勇者として召喚されましたが性別間違えてますのでその結婚はお断りです!

春瀬湖子

文字の大きさ
4 / 8

3.DEAD ENDはお断り

しおりを挟む
『とりあえずお着替えいたしましょう?』と繋いだ手を引っ張られるようにして向かったのは私が使わせて貰うことになった客室“だと思っていた部屋”だった。

迷いない足取りで歩くフランカに、私が案内された時は席を外していたのに知ってるなんて流石だな⋯と思ったのでそのまま伝えた結果⋯

「だってあそこは私達のお部屋ですもの」

という答えが返ってきたのだ。


「⋯エッ!待って待って、私達の部屋?」
「だって夫婦になるんですもの、何か問題が?」

“いや問題しかないよっ!?”


――女だとバレたら強制送還でDEAD END。
一緒にいる時間が長いほど当然バレる可能性も高くなる訳で。


「さぁ、とりあえずお着替えいたしましょう。お手伝いさせていただきますわ」
「いやっ!?いりませんけど!!おっ、お姫様にそんなそんな⋯っ!」

“手伝われたら流石にバレる!”

早速きた最初のピンチに私はひたすらテンパっていた。

“悲し気かな貧乳のお陰で服さえ着ていればバレないかもだけど、脱がされたら流石にバレるから!!”

こういうのは先手必勝だ!とクローゼットらしき扉を開いた私の目に飛び込んできたのはヒラッヒラのドレス達。

「⋯ぅえ!?」

“しまった!ここはフランカのクローゼットか!”
流石に下着はなかったが、それでも可愛い女の子のクローゼットを勝手に暴いた罪悪感に襲われ――

“いや、女同士なんだからそこまで気にする必要はないんだけどっ!”

なんて内心必死に言い訳をする。
だがフランカからすれば国の為に結婚するつもりの相手とはいえ、ほぼ知らない男が自分のクローゼットを覗いている状態という訳で。

焦った私は慌ててそのクローゼットを閉じようとしたが、フランカに後ろから抱き締められ閉じる手を阻止された。


「あら⋯。気になる服はございますか?」
「いっ!?いや、ありませんけど!」

どう考えても男子中学生に間違えられる私に似合うドレスはなく、あとぶっちゃけドレスにも憧れなんてものはなかったのでそう正直に答えると、フランカは少し不満そうに頬を膨らませる。

“うっ、そんな顔も可愛いな⋯”

だがときめいてはいけないのだ。
禁断の扉を開いた先に待つのはDEAD ENDか71歳勇者の二択なのだから。


「試しに着てみられますか?レイの黒髪ならこの淡い緑のドレスが合いそうですが――」
「いや本当にいいって!てか勝手にフランカのクローゼット開けてごめん、俺の服どこかな!?」
「ー⋯、では、こちらはいかがでしょう」

フランカから逃げるように無理やりクローゼットの扉を閉じた私をじっと見た彼女は、すぐにシンプルなシャツとパンツを出してくれて。

“ベストもあるから胸も隠れるし丁度いいかも”

そのシンプルな服が案外気に入った私は、お礼を言ってその服に手を伸ばしー⋯

「お手伝いいたしますわ」
「いらないってば!!」

ひょいと服を遠ざけられ思わず叫ぶように抗議すると、むっとした顔を向けられる。

「⋯ランドリューとはあんなに親しくしていたくせに⋯」
「だから服⋯って、え?ランドリュー?」

“親しく⋯したっけ?”

その想定外な内容に私がぽかんとしていると、突然ぎゅっと抱き締められた。

「っ!?」
「⋯夫婦になるんだから、頼ってよ⋯」

ポツリと溢すようにそう告げられ心臓が痛いくらいに跳ねる。

「な、なん⋯っ」

そのままぎゅうぎゅうと抱き締められる腕が思ったよりも強く、逃げようにも逃げれない。

“こんなに近付いたら女だってバレるかもしれないのに⋯!”

触れる体を伝ってドクドクと鼓動が響くのが堪らなく恥ずかしいが、逃げられないからか、それとも突然知り合いもいない一人ぼっちの世界に来たことが自分で思うよりもずっと不安だったのか。

“国を守るためってわかってるのに⋯”

力強いこの腕にどこか安心してしまい、段々と逃げる気力も失った私は気付けばそっとフランカの背中に手を回してしまっていた。



「⋯子作り、しよっか」


熱い吐息が耳にあたり、ゾクッとした快感が背を走る。
背はフランカの方が高いし、普段から騎士として鍛えてるはいえ女の子の腕なのに軽々と私を抱えた彼女は、そのまま私をベッドに寝かせ――


「ってダメですけどぉ!!?」
「ちっ」
「⋯⋯!?い、今舌打ち⋯」
「なんのことかしら」

オホホと可愛く笑うフランカは堪らなく可愛いが、それはあくまでもDEAD ENDが絡まなければ、で。

「あんまり誘惑しないで貰えますっ!?絆されそうになるんだけど!」

全力で抗議するが、むしろ私の抗議を聞いてその菫色の瞳を細めたフランカは。

「誘惑しますよ?だって好きになって欲しいもの」
「す、好き⋯に⋯?」
「夫婦になるんです。当たり前ですわ」

“当たり前⋯”

「早く子供を作って魔王の封印を上書きしなくちゃいけないとはわかっておりますが⋯それでも。やっぱり愛し愛された結果の子供がいいですものね」

ハッキリそう告げられ喉がきゅっと張り付く。

“そりゃそうだよ、保身のために子供を⋯なんて考えてたけど、そんな道具みたいにしちゃダメじゃん⋯”

自分の浅はかさにゾッとし、そしてちゃんと考えているフランカに申し訳なく思う。


彼女は国の未来の為に結婚相手を無理やり決められたのだというのに、ちゃんとその相手とも愛を育もうとしているんだから。


――相手が同性であるというミスさえなければ!

“ヒロインが必死に誘惑してる私もヒロインなんだよなぁっ!!”


今まで好きな男など出来なかったのは、もしかしてコッチの気があったからなのか?と疑いたくなるくらい同性のフランカにドキドキしてしまっているが、今この気持ちに流される訳には絶対いかない訳で。


「は、育むならもっとゆっくり育みたい派だから!!」

無理やりフランカをべりっと剥がし転がるようにベッドから降りた私は、着替えを抱え部屋から脱出を試みるが――

「⋯絶対満足させるつもりでおりましたのに」

くすりと笑ったフランカにあっさりと捕まって。

「ま、満足⋯?」
「一度で体も心もいただくつもりでしたもの。⋯ですが」
「え?」

すぐにパッと解放され、思わず怪訝な顔を向ける私に妖艶な笑みを向けたフランカは。

「いいですわ、レイの希望通りゆっくり育みましょう!私を沢山知ってくださいませね」

なんて言葉を残し部屋を出てしまった。
広い部屋にぽつんと残された私は暫く放心していたが、すぐにハッとし慌てて高校ジャージを脱ぎ捨て着替える。

無事に着替えを終えた私が部屋を出ると、なんと部屋の前ではフランカが待っていて⋯


「え、なんで?」
「なんでって⋯。レイが見られたくなさそうでしたからここでお待ちしておりましたのよ」

ツンとそっぽを向く様子もやはり可愛く、そしてだからこそ申し訳なかったのだがー⋯


「知ってくださいと言いましたもの!デートをいたしましょう」

すぐに花が綻ぶような微笑みに変わったフランカは、私の腕を取ると楽しそうに歩きだしてしまって。

“本当は少しでも早くランドリューからアゴットさんの情報貰って知り合わなきゃいけないんだけど⋯”

引っ付いて歩くフランカがとても楽しそうに見えたから。

“それに、まだ何も情報がないからアゴットさんの顔も知らないしね!”

「いいよ、行こっか」

フランカの言葉に頷くと、ギシッと音が聞こえそうなほど一瞬で彼女が固まる。
それを不思議に思った私がそっと彼女の顔を覗き込むと、そこには⋯


「えっ!真っ赤!?」
「う、うるさいなぁっ!」
「うるさいなぁ!?」

丁寧なフランカらしくない言葉遣いに驚きつつ、それでもどうやら照れてしまったらしい彼女が可愛くて。

“さっき舌打ちもしてたし、こっちが素⋯なのかな”

だったらもっとそんな“素の彼女”を見たいなんて考えー⋯

慌てて頭を振り思考を追い出す。


“バレたらDEAD ENDなんだから!”

どこかぎこちなく騒がしい心臓から目を逸らし、私はフランカに連れられるまま歩くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...