裏切り者

詩織

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「どういうこと!?」

「だからそのままだろ!」

「解らないよ!それじゃ」

「よく言うよ!裏切っといて」

真也しんや!!」

何がどうなってるかさっぱり解らないよ!

何で私が裏切り者?

付き合ってる彼、吉野よしの真也に今裏切り者と言われてる。彼とは付き合って3年。同じ会社の同期で本当に仲よくやってた。

それなのに…

「じゃな、裏切り者!」

そう言って居なくなってしまった。

これって、振られたってことだよね?

何がどうなってるの!?

道中真璃みちなかまり、28歳。突然の別れに困惑してる。LINEも電話もしたが全く取り次いでくれない。

そして翌日には


「えー?道中さんが二股?」

「吉野さん、可哀想」

と、社内でもそういう声が聞こえる。

「誰とでも寝るって話だよ」

「まじか!?俺お願いしようかな」

な、なにこれ!?

私が何したって言うのよ!!



「先輩!」

後輩の元木卓也もときたくや、そして彼女で同じ会社の松田理依まつだりえ。まだ入社3年目の2人はよく私を姉のように慕ってくれる。

その日の終業後3人で会ってカフェにいく。

「どうなってるんですか?先輩が裏切り者、浮気者扱いで」

「うちの部署でもその話してる人いました。何がどうなってるんだか…」

「私が浮気したってことみたいだけど」

「…先輩」

「全く身に覚えが…」

2人も困惑してる。

「そんな噂すぐなくなりますよ」

と、励ましてくれた2人だったがしばらくは一向に収まる気がなかった。それどころか

「吉野君!今日うちにきて!」

離れた席に真也がいて女子社員に誘われて

「いいよ」

って、答えてる

「やったぁー!!」

と、喜ぶ女子社員。

それからは、真也は女子社員のお誘いとあれば何処にでも行っている。元々容姿のいいのでフリーになったとたん、お誘いがひっきりなしにある。

「…」

そして、社内メールには、裏切り者さんと、宛名が書かれたメール、俺にもやらせてという人や、私が心身共に折れるのは時間の問題だった。




元木君と松田さんだけ私を見送ってくれた。

「こんなの…、悔しいです!」

「私たちのキューピッドもしくれたのに、そんなお世話になった道中さんのお役に立てないなんて」

「いいの。2人だけでもこうやって最後に見送ってくれたのが嬉しい。ありがとね」

こうして9年勤めたシステム部に所属してた会社を退職した。





それから3ヶ月後

私は山や海が見える都心から飛行機で行くくらいの距離の住居に移し、今はペンションの仕事をしている。

何もしたくないってのは、1ヶ月は出きるけど、お金持尽きるし働くしかない。私のことを知らない街に引っ越そうと思い、1ヶ月前にここに来た。

「じゃ、これお願いね」

「はい!」

30代前半の若い夫婦がオーナーのペンションで、都内からのお客さんも少しはくるけど、どちらかというとダイビング目的とかが多い。

私も取りたいなと思ってる。


「じゃ、紹介するよ」

オーナーの蒲田良二かまたりょうじに、ダイビングスクールを紹介され、休みの日は行くようになった。

オーナーとオーナーの奥さんの奈津子なつこさんとは、そのダイビングスクールの人とは付き合いが長いらしい。

「よろしくお願いいたします」

「あー、良二の紹介でしたっけ?」

「あっ、はい!」

筋肉質の脂肪が全然ない体型の男性に声をかけられ、ドキッとする。

なんちゅーいい身体してるのよ!

と、マジマジ見るのは失礼なんで、早速準備をし講習を受ける。私以外にも3人いた。

今は何かを集中することで、色々紛れるので集中して覚えようと必死だった。


「あのさー」

「は、はい」

「そんなに必死にならなくっても難しくないから!もう少し気楽にやってよ」

「あっ、すいません」

「別に謝ってほしい訳じゃないから」

怒ってるとも冗談とも思えない顔で言われた。

いい身体のオーナーの知り合いは、木原大翔きはらやまとと言うらしい。

次の講習もまた木原さんだった。そのときは私を入れて2人だけ。

ほぼマンツーマンの指導となった。

「こうしないと、呼吸できなくなるから、ここはしっかり確認してからお願いしますね」

親切、丁寧に説明をしてくれる。とても解りやすい。

講習も終わり、近くの海によってボーとしてた。

こんな綺麗な夕陽とか見れるのって都心ではなかったもんな。

自然と涙が出てくる。

私、ここで頑張るって決めたんだもん!もう振り返らない!!

そう思っても涙が止まらない。

「…」

誰か居るのを感じ振り向くと

「き、木原さん!?」

「…どうしたの?」

「あ、いえ、夕陽が綺麗だなーと」

「夕陽が綺麗で泣かないでしょう」

砂浜に座ってる私の横に座り

「俺もそうだが、今までの生活に疲れてここに移住してきてる人もいる。みんな過去は色々あるんだ。あんただけじゃない」

「…」

「もう少しでライセンス取れるから、そしたら海潜ればまた世界も変わるかもしれないぞ」

「…はい」

そう言って木原さんは立って戻って行った。



「真璃ちゃんがライセンスとったら皆で潜ろうよ」

オーナーも奥さも持ってるので皆でいこーって話をしてくれて、それも楽しみになっていた。

そしてライセンスを取得してすぐに実行された。

オーナー、奥さん、木原さんと4人で行くことになった。

私はまだ浅いので木原さんが着いてくれると言う。

まずは、オーナーと奥さんが潜った。

少しして

「準備できた?」

「はい!」

そう言って木原さんと潜った。

木原さんはゆっくり動いてくれてるので本当に助かる。そして手をとって誘導してくれた。

わぁーー!!凄い!なにこれ!?

洞窟の間から光が漏れてるのが神秘的。すごい綺麗!!この辺はダイビングスポットと聞いてたけど、ここは本当に来て損はない。

ドキドキと美しいさに魅了されしばらくは、言葉を失う。

木原さんに指を指され、この先も行くようだ。この先には魚たちが集まって輪になっていた。オーナー夫妻もそこにいて4人でその光景を見ることができた。


「す、凄いです!!」

興奮しまくりの私。

オーナー夫婦は大笑い。

「でも、気持ちわかるな。私もはじめての時はそんな感じだったから」

「こんな世界があるんだ…、なんか小さいこと悩んでたのとかってアホらしくなる」

「そーだよね。そうなるよね」

私たちが話ながらかたづけてるのに対し、木原さんは黙々と片付けて、ボートを移動させてる。

「また来ようね!」

「はい!明日にでも行きたい」

そう言うと奥さんにまた笑われた。




今日はほぼ満室だなー

ペンションでも9室もあるので大きい方だと思う。満員になると3人でドタバタする。今日の大半は木原さんダイビングスケールのを受講した人。宿泊が決まってない人にはペンションでよければと紹介してくれてる。

木原さんが車でペンションまで送ってくれて、車を降りるとお客さんでにぎわう。

「ねね、木原さーん!一緒に写真撮ってもらっていいですかぁ?」

女子大生くらいの3人が木原さんから離れない。嫌とも言えず一緒に写真を撮ってる。

「もしよかったら、連絡先とかー」

「あっ、どうぞお入りください」

奥さんがいいタイミングを見計らって言う。

話が中断されたので渋々ペンションに入って行った。「まぁ、明日もあるしね」という女子大生の声が聞こえる。

家族風呂くらいの大きさたけど温泉もある。それもとても人気。

お風呂は3つあるので、だいたいはどっかは空いてるので混まずに利用できる。

お客さんがお風呂なり、ちょっと買い出しなり、部屋で寛いでるときに我々は夕飯の準備のピークになる。

準備ができた部屋から電話して案内する。

お酒を飲む人が多く、今日に限ってはワインのボトルがかなり出て食堂全体が賑わった。お客さんが楽しそうに食べながら飲みながら談笑してるのを見ると、この仕事を選んでよかったなーと思うようになっていた。

翌日お客さんがダイビングスクールに向かうので、オーナーが車を出すので、私と奥さんは手を振って挨拶をした。

すぐに掃除をやってまた次のお客さんを迎える。毎日がこれの繰り返しだけど「また来ます」と言ってくれるお客さんがいると嬉しい。



「よいしょっと!」

砂浜に座り、缶コーヒーを飲んでひと休み中。

ここに来て半年がたっていた。

その間にオーナー、奥さん、木原さんたちと何度もダイビングに行ったり、ここならではのスポットも教えてくれたりと自分の気持ちに少しずつ余裕ができてきてた。

ここでずっと居たいなーとも思うように。


「…」

無言で人の気配を感じる。そういうときはだいたい木原さんだ。

後ろを振り向くとやっぱり…

「…なぁ、聞いていい?」

「えっ?」

「前、何でここで泣いてたのか」

「…」

「無理にはいいけどさ」

「…いえ、聞いてもらいたいです」

私なポツポツと話し始めた。

話を終えると

「…そか」

「…はい」

少し間があって

「彼は勘違いでもしたんだろうか?でもそれでもあんたを会社にいられなくするのは、やりすぎだな」

「…はい」

「…俺は、都内でサラリーマンしてたんだが、上司がミスすると俺に擦り付けるんだ。皆知ってても誰も文句を言えない。あまりに俺に責任をとらせるので上層部に言ったんだが取り合ってくれなかった。そんな感じかな」

「…そうなんですか」

今の木原さんをみると、サラリーマンなんて信じられないけど、でも都内で働いてたんだ。

「あんたもそうだが、助けてほしいときってどこなんだろうな。」

「…」

どこなんだろ?助けてほしいことろ。



以前にも増して木原さんと会うことが多くなった。…というか、木原さんがペンションによく来る。

「真璃ちゃんに会いたいとか!?」

奥さんはそういうけど、それはちょっと
信じられないでした。


「今度さ、飯いかね?」

えっ?

後ろでオーナーがみてて

「おおー!大翔!」

後ろで冷やかされるも小さい声で「はい」と答えた。



初めて2人で食事をして、そのあとは海辺に沿って歩いた。

「前言ったことあるじゃん」

「え?」

「助けてほしいところ。俺たちで支えあわね?」

「…支えあう?」

「まぁ、つまり…、付き合ってほしい」

!?

「あ、あの」

「そういうことがあったから、もしかしたらしばらくは恋愛はいいや!とかある?」

「あっ、そ、そうですね、意味わからないですからね。裏切り者って…、また意味わからないことがあったらと思うとちょっと怖いのはありますね」

「そうだよな。でも俺はちゃんと話は聞くし、そいつとは違うよ!」

それは…わかってる。

木原さんに惹かれてるのは確かにある。でもまだ踏み込めないでいた。でも、こんな機会滅多にない。

「友達からとかでも…いいですか?」

私が答えられる精一杯の返事。

「…ああ。問題ないよ」

私たちは、友達から交流をはじめた。

休みの日は、木原さんと会うのがどんどん増え、どんどんと充実してきた。

私が住んでるアパートにも来てくれたけど、まだ友達ということで何もせずに…、だけど木原さんのマンションにいってご飯を作ったりと少しずつ友達以上になりつつもあった。

2ヶ月もした頃、私のなかではもう木原さんでいっぱいになってしまった。口数が少ないから優しい言葉ってのはそこまでないけど、行動、態度で示してくれるので満足している。

いつものように、砂浜で海を見ながら話してると

「あ、あの…もし、あの…」

私は言葉に詰まってしまったけど

「これからは」

「それ以上でもいいってこと?」

木原さんに言われて頷こうとしたとき


「真璃!!!」

えっ!?

後ろを振り向くと真也がいた。
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