かった。なんだかこんなことは前にあったような気がする。妙ななつかしさと既視感があった。デジャブとはこういうことだろうか。
「ってことは、そのお兄さんやっぱりかっこいいんだっ?」
 テンションが上がったらしいケイが突然脈絡のないことを言いだした。
「そうだよ、兄さんはハンサムでかっこいいんだ」
 聖月はもう開き直って、二人に向かって真顔で宣言した。
 二人はしばらくそう断言した聖月はぽかんと見詰めていたが、ついに大きな声をたてて笑い出した。あははと笑いすぎて涙を浮かべながら彼らは笑っている。聖月もそんな二人を見て面白くなって、笑い始めた。
 しばらくの間、蒼の部屋には笑い声が木霊していた。3人がもう夕食の時間だと気付いた時は、21時を回っていた。かなりの時間を3人で話していたらしい。そのことには、ケイも蒼も聖月も驚いていた。あまりにも時間がたつのが早すぎる。
 ケイに話を聞くと、この施設のご飯は朝は6時に出されて10時をすぎるともう下げられてしまうそうだ。早めに起きていかないと温かいご飯はたべれないようになっている。お昼は出されないようで、各自でとるようにということだった。
 だから、今日は朝ごはんがなかったのかと納得する。今度から早めに起きないと駄目だなと、聖月は決意した。今日はちょっと起きるのが遅すぎたのだ。
 なるほどな―――とケイの話を聞きながら聖月たちは、食堂に向かっていた。夕食を出される時間は18時。ご飯がもうなくなってしまうのは、22時だという。
 なので食事をする時間を確保するために、聖月たちは早歩きで食堂に向かう。かなり遅く食堂に着くと、神山がスーツ姿で食事をしていた。今まで彼は仕事をしていたのかもしれない。
 食堂では神山のほかにもたくさんの人がいた。だいたいざっと20人か30人はいそうである。神山は子供たちから離れて、離れているところで食事をとっていた。彼の周りには誰もいない。
 神山が食べていたのは、美味しそうな匂いを漂わせているカレーだった。聖月のお腹に直接刺激する、香辛料の匂いで自然とお腹が減る。彼がカレーを食べているのは、なんとくなくイメージではない。椅子に腰かけて、なんとも優雅に食べている姿は食堂のなかでも目立っていた。
 3人が神山の目の前に通ると、それに気付いたらしい神山が声をかけた。
「あ。聖月くん、ケイ、蒼」
「あれ、神山さんじゃんっ! お久しぶりです」
 ケイが興奮気味に言った。満面の笑みで、体を揺らしている。ケイはそのまま神山の向かい側の席に腰かけた。聖月も、会釈して神山に挨拶をする。続いて、蒼が神山に話しかけた。
「こんばんは、神山さん。いつもお疲れ様です」 
「うん、ありがとう蒼。ほら、二人とも座ったらどうです?」
 ねぎらいの言葉を蒼は神山に向かって言った。そのことに、聖月は少なからず驚いた。さっきまでのからかいの言葉はどこかにいったかのように、神山に向けて話す表情は優しさに満ち溢れていた。
 しかも敬語で話している。新しい蒼の一面が見れた気がした。従業員である神山と二人は昔から顔なじみだったのかは分からないが、とても仲はよさそうな雰囲気だ。
「じゃあ、その言葉に甘えてケイの隣に座らせていただきます」 
 その通りに蒼がケイの隣に座ったので、流れで聖月も蒼の隣に座った。雑談もそこそこにカレーを三人が取りに行くと、先にカレーをとって戻って来た聖月に神山が優しく問いかける。
「聖月くん、もうケイと蒼と仲良くなったんだね」
 カレーを口にいれていた聖月は、急な質問に驚く。質問にも驚いたが、神山の気品溢れ出ている笑顔にも胸がつっかえた。心臓に悪い。
 やっとのことでカレーを飲みこんだころに、二人がカレーをとって戻って来た。
「何何? なんの話し?」
 椅子に座って、食べる準備をしているケイが興味深々に聖月に聞いてきた。答えられない聖月に気付いたのか、かわりに神山が言ってくれた。
「3人がもう仲良くなったんだなって質問したんだよ」
「うん、仲良くなったんだよ。だって、聞いてよ神山さん蒼ってばほんっとうに聖月に興味深々でさ~、ねぇ蒼?」
「おい、その話はよせよ」
「えー?」
 もうすごかったんだよと、ケイは蒼に同意を求めている。そんな彼に、蒼は柄にもなく苦笑していた。蒼の様子はかなり迷惑そうだった。ケイの顔は神山に終始話しているときも笑顔で、とても楽しそうだ。
 彼の神山に対する尊敬の眼差しがケイの表情から、かなり漏れ出している。神山が、蒼に向かって視線を移した。
「蒼が興味を持つって珍しいね、でも久しぶりの新人だから当たり前かな」
「そうですよ、久しぶりですよね。2年ぶりっていうか」
 蒼が感慨深そうに腕を組んだ。そこまで施設に入る子供は少なかったのだろうか?と聖月は会話を聞きながら疑問をもっていた。ケイがカレーのご飯をスプーンでいじくりまわしながら、口を動かした。
「しかも、小向オーナーが直々に聖月を招待したんでしょ? 珍しいよね~」
「招待って云うか、親が死んじゃって葬式に来てくれたときに無理やり兄さんが施設にいれされてくれって頼んだようなものだし…」
 聖月は自分で話しながら、やはり兄は強引だなと感じた。初めて会った親戚が施設のオーナーだからって、普通頼むものだろうか。兄は一つの目標のために、たくさんの人に迷惑をかけまくっているのだ。
 それをあの清十郎は自覚しているとは到底聖月には思えなかった。聖月の言葉を聞いて、蒼は唐突に笑いだした。
 不審に思って、聖月は蒼を一瞥する。顔を覗き込むと、口元を痙攣させながら笑っている蒼の姿がそこにはあった。なにかをいっているのは分かるが、小声なので聖月は聞き逃してしまう。
「ふっ…マジかよ…。それで小向が聖月をココに入れちゃうなんて、小向も案外ちゃっかりしてるな…。そんだけ気にいったってことかよ…ふふっ…聖月はこれからどうなっちゃうんだろうなぁ…」
「なんだよ、笑ってさ」
「なんでもないよ。それにしても、小向さんも珍しいね。そう言われちゃって施設にいれるなんてさ」
「……へえ…」
 聖月は驚きながらも、表情には出さなかった。簡単に入れてくれたようだと考えていたが、あまりそうではないのか。また小向の不審要素が増えたのを静かに感じながら、聖月はカレーを嚥下する。
 談笑しながら、すべて食べ終わった聖月はどこからか視線を感じた。視線を感じると同時に、小声で喋っているだろう誰かの声が後ろから聞こえてくる。
「なあ、見ろよアイツだよ。昨日入って来た…」
「うわ、ほんとだ。ってかマジかよ、もうナンバー1と喋ってんじゃん」
「すごすぎでしょ? でも、顔マジ平凡なんだよ。ありえねえってあんなやつが…でやってけると思う?」
「無理じゃね? でも、オーナーが直々に入れたっぽいしここは…ってなってるらしい…」
「ゲッ、じゃ……じゃん」
「オーナーは何考えてんのか分かんねえよな」
「…―――かもな」
「マジか。オーナー酷いな」
「だな」
 二人の男の声が断片的に、聖月の耳に入ってくる。
 自分のことを言われていることは分かるが、途切れ途切れなので肝心なところが聞こえない。今でも彼らの会話が聞こえてくる。が、小さい声になってきたので何と話しているかは分からない。自分のことをうわされるのは、あまりいい気分ではない。
 ナンバー1(ワン)…?誰のことだろう。ケイと蒼のどちらかのあだ名だろうか。
 まったくもって何の話なのか聖月には想像できない。
 ムカムカしたいいようのない変な気持ちになりつつ、聖月は食べ終わったお皿をカウンターの所に戻した。寒気がして、冷や汗を流す。どうしてだか、この会話はとても重要なものなのではないかと聖月は感じていた。
 いつの間にか握りしめていた自身の右手を見ると、手のひらにくっきりと爪の痕が残っていた。
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