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3E-状況と周知
3E-11 応酬
「では、学院の答申について。皆様のご意見を頂戴したく存じます」
宰相の言葉に、今度は形式を守って手を挙げたのは宮廷魔導師会会長シュヴァイツェルだった。
「シュヴァイツェル会長、どうぞ」
「作成したという黒キンコン――本物と遜色ないのだろうな?」
ギロリと鋭い眼差し。魔力を帯びた言霊に、背筋が粟立つ。
「学院側、回答を」
「作成者のレッド研究生。お願いできるかしら?」
「……はい。今回作成した黒キンコンは、カンティア領マーブル香草店で入手した通常のキンコンを材料としています。特別な品ではなく、冷乾処理と復元の過程を経て黒化させました。他の香草や野草でも同様に再現可能です。試料を用意しておりますので、ご判断は各自にお任せいたします」
アルテミ草、メンタ草――処理前後の試料を並べると、会場の鑑定魔力が集中する。
「賢石庫の物と比較したが、同等。むしろ魔素の充実度はこちらが上。経過損失が無いからだろう。香草学教授として保証しよう」
ゲオルク教授が補足し、会場にざわめきが広がった。
「冷乾の魔導具の有用性は理解した。この魔導具の購入は可能か?」
「学院側、回答を」
「解析者は門下の院生。管轄はフリード教授です」
「残念ながら販売権は学院にはありません。機構の解析と学術評価を授かったのみ。各種権利は商会にあります」
「……理解した。では次の質問だ。要素成分のポーション化は、どのように行った?」
「香草学の分野。レッド研究生、回答を」
「すでにパテンツにて公表済みです。詳細は商人ギルドにてご確認いただけます」
会長はそれ以上追及せず、椅子に深く腰を下ろした。
「宰相、私から質問を。開発者のレッド=ベルナル君へ」
カルラ宮廷魔導師が立ち上がる。宰相と学院長が此方を見る。
「研究生のレッドベルナル君。よろしいか」
ちらりと学院長を見、うなずいたので直答する。
「…はい。学域の答えられる範囲でなら」
「配布されたパテンツ、条件が細かく載っていないのはなぜ?」
「酸や灰は無数にあり、調達状況で変わります。細部は各自の環境で調整ください。道筋を示すのがパテンツの役割です」
「今ある材料で再現は不可能では? 未知の試薬があるのでは?」
「開示済みのもので可能です。特別なのはヴィトリオールのみであり、助手や生徒も成功しています。できないなら手技が拙いだけです」
「この酸度というのは?」
「関連パテンツを商会から出しています。この場で話すことはありません」
「植物からの要素で魔纏化の成功例は無い。どのように?」
「実績は分かりませんが、魔纏化自体は新規ではありません」
「……なるほど。高度な精錬術が必要ということね」
カルラの言葉に会場がざわつく。
「錬金分野の第一人者に『手技が拙い』と返したぞ」
「宮廷魔導師会の権威も揺らぐな」
「敢えての挑発か?」
「静粛に! エーベルス王の御言葉を賜ります」
宰相の声で場が鎮まる。
「研究生レッド君。多大な貢献を感謝する。二つ問いたい。まず、黒キンコン三十キロを作るのに必要な魔石は?」
「Cランク魔石三十個です」
「うむ。宰相、彼に必要分を渡すように」
「御意」
「学院、黒キンコンは王宮が召し上げる。褒美は後ほど渡す」
「承知しました」
「もう一つ。黒キンコンをそのまま使用しても効果はあるのか? 敢えて要素を抽出した意味は?」
「……はい。直接でも効果はあります。ただし強烈な苦味を伴い、服用は困難です。抽出はその苦痛を軽減する目的があります。他には――私の職業上の理念や想いが反映された結果でもあります。黒キンコンからの抽出は有効ですが、魔石を大量に消費してまで作成するのは費用対効果に劣ります」
王はしばし沈黙し、やがて頷いた。
「ふむ。他にも理由がありそうだが、悪い話ではあるまい」
「ご配慮、ありがとうございます」
国王はそれ以上追及せず、会議は次の段階へと進んでいった。
******
作者注:)
精錬術について。
金属で行われている手法。精錬さえできれば、魔纏化自体は難しい手法ではありません。龍脈に対象を曝露、さらに魔石からの魔素還元が方法として存在します。人造となると時間か金銭、つまり費用対効果が非常に悪い手法です。
魔纏化は、特定の用途で用いられます。魔法陣、魔導具に用いる魔導インクの作成が知られています。高度に精製した銅を標的に魔纏化しています。安定した魔素の纏いが可能となり魔導線としても有用なものです。武器へと使うなら、魔素を纏う自然物を利用した方が安価で早いものです。鉱物ゴーレムの捕獲からの利用が最も良い例となります。
一方で、植物からの抽出技術は拙いです。実際には、精錬では無く精製という言葉を使います。この界の技術では、植物から純物質を得た経験は皆無に近いでしょう。
宰相の言葉に、今度は形式を守って手を挙げたのは宮廷魔導師会会長シュヴァイツェルだった。
「シュヴァイツェル会長、どうぞ」
「作成したという黒キンコン――本物と遜色ないのだろうな?」
ギロリと鋭い眼差し。魔力を帯びた言霊に、背筋が粟立つ。
「学院側、回答を」
「作成者のレッド研究生。お願いできるかしら?」
「……はい。今回作成した黒キンコンは、カンティア領マーブル香草店で入手した通常のキンコンを材料としています。特別な品ではなく、冷乾処理と復元の過程を経て黒化させました。他の香草や野草でも同様に再現可能です。試料を用意しておりますので、ご判断は各自にお任せいたします」
アルテミ草、メンタ草――処理前後の試料を並べると、会場の鑑定魔力が集中する。
「賢石庫の物と比較したが、同等。むしろ魔素の充実度はこちらが上。経過損失が無いからだろう。香草学教授として保証しよう」
ゲオルク教授が補足し、会場にざわめきが広がった。
「冷乾の魔導具の有用性は理解した。この魔導具の購入は可能か?」
「学院側、回答を」
「解析者は門下の院生。管轄はフリード教授です」
「残念ながら販売権は学院にはありません。機構の解析と学術評価を授かったのみ。各種権利は商会にあります」
「……理解した。では次の質問だ。要素成分のポーション化は、どのように行った?」
「香草学の分野。レッド研究生、回答を」
「すでにパテンツにて公表済みです。詳細は商人ギルドにてご確認いただけます」
会長はそれ以上追及せず、椅子に深く腰を下ろした。
「宰相、私から質問を。開発者のレッド=ベルナル君へ」
カルラ宮廷魔導師が立ち上がる。宰相と学院長が此方を見る。
「研究生のレッドベルナル君。よろしいか」
ちらりと学院長を見、うなずいたので直答する。
「…はい。学域の答えられる範囲でなら」
「配布されたパテンツ、条件が細かく載っていないのはなぜ?」
「酸や灰は無数にあり、調達状況で変わります。細部は各自の環境で調整ください。道筋を示すのがパテンツの役割です」
「今ある材料で再現は不可能では? 未知の試薬があるのでは?」
「開示済みのもので可能です。特別なのはヴィトリオールのみであり、助手や生徒も成功しています。できないなら手技が拙いだけです」
「この酸度というのは?」
「関連パテンツを商会から出しています。この場で話すことはありません」
「植物からの要素で魔纏化の成功例は無い。どのように?」
「実績は分かりませんが、魔纏化自体は新規ではありません」
「……なるほど。高度な精錬術が必要ということね」
カルラの言葉に会場がざわつく。
「錬金分野の第一人者に『手技が拙い』と返したぞ」
「宮廷魔導師会の権威も揺らぐな」
「敢えての挑発か?」
「静粛に! エーベルス王の御言葉を賜ります」
宰相の声で場が鎮まる。
「研究生レッド君。多大な貢献を感謝する。二つ問いたい。まず、黒キンコン三十キロを作るのに必要な魔石は?」
「Cランク魔石三十個です」
「うむ。宰相、彼に必要分を渡すように」
「御意」
「学院、黒キンコンは王宮が召し上げる。褒美は後ほど渡す」
「承知しました」
「もう一つ。黒キンコンをそのまま使用しても効果はあるのか? 敢えて要素を抽出した意味は?」
「……はい。直接でも効果はあります。ただし強烈な苦味を伴い、服用は困難です。抽出はその苦痛を軽減する目的があります。他には――私の職業上の理念や想いが反映された結果でもあります。黒キンコンからの抽出は有効ですが、魔石を大量に消費してまで作成するのは費用対効果に劣ります」
王はしばし沈黙し、やがて頷いた。
「ふむ。他にも理由がありそうだが、悪い話ではあるまい」
「ご配慮、ありがとうございます」
国王はそれ以上追及せず、会議は次の段階へと進んでいった。
******
作者注:)
精錬術について。
金属で行われている手法。精錬さえできれば、魔纏化自体は難しい手法ではありません。龍脈に対象を曝露、さらに魔石からの魔素還元が方法として存在します。人造となると時間か金銭、つまり費用対効果が非常に悪い手法です。
魔纏化は、特定の用途で用いられます。魔法陣、魔導具に用いる魔導インクの作成が知られています。高度に精製した銅を標的に魔纏化しています。安定した魔素の纏いが可能となり魔導線としても有用なものです。武器へと使うなら、魔素を纏う自然物を利用した方が安価で早いものです。鉱物ゴーレムの捕獲からの利用が最も良い例となります。
一方で、植物からの抽出技術は拙いです。実際には、精錬では無く精製という言葉を使います。この界の技術では、植物から純物質を得た経験は皆無に近いでしょう。
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