アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第二章 第八話

84 コウの躰

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 裸のコウは、どこか浮世ではないような気がした。
 しなやかな身体、細い輪郭、小奇麗な顔つき。それは、凄く綺麗な芸術品ではなかったが、ただ存在するだけで目を奪われるものだった。白い肌には情事の痕が残っている。それはディメントでは普通のことだったが、改めて聖月はコウのをみて、それを実感した。
 男の身体に異常だと思うほどの痕が残り、普通の人だったら目を背けるものだろう。
 聖月も一旦逸らしたが―――またコウの身体を見つめていた。
 それは他の客も同様で、聖月のように一回目を逸らすこともなく――――ただコウの裸体を見つめていた。その目に浮かぶのは、仮面をつけていてもわかる興奮の色。これから小奇麗なコウがどんなふうになるのだろうという期待のもの。
 聖月を見つけたのか、それとも両手をとられているスーツの男に耳打ちをされた内容に怯えたのか―――それとも両方なのか、コウはガラスの瞳から一転して恐怖に染まった目をする。そして「やめろよ!」とコウが吐き捨てるように暴れている様子が映る。
「…やめろ…」
 低い声の小さい声で聖月は言った。
 だがそんな小さな声は、観客の下品な歓声で掻き消される。
「やめてっ」
 叫んだのは、ステージでコウの隣にいたサツだった。可愛らしい顔が歪んで、用意されたベットに連れ込まれていた。聖月は、嫌悪感を感じて、さっと目を逸らす。逸らした先にいたのは、暴れているコウだった。その様子は普段の明るい様子から、離れたところにあって聖月はこれは現実なのだろうかと思えて仕方がなかった。
 そんな思考を終わらせたのはサツの小さな嬌声。
 いつの間にかサツはスーツ姿の男たちにのしかかられていた。身体を弄られて、快感に弱いのか、すぐに泣き声は嬌声へ変わった。
 その様子をみて、コウは明らかに嫌悪感を露わにして逃げようともがいていた。
 だが、そんな逃げは、屈強なスーツの男たちに抑え込まれてしまう。
 とたんに、客は身を乗り出す。
 聖月は、嫌だ、と目を瞑った。もう、やめてくれー―――!
「助けて、助けて……誰か」
 呻き声と共に、コウは叫んでいた。その叫び声と同時に目を開けた聖月はコウと目が合う。遠くでも聖月とわかったのか、一瞬安堵の表情に変わる。だが、ステージで羽交い締めにされると、とたんに恐怖に怯えた表情に変わった。
「…っ」
 聖月は、項垂れる。
 今すぐにでも助けに行きたいのに、ここの異様な雰囲気に怯えて、身体が動かない。なんて臆病者なんだ、と聖月は自分を罵った。隣のケイをみても、ただ見ているだけで、助ける様子は一切ない。そもそも助けるという感情が、ここではおかしいことなのだ。
 反対の隣にいる美也を伺い見ても、ただ彼もいつもと同じ表情でステージを見ているだけだ。
 ステージにいるコウは段々と絶望の表情に染まっている。
 それは助けられない聖月を責めたてているようだった。
 聖月を置いてけぼりにして、ステージはどんどんと狂気に満ちていく。はやしたてる客、煽る司会者、熱帯夜のような狂った温度の部屋。ステージにはサツとやがてコウの嬌声が溢れるようになっていった。
 だが殆どの客は、コウを見つめていた。それは、聖月も例外ではなかった。
 それほどコウの様子は、客の心を魅了していたのだ。特にサディストの多いディメントの客だからこそなのだろう。
 コウの普段の太陽みたいな明るさは一切なかった。それを知っている客もいたのだろう。余計に、嗜虐心を煽る結果になった。
 コウは嫌悪感を露わにして嫌がっていた。
 「変態っ」と罵る彼を無視し、スーツの男たちは尻を抱え上げられ恥ずかしい場所は客に晒されるように縄で固定した。大股を広げられてコウは見るな、と叫んだ。司会者にそのことを煽られて、コウは泣きそうな顔をする。
 まるで子供のような表情をした。
 それにスーツの男たちのサングラスの下でギラついたものに、火をつけた。
 コウは抵抗していたが、何人もの男に囲まれれば赤子のようなものだ。ただ赤ん坊をあやすように、男たちはコウの自由を奪った。
 興奮を煽るために、萎えたコウの性器をまるで玩具のように、指で弾いた。うぅ、と呻いたコウに「感じたのか? お前のほうが変態じゃないのか」と囃した。
 コウはまるで快楽をする自分に嫌悪感を抱いている仕草をしていた。気持ちよくしてやると、乳首を引っ張られ、反応している自身の性器を見て青ざめた顔をする。いやいやと振るコウを無視して、スーツの男たちはコウの白い身体をまさぐった。
 さんざん際どいところを弄られていじめられたコウは恐怖におびえた表情をした。
 いやだ、こんなの…――――。
 そう悲愴めいた声をあげて、コウは身体を震わして達した。
 白濁を出した瞬間、客たちは色めき立った。観客からついにイッたな、あぁ可哀想に、舐めてあげたいという声があがり、コウは達し惚けていた顔をすぐさま恐怖に変える。客たちはもうコウにしか目に入ってなかった。隣では可愛い嬌声をあげ揺さぶられている蝶がいるのに、まだ一回しか達していないコウのほうが注目されていた。
 コウの達する姿は、ケイが妖艶に達しているときと類似していた。
 だが、それは些細な違いで、ディメントの客はコウの姿に夢中になっている。
 身体を何人のも手に弄られて、一切弄られていない小さな窄まりはひくひくとわないていた。
 その姿は聖月にもまざまざと見えて、思わず知りたくなかった感情が呼び起こされた。
 本気で嫌がり嫌悪している心と、先のことに期待をして感じている身体。それは普段のコウからはあり得ない姿で、客たちを興奮させた。それは、聖月も同じことだった。太陽のような笑顔をしているコウと、今のコウはあまりにもギャップがある。
 嫌だと嫌だと、コウは激しく抵抗する。「まだこっちはやってないよ」と、襞(ひだ)を一人の男が大きく外気に広げると、客は思わず唾を飲み込んだ。そんな行為にも敏感に震えるコウは、酷くいじらしいものだった。
 「いやらしい色をしているな」「赤みがかったピンクだ。何度コイツでお客様を満足させた?」と次々に男たちに覗き込まれて感想を言われて、コウは泣きながら「やめてくれよ」と抵抗していた。酷く羞恥を煽る行為に、コウはついに抵抗をやめ、身体を弛緩させた。
 客たちはコウの内部をみて、欲望を抑えらない瞳をしている。近くの客はズボンを緩ませて、自慰をしていた。それをとがめる客も、司会者も、運営者だっていない。むしろ歓迎しているような雰囲気に、聖月は狂った空気を感じた。
「コウくんの前立腺はここかな?」
「俺が広げてやるから、待ってろよ」
 興奮した声を隠すこともなく男たちは、コウの窄まりを一斉に弄り始めた。ローションをかけられ、それにすらコウは感じていた。
 観客は色めき立つ。客はみんな愉しそうにしていた。まるでショーを見ているみたいに。動物が何か芸をして出来て、お辞儀をした瞬間のような歓声だった。
 聖月はまざまざと思う。これは見世物なのだ。人が道具になってる空間に、吐き気がする。だが自分もコウの痴態に目を逸らせないことも事実で…――――。
「はは…」
 自分もこの空間にいて、コウのことを見ているという≪観客≫だ。ここにいる狂った人々の一員だというのに、自分だけ普通の人間だと信じたい自分がいて聖月は乾いた笑い声をあげそうになった。ディメントで働いている時点で、異常だってのにな。聖月は自嘲気味に思いながら、泣きそうになった。
 泣きたいのは、泣いているのはコウなのに。
 …―――コウの声が甘くなる。
 聞いてこともないような甘ったるい声だ。これは、男たちが色めき立つのは無理はないなと思う。
 聖月は自分のものが少し硬くなっていることに気づいて、また笑いたくなった。
 コウの媚態をみて興奮してる自分は、結局ここにいる人間ってことだ。
 コウを見れば何度も精を吐き出した跡がある。床は濡れていて、失禁していることがわかった。
 先ほどまで嫌悪感を露わにしていた顔が、もう諦めたのか、受け入れたのか、快感を少し感じている表情になっている。隣のサツはベットで蕩けた顔で何人の男にまわされていた。彼はもう、現実ではないような卑猥なことを口走っている。
 コウの孔はめいいっぱい広げられて、様々なグロテスクな道具が入られていた。
 男の孔に道具がたくさんぷっくりと咥える様は、一種のグロテスクだ。普通の人だったら、目を開けることもためらうものだろう。だが、ディメントの客は違う。それを嬉々として見ていた。
 だが、男たちはそれをもっとグロテスクなものに変えようとしていた。
 コウの声が、痛みと快楽の境目の狂気さを感じる声をあげた。ゆっくりと男の一人に長い道具を引き抜かれている。ずるずると引き抜くさまは、奇妙なもので、それはこの部屋の様子を表しているように見えた。
 コウが切なげな声をあげる。男たちは嬉しそうに、コウから道具が抜かれるのを見つめていた。
 ぼとりと、一個の道具が落ちる。それを引き金に、他の道具もコウの中から零れ落ちた。コウが抜け落ちる感覚で、びくびくと身体を逸らし達していた。その姿は、妖艶そのものだった。
 コウの孔はぱっくりと開かれており、表情は泣き腫らしよだれの液でぐちゃぐちゃだった。
 まだ、狂気の宴は終わりそうにない。
 聖月は≪講習会≫が終わるまでずっといた。隣のケイは途中で眠そうに出て行った。美也は聖月の隣で静かにステージを見つめていた。
 その横顔を覗い見ても何を考えているかはわからない。ただ漆黒の暗闇の瞳が、透明のガラス玉で眩いているだけだった。

◆   『アドレナリンと感覚麻酔』 第8話 END ◆

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