1 / 43
プロローグ:夢見たその先
プロローグ:人質姫は、夢を見る
しおりを挟む
大国グランジュから、隣国とはいえ弱小国家のリヒテンベルンへと婚姻の申入れがあったのは、隣国という立地を理由に他国から唆されて正直嫌がらせレベルの小競合いを仕掛ける我がリヒテンベルンへの警告だろう。
「セヴィーナ姫様、本当に誰も連れず一人で行かれてしまうのですか?」
「そうよ。誰かを、……ジーク、あなたを私の巻き添えで処刑になんてさせるわけにはいかないもの」
侵略ではなくあくまでも婚姻という形での同盟を求めたのは、圧倒的な軍事力を見せつけその他の国を警戒させるより、グランジュ側からすれば何一つプラスにならない婚姻を選んだことで無意味な戦争はしないという意思表示。
もちろん、また何か仕掛けてきたらお前の娘は首だけにして送り返すぞ、という警告でもある。
――つまりはただの人質だ。
“それをわかっているから、お父様……、いえ、陛下は”
「それに何故姫様が行かねばならないのですか! この国には姫が三人もいるのに何故三女のセヴィーナ姫様が……っ」
「それは、私が自ら望んだからよ」
「姫様が?」
私のその言葉にジークが唖然として目を見開く。
私が人質として単身敵国へと向かうことを心から心配し嘆いてくれているのはジークだけなのだから。
リヒテンベルンには男児がいない。
今度こそ、と期待された三番目である私もまた女児だったからだ。
可愛がられた二人の姉とは違い、流石に三人目はがっかりとされたのだろう。
明らかに姉たちとは違う待遇だったが、それでも子は親の愛を求めるもの。
姉の真似をして着飾ってもダメならば、求められていた男児に近くなるべく体術を学び剣術を磨いた。
いつか私のことも見てくれるのだと信じて――
“試そうなんてした罰だわ”
『お前たちをそんな危険な目にあわせる訳にはいかない』と嘆く両親と、『恐ろしい』と涙を流す姉たち。
もしかしたら、私のことも心配し引き留めてくれるのではないかと思ったのだ。
お前を行かせるなんてしない、と言ってくれるかもしれないとそう期待した。
“まさか『そうか、行ってくれるか』だったなんてね”
ハッと思わず鼻で笑ってしまったが、淑女らしくないと顔をしかめる相手ももういないから構わない。
「逃げませんか、セヴィーナ姫様」
国境近くまで送ってくれたジークが突然馬を止めてそんなことを口にする。
国境では、グランジュの騎士たちが出迎えに来てくれている手筈だった。
“確かに逃げるなら今が最後のチャンスだけど”
ジークのその言葉だけで、私の心は救われたと思うほど嬉しかったから。
「巻き込む気はないって言ったはずよ」
「ですが!」
「それに必ず殺される訳じゃないもの。人質ってものは生きていてこそだしね」
“それでも、リヒテンベルンがまた何かをやらかしたらわからないわ”
だが、ちょっと大国のグランジュから睨まれただけであれだけ震えていたのだ。
だからきっと、それはすぐじゃない。
「私を精神的にも肉体的にも鍛えたのはどこの誰かしら?」
「……平民出の傭兵崩れのくせに一国の姫君の護衛騎士に抜擢された私ですかね?」
「そうよっ、師匠! 安心してよ、相手は嫁として貰うって言ってるの。つまり私の家族になるのよ!」
自国では得れなかった家族の愛を、もしかしたら――
「もし何かあればいつでもお呼びください。私はこれからもずっと、姫様だけの騎士ですから」
「えぇ、ありがとう。……いってきます」
「……はい、姫様」
ジークにそう告げた私は馬から飛び降り、リヒテンベルンへ背を向けグランジュを真っ直ぐ見つめる。
王族の輿入れが単身徒歩でだなんて前代未聞だが、それでも国境で迎えてくれたグランジュの騎士たちへと精一杯の笑顔を向けた。
「はじめまして、こんにちは。私はセヴィーナ・リヒテンベルン。王太子、アルド・グランジュ殿下へと嫁ぐためにやってきました」
歓迎されないことなんてわかっている。
それでも私は、今度こそ家族の愛を感じてみたいから。
「どうぞ、よろしくお願いいたしますね?」
「セヴィーナ姫様、本当に誰も連れず一人で行かれてしまうのですか?」
「そうよ。誰かを、……ジーク、あなたを私の巻き添えで処刑になんてさせるわけにはいかないもの」
侵略ではなくあくまでも婚姻という形での同盟を求めたのは、圧倒的な軍事力を見せつけその他の国を警戒させるより、グランジュ側からすれば何一つプラスにならない婚姻を選んだことで無意味な戦争はしないという意思表示。
もちろん、また何か仕掛けてきたらお前の娘は首だけにして送り返すぞ、という警告でもある。
――つまりはただの人質だ。
“それをわかっているから、お父様……、いえ、陛下は”
「それに何故姫様が行かねばならないのですか! この国には姫が三人もいるのに何故三女のセヴィーナ姫様が……っ」
「それは、私が自ら望んだからよ」
「姫様が?」
私のその言葉にジークが唖然として目を見開く。
私が人質として単身敵国へと向かうことを心から心配し嘆いてくれているのはジークだけなのだから。
リヒテンベルンには男児がいない。
今度こそ、と期待された三番目である私もまた女児だったからだ。
可愛がられた二人の姉とは違い、流石に三人目はがっかりとされたのだろう。
明らかに姉たちとは違う待遇だったが、それでも子は親の愛を求めるもの。
姉の真似をして着飾ってもダメならば、求められていた男児に近くなるべく体術を学び剣術を磨いた。
いつか私のことも見てくれるのだと信じて――
“試そうなんてした罰だわ”
『お前たちをそんな危険な目にあわせる訳にはいかない』と嘆く両親と、『恐ろしい』と涙を流す姉たち。
もしかしたら、私のことも心配し引き留めてくれるのではないかと思ったのだ。
お前を行かせるなんてしない、と言ってくれるかもしれないとそう期待した。
“まさか『そうか、行ってくれるか』だったなんてね”
ハッと思わず鼻で笑ってしまったが、淑女らしくないと顔をしかめる相手ももういないから構わない。
「逃げませんか、セヴィーナ姫様」
国境近くまで送ってくれたジークが突然馬を止めてそんなことを口にする。
国境では、グランジュの騎士たちが出迎えに来てくれている手筈だった。
“確かに逃げるなら今が最後のチャンスだけど”
ジークのその言葉だけで、私の心は救われたと思うほど嬉しかったから。
「巻き込む気はないって言ったはずよ」
「ですが!」
「それに必ず殺される訳じゃないもの。人質ってものは生きていてこそだしね」
“それでも、リヒテンベルンがまた何かをやらかしたらわからないわ”
だが、ちょっと大国のグランジュから睨まれただけであれだけ震えていたのだ。
だからきっと、それはすぐじゃない。
「私を精神的にも肉体的にも鍛えたのはどこの誰かしら?」
「……平民出の傭兵崩れのくせに一国の姫君の護衛騎士に抜擢された私ですかね?」
「そうよっ、師匠! 安心してよ、相手は嫁として貰うって言ってるの。つまり私の家族になるのよ!」
自国では得れなかった家族の愛を、もしかしたら――
「もし何かあればいつでもお呼びください。私はこれからもずっと、姫様だけの騎士ですから」
「えぇ、ありがとう。……いってきます」
「……はい、姫様」
ジークにそう告げた私は馬から飛び降り、リヒテンベルンへ背を向けグランジュを真っ直ぐ見つめる。
王族の輿入れが単身徒歩でだなんて前代未聞だが、それでも国境で迎えてくれたグランジュの騎士たちへと精一杯の笑顔を向けた。
「はじめまして、こんにちは。私はセヴィーナ・リヒテンベルン。王太子、アルド・グランジュ殿下へと嫁ぐためにやってきました」
歓迎されないことなんてわかっている。
それでも私は、今度こそ家族の愛を感じてみたいから。
「どうぞ、よろしくお願いいたしますね?」
46
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる