巻き込まれた薬師の日常

白髭

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3B-学院と植物

3B-16 苦味を越えて

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 今回の病魔に対しては、キンコン単品の効果が必要だろう。霊薬やメディカターリのように複数の植物を組み合わせて相乗効果を狙うのではなく、病魔を活性化させずに確実に駆逐することが求められる。副次的な作用は、かえって病状を長引かせる危険がある。詩に歌われていた薬の引き継ぎ――もし二系統の薬を用いるならば、順序を守って服用させる必要があるはずだ。第一段階はキンコン単品、あるいはその効果を重層させる方法が求められるだろう。

「さて、私の研究の導入部分は話しました。君らへの課題は別にあります。ただし私達の課題は関連している。だからこそ、自分たちの現状と課題を互いに知っておく必要があるのです。いろいろと試しながら、具体的に話を進めましょう」

 自分はパラケル師から譲り受けたミキサを取り出し、キンコンの樹皮を微粉化した。皿に移し、全員で味見を試みる。アタッチメントを変えることで粉砕も可能なこの装置は、実に便利だ。

「君らの題材はキンコンです。文献には“苦味がある”と記されていますが、どの程度の苦味なのか、えぐ味や甘味はあるのか――体験しなければ分からないこともあります。体への作用が気になるなら飲み込まずに吐き出して構いません。まずは私から試してみましょう。もちろん強制ではなく、各自の判断に委ねます」

「苦いのは嫌ね……でも課題なら仕方ないわ」
 王族に味見をしてもらうなど恐れ多いことだが、寛容な態度に救われる。

「私は久しぶりに試したいわ。叔母様にも“客の立場に立ちなさい”と言われているし。シャーロット、叔母様の店のキンコンなら安心よ。私が先に試すから、あなたはその後で」

「二人とも、ほんの少しでいい。たくさんは含まないように」

 極小の薬匙で粉をすくい、舌にのせる。自分も率先して試し、リンネも続いた。
「苦っ!」
「うえぇ……不味い」
「確かに苦いわね。まさしくキンコンだわ。シャーロット、大丈夫よ」
「……これはきついわね」

 水を用意し、全員に渡す。微粉末にすると苦味は一層強くなる。魔導塔から供給される水は清浄で、口を濯ぐには十分だった。しばらく舌を休める必要がある。

 落ち着いたところで、自分は次の段階へ進めた。
「この粉を飲みやすくしてみます。自分が考えた案を試してみましょう」

 #######
――苦味改善案――
 シトラスシロップ 100mL
 砂糖 40g
 クエン酸2g
 キンコン抽出液 1g分
 水400mLにメスアップ。液はあらかじめ冷却。
 *カルサイト丸薬2粒を投入し、封入。
 *を入れた後はコロ*栓で即封じる。氷魔法もしくは保冷箱にて冷却継続。
 #######


 キンコン樹皮を熱水で抽出した液を用い、リンネに手伝ってもらいながらレシピ通りに調合。王冠で封じ、冷却を維持したままアイテムボックスに収め、時間経過魔法で炭酸を十分に溶け込ませる。

 取り出した瓶を鑑定する。

【トニックソーダ。解熱効果を有する。魔素無。炭酸含。爽やかな苦味と酸味】

「うん、想定通りにトニックになった。ソーダは想定外だったけど」
「トニック、ソーダ? よく分からないけど、丸い粒を入れたらシュワシュワするのは面白いわね」

 リンネが専用器具でコロ*栓を開け、四つのコップに注ぐ。泡が弾け、薬品のような香りが漂う。自分がまず味を確かめ、リンネも問題ないことを確認してから二人に差し出した。

「これも、よければ味を確認してみて。含むだけでいいから」
「えっ、これを飲むの?」

「今回も私が先に試すわ。……うん、大丈夫。甘くて爽やか。苦味はむしろアクセントね。泡が味を引き締めているのかも」
「物質鑑定してみたら、私の結果も“トニックソーダ”だったわ」

 シトラスソーダを基に、むこうの世界で病に用いられたトニックウォーターを再現した。甘味と酸味に苦味を重ね、炭酸がそれを和らげる。ユリアーネもシャーロットも悪い印象は持たなかったようだ。

「……なにこれ。初めての感覚。口の中ではじける泡は、お父様が飲む高い葡萄酒のよう。でも酒精は入っていないのよね?」
「粉をそのまま飲むより、ずっと飲みやすいわ。あの時の苦い薬を思い出したけど、これは全然違う」

「ユリアーネさん、良い気づきです! そう、粉を直接飲むより格段に飲みやすい。酸味と甘味を重ね、炭酸を加えたことで苦味が改善されたのです」

「ええ、もう完成されているくらい。よくできているわ」
「レッド先生、もしかして私たちに頼むのは味の改良?」
 シャーロットさんは察しが早い。

「その通り! 君ら二人で、キンコンの味を隠し、変え、改善する方法を考えて欲しい。このソーダは一つの完成形だけど、魔素を欠いたキンコンでは効果が薄い。自分の研究成果が採用されるなら、君らの研究がなおさら必要になる。課題は“魔素を含むキンコンを使ったとして、今のキンコンで話を進める”ことです」

「課題に具体的な名をつけるなら?」
「『苦味を有する香草と要素における服用法の開発』でしょうか。少し長いですが、より汎用的な方法を考えましょう」

「難しそうな課題を渡されたわ! ユリアーネ、どうする?」
「レッド先生、手掛かりは無いのですか?」

「……そうですね。開発と考えると難しく感じますが、すべては身近なものに置き換えましょう。薬も香草も食事と同じ、口に入れるものです。今食べている物や習った調理法から考えればいい。侯爵令嬢や王女の立場はむしろ有利です。多様な食材が集まり、形を変え、調理される環境にいるのですから」

****
作者注:)コロ*栓は、コ*ナ栓です。掲載の規定で伏字となっています。
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