【R18】身代わり婚約者との愛され結婚

春瀬湖子

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3.そこだけで判断するのは失礼ですね

「誕生日おめでとう!可愛い私たちのティナ!」
「ありがとうございます。お父様、お母様」

 ハンナの選んでくれたレモンイエローのドレスに身を包み両親の待つ部屋に入ると、わざわざ立って待っていてくれたらしく熱烈なハグで出迎えられた。


「それでティナ、ベネディクト君とはどうなんだね?」

 和やかな雰囲気で席に着いた早々に放たれる父からの言葉に思わずうぐっと息を呑む。

“……なんて答えるべきかしら”

 茶会に本人が来ないことは気付いているだろうが、流石に一度も来ていないとまでは思っていないはず。

 もし一度も来ていないことがバレたら……

“婚約破棄、かしら”

 私だって、この仲睦まじい両親を間近で見てきたのだから恋だとか愛だとかに憧れはある。
 
しかし、どう考えても条件だけを見ればベネディクト以上の相手はいない。
 女性でも爵位を継げるこのターンバル国。

 私はこのエングフェルト家の次期公爵なのだ、ならばそれ相応の考えをしなくてはならない訳で……


「確かにあまりお会いできてはおりませんが、本日のエスコートは彼がしてくださいます」

“多分ですけれど!”

 本当にベネディクトが来るか若干不安だが、やはりどう考えても現状彼が結婚相手として最善だとするならば婚約破棄なんてする訳にはいかない。

 少し罪悪感はあるが、ここは両親を言いくるめて納得して貰うしかないと必死に言葉を重ねる。

「会えないのはお仕事とのことですし、それはつまりそれだけちゃんと役割に向き合えるということですわ」
「そうかなぁ」
「そ、それに! 今晩会うのにわざわざ朝一に花束を届けてくださったんですよ」

“届けてくれたのも選んでくれたのもレヴィン様ですが!”

「おぉ、そうなのか? ちゃんと想われてはいるのかな」
「えぇ、もちろんですわ」

“多分私の肩書きを想ってはいるはずですし、嘘ではありませんよね”

 内心自分でツッコミつつ、それはまぁお互い様なので仕方ない。

「まぁ、ティナが言うのなら私たちは信じよう」
「えぇ、仕方ないわね。けど忘れないで? 私たちは貴女にもちゃんと恋して欲しいと思ってるから」
「はい、ありがとうございます」

 
“恋……”

 母の言うその単語を心の中で反芻する。

 私の求める条件全てを兼ね備えているベネディクトだが、そのベネディクト相手に恋する自分というのはどうしても想像が出来ない。

 性格や態度、何より自分の身代わりとして他の人を送り続ける相手に好感なんて芽生えるはずもなくて。

“それに、見た目だって”

 やんちゃそうな赤茶の髪にアーモンドのような瞳、どこか飄々とした遊び人風の雰囲気は確かに令嬢に人気がある。

 けれど不誠実だと思っているせいか私には軽薄そうに見え、その容貌にもあまり惹かれない。


“どちらかといえば、私はやっぱりクールで落ち着いた”

 ――そう、まさにレヴィン様のような。

「って、何を考えてるの……!?」
 
 
 ふとそんな考えが過った私は、その思考を追い出すように慌てて頭を左右に振ったのだった。



 そんな両親との食事を終えた後は生誕パーティーの準備である。

 食事の手配や屋敷の飾り付けなどは事前に打ち合わせを済ませており、今から私がすべきことは主役としてもはじめての夜会としても恥ずかしくない身だしなみと心構え。

 それはつまり。


「もう少し締めますよ、アルベルティーナお嬢様……!」
「ぅぐっ、い、いいわ、一思いにやって……!」

 ギリギリとコルセットの紐が締められ体が軋む。
 紐を引っ張るハンナの指が真っ白になるほど力一杯締め上げられ固定されたお陰で、私史上最高のシルエットにはなった……のだが。


「こ、これでは何も食べられないわ」

 胃を潰してしまっているのではと思うほど締められ呼吸が精一杯。

 然り気無く自分の食べたいものも今晩の軽食にラインナップさせていた私が少し恨みがましくそう主張したものの……

「食べるなんて言語道断ですよ」
「えっ!?」

 さらっと告げられたハンナの言葉に唖然とする。


“ご、言語道断……!?”

「お嬢様は本日の主役ですので、食べている時間はないかと思われます。……それに」
「そ、それに?」
「必ずあのベネディクト様を監視……ではなく、婚約者として見張られるべきかと思います」

 監視も見張りもほぼ同じ意味なのでは? なんて考えながら、ハンナの言葉に愕然とする。

“そこまでベネディクトの印象が悪いなんて”

 特にハンナは私の専属侍女として誰よりも側にいたため、彼が一度も茶会に出席しなかったことなどは知っている。

 けれど、まさかここまで警戒するなんて思っていなかった私は驚きつつも思わず吹き出してしまった。

 
「笑っている場合ではありません! それにこの美しいお嬢様の姿を見れば必ず骨抜きになるかと思います!」
「それでこんなに締めていたのね」

 確かにハンナが全力で締めてくれたお陰でシルエットが美しい。

 
“別に太っているわけではないはずだけれど”

 ちらっと視線を落とすのは胸元。
 
 豊満ではない……というか、かなりささやかな膨らみしかない胸のせいで、体型に合わせたドレスだとどうしても寸胴に見えてしまうのだ。

 
“流石にこれは苦しすぎる気もするけど”

 しかしこれは見向きもされず役割をレヴィン様に押し付けていたベネディクトが私と向き合う絶好の機会。

 それを考慮し、相手にされていなかった私を少しでも良く見せるためにハンナが頑張ってくれた。

 自分を案じてくれるその気持ちが嬉しくないはずなんてなく、私はこの温かい気持ちに胸がいっぱいになる。


「わかったわ。折角ハンナが頑張ってくれたんだもの、食事は諦めてベネディクトをドキドキさせてみせるから」
「はいっ! その意気です!」

“苦しいけど、そこまで長時間のパーティーでもないし大丈夫よね?”
 
 少しだけ不安になった私だったが、微笑みながらそういうとハンナも嬉しそうな笑顔を向けてくれたのでホッとした。

 

 
 そんなやり取りをしているとあっという間にパーティーの開始時間が迫る。

“ベネディクトはまだかしら”
 
 流石に来るわよね? と、今までされた仕打ちを思い出し少しずつ焦りが滲む。

 いや、彼の事だからもしかしたらギリギリになって『仕事が』なんて言って来ないかもしれない……なんて不安になった時だった。


「アルベルティーナお嬢様、ご、ご婚約者様……の」
「だ、代理? 代理なの……!?」

 控え室の扉をノックしメイドが声をかけてくる。
 言葉の先を想像し、じわりと額に汗を滲ませた私に告げられたのは。


「酷いな、ちゃんと本人ですよ? アルベルティーナ嬢」
「べ、ベネディクト様!」

 そこにいたのは、赤茶色の髪にアーモンドカラーの瞳を楽しそうに細めた、婚約後はじめて会う自身の婚約者だった。
 

“ほ、本人!”

 内心で、だが思わず丁寧な言葉遣いを忘れ驚く私。
 チラッと見たハンナと案内を担当したメイドも驚愕の色を隠せていないので、全員正直来ない可能性を考えていたのだろう。


「もうパーティー始まるな、さっさと行こうぜ」
「あ、はい」

 私のドレス姿の、特に胸元を見ていたベネディクトがくるりと背を向けたので慌てて立ち上がった私は小走りで彼の隣に向かう。

“ハンナが頑張ってくれたのだけれど……”

 褒め言葉どころかギリギリにしか来なかったことに対する謝罪、というかそもそもこの四年間代理を送り続けていたことに対する謝罪すらもない彼に私は少しだけ呆れた。

 嫌みくらい言ってやろうかしら、なんて頭を過るが、元から私たちのこの婚約にも、そして結婚後の生活にも愛なんてないのだととっくに割り切ってしまっていた私は全ての言葉を飲み込んで。


「……成人祝いのお花、ありがとうございました」

“持ってきてくれたのも、選んでくれたのもレヴィン様ですけれど”

 それでもお花が嬉しかったのは事実だから、と思いお礼の言葉を口にしたのだった。
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