アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第三章 第十三話

131 十夜の涙

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それからは、もうあまりに思い出したくない事ばかりだった。十夜の事を話しながら、口で奉仕散々奉仕させられた。聖月を一度も射精させないで、橘は追い詰める。こんな仕打ちをされるんだったら、鞭を使われた方がマシだった。NG要項を避けて聖月を追い詰める姿はまさに狂気(ディメント)に染まっていた。
 多分この人は十夜のお父さんなんかじゃないのだろう。そう願う聖月は、まさに精神が、感覚が、マヒしていた。
 朝まで奉仕を続けて、やっと終わったころには聖月は気絶していた。起きたら大量の万札がベットにばらまかれていて本気で殺意が沸いた。そして、どろりとした液体が自分の孔から溢れてぞっとする。気絶した聖月を犯したことが分かり、そんな自分を見たら惨めすぎて自然にボロボロと涙が流れた。
 体液で汚れた性器を見て、聖月は吐きそうになる。
「ぉれ…」
 ずっと奉仕のために口を開いていたから顎が動かない。上手く喋れない。
 ―――俺、感じてた。
 橘の手で、気持ちいいと思ってしまった。勃起してしまった。出したいと、懇願してしまった。その事実に聖月はのたうち回る。身体に万札が張り付いて取れない。そんな事なんてどうでもいい。聖月はぐちゅぐちゅに汚れたベットを何度も殴る。
 カーテンから漏れ出る朝日は聖月を輝かせていた。
「ううぅううう~~~~っ」
 聖月は喉奥から咆哮した。―――頭が痛い。今日はどんな天気なんだろう。今、自分はどこにいるんだろう。頭が混乱して、気持ちの悪い橘の声が反響する。
 ―――触れるたびに処女みたいに身体が跳ねて気持ちいいのかな?
 ―――まるで今までのが演技だったみたいに、敏感だねぇ。興奮するよぉ…。
「おぇっ」
 聖月は思わず不格好な足取りで洗面台に駆け込んだ。そして指で喉に張り付いた橘のザーメンを取り出さそうとする。だが、そんなことは出来ず、異物感に吐き気と共に胃液が溢れ口を押さえる。
「ひ、ひぃ…ッ、もうやだ…ぁ」
 聖月はその場で崩れ落ちた。身体には万札が張り付いている。他の人がみたら、度肝を抜く格好で子供のように泣いた。地獄のような光景だった。内ももを伝う橘の体液に、身の毛がよだち、聖月はそのまま泣きつかれてその場でまた眠りに落ちた。ベットには大量の万札、そしてそれを朝日が眩く照らしていた。
 
 
「いるかよこんなんっ」
 机にあったものを、嫌々ながら持って帰った聖月は寮の自室に戻ってからゴミ箱に投げ捨てた。
『ディメント卒業おめでとう』
 聖月が起きると、机には橘の字だと思われる置手紙があり誰でも知っているそしてその隣には高級ブランドの箱が置いてあった。見ずにそのままホテルで捨てようと思ったが、問題になったらまずい…そう思い寮に持って帰ったがいいが、箱を開けたらキラキラした腕時計があり目を剥いた。
 一体いくらなんだろう―――。これが、税金だと思うとやるせなくなり、ため息を吐く。
「はぁ…、」
 ゴミ箱に入れた箱を、聖月は手に持ちベットの上に置いた。
「今日が…やぅゆ、でよかったぁ…」
 自分でも何て言っているかわからない。今日大学が休みでよかった。とにかく顎が痛い。これで顎が外れていたら、橘に慰謝料を請求してやる。そう決意して、持って帰った万札の束を一瞥する。
「……っ」
 ――――俺、感じちゃった…。
 体液はシャワーで洗ったが、自分が汚れた存在なのではないかと思ってしまう。こんな汚れた存在が、人を好きになってしまっていいのだろうか。宗祐に会いたいと思っていいのだろうか。そう思ったら空気が抜けた風船のように気持ちが萎んでいく。
 今までは客に感じないから、ディメントでもやっていけていたし、それに何より自分は他の人とは違うんだ。快楽に屈しない人間なんだ。そう思ってきたのに、先程自分の行動でそのプライドが打ち壊された。聖月は、結局一度も射精出来なかった性器を意識する。
 身体は正直だった。意識すれば、簡単に、熱を持つ。今は自分の部屋で、誰もいない。聖月は熱い息を吐き出して、ズボンをずらし、下着に手を入れる。性器を掴み、上下に擦る。
「っ」
 ―――気持ちいい。頭が快楽に染まる。足を大きく開き、口を閉じて自ら快楽を貪る。
 ―――…脚を開いて可愛いね。
 好きな人の低い声が脳で響く。じらされ続けた聖月の性器はもう限界だった。
「―――ッ」
 身を震わせ、絶頂感を味わう。少量の精が、手に吐き出された。聖月は急に恐ろしくなり、白濁をテッシュで拭う。
「…キモッ」
 片思いの人でオナニーをしてしまった。やってしまった…という罪悪感がすごくて、思わず痛む顎を動かし呟いた。気持ち悪い…、そう吐き捨てたその声は虚しく聖月の部屋に反響した。自分がディメントに染まった、そう考えたら怖くて仕方がない。
「……」
 ベットに寝っ転がり、そのまま枕として使っているクッションを握り、聖月はずっと部屋が暗くなるまで震えていた。
 

 
「聖月」
 次の日。大学の学食でメロンソーダを飲みながら人を待っていたら、その待ち人から声がかかる。聖月は、振り返ってから思わずじっとその親友の顔を見詰めてしまった。
「十夜…」
 何度見ても相変わらずイケメンだ。隣のテーブルに座っていた女子たちが一気に「ラッキー!」「法学部の喜多嶋くんだ」「イケメンだねぇ」と黄色い歓声を上げ、まるでアイドルを見るようなキラキラの視線を送っている。十夜はそれが日常なので特に気にすることはなく、持ってきて置いたコップの水を飲んでいる。
 …相変わらずだなぁ。
 やはり十夜が居ると、その場の空気が変わる。聖月はオーラのある友人に、口を開いた。
「久しぶり」
「いうて3日前ぐらいに会ったけどな」
「確かにそうだね」
 ここ最近色々なことがありすぎて、時間間隔がおかしくなっている。笑った十夜に、聖月は本題を投げかけた。
「ディメントあと3か月で辞める事になった」
「…え?」
 聖月の周りに聞こえないように小声で言った言葉に十夜が驚き、手に持っていたコップを落とした。カランコロンと、床にぶつかる音が食堂に響き渡り自然と人の眼が集まる。何も入ってなかったので大惨事にはならなかったが、突然の出来事に2人して大慌てになる。
「ギャーッ、マジでごめんッ。水かかってない?!」
「俺こそ何の前触れもなく言ってごめんなさいっ、俺は大丈夫ッ」
 あまりに十夜が謝るし慌てるもんだから、珍しい光景に聖月はそれが面白くなって大爆笑してしまう。
「ふ、ふ、あはははッ」
「な、なに人の失敗見て笑ってんだよ……。―――…そうか。よかったなぁ、よかったな、ホントに……」
 コップを戻しながら、十夜は感慨深げに言った。その声があまりに優しくて、ほっとした声で聖月は泣きそうになる。最近はすぐに涙腺が緩むから困る。そう思っていたら、十夜の目から一筋の涙が流れた。
「あれ…、俺、どうしちゃった…?」
「じゅうや…」
 泣いている自分が信じられないのか、十夜は顔を手で覆いながら聖月に顔を見詰める。その顔は、今まで見た十夜の顔の中で綺麗だった。隣のテーブルの女子が心配そうにこちらを伺う。何だか、色々と申し訳ない気持ちで一杯になった。
「…最近俺泣いてばっかだなぁ。涙腺おじちゃんになっちった」
 冗談めいて笑みを浮かべる十夜に、聖月は胸が締め付ける。―――また十夜を泣かせてしまった。自分のせいで、十夜がまた泣いてしまったことに胸が痛くなる。
「……ごめん、」
「なんで聖月が謝んの? これは嬉し涙だから、…多分」
「………そうなの?」
「あぁ、なんか…よかったなぁ、って思ったから」
「そっか…」
 目を潤ませ満面の笑みを浮かべる十夜に、聖月も目頭が熱くなる。十夜には嘘を言っている様子はない。直接伝えることが出来てよかった―――心の底からそう思った。
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