美形貴族のお坊ちゃん×極悪非道のツン/ヤンデレ海賊の激甘執着ラヴ

ゆっくり

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二章

Side レイ〈5/7〉

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 胃の中の何かが押し寄せるような感覚。そして俺は吐いていた。ごぽっと言う音がして口から液体が飛び出る。ほとんど胃液だった。

「無理だ、自分でできない」

 情けない事に、俺は下の世話も自分でできないのだ。手が震える。そして実際吐いた。肩で息をしながら、お坊ちゃんに縋る。
 本当に情けない。自分が嫌になる。そもそもこのお坊ちゃんは俺が心底痛めつけた人間だ。ここまで連れ出してもらっただけでも奇跡で、それ以上を求めてはいけないはずの人だ。だが、俺はこんなことも一人でできない。だからお坊ちゃんに頼ることしかできない。

「私で良いのですか。信頼している部下は?」

 いるわけがない。誰一人として信用できない。俺を裏切り、俺を見捨てて逃げた奴らだ。こんな状況でも俺を助けにくることはなく。そしてなぜか俺が拷問をしていたお坊ちゃんが助けに来るという意味のわからない状況になっている。

「ゆっくりいきますよ」

 中身がひきつれた。内臓が引き摺り出される感覚。押しても引いても動かない感覚。それは、激痛だった。
 俺は目から涙がこぼれそうになった。

「痛い、いた…ふざけんなよ…」

「すみません」

 俺は気付いたら殴っていた。俺は本当に短気でどうしようもない。
 その後いろいろな問答をして、一緒に夜市に行くこととなった。その途中で医者に行くとかいう、いかにも貴族が考えそうな案を出したお坊ちゃんには辟易としたが、それとしてお坊ちゃんは俺を抱き抱えて連れていってくれるようだ。
 ただ、俺は感謝よりも不信感の方が強く出た。なぜここまでするのだろう。俺は彼を何度も痛めつけたのに。

「…あなた、私のことを助けてくれたでしょ」

 俺は一瞬なんのことだと考えた。そしてあの夜、お坊ちゃんが強姦されそうになっている現場に遭遇し、部下たちを止めたことを思い出した。
 俺はこのお坊ちゃんはバカなのかと思った。度重なる暴行の恨みよりも、一度の恩を覚えているとは。こんな海の世界では一瞬で食い物にされそうだ。特にこんな見たことのないほどに美しい人間は。

「そんなことで一々人を助けていたら、お前いつか死ぬぞ」

 彼はわかっているのかわかっていないのか、肩をすくめただけだった。そして彼は、軽々俺を抱き上げて歩き始めた。


 お坊ちゃんは夜市にすらきたことがないようだ。辺りをキョロキョロして、何もかもを新鮮そうに見ていた。その動作がまんま貴族じみていて、俺は嫌な気持ちになった。

「バカがこんなところにあるわけが無いだろ。裏路地にいけ」

 路地に足を踏み込めば、娼婦や薬物中毒者がお坊ちゃんをじっと見つめていた。こいつの美貌や美しい白くて長い髪、そして服装では隠しきれない溢れ出る品格に、どこの誰がきたんだと皆が噂していた。お坊ちゃんはなぜ自分が噂されているのか全くわかっていないようだが。
 俺はその目線が嫌だったので、再び目を閉じてお坊ちゃんの胸あたりに甘えた。

 お坊ちゃんは急に俺に物を渡してきた。なんだと受け取れば、それは手に入れたいと思っていたものだった。そして、お坊ちゃんは駆け出す。どうやら盗んだようだ。彼も海賊に近付いてきたんじゃないだろうか。
 彼は俺を抱き抱えているとは思えないくらいに早かった。

「ちゃんと捕まっててくださいね」

 優しくそう耳元で呟かれたので、俺は黙ってお坊ちゃんにしがみついた。お坊ちゃんは貴族のボンボンとは思えないくらいすごい身のこなしで追手から逃れた。

「チッ…1個くらい諦めろっての」

 そしてそんな、お坊ちゃんらしくもない悪態を低い声で呟く。俺は、目の前にいるのが一瞬誰かわからなくなって身をすくめた。その顔をじっと見て、やはりあの美しいボンボンがそこにはいたので安心した。
 ほとんど屋根から飛び降りるように管を持って滑り降りてゆく。

「振動辛かったらすみません」

 そして、俺を気遣うその声。





 逃げて帰ってこられた。
 お坊ちゃんは俺に埃がつかないようにするためか、ソファを手で払って俺をそこに下ろした。まるで女にするような扱いだ。
 俺は腹の中がゴロゴロするので、お坊ちゃんの方に倒れ込んだ。お坊ちゃんは大層疲れていそうだが、それでも俺を受け止めた。

「お前、本当にお坊ちゃんか?スラムの野郎みたいな身のこなしだ」

「私は正真正銘、貴族のボンボンですよ」

「………」

 残念だ。
 彼が貴族じゃなかったら良いのに。因縁のベイリー家の生まれでなかったらよかったのに。そうすれば、俺は彼を仲間にした。こいつ自身は多分俺の仲間なんかにはなりたくないだろうが、俺は初めて信頼できる仲間を作れただろうに。
 王族を信じ込んで、それゆえに口を割らないと言う選択をしたお坊ちゃんのことを今更ながら惜しく思った。
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