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もう一人のツィーピア
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あの夢を見てから三日が経った。
ミネアは起きて直ぐに行動を開始し、荷をまとめて早朝の馬車に乗る。
エーデルが言っていた東の町へと到着すると、そこで情報を集めていた。
この世界に存在する、もう一人のツィーピア。ミネアと繋がりのある唯一の人。
「森に住んでる人?さあ……そんなやついたかねぇ」
屋台を出している女性に聞いてみても、首を傾げるだけ。
他にも色んな人に尋ねてみたけれど、みんな揃って知らないと口にしていた。
「そうですか……。」
ツィーピアの生き残り。やはり町には顔を出さず、一人で静かに生きているのだろう。
そんな人物に、本当に巡り会えるのだろうかと不安になってしまう。
その時、女性の後ろで木箱を持っていたおじさんが話を聞いていたのか口を開く。
「それって、ベルリルの事じゃないか?」
その言葉にミネアは目を大きくする。
女性はその名前を聞くと、ハッとした顔で手を叩いた。
「ベルリル……ああ!ベルリルか!確かにあの子は森の麓で暮らしているって言ってたねぇ!なんで忘れてたんだろうねぇ。」
思い出したかのように、女性はその名前を口にする。
ベルリル……それがもう一人のツィーピアの名前なのだろうか。
エーデルは山に住んでいると言っていた。ならばその人物がベルリルである可能性は捨てきれない。
「ありがとうございます」
ミネアはぺこりと頭を下げて、山の方へと歩き出した。
町から山へと徒歩で向かう。
今日は随分と日が照っているせいか、マントを脱ぎたくなるような暑さだ。
一人で世界を彷徨うようになってから、ミネアはかなり体力がついた。
ヴィルエイムといた時よりも、筋肉は発達し何時間も歩く事が出来る。
二時間程で山の麓まで辿り着いたミネアは、ふうと一息着きながら辺りを見渡す。
当たり前だが、周りは木々で覆われていた。
自然を直に感じられ、風通しも良い。
肺にたっぷり流れ込んでくる酸素はミネアの心を落ち着かせる。
「この辺にベルリルさんの家があるはず……って言ってもさすがにすぐには見つからないわよね。」
ここからは根気と根性で探すしかないと、そう意気込んだ刹那、目の端に何やら建造物を見つける。
木々の中に隠れるようにその建物は存在していた。
木で造られたログハウス。
それ以外、家らしきものは見つからない。
もしかして、とミネアは期待するが、独りで暮らすには少し大きいようにも感じる。
ベルリルはツィーピアの生き残りだ。
誰かと共に暮らしているとは考えにくい。
それによく見るとログハウスはかなり年季が入っている。
新築にしては、木が古びている箇所も多い。
本当にこのログハウスに探し人がいるのかと不安になりつつも、他に手がかりは無いのでとりあえず向かって見ることにした。
ログハウスの前に立つ。
真近で見ると、思ったよりも大きくて趣のある家だ。
玄関は固く閉ざされていて、中の様子を伺う事は出来ない。
外からでは何も見えないようになっているのだろうか。
ミネアは意を決して扉をとんとんとノックする。
人気のないこんな山の麓にある、立派なログハウス。
どんな人が出てくるのだろうかと、ミネアはソワソワした。
「はーい、少しお待ちを」
中からは青年の声が響く。
カタカタと足音が近付いてくるのに比例して、ミネアの心臓も高鳴った。
ガチャリ。
玄関の鍵が開き、ゆっくりと扉が動く。
「はい、なんの御用ですか?」
ミネアはその扉から現れた青年を見て、目を丸くさせた。
驚いたのだ。
何故なら、目の前にいる青年はあまりに普通の見た目をしていたから。
優しい栗色の髪に、サファイヤの瞳。
あまりにもごく普通な青年の姿。
違う、この人はツィーピアでは無い。
ミネアは直感でそう思った。ツィーピア特有の淡い紫色の髪も目も持っていない彼を見て。
見つけたかもしれないと、希望を抱いていたミネアは目の前の真実にただ呆然とする。
この人ではなかった。ミネアが求めていた人、探していた人物は彼ではなかった。
「あの……大丈夫ですか?顔色が悪いようだけれど……」
青年は、静かにミネアに近付く。
彼のゴツゴツとした手がゆっくりと伸びるその瞬間、ミネアは反射的にその手を跳ね除けた。
身体がびくりと動いたせいか、深く被っていたフードが静かに落ちる。
フードの中に隠していた紫色の髪が、彼の視界をよぎった。
「……その髪——」
しまった、とミネアは思った。
隠さなければならなかったというのに、見知らぬ人の前にこの髪を晒してしまった。
ツィーピアである証を見られてしまったのだから、ミネアの顔色はどんどん青ざめていく。
これまで人からの接触を避けていたというのに、こんなところで見られてしまうなんて。
急いで逃げなくては、と震えた足を動かそうとした刹那、青年はふっと肩の力が抜けたかのように微笑んだ。
「そういう事か。——君がミネアだね?」
その言葉に、ミネアは目を丸くさせる。
名前なんて名乗っていない。なのに彼は、ミネアを知っている。
「わざわざこんな場所まで探しに来てくれてありがとう。安心して、ミネア。——僕も君と同じ、ツィーピアだよ。」
ツィーピア?彼が?ミネアは戸惑う。
青年の言っている事が事実ならば、何故彼はツィーピアの特徴とも言える紫色の髪も瞳も持っていないのだろうか。
疑いを隠せないミネアの表情を見て、青年も何かを察した。
「ああ、そうか。人と話す時はいつもこの姿だったからつい忘れていた。」
そう告げると、青年はズボンのポケットから何かを取り出す。
手のひらに収まりきる小さな容器。そこに入っているのは謎の液体だった。
青年は容器の蓋を開け、その液体を直接眼球に差し込む。
「……!?」
ミネアは目の前の現象に驚愕した。
さっきまで青かった彼の瞳はみるみるうちに色が変わっていく。
美しい紫色の瞳。それはミネアの髪と同じ色をしていた。
「これで証明できたかな?僕は正真正銘、ツィーピアの生き残りだよ。」
そう話す青年は、ミネアに優しく微笑みかける。
その瞬間、ミネアの中でずっと強ばっていた何かがゆっくりと溶けていく気がした。
それはきっと、これまで抱えていた孤独。そして本当の自分を誰にも見せてはいけないという心の緊張。
「本当に、私と同じツィーピアなんですか……?」
恐る恐る、ミネアは尋ねる。
青年はそんなミネアを前に静かに頷いた。
「そうだよ。僕はベルリル。君と同じツィーピアの生き残り。そして君と同じく、最後の使命を果たす為にここにいるんだ。」
ベルリルは、ゆっくりとミネアに近づいて、彼女の手を取る。
どれくらいぶりだろう。こうして人の温もりを感じるのは。
ベルリルの温かな手がミネアの小さな手を包み込む。
彼の優しさとその温もりは、嘘偽り無いものなのだとミネアは悟った。
「ここまで一人で探してくれたんだね。ありがとう、ミネア。でももう大丈夫だよ、これからは僕がいる。同じ使命を抱えた者同士、僕達は一緒にいられるんだ。」
誰かと共に居られる。その言葉がミネアにとってどれだけ嬉しいものなのか、きっとベルリルは知らない。
愛する人を裏切って何ヶ月もの間、一人で森を彷徨って。孤独は辛かった。冷たくて喉の奥がキュッと締め付けられるようで。
何度も死にたいとすら、そう思った。
でもその度にヴィルエイムの顔が脳裏に浮かんで、もしかしたらいつかまた会えるかも、なんて淡い期待だけで今日まで生きてきた。
本当の自分なんて誰にも見せられなかった。
ツィーピアという罪を背負うには、一人では荷が重すぎて、息が詰まりそうだった。
でも、もう一人じゃない。
目の前にいる彼となら、同じ痛みを分かち合える。
もう一人で背負い込まずに済む。
それだけで嬉しくて、胸がいっぱいになって涙が溢れてきた。
「っ……うっ……うう…………!」
やっとこの重荷から少し解放されたような気がする。
それだけでミネアにとってはこの上なく幸せだった。
「だ、大丈夫!?痛い所でもあるの!?座って休もうか……?」
久しぶりに触れた、人の温かさ。
ミネアは、産まれたばかりの赤子のように声をあげて泣いた。
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになって、もう何も考えられないけれど。
今はただ、もう一人では無いのだという安堵に身を任せて。
ひたすらに泣きじゃくろう。
——ああ、やっとこの旅が終わるのね。
心の中でそんな事を思いながら、ミネアはこれまでの孤独を吐き出すように涙を流した。
ミネアは起きて直ぐに行動を開始し、荷をまとめて早朝の馬車に乗る。
エーデルが言っていた東の町へと到着すると、そこで情報を集めていた。
この世界に存在する、もう一人のツィーピア。ミネアと繋がりのある唯一の人。
「森に住んでる人?さあ……そんなやついたかねぇ」
屋台を出している女性に聞いてみても、首を傾げるだけ。
他にも色んな人に尋ねてみたけれど、みんな揃って知らないと口にしていた。
「そうですか……。」
ツィーピアの生き残り。やはり町には顔を出さず、一人で静かに生きているのだろう。
そんな人物に、本当に巡り会えるのだろうかと不安になってしまう。
その時、女性の後ろで木箱を持っていたおじさんが話を聞いていたのか口を開く。
「それって、ベルリルの事じゃないか?」
その言葉にミネアは目を大きくする。
女性はその名前を聞くと、ハッとした顔で手を叩いた。
「ベルリル……ああ!ベルリルか!確かにあの子は森の麓で暮らしているって言ってたねぇ!なんで忘れてたんだろうねぇ。」
思い出したかのように、女性はその名前を口にする。
ベルリル……それがもう一人のツィーピアの名前なのだろうか。
エーデルは山に住んでいると言っていた。ならばその人物がベルリルである可能性は捨てきれない。
「ありがとうございます」
ミネアはぺこりと頭を下げて、山の方へと歩き出した。
町から山へと徒歩で向かう。
今日は随分と日が照っているせいか、マントを脱ぎたくなるような暑さだ。
一人で世界を彷徨うようになってから、ミネアはかなり体力がついた。
ヴィルエイムといた時よりも、筋肉は発達し何時間も歩く事が出来る。
二時間程で山の麓まで辿り着いたミネアは、ふうと一息着きながら辺りを見渡す。
当たり前だが、周りは木々で覆われていた。
自然を直に感じられ、風通しも良い。
肺にたっぷり流れ込んでくる酸素はミネアの心を落ち着かせる。
「この辺にベルリルさんの家があるはず……って言ってもさすがにすぐには見つからないわよね。」
ここからは根気と根性で探すしかないと、そう意気込んだ刹那、目の端に何やら建造物を見つける。
木々の中に隠れるようにその建物は存在していた。
木で造られたログハウス。
それ以外、家らしきものは見つからない。
もしかして、とミネアは期待するが、独りで暮らすには少し大きいようにも感じる。
ベルリルはツィーピアの生き残りだ。
誰かと共に暮らしているとは考えにくい。
それによく見るとログハウスはかなり年季が入っている。
新築にしては、木が古びている箇所も多い。
本当にこのログハウスに探し人がいるのかと不安になりつつも、他に手がかりは無いのでとりあえず向かって見ることにした。
ログハウスの前に立つ。
真近で見ると、思ったよりも大きくて趣のある家だ。
玄関は固く閉ざされていて、中の様子を伺う事は出来ない。
外からでは何も見えないようになっているのだろうか。
ミネアは意を決して扉をとんとんとノックする。
人気のないこんな山の麓にある、立派なログハウス。
どんな人が出てくるのだろうかと、ミネアはソワソワした。
「はーい、少しお待ちを」
中からは青年の声が響く。
カタカタと足音が近付いてくるのに比例して、ミネアの心臓も高鳴った。
ガチャリ。
玄関の鍵が開き、ゆっくりと扉が動く。
「はい、なんの御用ですか?」
ミネアはその扉から現れた青年を見て、目を丸くさせた。
驚いたのだ。
何故なら、目の前にいる青年はあまりに普通の見た目をしていたから。
優しい栗色の髪に、サファイヤの瞳。
あまりにもごく普通な青年の姿。
違う、この人はツィーピアでは無い。
ミネアは直感でそう思った。ツィーピア特有の淡い紫色の髪も目も持っていない彼を見て。
見つけたかもしれないと、希望を抱いていたミネアは目の前の真実にただ呆然とする。
この人ではなかった。ミネアが求めていた人、探していた人物は彼ではなかった。
「あの……大丈夫ですか?顔色が悪いようだけれど……」
青年は、静かにミネアに近付く。
彼のゴツゴツとした手がゆっくりと伸びるその瞬間、ミネアは反射的にその手を跳ね除けた。
身体がびくりと動いたせいか、深く被っていたフードが静かに落ちる。
フードの中に隠していた紫色の髪が、彼の視界をよぎった。
「……その髪——」
しまった、とミネアは思った。
隠さなければならなかったというのに、見知らぬ人の前にこの髪を晒してしまった。
ツィーピアである証を見られてしまったのだから、ミネアの顔色はどんどん青ざめていく。
これまで人からの接触を避けていたというのに、こんなところで見られてしまうなんて。
急いで逃げなくては、と震えた足を動かそうとした刹那、青年はふっと肩の力が抜けたかのように微笑んだ。
「そういう事か。——君がミネアだね?」
その言葉に、ミネアは目を丸くさせる。
名前なんて名乗っていない。なのに彼は、ミネアを知っている。
「わざわざこんな場所まで探しに来てくれてありがとう。安心して、ミネア。——僕も君と同じ、ツィーピアだよ。」
ツィーピア?彼が?ミネアは戸惑う。
青年の言っている事が事実ならば、何故彼はツィーピアの特徴とも言える紫色の髪も瞳も持っていないのだろうか。
疑いを隠せないミネアの表情を見て、青年も何かを察した。
「ああ、そうか。人と話す時はいつもこの姿だったからつい忘れていた。」
そう告げると、青年はズボンのポケットから何かを取り出す。
手のひらに収まりきる小さな容器。そこに入っているのは謎の液体だった。
青年は容器の蓋を開け、その液体を直接眼球に差し込む。
「……!?」
ミネアは目の前の現象に驚愕した。
さっきまで青かった彼の瞳はみるみるうちに色が変わっていく。
美しい紫色の瞳。それはミネアの髪と同じ色をしていた。
「これで証明できたかな?僕は正真正銘、ツィーピアの生き残りだよ。」
そう話す青年は、ミネアに優しく微笑みかける。
その瞬間、ミネアの中でずっと強ばっていた何かがゆっくりと溶けていく気がした。
それはきっと、これまで抱えていた孤独。そして本当の自分を誰にも見せてはいけないという心の緊張。
「本当に、私と同じツィーピアなんですか……?」
恐る恐る、ミネアは尋ねる。
青年はそんなミネアを前に静かに頷いた。
「そうだよ。僕はベルリル。君と同じツィーピアの生き残り。そして君と同じく、最後の使命を果たす為にここにいるんだ。」
ベルリルは、ゆっくりとミネアに近づいて、彼女の手を取る。
どれくらいぶりだろう。こうして人の温もりを感じるのは。
ベルリルの温かな手がミネアの小さな手を包み込む。
彼の優しさとその温もりは、嘘偽り無いものなのだとミネアは悟った。
「ここまで一人で探してくれたんだね。ありがとう、ミネア。でももう大丈夫だよ、これからは僕がいる。同じ使命を抱えた者同士、僕達は一緒にいられるんだ。」
誰かと共に居られる。その言葉がミネアにとってどれだけ嬉しいものなのか、きっとベルリルは知らない。
愛する人を裏切って何ヶ月もの間、一人で森を彷徨って。孤独は辛かった。冷たくて喉の奥がキュッと締め付けられるようで。
何度も死にたいとすら、そう思った。
でもその度にヴィルエイムの顔が脳裏に浮かんで、もしかしたらいつかまた会えるかも、なんて淡い期待だけで今日まで生きてきた。
本当の自分なんて誰にも見せられなかった。
ツィーピアという罪を背負うには、一人では荷が重すぎて、息が詰まりそうだった。
でも、もう一人じゃない。
目の前にいる彼となら、同じ痛みを分かち合える。
もう一人で背負い込まずに済む。
それだけで嬉しくて、胸がいっぱいになって涙が溢れてきた。
「っ……うっ……うう…………!」
やっとこの重荷から少し解放されたような気がする。
それだけでミネアにとってはこの上なく幸せだった。
「だ、大丈夫!?痛い所でもあるの!?座って休もうか……?」
久しぶりに触れた、人の温かさ。
ミネアは、産まれたばかりの赤子のように声をあげて泣いた。
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになって、もう何も考えられないけれど。
今はただ、もう一人では無いのだという安堵に身を任せて。
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※1日おきの更新です。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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