からかう

詩織

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「お前、ブスなんだからさ」

「…」

 ここは、学校…と言いたいけど、職場だ。

 こうやって、私をみると一言二言言う同期の男がいる。

 まだ小学校とかなら、からかうなんてこともあるがここは職場。しかもいい大人だ。

 はじめはお互いからかいあってそれが楽しいこともあった。からかいあっても仕事はいつもサポートしてくれるし助け合ったりもしていた。何でもテキパキできる彼に恋心を抱いていた。

 それがあることがきっかけで、からかうのがエスカレートして私は言い返すことすらも出来なくなっていた。


 私、松岡早苗まつおかさなえ27歳。建設会社のシステム部に所属。そして問題の相手、高下春樹たかしたはるき、26歳、同じ部署に所属。

 同期同士で飲み会があったりで、ワイワイ騒ぐ関係だった。ちょっかいを出しあって、それも高下とやるのは楽しかった。それが…

「ねぇ、高下、あんた松岡のこと好きなの?小学生だってこんな幼稚なからかいかたしないわよ!」

 と、女性の先輩に言われ

「はぁ!?俺がですか?誰がこんなブス専を!!」

 高下はそう言い、それから言うことがキツくなっていた。

 さすがに傷つき、返す言葉もなかった。それみてさらに

「なんだ?お前、自分がブスだって自覚したから逆らえないのか?マジこんな女好きになるとかありえねー」

 好きな人にこんなこと言われるなんて…

 それから私は言われてもガン無視するようになった。

 同期で飲みに行く集まりも私は不参加してる。もう高下とは会いたくなかった。


「おい!お前!今日化粧濃くね?まぁ、そうしないと外でれねーてか?」

 近くに来ると一言いう。

「おい!高下、いい加減にしろ!」

 先輩が注意するも

「あー、コイツ大丈夫ですよ!言われることが嬉しいみたいなんで!どんだけMなわけ?」

 鼻で笑いながら言う高下。

「…」

 もう、いやだ!!!

 私は席を立ち部署から走ってでてしまった。

 会社を出てとなりの公園のベンチに座る。



 昔はあんなんじゃなかったのに…

「お前バカだなー、だから覚え遅いんだよ!ほら貸してみな!」

 口は悪いけどいつも助けてくれて優しい。そんな彼が好きでたまらなかった。

「意地悪するのは好きって証拠だからね。高下は幼稚なのよ」

 私も思った。もし両想いならいいのにっとも思った。

 けどもう…

「松岡」

 !?

戸田とだ

同期の戸田将直まさなおがいた。

隣に座り

「大丈夫か?」

「…うん」

「こっちに向かってる松岡見たからさ」

「そか」

戸田は設計部なんで同じフロアではない。だけど

「あいつだろ?」

それですぐ解る

「…うん」

「俺はお前らが好きあってるんだと思ってたが…」

「…」

涙が溢れてくる。

戸田が背中をさすってくれる。

もう限界だった。


「辞めたい」

「松岡…」

落ち着くまで戸田がいてくれて、そして会社に戻った。


「大丈夫?」

戻ったら心配そうに言ってくれる同僚たち。

「はい、すいません」



その日少し残業して帰ろうとしたとき

「戸田?」

「飲みに行こうぜ!」

そう言って腕を掴かまれ、会社を出た。

居酒屋に入りお互い乾杯をする。

「こんな、いいの?戸田彼女いなかった?」

2人で飲みに行っるの見られたら…

「もうとっくに別れたよ!」

「えっ!?いつ?結婚まで考えてなかった?」

「あいつ、会社の既婚者の上司と不倫してて、それがバレてな」

「…マジで?」

写真でみたことあるけど、めっちゃ美人だった気がする。戸田も容姿いいし美男美女カップルじゃん!って写真みて皆で言ってたよな。

「まぁだいぶ前のことだし、吹っ切れたよ」

「そうなんだ」

「で、お前は?高下のこと好きなんだよな?」

「…」

「けど、最近のアイツは度が過ぎるな。お互いじゃれあってた時もあったからそのうちくっつくだろうと思ってたんだがな」

「…もう、限界かなー」

「…そか」

「他の人も気にしてくれるから、なんかみんなに迷惑かけちゃってて、もう辞めるかなーと」

「…」

「まだやってたかったんだけどな。仕事嫌いじゃなかった。」

「…松岡」

「この歳でイジメとか悲しいね…、戸田ありがとね!」

「…いや、何も出来ないでごめん」

その後はお互い学生時代の話しなどして話題を変え、2時間後には解散した。




「松岡のさ、同期のイケメン君いるじゃん!」

「え?」

先輩に声をかけられて、ビックリする。

「えっと…」

「ほら、えっと誰だっけ?名前忘れた。設計部の」

「あっ、戸田ですか?」

「あー!そうそう、その戸田君、高下にかなり言ってたよ!松岡にたいしての態度が酷いって」

「…そうなんですか」

「けど、高下も部外者は黙れ!とかいいだして、それで私とか数人で割に入って注意したけどね」

「すいません」

「いやー、それはいいのよ!でも高下全然反省しないからさ、困るわよね」

これ以上やっぱり、みんなに迷惑かけるわけには…


「課長、すいません。お話があります」

そう言って私は辞表を出した。

「松岡君…」

「長い間お世話になりました」

「松岡君はうちではなくてはならない存在なんだが」

「…すいません」

課長にそう言って貰えるだけでありがたかった。

その後課長と相談し今月いっぱいで辞めることとなった。

なるべくオープンには言わないようにしたいとわたしが言うと、課長も察したのか高下のことだとわかった。

「私も高下君には何度か注意してるんだがな。他の人からも酷いって話しは聞いてるので…、だが高下君はじゃれあってるだけなんでって言われてな。当の本人の松岡君から相談がないから高下君の言うとおりなのかと思ってた。だが、ずっと苦しんでたんだな。上司としてみることが出来ず申し訳なかった」

と頭を下げられる。

「そ、そんな…、私こそ皆様にご迷惑を御掛けしました」

もっと早くに相談すれば解決出来たんだろうか?とそんな疑問が残った。

引き継ぎはいつも声かけてくれる先輩で、高下とは同じ部ではあるけど課は違うので課内だけ数人が私が辞めることを知っている、

「ごめんね、守れなくって…、課長や部長にも言ったのになー」

「いえ、お気遣いありがとうございます」

課内は皆優しくって、よくしてれた。後輩の男性も何かあったらと心配して一緒に社食とかにも言ってくれた。

みんな本当にやさしい。



「そか、辞表だしたか」

「…うん」

またに飲みに付き合ってくれる戸田。

戸田にも助けられたな。

「戸田、ありがとね!高下に言ってくれたと聞いたけど」

「あー、アイツことの重大さに気づいてないみたいだな。まだたいしたことじゃないと思ってる」

「そーなんだ」

「そういえばさ、次の所は?」

「うーん、まだ決まってない。失業保険もあるし、少し貯金もあるからと思ったんだけど、やっぱり一人暮らしだからね。色々お金かかるし、今からだけど就活しないとって思ってる」

「そか。ならさうちの会社こない?」

「えっ?」

「うちってか、うちの親父の会社だけど」

「戸田って、社長の息子だったの!?」

「いやいや、30人弱の小さな設計事務所だよ!そのうち俺も親父の会社に戻ることになるけど。今はとりあえず修行の身だよ」

「でもいいの?」

「募集はしてないが、1人くらいならなんとかなると思う。年配の人数、数人いてPC 苦手な人も多いんだ。だからその辺詳しいなら親父としても助かるかもしれないし」

「そっか…、じゃもしよければお願いしてもいい?でも社長の息子の知り合いとか関係なくひいきなしでしっかり面接してね!」

というと戸田は笑って

「松岡らしいな」

と答えてくれた。


会社を遅刻して、戸田の紹介してくれたお父さんの会社に面談に向かうと

…なるほど。戸田ってお父さん似だなっと思ってしまった。

「話しは伺ってます。色々ご苦労されたようで…、うちの会社は少人数ですしこじんまりしてますが、そういうものはありません。あったとしても即対応します。長年やってるかたも結構しますし、若い子はそこまで多くはありませんが在職してます。」

「はい」

「松岡さん今後どのようなことをしたいとかありますか?」

社長さんに言われて私自身がやってみたいこと。そして今の会社でやりきれなかったことを伝えた。

20分くらいで面接は終わり、少ししたら戸田からLINEがきた。

『どうだった?』

『凄い親身になって聞いてくれてありがたかったよ。』

『そっか。じゃ松岡としては受かったら行きたいって感じ?』

『私でいいならお世話になりたいけど』

『大丈夫だよ!松岡は仕事しっかりやるし、すげー期待されてたんだから』


1週間後、採用の通知がきた。

まさか、転職に時間かかると思ったのにありがたかった。

退職してから1ヶ月後に入社となった。


「皆様、お世話になりました」

部の朝の朝礼で挨拶をする。

今日でここともお別れ。課内では送別会をしてくれた。他の課の人はほぼ知らなかったので

「えー」

なんて声も聞こえた。

その間も高下からはいじられてた。先輩が助けにきてくれたり後は

「おい!なんでお前たちが2人でいるんだよ?」

戸田と飲みに行くときに後ろから声をかけられた。

「2人でいちゃわるいのか?」

「はぁ!?お前、恋人と別れたからってそいつに乗り換えるの?随分レベル下げたな」

「お前にそんなこと言う必要はない!松岡、行こ!」

そう言って戸田は助けてくれたこともあった。

私が辞める理由はなんとなく解ってるのか、数人が高下をチラチラ見たりしている。

この会社ともお別れかぁー

あと数時間で定時にある。なんだかんだ思い出は沢山あって…

片付けも終わった頃

「お前、俺に耐えられなくって逃げるわけ?」

と、高下が言いにきた。

先輩がそれをみて言いに来ようとした。

だが

「そうだよ!もうね、あんたに耐えられなくって会社辞めるの!自分で何してるか解ってる?私はあんたに言われて心身ともに耐えられなかった!あんたなんか大嫌い!!」

今まで無視してた私は最後に怒りを込めて言い返した

「…」

言い返さない高下。

睨み付け、そして自分のパソコンの画面に向きをかえる。

「…た、ただの弱虫じゃん!」

私はそれ以上答えず、メールにて皆様に挨拶の文面を書いたり、中身の整理をしていた。

後ろで数回「お前みたいなメンヘラ他行っても使えないだろ!」とか後ろで色々言ってた。

すると

「高下君、いい加減にしなさい!君はじゃれあってると言ってたが、相手に不快な思いをさせてたなら間違いなくパワハラだ!君の行動は度がすぎる。」 

「…そ、そんなことは」

課長が入ってくれて高下は静かになった。

本当はイイヤツなのも知っている。もしかしたら昔はからかいあってじゃれあってたのが、私が無視してたことでキツくなったのかもしれない。それでもそのことが解らない高下には残念で仕方なかった。

本当に好きだったのにな。

定時になり挨拶し会社を出た。


「…戸田?」

「おう!お疲れ」

そう言って一輪のはなを差し出す

マジでキザ!!

クスッと笑うも、なぜか戸田には似合うんだよなー、そーいうの。

花束よりも印象強い!

「ありがとう」

花を受け取る

「1ヶ月ゆっくり休んでくれ」

「うん!」

「あーあ、俺松岡の後輩になるのかぁー」

後輩って、次期社長じゃん!っと思ってしまう。

「貢献できるように頑張るよ!」

戸田が笑みをこぼした時


「…お前ら、マジで付き合ってるのか?」

振り向かなくっても誰だか解る。

「お前には関係ないだろ!」

戸田が私の後ろに向かって言う。

「…ふーん」

「…」

「松岡行こう!」

戸田に肩を寄せられて駅に向かう。

「どうせ戸田が振るくせに!」

ほんと、最後の最後まで…

怒りよりも呆れてしまう。

「俺は振らないよ」

「…えっ?」

高下からかなり離れ、2人で歩いてるときにぼそっと言われた。

「俺は松岡を振らないよ」

「…あっ、まぁ」

…そうね、振るもなにも付き合ってないしね。

「…もしかして意味解ってないとか?」

「な、なに?」

「俺はそういう意味で言ったけど?」

「そういう意味?」

「そう、俺は松岡を女としてみてるよ!」

「戸田?」

「マジだけど」

それって、そういう意味だよね?戸田は見た目がイケメン中のイケメンだから私みたいな平凡以下の女を相手すると思わなかった。正直可哀想な同期を助けてくれてるけらいしか思わなかった。

「ゆっくりでいいから考えてくれない?」

と言われ

「…うん」

と答える。未だ信じられないけど



1ヶ月の間、ひとり旅なんてのも行ってみた。ショピングや映画、部屋の模様替えなど色々していた、そんなときに

「えっ…、こんなに」

実家か段ボールが送られてきて見ると、玉葱いっぱい入ってる。

これ、半分以上腐らせるよ…

どうしょう…

と考えてるとフッと戸田のことが頭に浮かんだ。

「…」

『戸田、次の週末うちにこない?実家から玉葱いっぱい送られてきてよければ料理食べて欲しいんだけど』

『え?いいの?』

『あまりうまくないよ!それでいいなら』

LINEで連絡して週末来てくれることになった。

私は初めて戸田をうちに招待した。



「お邪魔します」

「狭いけどどうぞ!」

夕方過ぎた頃、戸田はうちにきた。

1LDKのマンション、駅から徒歩10分。そして3階の角部屋。私には十分な部屋だった。

「まさか、松岡が招待してくれるとはな」

「アハハ、ごめんね、来てもらって」

「いや、俺はかまわないが…、あっ、酒買ってきた。俺この焼酎好きなんだ」

「ビールと、ワインならあるけど」

「いいじゃん、明日は俺も休みだし、死ぬほど飲んでやるよ!」

「じゃ、飲みまくろう!」

お酒の用意をしつつ、料理も出した。

「うおー、すげ料理の数…、玉葱いっぱい」

玉葱を使った料理を知ってる限り作った。

「料理はそれなりにやるけど、上手いとかじゃないからね。」

「それじゃ、かんぱーい!」

「どお?味?あわないかな?」

「いや、旨いよ!全然問題ないよ!」

「お世辞でも嬉しいよ!」

「馬鹿!そんなお世辞言わんよ!」

2人で料理を食べながらお酒ものみ、

「あー、そういえばさ、戸田が前言ってた映画、借りてきたんだ。観ない?私みたくって」

「うん、いいよ!観よう」

以前戸田が勧めてくれた映画をレンタルで借りてた。観たかったけど、いつの間にか映画終わってたとか言ってたので、借りてきて準備していた。

ホラーは好きじゃないんだけど、ホラーでも恋愛みたいなストーリー。

主人公の男性がめっちゃイケメンすぎる。見た目もだけど、性格ももう言うことない!

「いやー、かっこいいわ!」

と、画面をみる私に

「…」

急に視線を感じた。

「え?」

私は戸田をみると

「ねぇ、解ってる?」

「…えっ?」

「好意があるって言ってるのに、自分の家招待するとかって、そういうことだと思っていいわけ?」

「…」

戸田が近寄ってくる。私にキスをして

「もっとしたい」

色気のある戸田に酔いしれる。

「…」

「いいの?」

「…戸田はいいの?こんな私なんかで」

「それって、OKってこと?」

「私でいいなら」

そう言うと抱き締められてキスをされる。戸田の優しくって、情熱的な行動に魅了され

「大事にするから」

私はそれだけで幸せだった。

戸田みたいなイケメンが…って思ったけど、でもいつも助けてくれて近くにいる戸田とならこの先も一緒にいてみたい。こんな私でいいならっと思った。



ベットでお互い裸になって、まぁうん。そのすることはしたって感じで落ち着いていた。

「戸田、あの…」

私は恥ずかしくって、何といっていいか解らなかった。

「…戸田じゃないだろ?」

「え?」

「これから俺達恋人なんだからそれなのに戸田?」

「あっ、えっと…将直?」

「そう、それでよろしく、早苗」

顔を押さえられて、見つめ合うようにさせられて言う。そしてまたキスがはじまった。

彼の全てが愛しく感じてしまった。


それから、彼は大事にすると言うとおり私を大事にしてくれた。私には勿体無いとすら思ってしまう。

そんな時に同期会のお誘いがあっていつもなら私は欠席してるんだけど、高下を誘わないと言ってるのと、戸田と付き合い出したお祝いをしたいと言われ、出席することにした。

「まさか、戸田と松岡が付き合うとはなー」

「戸田から聞いたときびっくりしたよー」

「でもさ、松岡には幸せになってもらいたかったし」

戸田と私を入れて7人。皆祝ってくれる人ばかりだった。

「ねね、戸田優しい?」

「えっ!?」

「あー、松岡照れてる!かわいい!!」

と終始冷やかされ、照れてばかりだった。でも

「まぁ、幸せにするし」

キッパリ言う戸田に幸せを感じていた。


それから1週間後、私は将直のお父さんの会社に入社。

「将直の大事な人だったとはね、後から知ったよ」

いや、面接の時はそうじゃなかったんでっと言いたかったが、それは言わないことにした。

それにしてもお父さんにも言うなんて恥ずかしすぎる。

今までが本当に辛くって仕方なかった。でも将直で私の恋愛が一変した。幸せすぎて怖いくらい。

慣れない環境だったけど、皆さんの助けもあって仕事は楽しい。1つ1つ覚えられることが前進してる気がしてやりがいがある。

そして半年もしたころ、だいぶ慣れたなって思ったときに将直が入社。

「よろしくお願いします!ビシバシしごいてください!」

そう言って挨拶をする。

勿論皆社長の息子と知ってるのもあり

「よし、未来の会社の経営者をしごくか!!」

「プレッシャー与えないでくださいよー!」

と、そんな掛け合いで笑いをとってるし…、こんな環境で仕事が出来るのを嬉しく感じていた。



それから1年。

私たちは順調に交際をしていた。将直は優しいし、本当に大事にしてくれてるんだなーというのが解る。

でも…

こんないい人、私と付き合ってていいのかな?綺麗でかわいい人いっぱいいるのに、私なんかで…

仕事も凄い出来るし、皆から慕われてるし、凄い完璧すぎて

はじめから解ってたことだけど、自分が無能すぎて悲しい。

そんな不安が最近はちょっとある。

「ずっと将直と居たい…」

1人残業しててぼそっと言ってしまった。

もっと釣り合う女性だったらな。

「それって、プロポーズ?」

「えっ!?」

振り向くと将直がいた。

「なっ、いつからいたの?」

「今客先から帰ってきたところだけど」

「えっ!あっ、お帰りなさい」

「で、早苗?今のはプロポーズ?」

「いや、そんなつもりじゃ」

「え?違うの?俺とずっといたくないってこと?」

「そんなことないけど、でも…」

「でも?」

「私なんかでいいのかなーって」

「またそんなこと言う!それ何回目?言ったの!?俺は早苗がいいんだよ!」

そうやっていつも言ってくれる将直。

「じゃ俺、プロポーズされたってことでいい?」

「あっ…」

どうしよう

「俺から迫ったから無理に付き合ってくれてるのかと思ってた。嫌われてはいないのは解ったけど、遠慮してる部分もあったし…、でも本当にずっと居たいと思ってくれてるなら、俺は早苗と結婚したい!」

「!?」

「早苗、愛してる!本当は会社でなく色々考えてたんだけどな。プロポーズするところとか…、でも早苗がそんなこと言うから俺制御できなくなったよ!」

やっぱり私は将直が好きだ。私は自分から将直に抱きついて

「私も愛してる!将直のお嫁さんになりたい」

「やったぁー!!」

将直は嬉しそうに言って私を抱き締めた。

「けど、指輪とかまだ用意をしてなかった。ごめん」

「そんなのいらないよ!」


いらないって言ってるのに、結局将直は買うと言い出し、婚約指輪を買ってくれた。


それから間もなくして将直と結婚。家族や元同期、会社の人たちを招待し、小さいながらも幸せな式、披露宴になった。



「パーティー?」

結婚して間もなく、会社関係のパーティーがあるという。

お義父さんも出席するが、将直も出席するらしい。それはわかるが

「なんで私も!?」

「まぁ、未来の社長婦人?」

と、笑っていうも…

私は未だお義父さんの会社で働いていて、息子の嫁さんだからといってその辺は気にせず、いつも通りに接して貰ってる。

「私が行っていいの?」

「早苗もこの仕事嫌いじゃないだろ?なら今後のことも考えて顔を出すのも悪いことではないと思う」

たしかに…、子供できたらまた考えるけど、でもそれまでは仕事してたいし、もし子供が大きくなったらまた仕事もしたいと思っている。


後日パーティーに出席。

うわー、ドレスみんな凄いな。

上品な人ばっかり。

「ちょっと私場違いな気がする」

「そんなことないよ!」

と将直は言うけど。


2人でお付き合いのある会社に挨拶をする。

すると

「あー、戸田君か」

と、離れたところから来る人が1人。


木崎きざき常務」

えっ!?辞めた会社の常務!?

会ったことはないけど、名前くらいは知ってる。

「お久しぶりです」

「いやー、お父さんの会社に行ったと聞いたんで、いい跡継ぎできたねー」

「いえ、まだまだです」

「本当はうちの娘にと言ってたのに」

えっ?そうなの!?

「いえ、私なんかでは…」

「あっ、こちら奥さん?」

「はい!妻です。同期でして」

「じゃ、うちの会社にいたのか」

「はい。いつもお世話になってます」

と言って私は頭を下げた。


「いやー、そういう人がいたなら仕方ないよな。」

と言って、私たちを見ていった。

「あっ、そうそう、うちの娘も結婚してね。義息子が来てるんだよ!ちょっと待っててくれ!」

と言って常務は振り向き手をあげると1人の男性がきた。

「「えっ」」

将直と2人でダブる声。

まさかの…

向こうもビックリしている。

「娘婿の春樹君だ」

「…よろしくお願いします」

まさかこんなことって…

「なんだね?知り合いか?まぁ同じ会社だったから顔見知りか」

「はい、同期でして」

と、将直がいう。

「そうか、春樹君とも同期だったのか…、私はちょっと失礼するよ!まぁ積もる話しもあるだろうから、春樹くんは話しててくれ」

「…はい」

常務はそう言って私たちから離れた。

「「…」」

何を言っていいかわからない。

まさか高下が常務の娘さんの…

「…結婚したのか」

「ああ」

将直は答える。

「…そうか」

高下は何とも言えない顔をし

さすがにここでは、あんな罵声は言わないだろう…、しかも常務の婿だし。

「…戸田、ちょっとだけ話させてくれ!」

そう言って私に向いた。

私はびくっとしてする。

「…俺、お前が言い返すと思ってずっとからかってた。いつしか止まらなくなって…、いつしかそれが傷ついてるのか解らなくなって…、ずっと好きだった」

「…」

「もう後悔しても仕方ない。松岡が幸せなら」

「…私も好きだった。でも苦しかった。そんなときに将直が助けてくれて…」

将直は私の手を握ってくれた。

「私幸せだから!将直と夫婦になれてよかった」

そう言うと

「行こっか」

将直は反対に向き直り

「お前も幸せにな」

高下にいって私たちはその場を離れた。

「…早苗」

「ん?」

「いや…、俺も夫婦になれてよかったよ」

将直の笑みが私も嬉しくなる。



小学生がからかったりするレベルかと思ったけど、大人になってもされたことで私は大好きな人に傷をつけられ、でも最愛の人と結婚できた。子供でも大人でもやっぱり素直にならないと後悔はする。だから私は素直に

「将直、愛してる」


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