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6.ヒロインの行方
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「や、やっぱりいいです!帰ります!!」
必死に踏ん張ってはみるが、大人の男の力に叶うはずもなくズルズルと引き摺られるように離れへ連れ込まれた私は乱暴に机へ投げられた。
「いった⋯!」
木製の机に上半身を打ち付ける形でぶつかった私は、痛みよりも驚きで息を呑む。
“な、なにコイツ⋯!”
文句を言いたいし何よりも逃げ出さないとヤバいという事はわかるのだが、足が震えて上手く力が入らなかった。
「ふぅん⋯、そうやって怯えてると確かに女にも見えるな⋯そそられんが」
失礼な事をニヤニヤしながら言うアゴットがひたすら気持ち悪い。
“フランカ⋯、フランカ⋯っ!”
あんなにランドリューにも気を付けるよう念を押されていたのに、まんまとこんな状況にしてしまった自分の浅はかさを呪ってももう遅くて。
「や、やだ⋯、やだ⋯っ」
「あぁ、フランカは怒るだろうなぁ、それともお前に見切りをつけてあっさり捨てるかなぁ?」
「ッ」
「俺の子種をお前に注ぐなんて、これ以上ない裏切りだもんなぁ」
フランカに、捨てられる⋯?
フランカを、私が裏切る⋯?
性別を間違えて召喚したのはあっちだけど、性別を正さなかったのは私だ。
“違う、私は最初からフランカを騙して裏切ってたんだ⋯”
アゴットの手が私のお腹をまさぐり、ゆっくりと下腹部へ下がる。
しかし、その手を気持ち悪いと思う前に私は気付いてしまったその事実に衝撃を受けていて――
「⋯きゃ」
「あ?」
「フランカに、謝らなきゃ⋯」
「何をぶつぶつと⋯」
誠実に接してくれていたフランカに、不誠実を返してしまっていた。
今さら謝ったところで許されないかもしれないし、強制送還DEAD ENDコースかもしれないけれど。
「フランカにこれ以上ガッカリなんてされたくない!!」
カチン、と机に何か当たった音がし、フランカに貰った紙袋の存在を思い出した私はすぐさまポケットから取り出して。
「――え、これ⋯」
渡されたものの正体に若干引きつつも、『迷わないで』と言ったフランカの言葉に従いソレを両手に装着して思い切りアゴットに殴りかかった。
「う、が⋯っ!」
自分が優位だと思っていた状態からの突然の反抗に対応出来なかったアゴットは、その顎に思い切り私の拳を受けひっくり返る。
「うっわ、やっぱある程度重さがあると威力って出るんだなぁ」
なんて感想を漏らしながら私がまじまじと見るのは、両手に装着された『メリケンサック』だった。
“だからフランカ、一生懸命指のサイズ測ってたのか⋯”
チョイスこれかぁ、なんて苦笑しつつそれでもこのお陰で助かったのだと内心感謝した私は、アゴットがひっくり返っているうちに、とその離れから逃げ出そうとし⋯
「ま、待て!」
「げっ」
アゴットの取り巻きに押さえつけられてしまった⋯の、だが。
「待つのはお前なっ」
「⋯え?」
ゴッという鈍い音と共に押さえつけられていた重みが消え唖然とする。
そしてそんな私の目に飛び込んで来たのは、綺麗なプラチナブロンドをした騎士服の“男性”でー⋯
「レイ、怪我はしてない?」
「⋯あ、え?ふ、フランカ⋯?」
「?そうだけどー⋯って、あぁ、ごめん今は髪の毛外してるんだ」
「髪の毛を外すという文化!!?」
「いやそんな文化はないけども」
突然の乱入者に慌てた他の取り巻きを、フランカと一緒にいたランドリューが無力化していく。
その鮮やかさにプロってすごいとかなりズレた感想が過りつつ、私は目の前のフランカから目が離せなくて。
「別件で張ってて良かったですね、フランカ様」
「な、なんで⋯」
「なんではこっちの台詞だけど?なぁんで1人で乗り込んだの」
「だ、だってその、子種が⋯要る、から⋯」
混乱を極めた私はポロッと本当の事を言ってしまい⋯
「は?」
私の言葉を聞いたフランカが、過去一剣呑な声を出した。
「そ、そのぉ⋯」
「そんなに俺が嫌だったの」
「お、俺⋯?」
「何?いつもみたいにわたくし、とか言えばいいの」
「え、えぇ⋯?というか、あのフランカって⋯」
目の前で苛立ちを隠さず不機嫌そうにしているそのフランカは、いつものフランカの面影はあるもののどう見ても⋯
「男だけど」
「ですよねっ!?」
しれっと告げられ、後ろでアゴットと取り巻きを縄でぐるぐるにしているランドリューに思わず叫ぶ。
「姫様について聞いたとき教えてくれなかった!!」
「えぇ?お教えしましたよ!?騎士団に入ってるって!王女様の名言までセットでお伝えしました!」
「あ、それ妹の話だわ」
「妹!?」
“え⋯じゃあランドリューが言っていた姫様はフランカじゃなくてフランカの妹ってこと?”
でもそう考えれば辻褄は合う。
あの時私は『フランカに男兄弟がいるか』を聞いたのだ、本人の性別なんて聞いてない。
フランカの話を聞いているつもりで『姫様』と言ったのだから、ランドリューが『本当の姫様』の話をしているのも当然といえば当然で――
「じゃあなんでお姫様のコスプレなんかしてたのよ⋯趣味?」
「こすぷ⋯?いや、勇者の召喚だからだろ。本来は妹が迎えるはずだったのだが自分の手で復活した魔王を倒せばいいってわざと遠征に行ってしまって⋯」
「あぁ⋯」
“フランカは封印推奨派だったもんね”
「とりあえずフランカがプロポーズして、後々妹さんと入れ替わるつもりだったってこと?」
「いや、違うけど」
「違うの!?」
なるほど、と自分なりに理解した答えを告げたがあっさりと否定されガクリと肩を落とす。
「媚びようかと妹の姿を装ったのはそうだが、レイが女だって一目でわかったから俺がプロポーズしたんだよ」
「え⋯っ!」
それはあまりにも意外な言葉だったが、確かに初めて会ったあの時フランカは何かに驚き思案していた事を思い出す。
“男の勇者が来ると思ったのに私が女だったから驚いたって事?”
思わずぽかんとするが、それでも全てに納得はいかなくて。
「じゃあ、なんでずっと女の格好続けてたの?」
「そんなん、レイが男のフリしてたからだろ」
「そ⋯っ、れは⋯」
「言ってくれたらすぐに俺も言ったけどな。なんの意図があって性別偽ってんのかもわかんなかったし」
「ごめん⋯」
「いいよ。なんかオタオタしてんの可愛かったし」
「かわ⋯っ!?」
そこまで会話し、ふと気付く。
フランカが男で、私が女だって事も気付いていたのならー⋯
「え、じゃあフランカって私で勃つの?」
「なっ!?」
思わず明け透けに聞いてしまい、フランカの顔が一気に赤く染まった。
“男子中学生って評判なのに”
それにアゴットも、私の見た目ではそそられないと言っていて。
「⋯やっぱり国の未来がかかってるから⋯って、こと?」
「え?あ、あー⋯。いや、俺は可愛いと思ってるけど」
「へっ!?」
少し気恥ずかしそうに目を反らしたフランカは、照れ隠しなのか少し投げやりに言葉を続ける。
「もちろん封印の事とかがキッカケではあるけど、花一本で頬染めるし何食べても旨そうにするし。俺の後を一生懸命追ったりさ⋯、そんなん可愛いに決まってるっていうか」
そっと私の手にフランカの手が重ねられる。
改めて握られると、ゴツゴツとしているのは“男の手だから”だと実感させられるようで顔が熱くなった。
「国の為だけど。でも俺は相手がレイで良かったと思ったし、レイ“が”いいとも思ってるよ」
そう言いきるフランカは、私がいつもドキドキさせられていた穏やかな微笑みで。
“私、フランカの事好きになっていいだな”
なんて実感した私の胸に温かい気持ちがじわりと広がる――
――が。
「ー⋯じゃ、誤解も溶けたことだし今晩こそは子作りする?」
「なッ!」
さらりと続けられたその言葉に驚くと、フランカがくすくすと楽しそうに笑っていて。
「⋯からかった?」
勇者として召喚された私は、どうやら小説や漫画でよく見る王子様⋯より少し意地悪な私だけの王子様のヒロインとして、穏やかにー⋯
「さぁ⋯どっちだと思う、“俺の”勇者様?」
ー⋯暮らせる、か、なぁ?
必死に踏ん張ってはみるが、大人の男の力に叶うはずもなくズルズルと引き摺られるように離れへ連れ込まれた私は乱暴に机へ投げられた。
「いった⋯!」
木製の机に上半身を打ち付ける形でぶつかった私は、痛みよりも驚きで息を呑む。
“な、なにコイツ⋯!”
文句を言いたいし何よりも逃げ出さないとヤバいという事はわかるのだが、足が震えて上手く力が入らなかった。
「ふぅん⋯、そうやって怯えてると確かに女にも見えるな⋯そそられんが」
失礼な事をニヤニヤしながら言うアゴットがひたすら気持ち悪い。
“フランカ⋯、フランカ⋯っ!”
あんなにランドリューにも気を付けるよう念を押されていたのに、まんまとこんな状況にしてしまった自分の浅はかさを呪ってももう遅くて。
「や、やだ⋯、やだ⋯っ」
「あぁ、フランカは怒るだろうなぁ、それともお前に見切りをつけてあっさり捨てるかなぁ?」
「ッ」
「俺の子種をお前に注ぐなんて、これ以上ない裏切りだもんなぁ」
フランカに、捨てられる⋯?
フランカを、私が裏切る⋯?
性別を間違えて召喚したのはあっちだけど、性別を正さなかったのは私だ。
“違う、私は最初からフランカを騙して裏切ってたんだ⋯”
アゴットの手が私のお腹をまさぐり、ゆっくりと下腹部へ下がる。
しかし、その手を気持ち悪いと思う前に私は気付いてしまったその事実に衝撃を受けていて――
「⋯きゃ」
「あ?」
「フランカに、謝らなきゃ⋯」
「何をぶつぶつと⋯」
誠実に接してくれていたフランカに、不誠実を返してしまっていた。
今さら謝ったところで許されないかもしれないし、強制送還DEAD ENDコースかもしれないけれど。
「フランカにこれ以上ガッカリなんてされたくない!!」
カチン、と机に何か当たった音がし、フランカに貰った紙袋の存在を思い出した私はすぐさまポケットから取り出して。
「――え、これ⋯」
渡されたものの正体に若干引きつつも、『迷わないで』と言ったフランカの言葉に従いソレを両手に装着して思い切りアゴットに殴りかかった。
「う、が⋯っ!」
自分が優位だと思っていた状態からの突然の反抗に対応出来なかったアゴットは、その顎に思い切り私の拳を受けひっくり返る。
「うっわ、やっぱある程度重さがあると威力って出るんだなぁ」
なんて感想を漏らしながら私がまじまじと見るのは、両手に装着された『メリケンサック』だった。
“だからフランカ、一生懸命指のサイズ測ってたのか⋯”
チョイスこれかぁ、なんて苦笑しつつそれでもこのお陰で助かったのだと内心感謝した私は、アゴットがひっくり返っているうちに、とその離れから逃げ出そうとし⋯
「ま、待て!」
「げっ」
アゴットの取り巻きに押さえつけられてしまった⋯の、だが。
「待つのはお前なっ」
「⋯え?」
ゴッという鈍い音と共に押さえつけられていた重みが消え唖然とする。
そしてそんな私の目に飛び込んで来たのは、綺麗なプラチナブロンドをした騎士服の“男性”でー⋯
「レイ、怪我はしてない?」
「⋯あ、え?ふ、フランカ⋯?」
「?そうだけどー⋯って、あぁ、ごめん今は髪の毛外してるんだ」
「髪の毛を外すという文化!!?」
「いやそんな文化はないけども」
突然の乱入者に慌てた他の取り巻きを、フランカと一緒にいたランドリューが無力化していく。
その鮮やかさにプロってすごいとかなりズレた感想が過りつつ、私は目の前のフランカから目が離せなくて。
「別件で張ってて良かったですね、フランカ様」
「な、なんで⋯」
「なんではこっちの台詞だけど?なぁんで1人で乗り込んだの」
「だ、だってその、子種が⋯要る、から⋯」
混乱を極めた私はポロッと本当の事を言ってしまい⋯
「は?」
私の言葉を聞いたフランカが、過去一剣呑な声を出した。
「そ、そのぉ⋯」
「そんなに俺が嫌だったの」
「お、俺⋯?」
「何?いつもみたいにわたくし、とか言えばいいの」
「え、えぇ⋯?というか、あのフランカって⋯」
目の前で苛立ちを隠さず不機嫌そうにしているそのフランカは、いつものフランカの面影はあるもののどう見ても⋯
「男だけど」
「ですよねっ!?」
しれっと告げられ、後ろでアゴットと取り巻きを縄でぐるぐるにしているランドリューに思わず叫ぶ。
「姫様について聞いたとき教えてくれなかった!!」
「えぇ?お教えしましたよ!?騎士団に入ってるって!王女様の名言までセットでお伝えしました!」
「あ、それ妹の話だわ」
「妹!?」
“え⋯じゃあランドリューが言っていた姫様はフランカじゃなくてフランカの妹ってこと?”
でもそう考えれば辻褄は合う。
あの時私は『フランカに男兄弟がいるか』を聞いたのだ、本人の性別なんて聞いてない。
フランカの話を聞いているつもりで『姫様』と言ったのだから、ランドリューが『本当の姫様』の話をしているのも当然といえば当然で――
「じゃあなんでお姫様のコスプレなんかしてたのよ⋯趣味?」
「こすぷ⋯?いや、勇者の召喚だからだろ。本来は妹が迎えるはずだったのだが自分の手で復活した魔王を倒せばいいってわざと遠征に行ってしまって⋯」
「あぁ⋯」
“フランカは封印推奨派だったもんね”
「とりあえずフランカがプロポーズして、後々妹さんと入れ替わるつもりだったってこと?」
「いや、違うけど」
「違うの!?」
なるほど、と自分なりに理解した答えを告げたがあっさりと否定されガクリと肩を落とす。
「媚びようかと妹の姿を装ったのはそうだが、レイが女だって一目でわかったから俺がプロポーズしたんだよ」
「え⋯っ!」
それはあまりにも意外な言葉だったが、確かに初めて会ったあの時フランカは何かに驚き思案していた事を思い出す。
“男の勇者が来ると思ったのに私が女だったから驚いたって事?”
思わずぽかんとするが、それでも全てに納得はいかなくて。
「じゃあ、なんでずっと女の格好続けてたの?」
「そんなん、レイが男のフリしてたからだろ」
「そ⋯っ、れは⋯」
「言ってくれたらすぐに俺も言ったけどな。なんの意図があって性別偽ってんのかもわかんなかったし」
「ごめん⋯」
「いいよ。なんかオタオタしてんの可愛かったし」
「かわ⋯っ!?」
そこまで会話し、ふと気付く。
フランカが男で、私が女だって事も気付いていたのならー⋯
「え、じゃあフランカって私で勃つの?」
「なっ!?」
思わず明け透けに聞いてしまい、フランカの顔が一気に赤く染まった。
“男子中学生って評判なのに”
それにアゴットも、私の見た目ではそそられないと言っていて。
「⋯やっぱり国の未来がかかってるから⋯って、こと?」
「え?あ、あー⋯。いや、俺は可愛いと思ってるけど」
「へっ!?」
少し気恥ずかしそうに目を反らしたフランカは、照れ隠しなのか少し投げやりに言葉を続ける。
「もちろん封印の事とかがキッカケではあるけど、花一本で頬染めるし何食べても旨そうにするし。俺の後を一生懸命追ったりさ⋯、そんなん可愛いに決まってるっていうか」
そっと私の手にフランカの手が重ねられる。
改めて握られると、ゴツゴツとしているのは“男の手だから”だと実感させられるようで顔が熱くなった。
「国の為だけど。でも俺は相手がレイで良かったと思ったし、レイ“が”いいとも思ってるよ」
そう言いきるフランカは、私がいつもドキドキさせられていた穏やかな微笑みで。
“私、フランカの事好きになっていいだな”
なんて実感した私の胸に温かい気持ちがじわりと広がる――
――が。
「ー⋯じゃ、誤解も溶けたことだし今晩こそは子作りする?」
「なッ!」
さらりと続けられたその言葉に驚くと、フランカがくすくすと楽しそうに笑っていて。
「⋯からかった?」
勇者として召喚された私は、どうやら小説や漫画でよく見る王子様⋯より少し意地悪な私だけの王子様のヒロインとして、穏やかにー⋯
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