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3E-状況と周知
3E-02 *諜報の扉
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♢♢
俺はかつては学院に籍を置いていた。その教室は、魔獣と共感し、操る研究を行っている。今期の人事で教授兼学院長の命で、軍部へと回された。魔獣を操る才を評価されたのか、調教師として新設された部門の立ち上げに関与する。
配属先は軍部諜報部の遠隔調査室。軍部の所属ではあるが、騎士団とは指令系統が異なる。上長はいるが兼務であり、指示は秘書を介して伝えられる。報告は書面で宰相へと直接上げる特別な仕組み。上層部の期待は大きい。学院長が多忙を極めることも、この部署が新設された理由の一つだった。アカシア王国の「目」として、国内外の偵察を担うのが我らの使命だ。
諜報部の同僚たちは影に溶け込み、自ら動いて情報を集める者ばかり。王都に留まり、魔獣を通じて遠隔で調査を行う自分は、奇異の目で見られていた。新設部署ゆえ片身は狭い。果たして我らは予算を浪費するだけなのか、それとも有用性を示せるのか。今回の任務は遠隔調査室の存続を左右するものとなる。
暦は籐月十日。
日課の一つとして、使役獣である三羽の鳥と同調し、その位置を把握する。ニーグは王都、プルはナバード、ラーウはカンティア。ラーウは昨日のうちに飛び立たせ、依頼の地へと向かわせていた。軍部の侯爵と宰相直々の依頼。失敗は許されない。隣に控える部下ディアンダは、緊張のあまり震えていた。念のため、王都で休養させていたニーグもカンティアへ向かわせる。プルはナバード常駐のため動かせない。今回はラーウとニーグの二羽で調査を行う。
ラーウには北東の進路を取らせ、休憩を挟みながら移動させていた。今は飛行中。聴覚の扉を開けば、風切り音が耳に届く。共有は一刻ごと。食事と好物の魔石は、カンティアの飼育員に預けてある。魔導収納庫にたっぷり詰め込んであるから、相棒も満足だろう。
ラーウは灰色の羽を持つ巨大な魔獣――ガルーダ。翼長三メートル。三国境で卵を得て以来、幼き頃から育て上げてきた。魔力を通し、器官を発達させ、人語も少し理解するようになった。まだ成長途中で大飯喰らいだが、その分働きは確かだ。食事を欠かさねば機嫌も良い。
問題は同族との遭遇だ。ウオルク領北には三国境があり、魔の森に続く未開の地。魔獣が跋扈する。仲間と距離を取り、野生の本能が戻らぬよう接点を密に保つ必要がある。北は危険な地だ。
魔力を節約するため、視覚を切り、思考のみで誘導する。学院長は常時視覚を共有しつつ他者とも接続するという。あの方は神に近い存在だ。
『ラーウ。湿原、海、大きな水、あるいは水の線は見えるか?』
『目ノ前、森・山・水ノ線、東北カラ東。大イ水。ソノ先アリ。シタ煙多イ』
『右翼には?』
『山。サラマンドル。オリナイ降リナイ。臭イ』
地図を確認し、位置を割り出す。ナーボイからベンベルクへ向かう街道上空。煙は村から。右翼のサラマンドル山が裏付けだ。ラーウは少し怠けたか。まあよい、休憩と解釈しよう。
『ラーウよ、サラマンドルには降りるな。そのまま直進し、湿原と大きな水を目指せ』
『レイ。腹ヘッタ』
『もう少し進めば川がある。そこで休め。着いたら知らせろ』
『ワカッタ』
精神の扉を閉じ、一息つく。脳内には三つの扉があり、距離を超えて彼女らの精神空間へ繋がる。巫女と神の同調を調べ上げ、学問として汎用としたのが教授ミューラー=フェルディナント。我が師だ。それを具現汎用化した方法が心像構築法となる。魔力を与え、波長で染め上げる。俺と彼女の扉を構築し、個々に開閉する。魔力従順により感化した分身は我が子のような存在だ。少し我儘で食いしん坊だが。
「ディアンタ」
「はい」
「記録せよ。ラーウはナーボイ上空。午後にはウオルク領に入る。明後日には宰相に報告可能」
「復唱します。籐月十日昼、ラーウ、ナーボイ上空。午後ウオルク領到着。十一日探索、十二日報告可能」
午後からはニーグにも指示を出す。二羽同時の共有は神経を削る。だがやるしかない。
♢
ネル川で休ませた後、ラーウを再び飛ばす。やがて一つの村が扉経由で見えた。地図を確認すると、それはウオルク領パクトキ村であった。門前に降ろし、音の魔術札で知らせるよう指示を出す。
『気ヅイタ。武器、持ッテ、近ク来ル』
『ラーウ、代わろう』
接続を深め、発語制御を行う。
「『パクトキ村の住民よ。我は騎士団諜報部のレイモン=ルル』」
「ガルーダがしゃべった!?」
「『魔導を介し操っている。王宮指示により査察に来た。村長か司祭を呼べ』」
村長チャーノックと司祭ルルスに、領の対応と報告を促す。
村人五百二。七割が発症。死者はなし。備蓄で飢えは免れている。
支援はインセクトの魔導具五つと、服用禁止のハイポーション。神聖魔法は進行を遅らせるのみ。これでは夏が来れば虫が増え、被害は拡大するだろう。
「『支援は必ず来る。希望を持ち、それまで耐えよ』」
死者が出ていないのは幸い。だが時間はない。次は領都へ。男爵から直接聴取せねばならない。
俺はかつては学院に籍を置いていた。その教室は、魔獣と共感し、操る研究を行っている。今期の人事で教授兼学院長の命で、軍部へと回された。魔獣を操る才を評価されたのか、調教師として新設された部門の立ち上げに関与する。
配属先は軍部諜報部の遠隔調査室。軍部の所属ではあるが、騎士団とは指令系統が異なる。上長はいるが兼務であり、指示は秘書を介して伝えられる。報告は書面で宰相へと直接上げる特別な仕組み。上層部の期待は大きい。学院長が多忙を極めることも、この部署が新設された理由の一つだった。アカシア王国の「目」として、国内外の偵察を担うのが我らの使命だ。
諜報部の同僚たちは影に溶け込み、自ら動いて情報を集める者ばかり。王都に留まり、魔獣を通じて遠隔で調査を行う自分は、奇異の目で見られていた。新設部署ゆえ片身は狭い。果たして我らは予算を浪費するだけなのか、それとも有用性を示せるのか。今回の任務は遠隔調査室の存続を左右するものとなる。
暦は籐月十日。
日課の一つとして、使役獣である三羽の鳥と同調し、その位置を把握する。ニーグは王都、プルはナバード、ラーウはカンティア。ラーウは昨日のうちに飛び立たせ、依頼の地へと向かわせていた。軍部の侯爵と宰相直々の依頼。失敗は許されない。隣に控える部下ディアンダは、緊張のあまり震えていた。念のため、王都で休養させていたニーグもカンティアへ向かわせる。プルはナバード常駐のため動かせない。今回はラーウとニーグの二羽で調査を行う。
ラーウには北東の進路を取らせ、休憩を挟みながら移動させていた。今は飛行中。聴覚の扉を開けば、風切り音が耳に届く。共有は一刻ごと。食事と好物の魔石は、カンティアの飼育員に預けてある。魔導収納庫にたっぷり詰め込んであるから、相棒も満足だろう。
ラーウは灰色の羽を持つ巨大な魔獣――ガルーダ。翼長三メートル。三国境で卵を得て以来、幼き頃から育て上げてきた。魔力を通し、器官を発達させ、人語も少し理解するようになった。まだ成長途中で大飯喰らいだが、その分働きは確かだ。食事を欠かさねば機嫌も良い。
問題は同族との遭遇だ。ウオルク領北には三国境があり、魔の森に続く未開の地。魔獣が跋扈する。仲間と距離を取り、野生の本能が戻らぬよう接点を密に保つ必要がある。北は危険な地だ。
魔力を節約するため、視覚を切り、思考のみで誘導する。学院長は常時視覚を共有しつつ他者とも接続するという。あの方は神に近い存在だ。
『ラーウ。湿原、海、大きな水、あるいは水の線は見えるか?』
『目ノ前、森・山・水ノ線、東北カラ東。大イ水。ソノ先アリ。シタ煙多イ』
『右翼には?』
『山。サラマンドル。オリナイ降リナイ。臭イ』
地図を確認し、位置を割り出す。ナーボイからベンベルクへ向かう街道上空。煙は村から。右翼のサラマンドル山が裏付けだ。ラーウは少し怠けたか。まあよい、休憩と解釈しよう。
『ラーウよ、サラマンドルには降りるな。そのまま直進し、湿原と大きな水を目指せ』
『レイ。腹ヘッタ』
『もう少し進めば川がある。そこで休め。着いたら知らせろ』
『ワカッタ』
精神の扉を閉じ、一息つく。脳内には三つの扉があり、距離を超えて彼女らの精神空間へ繋がる。巫女と神の同調を調べ上げ、学問として汎用としたのが教授ミューラー=フェルディナント。我が師だ。それを具現汎用化した方法が心像構築法となる。魔力を与え、波長で染め上げる。俺と彼女の扉を構築し、個々に開閉する。魔力従順により感化した分身は我が子のような存在だ。少し我儘で食いしん坊だが。
「ディアンタ」
「はい」
「記録せよ。ラーウはナーボイ上空。午後にはウオルク領に入る。明後日には宰相に報告可能」
「復唱します。籐月十日昼、ラーウ、ナーボイ上空。午後ウオルク領到着。十一日探索、十二日報告可能」
午後からはニーグにも指示を出す。二羽同時の共有は神経を削る。だがやるしかない。
♢
ネル川で休ませた後、ラーウを再び飛ばす。やがて一つの村が扉経由で見えた。地図を確認すると、それはウオルク領パクトキ村であった。門前に降ろし、音の魔術札で知らせるよう指示を出す。
『気ヅイタ。武器、持ッテ、近ク来ル』
『ラーウ、代わろう』
接続を深め、発語制御を行う。
「『パクトキ村の住民よ。我は騎士団諜報部のレイモン=ルル』」
「ガルーダがしゃべった!?」
「『魔導を介し操っている。王宮指示により査察に来た。村長か司祭を呼べ』」
村長チャーノックと司祭ルルスに、領の対応と報告を促す。
村人五百二。七割が発症。死者はなし。備蓄で飢えは免れている。
支援はインセクトの魔導具五つと、服用禁止のハイポーション。神聖魔法は進行を遅らせるのみ。これでは夏が来れば虫が増え、被害は拡大するだろう。
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