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3C-分取と教育
3C-10 風の精髄
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五日目。藤月一日から始まったボローニャ・アカシア学院での研究生生活も、すでに五日が経過していた。抽出の試験は少しずつ進めているが、教授会への提出期限は一か月。ここ一週間は他の仕事を優先していた。実はリンネに言われ、実験スペースの整備を先に進めていたのだ。午後になると、部門生二人の魔術と課題に取り組み、余った時間で各工程の基礎実験を再開できるようになっていた。
良い研究は水から始まる。ここの水は魔導塔によって汲み上げられた井戸水で、ホーミィー村の川の水に近い。だが、自分の研究に用いるには雑多な不純物が多すぎた。そこでホーミィー村から持ってきたスライム数匹をタンクに放ち、試作用の水を浄化させる。常設とするため蓋には留め具を付け、取水口の魔導具は取り外しておいた。これで盗難ならぬ盗水対策にもなるだろう。
還流装置、漏斗、分取用の瓶はすべて専用のガラス製で仕上げた。これはパラケル師の実験室を踏襲したものだ。蒸留器《レトルト》では効率が悪いので、規模の大きい試験機も作成した。さらに魔銀を用いた還流装置も用意しておいた。これで製造規模が大きくなっても対応できる。器具や設備が整い、ようやくホーミィー村のパラケル爺さんの作業場に近い環境が整った。
抽出工程は少しずつ進む。一方で部門生の修練も進んでいた。水の修練を終え、風・火・土の魔術修練を四人で行っていた。今日は風を扱うため、野外での訓練とした。王都の一区画を使った広大な校庭が目の前に広がる。
「次は風かな。風の精髄は圧力の考えに通じる。まずは気体の概念を持とう」
自分はドラフトチャンバを開放し、水上置換による気体の実験を試みた。フラスコ内でカルサイトとシトラス液を混ぜ、発生した気体を魔銀管で導き、水槽の底に送り込む。すると水中でボコボコと泡が弾けていく。
「この泡はなに? 何が生まれているの?」
「炭酸という要素成分、気体です。飲み物として口にしたことがあるでしょう? プチプチとした細かい泡です。この透明な気体は、周囲を満たす空気にも含まれています。割合は非常に少ないですが。自分たちの周りを満たす空気――大きく言えば大気と呼びます。大気は様々な要素の集合体です。一つずつ検証するのはやめておきましょう。混在した空気を扱うのが風の精髄です。空気の概念を拡張し、大気そのものを魔術で扱ってみましょう。密度を制御し、その差を生じさせれば、天候魔法として竜巻を生み出すこともできます」
自分はエリスさんが行っていたトゥルボーを再現した。大気を掌握し、小規模な竜巻を生み出す。地上に影響を与えぬよう注意し、雲から漏斗状の渦巻きを発生させ、徐々に降下させる。だが校庭を破壊するわけにはいかないので、地上に届く前に霧散させた。
「トゥルボー……。Sランク冒険者、エリス=カストディアが生み出した大規模天候魔法。周辺諸国への牽制になるほどの魔法よ?」
「アントニ教授に師事し、その実績で一代男爵を拝命したのよね? それを簡単に再現するなんて……」
「自分は魔の森の氾濫の時に実際に見たんだ。これは真似に過ぎないけど。本物はもっと大規模だったかな」
「当たり前でしょう!? ここで本気を出したら校庭が吹き飛ぶわ!」
「あなたの魔力出力がエリス様並みだと分かったわ……」
せっかく校庭に出たのだ。もう一つ実例を示そう。
「大気を均等に圧縮すれば、爆発を起こすこともできます」
自分は少量のランナ脂を中心に置き、周囲の大気を徐々に圧縮した。三人を少し離れた場所に移動させ、極高密度に圧縮した空気をランナの発火点を超えるまで高める。そして――爆発。ヴォンンンンンンン。逃がす方向は上空に限定したが、ビリビリと大気が振動し、土煙が舞い上がった。二人の顔が引き攣る。
「な、何よこれ!」
「火を使わずに爆発したわ!」
「水に固体・液体・気体の三態があるように、空気にも三態があります。今の空気の状態は、水で言えば水蒸気に相当します。水蒸気は大きな熱量を持つ。空気も使い方次第で強力な武器となるのです」
「なるわけないでしょう! せいぜいレンガを壊す程度よ!」
「極めて高度で緻密な魔力制御を感じたわ。まるで話に聞いたAランク冒険者、『教授』パラケル並み……まさしくベンベルクの刺客だわ」
「どうかしましたか! ユリアーネ様、シャーロット殿下!」
しまった。門番の外衛兵が駆けつけてきた。目の前の二人が要人であることを忘れていた。
「大丈夫ですわ。先生に習い、実技実習をしているだけですわ」
「君、生徒か? 困るよ、申請をしてくれないと!」
「あっ、すみません。もう終わります。自分は研究生で、部門生との実習です」
自分はバッジを見せて生徒ではないことを証明すると、兵士の態度が変わった。
「君は魔導専攻の研究生か。なら申請は不要です。ただ、声をかけてくれると助かります」
「ご心配をおかけしました」
「マスター。やりすぎよ。レンガを崩す程度でよかったのに」
「いえ、リンネさん。レッド先生の実力が分かりました。私は年下の先生と聞いて、今まで態度が悪かったと思います。レッド先生、今までの言動をお許しください」
「私も同じです。魔導の先を行く先輩として接します。今までの非礼を謝罪します」
「……受け入れましょう。気分を変えて、せっかく外にいるのだから、まずは大気を感じるところから始めてみようか」
空気の制御は魔素の拡散を抑えることにもつながる。ぜひ習得してほしい技術だ。今度は騒ぎを起こさず、校庭を荒らさぬよう修練を続けよう。
魔術修練はさらに一日続き、二人は四大魔法の学び直しを進めていった。
良い研究は水から始まる。ここの水は魔導塔によって汲み上げられた井戸水で、ホーミィー村の川の水に近い。だが、自分の研究に用いるには雑多な不純物が多すぎた。そこでホーミィー村から持ってきたスライム数匹をタンクに放ち、試作用の水を浄化させる。常設とするため蓋には留め具を付け、取水口の魔導具は取り外しておいた。これで盗難ならぬ盗水対策にもなるだろう。
還流装置、漏斗、分取用の瓶はすべて専用のガラス製で仕上げた。これはパラケル師の実験室を踏襲したものだ。蒸留器《レトルト》では効率が悪いので、規模の大きい試験機も作成した。さらに魔銀を用いた還流装置も用意しておいた。これで製造規模が大きくなっても対応できる。器具や設備が整い、ようやくホーミィー村のパラケル爺さんの作業場に近い環境が整った。
抽出工程は少しずつ進む。一方で部門生の修練も進んでいた。水の修練を終え、風・火・土の魔術修練を四人で行っていた。今日は風を扱うため、野外での訓練とした。王都の一区画を使った広大な校庭が目の前に広がる。
「次は風かな。風の精髄は圧力の考えに通じる。まずは気体の概念を持とう」
自分はドラフトチャンバを開放し、水上置換による気体の実験を試みた。フラスコ内でカルサイトとシトラス液を混ぜ、発生した気体を魔銀管で導き、水槽の底に送り込む。すると水中でボコボコと泡が弾けていく。
「この泡はなに? 何が生まれているの?」
「炭酸という要素成分、気体です。飲み物として口にしたことがあるでしょう? プチプチとした細かい泡です。この透明な気体は、周囲を満たす空気にも含まれています。割合は非常に少ないですが。自分たちの周りを満たす空気――大きく言えば大気と呼びます。大気は様々な要素の集合体です。一つずつ検証するのはやめておきましょう。混在した空気を扱うのが風の精髄です。空気の概念を拡張し、大気そのものを魔術で扱ってみましょう。密度を制御し、その差を生じさせれば、天候魔法として竜巻を生み出すこともできます」
自分はエリスさんが行っていたトゥルボーを再現した。大気を掌握し、小規模な竜巻を生み出す。地上に影響を与えぬよう注意し、雲から漏斗状の渦巻きを発生させ、徐々に降下させる。だが校庭を破壊するわけにはいかないので、地上に届く前に霧散させた。
「トゥルボー……。Sランク冒険者、エリス=カストディアが生み出した大規模天候魔法。周辺諸国への牽制になるほどの魔法よ?」
「アントニ教授に師事し、その実績で一代男爵を拝命したのよね? それを簡単に再現するなんて……」
「自分は魔の森の氾濫の時に実際に見たんだ。これは真似に過ぎないけど。本物はもっと大規模だったかな」
「当たり前でしょう!? ここで本気を出したら校庭が吹き飛ぶわ!」
「あなたの魔力出力がエリス様並みだと分かったわ……」
せっかく校庭に出たのだ。もう一つ実例を示そう。
「大気を均等に圧縮すれば、爆発を起こすこともできます」
自分は少量のランナ脂を中心に置き、周囲の大気を徐々に圧縮した。三人を少し離れた場所に移動させ、極高密度に圧縮した空気をランナの発火点を超えるまで高める。そして――爆発。ヴォンンンンンンン。逃がす方向は上空に限定したが、ビリビリと大気が振動し、土煙が舞い上がった。二人の顔が引き攣る。
「な、何よこれ!」
「火を使わずに爆発したわ!」
「水に固体・液体・気体の三態があるように、空気にも三態があります。今の空気の状態は、水で言えば水蒸気に相当します。水蒸気は大きな熱量を持つ。空気も使い方次第で強力な武器となるのです」
「なるわけないでしょう! せいぜいレンガを壊す程度よ!」
「極めて高度で緻密な魔力制御を感じたわ。まるで話に聞いたAランク冒険者、『教授』パラケル並み……まさしくベンベルクの刺客だわ」
「どうかしましたか! ユリアーネ様、シャーロット殿下!」
しまった。門番の外衛兵が駆けつけてきた。目の前の二人が要人であることを忘れていた。
「大丈夫ですわ。先生に習い、実技実習をしているだけですわ」
「君、生徒か? 困るよ、申請をしてくれないと!」
「あっ、すみません。もう終わります。自分は研究生で、部門生との実習です」
自分はバッジを見せて生徒ではないことを証明すると、兵士の態度が変わった。
「君は魔導専攻の研究生か。なら申請は不要です。ただ、声をかけてくれると助かります」
「ご心配をおかけしました」
「マスター。やりすぎよ。レンガを崩す程度でよかったのに」
「いえ、リンネさん。レッド先生の実力が分かりました。私は年下の先生と聞いて、今まで態度が悪かったと思います。レッド先生、今までの言動をお許しください」
「私も同じです。魔導の先を行く先輩として接します。今までの非礼を謝罪します」
「……受け入れましょう。気分を変えて、せっかく外にいるのだから、まずは大気を感じるところから始めてみようか」
空気の制御は魔素の拡散を抑えることにもつながる。ぜひ習得してほしい技術だ。今度は騒ぎを起こさず、校庭を荒らさぬよう修練を続けよう。
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