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第二章 第九話
87 小さいプライド
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きっと、イチも、ここに不遇な境遇できたのだろう。こんな優しい二人がここにいていい理由なんて、ない。
さらりと、コウの黒い髪が、揺れる。それが、少し覚醒に手助けしたのか、長い繊細なまつ毛が震える。「ん…」と声を小さくあげると、コウは目をゆっくりと開けた。今まで疲れ切って寝てしまった顔とは打って変わって、少し陰のある雰囲気が出ていた。
「イ…チ?」
コウが、イチの顔を捉えると、焦点を合わせるようにこちらを見た。
その表情は、少し子供らしい顔をしていた。
まだ眠いらしく、目を擦り、布団をあげて顔を隠す。それは、まるで本当に子供のようだった。
「おーい、コウ。起きろ、セイさんが来てくれたんだぞ」
先ほどのイチの優し気な声はなく、男らしい言い方と声に驚く。もしかしたら、こっちのが彼の地なのかもしれない。
「あっ、起こさないでいいよ。だって、寝てるし」
慌てると、イチのたしなめる声をあげた。
「だめですよ。コイツ、何時間もこのままで御飯くってないんですもん」
「…セイさん?」
寝ぼけたまま、コウが目を開ける。
その驚いた顔は、はっきりとしたものだった。それ以上に、顔を真っ赤にさせて、聖月を見つめる。――――――昨日のことが、その瞬間フラッシュバックする。――――「助けて、助けて……誰か」―――そう叫んだコウと聖月は目があったことを。
羞恥に染まって、毛布にくるまるコウに、聖月は可愛いと思ってしまった。
でも、コウの気持ちを考えると、ここに来たのはよくなかったのかもしれない。
「おい、コウ、何隠れてんだよ。セイさんが、お見舞いに来てくれんだぞ」
イチがベットに片足を乗せて、くるまったコウを揺する。コウはただ黙って、揺らされているだけだった。
「…ごめん。体調悪いのに、来ちゃって。また、元気になったら、顔見せて」
聖月は、そのまま立ち上がった。
ここで、長居をしたら、コウが余計に恥ずかしい思いになってしまう。やっぱり、講習会なんて、行かない方がよかったのかもしれない。
「えっ、いいんですか。おい、コウ、何隠れてんだよ。セイさん、帰るって」
未だに揺らされているコウを聖月は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いいよ。ありがとうイチくん」
聖月は首を振る。
イチは、ベットから降りた。コウは布団にくるまったままだ。
「…セイさん、きてくれて…ありがとうございます………」
少し経ってから、布団の中から声が聞こえた。それは、感謝の声だった。聖月は、その震える声に「こちらこそ、ありがとう」といった。そのまま「おじゃましました」と言って玄関に向かう。コウの声は、恥ずかしさと嬉しさと様々な感情が混じり合ったものだった。
イチが、玄関まで送り届けてくれた。
最後までコウと聖月を気遣ってくれた。
彼も、優しい人だ。
コウも、優しくて、脆くて。
聖月は、自分の部屋に戻りながら、陽に当たる場所を求めて窓の傍を歩いた。外は、久しぶりに晴天だった。
次の日の夜――――。
部屋の中にノックが響く。ドアを開けると、少し前屈みになったコウがいた。
「コウっ」
コウの格好は、Tシャツとジーパンというかなりラフなものだった。小奇麗なコウは、爽やかに着こなしているが、今の表情は、いささか辛そうなものだった。
「セイさん…」
なんだか、立っているのが辛そうだったので、急いで聖月は「中にはいって」と急かす。コウは、「おじゃまします…」と聖月の部屋に入ってくる。歩くのも、よろよろしくて、聖月は背中を支えた。コウは、不安そうにこちらを見ていた。
「大丈夫? 無理して、来なくてもよかったよ」
「いや…。大丈夫っす。ケツがマジいてえだけなんで」
それが問題あるだろ。
と、ツッコミたくなったが、ぐっと堪える。
コウをベットに座らせ、とにかく色々と問いただしたい気持ちを落ち着かせる。だが、聖月の頭にはコウの痴態が浮かびあがった。 本気で嫌がり嫌悪している表情と、先のことに期待をして感じている身体。あの倒錯的なあのシーンが浮かび上がる。
「あ…、こっちに座る? こっちのが、お尻痛くないかも…」
聖月は、そんな不埒な考えを無理やり追い出して、ドーナツ型のクッションをコウに差し出した。
コウはありがとうございますといいつつ、自身の尻にそれを引く。
「あ~、ちょっと、楽になったかも…しれねぇっす」
そう言っているが、ずいぶんとやつれているように見える。
過酷な性行為に、コウは心身ともにやられていた。普段よりも、元気がないし、顔色も悪い。
「…昨日、なんで…来てたんすか…?」
しばらく間があってから、コウが呟く。聖月は驚き、目を瞬かせる。そのコウの責め立てる声と言葉を、理解するのはずいぶんと時間がたった。
「…ぁ……あの、」
何と言っていいかわからず、聖月は声を上ずってしまう。コウの、聖月への怒っているような雰囲気は、初めて見るのでどうしていいのかわからない。謝った方がいいのかもしれないと感じ、頭を下げようとすると、コウがその前に声を出す。
「…心配してくれるのは、わかったんです…。だけど、俺……あんなところ、見られたくなかったっす…」
コウの悲痛な声。
聖月は、胸が痛み、思わず自分の胸を掴んだ。コウは、泣いていた。綺麗な涙だった。
「…ごめん……」
聖月は、謝ることしか出来なかった。
しばらく、コウの啜り泣く声が聞こえた。聖月は、何と声をかけたらいいのか分からず、うろうろと目線を彷徨うだけだった。コウが、あんなに性に対して嫌悪感を露わにしているとは、聖月も思わなかった。行為の後に吐くということは、聖月も経験した。でもそれは、初回だけのことだ。
だが、毎回やっているとなると、相当過去に何かあったのかもしれない。
そんな疑問が湧いたが、こんな状態のコウに聞くのははばかられて何も言えなかった。
「俺…客が…気持ち悪くて…毎回吐いて……、それで講習会に行くはめになって……」
コウがしばらくして、言葉にしたのは懺悔のような言葉だった。聖月は、小さく頷くことしかできない。
同性愛者でもないのに、同性の男に抱かれる嫌悪感は凄まじいものだ。コウも蝶として、かなりハードなプレイを要求されているから、余計にだろう。
「……俺も、ちっちぇ…プライドなんて捨てて…、キスも、えろいことも…受け入られたらどれだけ楽なんだろうって…」
コウは恨みを吐くように言った。
ちっちぇプライド…―――。
コウも、聖月も≪受け入れられない≫辛さに悩んでいるただ一人の人間だった。
さらりと、コウの黒い髪が、揺れる。それが、少し覚醒に手助けしたのか、長い繊細なまつ毛が震える。「ん…」と声を小さくあげると、コウは目をゆっくりと開けた。今まで疲れ切って寝てしまった顔とは打って変わって、少し陰のある雰囲気が出ていた。
「イ…チ?」
コウが、イチの顔を捉えると、焦点を合わせるようにこちらを見た。
その表情は、少し子供らしい顔をしていた。
まだ眠いらしく、目を擦り、布団をあげて顔を隠す。それは、まるで本当に子供のようだった。
「おーい、コウ。起きろ、セイさんが来てくれたんだぞ」
先ほどのイチの優し気な声はなく、男らしい言い方と声に驚く。もしかしたら、こっちのが彼の地なのかもしれない。
「あっ、起こさないでいいよ。だって、寝てるし」
慌てると、イチのたしなめる声をあげた。
「だめですよ。コイツ、何時間もこのままで御飯くってないんですもん」
「…セイさん?」
寝ぼけたまま、コウが目を開ける。
その驚いた顔は、はっきりとしたものだった。それ以上に、顔を真っ赤にさせて、聖月を見つめる。――――――昨日のことが、その瞬間フラッシュバックする。――――「助けて、助けて……誰か」―――そう叫んだコウと聖月は目があったことを。
羞恥に染まって、毛布にくるまるコウに、聖月は可愛いと思ってしまった。
でも、コウの気持ちを考えると、ここに来たのはよくなかったのかもしれない。
「おい、コウ、何隠れてんだよ。セイさんが、お見舞いに来てくれんだぞ」
イチがベットに片足を乗せて、くるまったコウを揺する。コウはただ黙って、揺らされているだけだった。
「…ごめん。体調悪いのに、来ちゃって。また、元気になったら、顔見せて」
聖月は、そのまま立ち上がった。
ここで、長居をしたら、コウが余計に恥ずかしい思いになってしまう。やっぱり、講習会なんて、行かない方がよかったのかもしれない。
「えっ、いいんですか。おい、コウ、何隠れてんだよ。セイさん、帰るって」
未だに揺らされているコウを聖月は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いいよ。ありがとうイチくん」
聖月は首を振る。
イチは、ベットから降りた。コウは布団にくるまったままだ。
「…セイさん、きてくれて…ありがとうございます………」
少し経ってから、布団の中から声が聞こえた。それは、感謝の声だった。聖月は、その震える声に「こちらこそ、ありがとう」といった。そのまま「おじゃましました」と言って玄関に向かう。コウの声は、恥ずかしさと嬉しさと様々な感情が混じり合ったものだった。
イチが、玄関まで送り届けてくれた。
最後までコウと聖月を気遣ってくれた。
彼も、優しい人だ。
コウも、優しくて、脆くて。
聖月は、自分の部屋に戻りながら、陽に当たる場所を求めて窓の傍を歩いた。外は、久しぶりに晴天だった。
次の日の夜――――。
部屋の中にノックが響く。ドアを開けると、少し前屈みになったコウがいた。
「コウっ」
コウの格好は、Tシャツとジーパンというかなりラフなものだった。小奇麗なコウは、爽やかに着こなしているが、今の表情は、いささか辛そうなものだった。
「セイさん…」
なんだか、立っているのが辛そうだったので、急いで聖月は「中にはいって」と急かす。コウは、「おじゃまします…」と聖月の部屋に入ってくる。歩くのも、よろよろしくて、聖月は背中を支えた。コウは、不安そうにこちらを見ていた。
「大丈夫? 無理して、来なくてもよかったよ」
「いや…。大丈夫っす。ケツがマジいてえだけなんで」
それが問題あるだろ。
と、ツッコミたくなったが、ぐっと堪える。
コウをベットに座らせ、とにかく色々と問いただしたい気持ちを落ち着かせる。だが、聖月の頭にはコウの痴態が浮かびあがった。 本気で嫌がり嫌悪している表情と、先のことに期待をして感じている身体。あの倒錯的なあのシーンが浮かび上がる。
「あ…、こっちに座る? こっちのが、お尻痛くないかも…」
聖月は、そんな不埒な考えを無理やり追い出して、ドーナツ型のクッションをコウに差し出した。
コウはありがとうございますといいつつ、自身の尻にそれを引く。
「あ~、ちょっと、楽になったかも…しれねぇっす」
そう言っているが、ずいぶんとやつれているように見える。
過酷な性行為に、コウは心身ともにやられていた。普段よりも、元気がないし、顔色も悪い。
「…昨日、なんで…来てたんすか…?」
しばらく間があってから、コウが呟く。聖月は驚き、目を瞬かせる。そのコウの責め立てる声と言葉を、理解するのはずいぶんと時間がたった。
「…ぁ……あの、」
何と言っていいかわからず、聖月は声を上ずってしまう。コウの、聖月への怒っているような雰囲気は、初めて見るのでどうしていいのかわからない。謝った方がいいのかもしれないと感じ、頭を下げようとすると、コウがその前に声を出す。
「…心配してくれるのは、わかったんです…。だけど、俺……あんなところ、見られたくなかったっす…」
コウの悲痛な声。
聖月は、胸が痛み、思わず自分の胸を掴んだ。コウは、泣いていた。綺麗な涙だった。
「…ごめん……」
聖月は、謝ることしか出来なかった。
しばらく、コウの啜り泣く声が聞こえた。聖月は、何と声をかけたらいいのか分からず、うろうろと目線を彷徨うだけだった。コウが、あんなに性に対して嫌悪感を露わにしているとは、聖月も思わなかった。行為の後に吐くということは、聖月も経験した。でもそれは、初回だけのことだ。
だが、毎回やっているとなると、相当過去に何かあったのかもしれない。
そんな疑問が湧いたが、こんな状態のコウに聞くのははばかられて何も言えなかった。
「俺…客が…気持ち悪くて…毎回吐いて……、それで講習会に行くはめになって……」
コウがしばらくして、言葉にしたのは懺悔のような言葉だった。聖月は、小さく頷くことしかできない。
同性愛者でもないのに、同性の男に抱かれる嫌悪感は凄まじいものだ。コウも蝶として、かなりハードなプレイを要求されているから、余計にだろう。
「……俺も、ちっちぇ…プライドなんて捨てて…、キスも、えろいことも…受け入られたらどれだけ楽なんだろうって…」
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