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第二章 第九話
94 4年ぶりの快楽
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―――寝るだけって、本当に? ここまで来て? バスローブ姿で見つめ合ってベットの上で寝てるのに? そういう意味でお風呂入ったわけじゃないの?
宗祐の言葉にもっと混乱していく聖月に、宗祐はじっと見つめた。
「今日上の空だったけど何かあった?」
「え…っ」
ドキリとした。まさか上の空な自分のせいで、寝るだけっていうことになったのか?と思った。そう思うと高い値段を払ってまで会いに来てくれている宗祐に対して失礼すぎることをしている―――今までの自分のぼんやりしっぱなしの状況に反省する。
「怒るわけじゃないけど、ちょっと心配でね。嫌なことでもあったのかなって」
心配そうな声色で、聖月の頭を撫でる宗祐にはある種の欲望すら感じない。ただそこには聖月を労わる想いだけが感じられた。髪の毛を優しく触られて、どくどくと心臓が早鐘を打つ。じんわりと汗が噴き、聖月は瞬きを繰りかえす。
「……」
どうしよう、と思った。ベットの上の小さな世界では、言い訳を思いつかない。それに間近にいる宗祐の顔は見れば見るほど美形すぎて緊張するし、近くにあるバスローブから見えるはだけた健康的な肌にドキドキしっぱなしだ。
優しく心配してくれる宗祐に、聖月はしばらく悩んだが、少しだけ自分のことを話すことにした。こんなことを、客に今までしたことがなかった。
「友達を…傷つけてしまって」
聖月は漠然とそう話す。傷つけてしまったとか、そういう次元ではないが、そうとしか言えなかった。聖月の言葉に、宗祐は目を細めた。
「友達じゃなくなったのかい?」
宗祐の質問にはっとなる。二人の視線が交わり、宗祐が息を吐く。聖月は「そうじゃないんです…。許してくれたんです…友達に戻ってくれたんです」と息が詰まりそうになりながら答えた。
「友達に戻ってくれたということは、告白でもされたの?」
図星すぎる言葉に、顔が真っ赤になってか硬くしてしまう。聖月の様子に宗祐は「ビンゴだ」と笑った。耳元に囁きかける笑い声は、頭の中が飽和状態になる。
「セイくんはそれを断ったんだね」
まるでエスパーのようだった。図星を刺されて、聖月は言葉をなくす。
なんでそんなに分かるんだろう?と、思っていたことを聖月は顔に出していたのだろう。宗祐は「これでも、上に立つ人間だからね。表情を見れば分かるよ」と笑う。聖月は自分の顔は無表情なのに、よく分かるなと思った。
ふいに宗祐に背中ごとぎゅっと抱きしめられ、背中に感じる熱を強く感じた。
身体の触れ合いを直に感じ、聖月はこれまでにない緊張を体感する。
「…だいじょうぶ。きっとその子は許してくれるよ」
熱い抱擁に、頭が沸騰しそうだった。バスローブだけの身体の絡まりは、殆ど裸同然の抱き合いと同じだった。自然に足を絡めとられ、密着させられて、宗祐という人の存在をはっきりと感じた。体温が上がっていく状況に、聖月はカチカチに硬まった。
大胆な宗祐との触れ合いに、脳内が煮えたぎる。宗祐の大きな身体にすっぽりと収まっている自分がなんだかあやされている子供みたいだった。いや、実際はそうだったのだろう。宗祐の聖月を背中を撫でる仕草には、欲望ではない慈愛が含まれたものだった。
今まで宗祐と一切こういう触れ合いはなかった。
―――もしかしなくても、慰められているのだろうか。
ふと思ったことに、聖月は気分が落ち込んだ。それがどうしてかは分からなかった。
「…そう、でしょうか…」
聖月の声は震えていた。宗祐が励ましてくれている。だけど、でも。
「俺……でも、…絶対に、取り返しつかないことをやってしまって…」
十夜を傷つけた。
―――なんで……?
そう呟く、信じられないといった顔をした十夜が、こちらに近づいてきたのを昨日のことのように思い出せる。今いる自分が誰だか、わからなくなる。あの感覚。
――――聖月……なんで…?
泣きながら、十夜は聖月に問う。聖月にもわからなかった。なんでこんなことになったのかも。
―――DVDを問い詰めたら、アイツは白状した…。聖月は、ディメントで働いているって。あの親父はお前を犯してるって
彼は涙を流し、声は震えていた。あのいつも軽口ばっかりで、笑っているカッコいいヒーローみたいな十夜が泣いている。…俺のせいで。俺が悲しませた。俺のせいで十夜は辛い思いをしている。それだけが、あのときの聖月の中にはあった。
「…っぁ…」
今までのことが一気に蘇り、耐えきれず涙が零れた。一度壊れた堰は、もう止まらせてはくれない。聖月は、ボロボロと涙の雫を零した。それは宗祐のバスローブを濡らしてしまうほどに、泣いてしまった。
うわ、どうしよう…、とまれ、とまれ…!
慌てるも、なかなか涙は止まってはくれない。むしろ溢れてとまらない。客である宗祐の腕のなかで泣くなんて普通にディメントの蝶としてあり得ないことをしている。子供みたいだし、二十歳をすぎた男がやる行為ではない。
「ご、ごめん…な…さ…」
たまらなくなって顔を手で覆おうとしたときだった。自分の顔が宗祐の胸に飛び込んだのは。
「っ?!」
「…大丈夫。泣いていいから」
宗祐の匂いが、聖月を包み込んだ。大人の匂い。宗祐さんの匂い…。
聖月は頭をぽんぽんと優しく叩かれて、堪らなくなって涙が溢れた。宗祐の筋肉質な肌と、安心する彼の香りは弱った心の聖月を温かくするのにはたやすかった。足をもっと深く絡めとられ、密着が強くなっていたが、号泣している聖月にはそんなこと気にする暇もなかった。
宗祐は優し気な顔をして、目を細め、涙で濡れるバスローブを感じていた。
うわーんうわーんと、今までの溜め込んでいた想いを爆発させ、大声で泣きじゃくる姿は―――まるで子供のように泣く聖月は、普段よりも幼くさせた。鼻水もでかかったが、聖月はぐっとこらえた。宗祐の胸にかかってしまうのは、かなり失礼だと泣きながら思ったから。
宗祐は大声で泣く聖月の頭を撫でていた。それは聖母のような慈愛に満ちたもので、聖月は子供のころ母親に転んで泣き叫んだ自分を撫でてくれた思い出がよみがえる。
聖月と宗祐、2人だけの空間に、聖月がわんわんと泣く声だけが響く。
やがて、聖月の涙が枯れ果てた後、宗祐は口を開く。
「すっきりした?」
宗祐に顔を覗き込まれ、聖月はグチャグチャになった顔で彼の色気のある彫りの深い顔立ちを見て急に恥ずかしくなった。
「えっ、ぁ…、おれ…っ」
今までしてしまった行為を思い出し、聖月は目に見えて動揺する。顔を真っ赤にし、無意識に宗祐から離れようとする。だが、宗祐との絡みついた脚は簡単には離れはしなかった。宗祐は、聞き慣れぬ笑い声でククッと声をあげた。
「君がそんなに動揺したの初めて見た」
いつもは無表情だから、新鮮だよと宗祐は言う。
「え、ぁっ! 俺、お客様の前で、なんてこと…」
慌てている聖月に、宗祐は完璧な笑みを浮かべた。
「平気だよ。もっと泣いても大丈夫だったけど」
「…ッ」
もう平気?と、聖月を労わる宗祐がとてもキラキラして見えた。本当にこの人は、他の客とは全く違う。なんでこんなに、優しいんだろう。なんでこんなにカッコいいんだろう。聖月は涙を拭き、頷いた。徐々に冷静になるにつれ、自分の置かれている状況に頭がおかしくなりそうだと思う。
宗祐とはバスローブ姿で絡み合っているようにベットの上にいるし、すごく彼のいい香りがするし、宗祐との顔の距離は近いし、先程までカッコ悪く泣いてしまったし。
意識すると、宗祐と絡み合った脚が少し動くと自分の熱が熱くなった気がした。
「…セイくん?」
宗祐に不思議そうな顔をされて、聖月ははっとなる。
「…硬くなってる」
えっ、と思わず声をあげる。宗祐の目線でやっとわかった。自分の性器が反応していることに。聖月はかあっと顔を赤面させる。まったく気付かなかった。そして、滅茶苦茶恥ずかしい。今すぐにでも逃げ出したいぐらいに。
「ぁ、あ、おれ…ッ」
声が裏返り、自分の動揺が思わぬところまでいったと感じた。宗祐は優しく形のいい唇をあげると「反応しちゃったんだね」と、特に気も留めない様子で言った。自分の脚と反応している部分が触れ合っているのに聖月をはやしたりはしなかった。思わぬディメントの客ではありえない反応に、聖月は身体がなぜか震えた。
宗祐の脚が反応している部分を刺激するように動いた。聖月は身体が熱くなり、スパークするような感覚が襲った。
「え…」
聖月はあることに気づいて目を見開く。いつもだったら、感覚が失うはずなのになんで…?
「一回出しちゃった方がいいよ」
宗祐の大きい手が、衝撃を受けている聖月を置いていつの間にかバスローブに侵入していく。
「あ?!」
下着越しに性器を握られて、聖月は身体を反らす。―――ありえない。こんなの、ありえない。聖月は自分の感覚が戻っていることに気づきパニックに陥った。暴れる聖月を抑え込み、宗祐はあくまで紳士的だった。
「セイくんが出しても何もしないから安心して」
「ち、ちが…! んぅっ」
身体が熱い。嫌だ、怖い。いつもと違う。聖月は涙目になって、宗祐の手から逃れようとする。だけど、脚を絡めとられ、動揺している聖月に力が勝るわけがない。性急ではないが、ただ逃がしもしない手つきで下着を降ろされる。聖月が味わったこともない感覚だった。性器を柔らかく握られ、その衝撃に耐える。
硬くなった自身をリアルに感じた。いつもだったら、何も感じないのに。冷たくて、何もない詰まらない先生の話を聞いてるようなそんな感じだったのに。自慰だって気持ちよくなれないのに。聖月は4年ぶりの快楽の波に、何もできずにどうしようもできずにいた。
汗がべっとり張り付く感覚、やがて上下に性器が動かされる感覚、頭が真っ白になる感覚、演技じゃなくて喉から溢れだす妙な自分の声。すべてが、初めてで。すべてが、夢のように気持ちよくて。
「…っ、ぁ…ぅ~……」
頭が真っ白になる。宗祐の息遣いが近くに聞こえる。身体が、馬鹿みたいに気持ちイイところを擦るたび撥ねる。声も貌も何もかもがうつろで。
なんか、くる…!
絶頂が近づくと、聖月は首を振る。唸り声をあげて、宗祐に怖いと訴えた。こんなこと今までなかったから、宗祐の腕にしがみつくことしかできない。新しい感覚がくるたび、頭が狂いそうだった。
だけど、宗祐は手を動かすのをやめなかった。液が溢れ、ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てている。自分が自分ではなくなってしまう感覚。こんなこと、初めてだ。聖月は、小さく声をあげると、身体を反らす。頭の中に、感じたこともない甘い電流が流れた。
それは、長年感じなかった『絶頂感』だった。脳内に快感の渦が弾け飛ぶ。聖月は息を吐きながら、自分の精を宗祐の手に吐き出す。甘い余韻は、ずっと聖月に残り続けていた。
「気持ちよかった?」
宗祐が、ティッシュで聖月の残滓を拭い取り、乱れたバスローブを宗祐が整えてくれても聖月の頭は霧がかったままだった。絶頂感の余韻は抜けない。宗祐の問いかけに、聖月は頷く。気持ちよかった感覚が、まだ、残ってる…。
「…そうか。よかった。じゃあ、寝るか」
宗祐は、そう言ってぼうっとしてる聖月の頭を引き寄せまた胸にうずめる。あんまりにもあっさりしていて、聖月は、普通だったらありえない宗祐の奉仕的すぎる行動が、普通に思えた。正確な判断ができないほど、聖月に与えた衝撃は大きかった。
「……はい」
聖月は頷き、まだ息が上がって頭が蕩けたまま、瞼を閉じる。
「おやすみ」
背中を優しく叩かれ、聖月は早まる鼓動を抑えようと息を吐き、また吸った。目の前は真っ暗だけど、聖月は宗祐の熱をはっきり感じた。宗祐の香り、きっと高級な香水の匂いだろう。それが、なんとも言えず落ち着いて。ぼうっとした頭では、先ほどの出来事について何も考えられなくて。
聖月は自分の身体に起こった異変を遠くの出来事のように思いながら、宗祐の密着した温かい体温に身を委ねたのだった。
さっきのことは、今までの感覚麻酔が引き起こした副作用だったのかな―――。
聖月は、ぼんやりとそんなことを思いながら、意識を手放した――――。
◆ 『アドレナリンと感覚麻酔』 第9話 END ◆
第10話に続く…
宗祐の言葉にもっと混乱していく聖月に、宗祐はじっと見つめた。
「今日上の空だったけど何かあった?」
「え…っ」
ドキリとした。まさか上の空な自分のせいで、寝るだけっていうことになったのか?と思った。そう思うと高い値段を払ってまで会いに来てくれている宗祐に対して失礼すぎることをしている―――今までの自分のぼんやりしっぱなしの状況に反省する。
「怒るわけじゃないけど、ちょっと心配でね。嫌なことでもあったのかなって」
心配そうな声色で、聖月の頭を撫でる宗祐にはある種の欲望すら感じない。ただそこには聖月を労わる想いだけが感じられた。髪の毛を優しく触られて、どくどくと心臓が早鐘を打つ。じんわりと汗が噴き、聖月は瞬きを繰りかえす。
「……」
どうしよう、と思った。ベットの上の小さな世界では、言い訳を思いつかない。それに間近にいる宗祐の顔は見れば見るほど美形すぎて緊張するし、近くにあるバスローブから見えるはだけた健康的な肌にドキドキしっぱなしだ。
優しく心配してくれる宗祐に、聖月はしばらく悩んだが、少しだけ自分のことを話すことにした。こんなことを、客に今までしたことがなかった。
「友達を…傷つけてしまって」
聖月は漠然とそう話す。傷つけてしまったとか、そういう次元ではないが、そうとしか言えなかった。聖月の言葉に、宗祐は目を細めた。
「友達じゃなくなったのかい?」
宗祐の質問にはっとなる。二人の視線が交わり、宗祐が息を吐く。聖月は「そうじゃないんです…。許してくれたんです…友達に戻ってくれたんです」と息が詰まりそうになりながら答えた。
「友達に戻ってくれたということは、告白でもされたの?」
図星すぎる言葉に、顔が真っ赤になってか硬くしてしまう。聖月の様子に宗祐は「ビンゴだ」と笑った。耳元に囁きかける笑い声は、頭の中が飽和状態になる。
「セイくんはそれを断ったんだね」
まるでエスパーのようだった。図星を刺されて、聖月は言葉をなくす。
なんでそんなに分かるんだろう?と、思っていたことを聖月は顔に出していたのだろう。宗祐は「これでも、上に立つ人間だからね。表情を見れば分かるよ」と笑う。聖月は自分の顔は無表情なのに、よく分かるなと思った。
ふいに宗祐に背中ごとぎゅっと抱きしめられ、背中に感じる熱を強く感じた。
身体の触れ合いを直に感じ、聖月はこれまでにない緊張を体感する。
「…だいじょうぶ。きっとその子は許してくれるよ」
熱い抱擁に、頭が沸騰しそうだった。バスローブだけの身体の絡まりは、殆ど裸同然の抱き合いと同じだった。自然に足を絡めとられ、密着させられて、宗祐という人の存在をはっきりと感じた。体温が上がっていく状況に、聖月はカチカチに硬まった。
大胆な宗祐との触れ合いに、脳内が煮えたぎる。宗祐の大きな身体にすっぽりと収まっている自分がなんだかあやされている子供みたいだった。いや、実際はそうだったのだろう。宗祐の聖月を背中を撫でる仕草には、欲望ではない慈愛が含まれたものだった。
今まで宗祐と一切こういう触れ合いはなかった。
―――もしかしなくても、慰められているのだろうか。
ふと思ったことに、聖月は気分が落ち込んだ。それがどうしてかは分からなかった。
「…そう、でしょうか…」
聖月の声は震えていた。宗祐が励ましてくれている。だけど、でも。
「俺……でも、…絶対に、取り返しつかないことをやってしまって…」
十夜を傷つけた。
―――なんで……?
そう呟く、信じられないといった顔をした十夜が、こちらに近づいてきたのを昨日のことのように思い出せる。今いる自分が誰だか、わからなくなる。あの感覚。
――――聖月……なんで…?
泣きながら、十夜は聖月に問う。聖月にもわからなかった。なんでこんなことになったのかも。
―――DVDを問い詰めたら、アイツは白状した…。聖月は、ディメントで働いているって。あの親父はお前を犯してるって
彼は涙を流し、声は震えていた。あのいつも軽口ばっかりで、笑っているカッコいいヒーローみたいな十夜が泣いている。…俺のせいで。俺が悲しませた。俺のせいで十夜は辛い思いをしている。それだけが、あのときの聖月の中にはあった。
「…っぁ…」
今までのことが一気に蘇り、耐えきれず涙が零れた。一度壊れた堰は、もう止まらせてはくれない。聖月は、ボロボロと涙の雫を零した。それは宗祐のバスローブを濡らしてしまうほどに、泣いてしまった。
うわ、どうしよう…、とまれ、とまれ…!
慌てるも、なかなか涙は止まってはくれない。むしろ溢れてとまらない。客である宗祐の腕のなかで泣くなんて普通にディメントの蝶としてあり得ないことをしている。子供みたいだし、二十歳をすぎた男がやる行為ではない。
「ご、ごめん…な…さ…」
たまらなくなって顔を手で覆おうとしたときだった。自分の顔が宗祐の胸に飛び込んだのは。
「っ?!」
「…大丈夫。泣いていいから」
宗祐の匂いが、聖月を包み込んだ。大人の匂い。宗祐さんの匂い…。
聖月は頭をぽんぽんと優しく叩かれて、堪らなくなって涙が溢れた。宗祐の筋肉質な肌と、安心する彼の香りは弱った心の聖月を温かくするのにはたやすかった。足をもっと深く絡めとられ、密着が強くなっていたが、号泣している聖月にはそんなこと気にする暇もなかった。
宗祐は優し気な顔をして、目を細め、涙で濡れるバスローブを感じていた。
うわーんうわーんと、今までの溜め込んでいた想いを爆発させ、大声で泣きじゃくる姿は―――まるで子供のように泣く聖月は、普段よりも幼くさせた。鼻水もでかかったが、聖月はぐっとこらえた。宗祐の胸にかかってしまうのは、かなり失礼だと泣きながら思ったから。
宗祐は大声で泣く聖月の頭を撫でていた。それは聖母のような慈愛に満ちたもので、聖月は子供のころ母親に転んで泣き叫んだ自分を撫でてくれた思い出がよみがえる。
聖月と宗祐、2人だけの空間に、聖月がわんわんと泣く声だけが響く。
やがて、聖月の涙が枯れ果てた後、宗祐は口を開く。
「すっきりした?」
宗祐に顔を覗き込まれ、聖月はグチャグチャになった顔で彼の色気のある彫りの深い顔立ちを見て急に恥ずかしくなった。
「えっ、ぁ…、おれ…っ」
今までしてしまった行為を思い出し、聖月は目に見えて動揺する。顔を真っ赤にし、無意識に宗祐から離れようとする。だが、宗祐との絡みついた脚は簡単には離れはしなかった。宗祐は、聞き慣れぬ笑い声でククッと声をあげた。
「君がそんなに動揺したの初めて見た」
いつもは無表情だから、新鮮だよと宗祐は言う。
「え、ぁっ! 俺、お客様の前で、なんてこと…」
慌てている聖月に、宗祐は完璧な笑みを浮かべた。
「平気だよ。もっと泣いても大丈夫だったけど」
「…ッ」
もう平気?と、聖月を労わる宗祐がとてもキラキラして見えた。本当にこの人は、他の客とは全く違う。なんでこんなに、優しいんだろう。なんでこんなにカッコいいんだろう。聖月は涙を拭き、頷いた。徐々に冷静になるにつれ、自分の置かれている状況に頭がおかしくなりそうだと思う。
宗祐とはバスローブ姿で絡み合っているようにベットの上にいるし、すごく彼のいい香りがするし、宗祐との顔の距離は近いし、先程までカッコ悪く泣いてしまったし。
意識すると、宗祐と絡み合った脚が少し動くと自分の熱が熱くなった気がした。
「…セイくん?」
宗祐に不思議そうな顔をされて、聖月ははっとなる。
「…硬くなってる」
えっ、と思わず声をあげる。宗祐の目線でやっとわかった。自分の性器が反応していることに。聖月はかあっと顔を赤面させる。まったく気付かなかった。そして、滅茶苦茶恥ずかしい。今すぐにでも逃げ出したいぐらいに。
「ぁ、あ、おれ…ッ」
声が裏返り、自分の動揺が思わぬところまでいったと感じた。宗祐は優しく形のいい唇をあげると「反応しちゃったんだね」と、特に気も留めない様子で言った。自分の脚と反応している部分が触れ合っているのに聖月をはやしたりはしなかった。思わぬディメントの客ではありえない反応に、聖月は身体がなぜか震えた。
宗祐の脚が反応している部分を刺激するように動いた。聖月は身体が熱くなり、スパークするような感覚が襲った。
「え…」
聖月はあることに気づいて目を見開く。いつもだったら、感覚が失うはずなのになんで…?
「一回出しちゃった方がいいよ」
宗祐の大きい手が、衝撃を受けている聖月を置いていつの間にかバスローブに侵入していく。
「あ?!」
下着越しに性器を握られて、聖月は身体を反らす。―――ありえない。こんなの、ありえない。聖月は自分の感覚が戻っていることに気づきパニックに陥った。暴れる聖月を抑え込み、宗祐はあくまで紳士的だった。
「セイくんが出しても何もしないから安心して」
「ち、ちが…! んぅっ」
身体が熱い。嫌だ、怖い。いつもと違う。聖月は涙目になって、宗祐の手から逃れようとする。だけど、脚を絡めとられ、動揺している聖月に力が勝るわけがない。性急ではないが、ただ逃がしもしない手つきで下着を降ろされる。聖月が味わったこともない感覚だった。性器を柔らかく握られ、その衝撃に耐える。
硬くなった自身をリアルに感じた。いつもだったら、何も感じないのに。冷たくて、何もない詰まらない先生の話を聞いてるようなそんな感じだったのに。自慰だって気持ちよくなれないのに。聖月は4年ぶりの快楽の波に、何もできずにどうしようもできずにいた。
汗がべっとり張り付く感覚、やがて上下に性器が動かされる感覚、頭が真っ白になる感覚、演技じゃなくて喉から溢れだす妙な自分の声。すべてが、初めてで。すべてが、夢のように気持ちよくて。
「…っ、ぁ…ぅ~……」
頭が真っ白になる。宗祐の息遣いが近くに聞こえる。身体が、馬鹿みたいに気持ちイイところを擦るたび撥ねる。声も貌も何もかもがうつろで。
なんか、くる…!
絶頂が近づくと、聖月は首を振る。唸り声をあげて、宗祐に怖いと訴えた。こんなこと今までなかったから、宗祐の腕にしがみつくことしかできない。新しい感覚がくるたび、頭が狂いそうだった。
だけど、宗祐は手を動かすのをやめなかった。液が溢れ、ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てている。自分が自分ではなくなってしまう感覚。こんなこと、初めてだ。聖月は、小さく声をあげると、身体を反らす。頭の中に、感じたこともない甘い電流が流れた。
それは、長年感じなかった『絶頂感』だった。脳内に快感の渦が弾け飛ぶ。聖月は息を吐きながら、自分の精を宗祐の手に吐き出す。甘い余韻は、ずっと聖月に残り続けていた。
「気持ちよかった?」
宗祐が、ティッシュで聖月の残滓を拭い取り、乱れたバスローブを宗祐が整えてくれても聖月の頭は霧がかったままだった。絶頂感の余韻は抜けない。宗祐の問いかけに、聖月は頷く。気持ちよかった感覚が、まだ、残ってる…。
「…そうか。よかった。じゃあ、寝るか」
宗祐は、そう言ってぼうっとしてる聖月の頭を引き寄せまた胸にうずめる。あんまりにもあっさりしていて、聖月は、普通だったらありえない宗祐の奉仕的すぎる行動が、普通に思えた。正確な判断ができないほど、聖月に与えた衝撃は大きかった。
「……はい」
聖月は頷き、まだ息が上がって頭が蕩けたまま、瞼を閉じる。
「おやすみ」
背中を優しく叩かれ、聖月は早まる鼓動を抑えようと息を吐き、また吸った。目の前は真っ暗だけど、聖月は宗祐の熱をはっきり感じた。宗祐の香り、きっと高級な香水の匂いだろう。それが、なんとも言えず落ち着いて。ぼうっとした頭では、先ほどの出来事について何も考えられなくて。
聖月は自分の身体に起こった異変を遠くの出来事のように思いながら、宗祐の密着した温かい体温に身を委ねたのだった。
さっきのことは、今までの感覚麻酔が引き起こした副作用だったのかな―――。
聖月は、ぼんやりとそんなことを思いながら、意識を手放した――――。
◆ 『アドレナリンと感覚麻酔』 第9話 END ◆
第10話に続く…
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