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第二章 第七話
73 異常な客
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それから、宗佑との食事に誘われることが多くなった。
不思議なことに、聖月と食事をするだけで宗佑は何もしない。ただ、会話をしているだけだ。何回か食事をして、行為をすると聖月は思っていた。それが、普通だったからだ。だが、宗佑は聖月に触れようともしない。
はっきりいって、宗佑の行動はディメントの客の中でも異常だった。ディメントの指名料は、馬鹿なくらい高い。それもナンバー3の《セイ》を指名するのは、普通の蝶を指名するより何倍もかかる。
それを、宗佑は毎週に1回は、聖月を指名するのだ。相当の金持ちじゃないとできない芸当だ。しかも、馬鹿高い料金を払ってすることは、ただ聖月との食事だけだ。
ある意味、金を無償で聖月にあげているようなものだ。こんなこと、普通ディメントでする輩はいない。ただの男娼に金を払ってまで、食事だけするなんていうなんてこと、普通の人間だったらしない。
聖月は不思議に思う。何かあるのではないかと、疑心暗鬼する。だが、それ以上に、聖月は宗佑との会話がたのしかった。ただの会話だったが、ディメントでするいつもの客よりかは、何倍も、何十倍もマシだった。いや、比べることもおかしいかもしれない。
宗佑は、聖月にとって紳士だった。とんでもないほど、やさしい紳士だ。
何回も食事をするうちに、聖月は心のよりどころになっていった。ハヤマソウスケと書いてあると、ほっとする。聖月は、指名されたと分かると、自然と笑みがこぼれた。
指名を受けたい、なんて思ったことは聖月は一度もなかった。だけれど、宗佑は違う。
彼から指名がくると嬉しい。だって、宗佑とは食事をするだけでいい。いつものあの行為をしなくていい。身体も心も、痛くない。宗佑といると、ほっとする。どうしてか、宗佑には欲望を感じない。いつも指名する客にある、下心が見えないし、感じない。
だけれど、聖月は分かっていた。この状況が、長くは続かないことに。
ここは、ディメントだ。そこで行きつく先は、遅かれ早かれ、同じ場所なのである。
そのことに気づいているから、聖月はふいに悲しくなる。どうして、悲しくなるんだろう、と自分に聖月は問う。だが、自分の心に聞いても、答えは出ない。
聖月は、ため息をついて夜空を見上げた。都内の夜空は、霞んで見えた。
「あー…、もうかよ」
聖月は、部屋のパソコンの画面を見て鬱陶しく呟く。
そこには、「タチバナさま オール」と書かれている。明日のシフトを確認するためパソコンを開いて、書いてあったのはその文字だった。7月に突入し、外ではセミが自己主張の激しい泣き声が聞こえている。
聖月は、その文字に嫌気がさして、ベットに潜り込んだ。
「はぁー…、あの人性懲りもなく俺を指名してくるし…。最悪」
橘はどうしてここまで、自分に固執してくるのだろうと聖月は不思議だった。あの人が『セイ』である聖月をここまで熱心に指名するのか、聖月には分からない。固定客のなかでも橘は金をかけて何度も指名するし、数ある指名客のなかでも一等にプレイ内容が異常だ。
きっとこんなことをほかの男娼がやったらおかしくなる。感覚がなくなる聖月だって、頭がおかしくなりそうだ。むしろ人柱として役に立っているので、ほかの蝶たちに被害がおよばないだけマシなのかもしれない。
そんなことを考えていると、ケイタイのバイブ音が響いた。驚きつつ、ベットにあったケイタイをとると、メールが届いていた。
『突然、ごめんね。報告があります。実は、借金半分になったんだよ。やったぁ。お互い頑張ろうね!』
相手は同じディメントで働いている女性のきりだった。彼女とは、時々こうやってメールをする。だいたい励ますメールだが、聖月の心の支えになっている。聖月は、そのメールに少し口元が緩んだ。
「よかった! あと、もう少しだね。お互いがんばろー …っと…」
聖月はきりに返信メールを送り、ケイタイを握り締めて呟く。
「借金半分かぁ…。よかった…」
女の子であるきりに、こんな仕事をずっとやらせるのは酷(こく)すぎる。きりが、無理しすぎないのなら何よりだ。
「小田桐さん、おれ…がんばれねーかも…」
細々と呟き、聖月は目を閉じる。汗でじんわりと濡れた髪が、鬱陶しく思いながら、聖月は眠りについた。
―――翌日。
「ふっざけんじゃねぇよ、マジで」
聖月は、橘に指定されたホテルに行って、部屋に入ると思わず口悪く呟いた。その部屋には大きなベットが、ど真ん中においてある。照明は怪しくピンク色になっていて、いわゆるここはラブホテルだ。1ヶ月出禁をくらってこんなところを指定するなんて、橘はいったい何を考えているんだろうか。
「しかも、高級…」
はあ、と何度めかのため息をつく。かなり高級なところらしく、ロビーも広かった。入ってくる人は、カップルばっかりで聖月は恥かしくなってくる。
橘は、普段なら高級なホテルを指定してくる。だが、今回は違った。
しかも今回は、聖月には最高に嫌な日になるだろうと、初めからわかっている。
聖月が、会う前からイヤになっていると、ドアがノックなしで開いた。スーツ姿の橘が、そこに立っていた。いつも通り、オーラのある佇まいで、聖月を見下ろしている。聖月は立ち上がり深々と頭を下げる。
「こんばんは。ご指名くださり、ありがとうございます」
決まり文句を聖月は言う。
「久しぶりだね。いや、この前公園で会ったから…この表現は適切じゃないのかな?」
「………」
そうだ。聖月は、この前の公園で橘に離れてもらうため、何でもすると約束してしまった。
橘に、なんでもするなんて言ってはいけない言葉だった。だが、あのときはそういうしかなかった。
聖月が全身に感じる橘の視線が恐ろしくて、まともに顔が見れない。頭の中が、真っ白になる。身体の底から、ぶるりとした震えがやってくる。
「今日は、どんなサービスしてくれるんだい? 今日が楽しみで、しょうがなかったよ…」
橘に、抱きしめられる。聖月は、鳥肌が立った。久しぶりに、この感覚を味わう。尻を撫でられて、だんだんと身体に触れられる感覚がなくなっていく。奇妙な感覚は、いつも通り機能している。心底この《秘密》があってよかったと聖月は思う。
橘の興奮した声が、いつも以上だ。聖月はぶるぶると震えながら、目の前の抱きついている背中に手を回す。
「光栄です……。今日は…なんでもします…」
声が掠れる。嘘を言っている事がバレバレだった。橘にもバレるはずなのに、むしろ目の前の男は愉しそうにしている。
「ホントだね?」
「…はい」
聖月は、震えた声をひりだす。橘は、小さく口角をあげた。
――――…その後は、あまり思い出したくはない。
聖月の『感覚がなくなる』秘密があったとしても、今までの中で一番キツイ《セイ》としての、仕事だった。NG事項をこれでもかというほどやらされた。まずまた媚薬を盛られた。橘はこの前のプレイが相当に気に入ったらしい。
すぐに身体は熱くなり、身体は敏感になる。だが、それは身体だけで、聖月の感覚は一切無なかった。だが、恥かしいことには違いなかった。
目隠しをされて、橘にご奉仕することになったときは、どうしようかと思った。何も見えないうえに、口の中にある異物は、不快そのものだ。感覚はないが、息ができないほど喉奥まで入れられて苦しかった。
聖月を追い詰めたのは、これだけではない。あろうことか、橘は首を絞めてきた。
無理やり挿入されたまま首を絞められて、聖月はパニックに陥った。感覚はないが、息ができなくて、死ぬかとそのときは本気で思った。殺してやる、そんな物騒なことを聖月は目の前の男に抱く。こんなの異常だ。一歩間違えたら、聖月は死んでしまう。
橘がやっと離した瞬間、聖月は痙攣しながら白濁を吐き出した。身体が馬鹿になったみたいだ。聖月は咳をし、窒息しそうだった身体を震わせた。それを嘲笑する橘の声が、酸素が回らない頭のなかでぼんやりと響いた。
そのあとも反応がない聖月をおもちゃのように扱い、橘は射精した。
―――くるしい。
頭のなかで、もう一人の自分が叫んでいた。はっ、はっ、と荒々しく息をする橘が、とてもじゃないが人間には見えなかった。聖月が泣いてやめてくれと叫んでも、むしろ興奮して手をやめない男なんて、人間じゃなくてただの獣だ。
聖月はそのまま泥のように眠りについた。
朝に橘に起こされて、動けないのでベットのなかで見送った。二度と指名するな、と喉の先まで出掛かった。
「は……」
聖月は、いつの間にか泣いていた。浅く息し、呼吸を整える。
最近、宗佑の指名が多くて、聖月はこの仕事がとても苦しいものだと忘れていた。そのことを、神様はあらためて教えようとしてくれたのかもしれない。本来、ディメントはこういう仕事だ。
―――身売りで、心温まろうなどど生ぬるいことを考えちゃいけないんだ。
聖月は自嘲気味にベットに寝た状態のまま笑う。近くに放り投げてあった自分のスーツを手に取り、シャツから手を通す。
「あー……」
聖月は、ガラガラになった声をひりだす。その声音は、さまざまな感情が入り混じっていた。
「早くやめたいな…」
こんな、仕事なんて。
聖月の乾いた呟きは、宙に舞って散った。だんだんと感覚が戻ってきて、身体の節々が悲鳴をあげている。今回は無理な体勢をとられたので、いつも以上に身体が痛い。感覚が行為の最中は消えていても、あとから感覚は戻ってくる。
「いってぇ…」
服を着て立ち上がろうとすると、身体に激痛が走る。主に下半身からだが、今回は手首も痛い。媚薬を飲まされたので、まだ頭や身体が熱い。
こんなこと、やっぱり友人には知られたくない。もちろん、唯一の家族である兄も。聖月はこのディメントでのことを知られないようにしなくては、と何度目かの決意を固める。
聖月は、手をぎゅうっと握り締め、同伴を頼むためディメントの本部に連絡する。ディメントナンバー3である聖月であることを伝えると、すぐにホテルに来てくれるという。同伴は誰がいいかと聞かれて、コウを頼んだ。
いつも通りですねと電話越しにかけるといつも出てくる男の人に言われた。まるで常連になった居酒屋みたいな言い草で、聖月は小さく笑った。
聖月はお願いしますといって、ケイタイを切る。
ふと見た窓の風景は、曇り空だった。まるで、聖月の心の中のようで、聖月は小さく息を吐いて目を瞑った。
不思議なことに、聖月と食事をするだけで宗佑は何もしない。ただ、会話をしているだけだ。何回か食事をして、行為をすると聖月は思っていた。それが、普通だったからだ。だが、宗佑は聖月に触れようともしない。
はっきりいって、宗佑の行動はディメントの客の中でも異常だった。ディメントの指名料は、馬鹿なくらい高い。それもナンバー3の《セイ》を指名するのは、普通の蝶を指名するより何倍もかかる。
それを、宗佑は毎週に1回は、聖月を指名するのだ。相当の金持ちじゃないとできない芸当だ。しかも、馬鹿高い料金を払ってすることは、ただ聖月との食事だけだ。
ある意味、金を無償で聖月にあげているようなものだ。こんなこと、普通ディメントでする輩はいない。ただの男娼に金を払ってまで、食事だけするなんていうなんてこと、普通の人間だったらしない。
聖月は不思議に思う。何かあるのではないかと、疑心暗鬼する。だが、それ以上に、聖月は宗佑との会話がたのしかった。ただの会話だったが、ディメントでするいつもの客よりかは、何倍も、何十倍もマシだった。いや、比べることもおかしいかもしれない。
宗佑は、聖月にとって紳士だった。とんでもないほど、やさしい紳士だ。
何回も食事をするうちに、聖月は心のよりどころになっていった。ハヤマソウスケと書いてあると、ほっとする。聖月は、指名されたと分かると、自然と笑みがこぼれた。
指名を受けたい、なんて思ったことは聖月は一度もなかった。だけれど、宗佑は違う。
彼から指名がくると嬉しい。だって、宗佑とは食事をするだけでいい。いつものあの行為をしなくていい。身体も心も、痛くない。宗佑といると、ほっとする。どうしてか、宗佑には欲望を感じない。いつも指名する客にある、下心が見えないし、感じない。
だけれど、聖月は分かっていた。この状況が、長くは続かないことに。
ここは、ディメントだ。そこで行きつく先は、遅かれ早かれ、同じ場所なのである。
そのことに気づいているから、聖月はふいに悲しくなる。どうして、悲しくなるんだろう、と自分に聖月は問う。だが、自分の心に聞いても、答えは出ない。
聖月は、ため息をついて夜空を見上げた。都内の夜空は、霞んで見えた。
「あー…、もうかよ」
聖月は、部屋のパソコンの画面を見て鬱陶しく呟く。
そこには、「タチバナさま オール」と書かれている。明日のシフトを確認するためパソコンを開いて、書いてあったのはその文字だった。7月に突入し、外ではセミが自己主張の激しい泣き声が聞こえている。
聖月は、その文字に嫌気がさして、ベットに潜り込んだ。
「はぁー…、あの人性懲りもなく俺を指名してくるし…。最悪」
橘はどうしてここまで、自分に固執してくるのだろうと聖月は不思議だった。あの人が『セイ』である聖月をここまで熱心に指名するのか、聖月には分からない。固定客のなかでも橘は金をかけて何度も指名するし、数ある指名客のなかでも一等にプレイ内容が異常だ。
きっとこんなことをほかの男娼がやったらおかしくなる。感覚がなくなる聖月だって、頭がおかしくなりそうだ。むしろ人柱として役に立っているので、ほかの蝶たちに被害がおよばないだけマシなのかもしれない。
そんなことを考えていると、ケイタイのバイブ音が響いた。驚きつつ、ベットにあったケイタイをとると、メールが届いていた。
『突然、ごめんね。報告があります。実は、借金半分になったんだよ。やったぁ。お互い頑張ろうね!』
相手は同じディメントで働いている女性のきりだった。彼女とは、時々こうやってメールをする。だいたい励ますメールだが、聖月の心の支えになっている。聖月は、そのメールに少し口元が緩んだ。
「よかった! あと、もう少しだね。お互いがんばろー …っと…」
聖月はきりに返信メールを送り、ケイタイを握り締めて呟く。
「借金半分かぁ…。よかった…」
女の子であるきりに、こんな仕事をずっとやらせるのは酷(こく)すぎる。きりが、無理しすぎないのなら何よりだ。
「小田桐さん、おれ…がんばれねーかも…」
細々と呟き、聖月は目を閉じる。汗でじんわりと濡れた髪が、鬱陶しく思いながら、聖月は眠りについた。
―――翌日。
「ふっざけんじゃねぇよ、マジで」
聖月は、橘に指定されたホテルに行って、部屋に入ると思わず口悪く呟いた。その部屋には大きなベットが、ど真ん中においてある。照明は怪しくピンク色になっていて、いわゆるここはラブホテルだ。1ヶ月出禁をくらってこんなところを指定するなんて、橘はいったい何を考えているんだろうか。
「しかも、高級…」
はあ、と何度めかのため息をつく。かなり高級なところらしく、ロビーも広かった。入ってくる人は、カップルばっかりで聖月は恥かしくなってくる。
橘は、普段なら高級なホテルを指定してくる。だが、今回は違った。
しかも今回は、聖月には最高に嫌な日になるだろうと、初めからわかっている。
聖月が、会う前からイヤになっていると、ドアがノックなしで開いた。スーツ姿の橘が、そこに立っていた。いつも通り、オーラのある佇まいで、聖月を見下ろしている。聖月は立ち上がり深々と頭を下げる。
「こんばんは。ご指名くださり、ありがとうございます」
決まり文句を聖月は言う。
「久しぶりだね。いや、この前公園で会ったから…この表現は適切じゃないのかな?」
「………」
そうだ。聖月は、この前の公園で橘に離れてもらうため、何でもすると約束してしまった。
橘に、なんでもするなんて言ってはいけない言葉だった。だが、あのときはそういうしかなかった。
聖月が全身に感じる橘の視線が恐ろしくて、まともに顔が見れない。頭の中が、真っ白になる。身体の底から、ぶるりとした震えがやってくる。
「今日は、どんなサービスしてくれるんだい? 今日が楽しみで、しょうがなかったよ…」
橘に、抱きしめられる。聖月は、鳥肌が立った。久しぶりに、この感覚を味わう。尻を撫でられて、だんだんと身体に触れられる感覚がなくなっていく。奇妙な感覚は、いつも通り機能している。心底この《秘密》があってよかったと聖月は思う。
橘の興奮した声が、いつも以上だ。聖月はぶるぶると震えながら、目の前の抱きついている背中に手を回す。
「光栄です……。今日は…なんでもします…」
声が掠れる。嘘を言っている事がバレバレだった。橘にもバレるはずなのに、むしろ目の前の男は愉しそうにしている。
「ホントだね?」
「…はい」
聖月は、震えた声をひりだす。橘は、小さく口角をあげた。
――――…その後は、あまり思い出したくはない。
聖月の『感覚がなくなる』秘密があったとしても、今までの中で一番キツイ《セイ》としての、仕事だった。NG事項をこれでもかというほどやらされた。まずまた媚薬を盛られた。橘はこの前のプレイが相当に気に入ったらしい。
すぐに身体は熱くなり、身体は敏感になる。だが、それは身体だけで、聖月の感覚は一切無なかった。だが、恥かしいことには違いなかった。
目隠しをされて、橘にご奉仕することになったときは、どうしようかと思った。何も見えないうえに、口の中にある異物は、不快そのものだ。感覚はないが、息ができないほど喉奥まで入れられて苦しかった。
聖月を追い詰めたのは、これだけではない。あろうことか、橘は首を絞めてきた。
無理やり挿入されたまま首を絞められて、聖月はパニックに陥った。感覚はないが、息ができなくて、死ぬかとそのときは本気で思った。殺してやる、そんな物騒なことを聖月は目の前の男に抱く。こんなの異常だ。一歩間違えたら、聖月は死んでしまう。
橘がやっと離した瞬間、聖月は痙攣しながら白濁を吐き出した。身体が馬鹿になったみたいだ。聖月は咳をし、窒息しそうだった身体を震わせた。それを嘲笑する橘の声が、酸素が回らない頭のなかでぼんやりと響いた。
そのあとも反応がない聖月をおもちゃのように扱い、橘は射精した。
―――くるしい。
頭のなかで、もう一人の自分が叫んでいた。はっ、はっ、と荒々しく息をする橘が、とてもじゃないが人間には見えなかった。聖月が泣いてやめてくれと叫んでも、むしろ興奮して手をやめない男なんて、人間じゃなくてただの獣だ。
聖月はそのまま泥のように眠りについた。
朝に橘に起こされて、動けないのでベットのなかで見送った。二度と指名するな、と喉の先まで出掛かった。
「は……」
聖月は、いつの間にか泣いていた。浅く息し、呼吸を整える。
最近、宗佑の指名が多くて、聖月はこの仕事がとても苦しいものだと忘れていた。そのことを、神様はあらためて教えようとしてくれたのかもしれない。本来、ディメントはこういう仕事だ。
―――身売りで、心温まろうなどど生ぬるいことを考えちゃいけないんだ。
聖月は自嘲気味にベットに寝た状態のまま笑う。近くに放り投げてあった自分のスーツを手に取り、シャツから手を通す。
「あー……」
聖月は、ガラガラになった声をひりだす。その声音は、さまざまな感情が入り混じっていた。
「早くやめたいな…」
こんな、仕事なんて。
聖月の乾いた呟きは、宙に舞って散った。だんだんと感覚が戻ってきて、身体の節々が悲鳴をあげている。今回は無理な体勢をとられたので、いつも以上に身体が痛い。感覚が行為の最中は消えていても、あとから感覚は戻ってくる。
「いってぇ…」
服を着て立ち上がろうとすると、身体に激痛が走る。主に下半身からだが、今回は手首も痛い。媚薬を飲まされたので、まだ頭や身体が熱い。
こんなこと、やっぱり友人には知られたくない。もちろん、唯一の家族である兄も。聖月はこのディメントでのことを知られないようにしなくては、と何度目かの決意を固める。
聖月は、手をぎゅうっと握り締め、同伴を頼むためディメントの本部に連絡する。ディメントナンバー3である聖月であることを伝えると、すぐにホテルに来てくれるという。同伴は誰がいいかと聞かれて、コウを頼んだ。
いつも通りですねと電話越しにかけるといつも出てくる男の人に言われた。まるで常連になった居酒屋みたいな言い草で、聖月は小さく笑った。
聖月はお願いしますといって、ケイタイを切る。
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