【R18】愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!

春瀬湖子

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第四章:たった一人の護衛騎士

31.あの時、という思い出は

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「お、おい、あの二人、距離がなんだか近くないか!?」
「近いですねぇ」

 流石に昨日の自分は最低だったと反省した俺は、自身の今日すべき仕事を大急ぎでこなし、妻であるセヴィーナの専属護衛を決める選抜大会の会場へと足を運んでいた。

“途中セヴィーナも何故かノリノリだった気がするが……”

 だがそれでも、相手を気遣わず自身の欲だけをぶつけるという行為は男として決して褒められたものではないだろう。
 
 だからこそ向かった城下町の会場。そして着いた先で見たのが、まさかの第一騎士団団長であるベルモント卿が彼女の顔を覗き込み微笑むという姿だったのである。
 

“ベルモント卿が微笑んでる姿とか滅多に見ないのに!”

 その立場ゆえか、それとも苦労が多いせいか少ししかめっ面をしていることが多い彼は、穏やかに見せる為に作り笑いを貼り付けることはあるがああやって一人に対して顔を覗き込み笑うなんてことをしているところを見たことがない。


 王宮第一騎士団団長という立場とその端正な顔立ちから令嬢に想いを寄せられることは少なくないはずなのに、本人は頑なに距離を置き現在も独身である彼が――……

「ま、まさかセヴィーナみたいな元気な女がタイプだったのか?」
「元気というよりじゃじゃ馬、じゃじゃ馬というより暴走馬車ですけどね」
「お、おい、まだ予選も終わっていないのに二人で消えたぞ!? まさか駆け落ちしようとしているんじゃ……!」
「夫婦って似てくるもんなんですねぇ」

 どこか呑気な声を出すダレアに構っている暇はない。
 自身の妻が男と二人で建物の影へと消えたのだから。

「追わないと……!」
「どうしてです?」
「……は?」

 焦った俺が走り出そうとすると、あっけらかんとダレアがそう口にして唖然とした。

「どうしてって、そんなの……」
「愛人でも恋人でも好きに作って構わない、じゃなかったですか?」
「!」

 紛れもなく自分の口で告げた言葉を言われ、思わず口ごもってしまう。

“確かに俺は最初にそう言ったな”

「妃殿下との約束通り、妃殿下と恋をしてはどうかとも進言しましたよ」

 さらりと重ねられたその言葉は、何故かベルモント卿の元でセヴィーナと新人騎士が模擬戦をしていたのを見た時に提案されたことだった。

“あの時は、お互いに好きになれるか次第だなんて思っていたな”

 そして正直、自分が彼女に惹かれるだなんて思わなかった。
 だが実際は――

「好き、なんだろうか?」
「見ていればわかりますよ」
「どこが好ましいのか思い当たらないんだがな」
「それを全部好き、と言うのでは?」

 全部と言われて苦笑してしまう。
 

 大国グランジュの王太子として、常に冷徹でいることを心掛けていた。

 規律を守り、節度を守り、模範的な王太子として、ある意味型にはまった人生だった。

“いつかは政略結婚をすると思っていた。それが人質にするためのものだとは思わなかったが”

 だからこそ人質という役目を終えたなら、誰とでも幸せになればいいと思っていた。
 俺自身も彼女と離縁し、独身に戻ればまた国に有益な相手との政略結婚の駒になれるはずだったのに。

「セヴィーナは、俺とは正反対なんだ。だから口論が絶えない」
「口論出来る対等な相手でいてくださっているんですね」
「破天荒で、予想外の行動をする。その行動をしたらどうなるかをあらかじめ考えるのではなく、行動した後に考えるタイプだな」
「だからこそ新しい答えに辿り着きますね」
「真っ直ぐ、俺だけを見てくるんだ」
「王太子としての殿下ではなく、一人の人間としてぶつかってきていますね」
「あぁ」

 彼女は俺を王太子としては見ない。
 王太子ではなくただのアルドとして見つめ、彼女も人質という立場ではなくただのセヴィーナとしてぶつかってくるのだ。

 王太子として理想の枠に収まる俺の世界を、力業で壊して巻き込み連れ出すことが出来るのはきっと彼女だけ。

 そしてそんないつでも全力な彼女が見つめる先は、求める相手が自分だけなのだとしたら――……


「ダレアの言う通りだな」


 いつの間にか俺は、そんな彼女が堪らなく愛おしくなっていたらしい。


「約束を持ちかけたのはセヴィーナだ。俺の相手は彼女だけで、彼女の相手も俺だけだ」
「えぇ、そうですね」
「だからベルモント卿に渡すわけにはいかない」
「そこは勘違いだと思いますけどね」

 ベルモント卿に限って、と断言するダレアに内心同意するが、だが二人がこそこそと抜け出したのは間違いないのだ。


「追うぞ」
「今からで見つけられますかねぇ」
「騒ぎの中心がセヴィーナだ」
「あ、途端に見つけられるような気になりました」

“どんな内容かはわからないが、相談するならベルモント卿より先に俺にして欲しかったものだな”

 だからこそ次はまず俺に話してくれるように。

 
「想いを伝えることから始めるか」

 そう呟いて、俺はセヴィーナがベルモント卿と共に消えた路地へと足を踏み出したのだった。


 ◇◇◇


「ジークとはどこで知り合ったの?」

 何が目的かはわからない。
 だからこそ変な疑いをかけられる前にジークを探すことにした私とベルモント卿は、昨日ジークが消えた裏路地を中心にキョロキョロと周囲を見回しながら歩きつつ、ずっと気になっていたことを質問する。

「正直こんな大国の騎士団長と、流れの傭兵だったジークが仲良くなる想像がつかないのよね」

 もし彼がどこかの貴族のお抱え騎士団の団長だったのならば、任務の補充人員として雇われ出会うということはあり得るだろう。

 もしくはジークが流れの傭兵ではなくある地域に根付いていたならば、その土地に詳しい人間として騎士団から招集される可能性だってある。

 だが実際の二人はそうではないのだ。

“どう考えても接点が思い付かないのよね”

 二人の間にどんな接点があったのか、ある意味わくわくと少し期待したような気持ちでいた私だったのだが、そんな私に苦笑したベルモント卿はアッサリと種明かしをしてくれた。


「道に迷ってたんですよ」
「え」

“み、道に……?”

 告げられたその言葉があまりピンとこず、ぽかんとしてしまう。
 呆然としている私に気付いたのか、それともその当時のことを思い出したのかベルモント卿はくすりと笑った。


「私がまだ副団長だった頃のことです。相変わらずリヒテンベルンから嫌がらせのような小競り合いを仕掛けられ、その対応をするために辺境にいた時のことでした」
「その節は祖国が大変申し訳ないことをしたわね……」
「たまたま豪雨が続き、当初予定していた道が崩れて通れなくなっていたんですよ」

 余程楽しい思い出なのか、くすくすと笑いながら更にベルモント卿が話を続ける。
 もちろん話ながら周りへの警戒は怠らないところは、流石グランジュの騎士団長だ。

「仕方なく迂回することにしたんですが、予想以上に遠回りしなくてはならなくて。ただ、この雨と地面のぬかるみを考えればリヒテンベルン側も何も出来ないだろうと思い焦りはありませんでしたね」
「ある意味休戦状態だったのね」
「えぇ。そしてそんな時に、突然目の前に現れたのがジークだったんです」

 ジークは元々流れの傭兵だったので、土地勘などはない場所が多い。
 そんな中、豪雨で地形が変わったとなれば道に迷ってしまっても決して不思議ではなかった。

“きっと依頼先へ行こうとして雨に降られたんだわ”

 私のその予想は当たっていたようで、そのままベルモント卿が話を続ける。
 
「目的地が近いようで、案内がてら同行を頼まれ許可しました。途中足止めされた時間もあったので、ジークとは案外長い時間一緒にいて、体が鈍らないようにと何度も剣を交えましたね」

 騎士団で教わり、そして教えていた戦法はジークにまるで通じなかった、と笑うベルモント卿。
 
 きっと彼が一番ジークと剣を交えたのか、話をする彼の表情から、まるで幼い頃から友人同士だったかのような親しみを感じさせた。

「あいつ、何でもするんですよ、本気じゃないなんて言いながら足を引っかけ木から飛び降り土をぶつけて……、お綺麗な戦法とは決して言えない。まさに妃殿下のような戦い方でした」
「遠回しに私への文句ね?」
「それが、面白いと思いました。そして本当に強かった。私は結局一度も勝てなかったんです」

“ベルモント卿が?”

 ジークは確かに強い。
 勝ち方に拘らないからこそ負けることはないのだ。

 だが、当時既に副団長にまで上り詰めていたベルモント卿が一度も、ということには思わず驚いてしまう。

「まぁ、一緒に過ごすうちにジークが特別になってしまったせいもあるかもしれませんが」

 まるで冗談のようにそんなことを口にしたベルモント卿。

「そうやって過ごし、目的地である戦場に辿り着いたんです。案の定休戦状態ではありましたが、私たちが着いたことで戦闘がはじまる、そんな瞬間でした」
「え、まさか」
「そのまさかです。しれっとジークが剣を抜いて、リヒテンベルンの騎士と合流したんですよ」

“ジークに依頼をしたのってリヒテンベルンだったの!?”

 確かに大国グランジュが、いくら腕がたつとはいえ一傭兵に助っ人の依頼を出すことはない……が、弱小国であるリヒテンベルンならば。

「う、うわぁ、あり得るわ」
「驚きましたよ。さっきまで談笑していたのに、じゃあ今から敵同士だな! と剣を向けてきたんですから」

 ベルモント卿の説明に思わず青くなるが、豪胆なジークなら、敵と堂々と行動を共にし目的地まで案内させるくらいしそうだと思った。

「そ、それで結果はどうなったの……」
「元々戦力的にはグランジュが圧倒的ですからね。ただ、ジークには手こずらされました。しかもあいつ、手を抜いていて」
「あー、案内の駄賃、とか言いそうね」
「まさにそれです。こっちの騎士のプライドはズタボロですよ」

 とんでもない話だが、それでもやはりどこか楽しそうで。

「結局リヒテンベルン側の指揮を担っていた男が逃げ出したところでジークもアッサリと戦闘を放棄、そして戦闘が終わったタイミングで笑顔で手を振って来たんです。『また遊ぼうな!』だ、そうですよ」
「遊ぼうって、ジークってば……」
「最後まで振り回されっぱなしで、でも、それと同時に楽しかった。また『遊びたい』と、思わされるくらいには」

 そう言って笑うベルモント卿の表情から、それが彼の本心なのだと察する。
 責任と重圧のある立場の彼からすれば、ジークの行動全てがもしかしたら自由でキラキラに見えたのかもしれない。

「その後は妃殿下もご存じの通りです。いつの間にかジークは流れの傭兵を辞めて王女の専属護衛になりました。ジークが専属になるなんて、と正直驚いたのですが……」

 じっとベルモント卿に見つめられると少し居心地が悪く、ついその視線から逃げるようにジークを探す振りをして顔を背ける。

「妃殿下を見て納得しました。面白いものを見つけたんだな、と」
「ベルモント卿もなかなかに失礼ね!?」

 告げられた言葉に思わず噛み付くと、ふはっと彼が吹き出した。
 その表情は、騎士団長というよりももっと幼く純粋な少年のようにも見える。

「それくらい、私の中では大きい存在になっていたということです」
「まぁ、ジークが専属になり、更には剣も教えるくらいの素晴らしい人材だったと思っておくわ」

 ため息混じりにそう告げると、相変わらずまだ笑いを漏らしながらベルモント卿も頷いてくれる。


 そして、ここまで楽しそうに話すのだ。
 きっと今聞いた以上の何かも彼らの間にはあるのだろう。

“それを、ジークからも聞かなきゃね”

 誰よりも早く、ジークを見つけて。


 私はそう心に誓い、ジーク探しに戻ったのだった。
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