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最終章・勇者レベル、???

34.言っていいのは、私だけ

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“そっち!?”

 肩透かしをくらった私は思わずぽかんとした表情になってしまう。

 ……なってしまう、が。


「年ってことだよな、だってもう46だろ?」
「さっさと引退して上のポジション空けろって思ってたけど、こういう転落が見れるなら良かったよなぁ」

 あはは、と笑う彼らに言い表せないほどの苛立ちを覚える。

“なんなの、あいつら”

 
「……第三騎士団の方たちみたいですね」

 怒りで手が震えている私に気付いたのか、そっと手を握ってくれたアベルが私に耳打ちで教えてくれた。

 第三ということは、ベルザックの一席が空いたところで上がるのは第一の誰か。
 つまり彼らは選ばれたとしても、第一の補充で繰り上がって席の空いた第二騎士団ということになるだろう。

 
“その程度の奴が何いってんのよ!”

 そもそもあの程度のモラルしか持っていないなら第二なんて上がれるとは思えない。
 強さとは技術だけでなく心も兼ねてこそだというのが持論だ。


 あんなに怒っていたベルザックのことを言われ、こんなに苛立つ自分に少し不思議に思う。
 彼は私の監視であり私の敵である可能性が高くて。

 そして何よりフランに失礼な人。


『俺が個人的に尊敬している』
 それでも、フランはそういっていたから。

 そして何より今は第六騎士団所属、信頼できるかは別としても……私の、仲間だから。


“というかそもそもあの言い方って第六騎士団ごと馬鹿にしてるし!”


 ――けど、ライザもアベルもいるこの状況で喧嘩を売るのはよくないだろう。
 私個人は出がらしでも一応国が認めた聖女というポジションなのだ。

 それが例え表向きのものだけだとしても。

“だから我慢、我慢……!”


「ほんっと、清々しいよな、邪魔者が消えるって」
「私もアンタら殴って清々しい気持ちになっていいですかぁぁあ!?」
「「リッカ様!!」」


 ブチッと私の中の何かがキレて、つい数秒前の我慢が砕け散る。

 思い切り怒鳴りながらズンズンと彼らに近付くと、まさか噛みついてくるとは思ってなかったのか少し彼らがたじろいだ。


「で、ですがその、そちらにとっても目の上のたんこぶでしょう?」
「そうですよ!聖女様のご婚約者であるフランチェス団長のポジション奪っちゃったんじゃないですか?」
「そういう男なんですよ!口うるさくてでしゃばりで。自分を教官だとでも思ってるんですから!」

 その側面はなくはない。けど。


「そんなことないわよ。私は使えるモンは何でも使うの!強くなるために強い人がいるなら喜んで利用して成り上がるし!」
「リッカ様!オブラートに包みましょう!?」
「そんなことないわよ。私は学べる師が身近にきてくれて踏み台にしてやってんのよ!」
「包みきれてません、リッカ様ぁっ」

 そんな時だった。
 まるでカオスなこの場面に、不似合いな大笑いが突然響き、言い合っていた私も彼らもギョッしながら振り返る。

 そこにいたのは。

「む、ムキゴリとフラン……!?」
「こらっ!ムキゴリ呼びは二人だけの時にしろ!」
「……ほぉ?フランチェス殿は裏では私のことをそう呼んでいる、と」
「アッ、いや……っ」

 焦ってふいっとフランが目線を外し、そんなフランにふはっとどこか豪快に笑ったベルザックが再度私たちを見る。


 あんだけ粋がって話していた第三騎士団の奴らは、突然の本人登場に思い切り縮こまってしまっていて。

“ざまぁ!”

 私は内心思い切り舌を出した。


「私の抜けた穴を埋めたのも、その穴を埋めるために繰り上がったどの騎士も貴様たちとは違ったように思うのだが、それはいいのかな?」
「え?そ、それは……」
「目の上のたんこぶが別のたんこぶに変わっただけで貴様たちは何一つ昇進してないようだがな」
「……っ」

 痛いところをつかれたのだろう。
 黙りこくった彼らは、まるで蛇に睨まれた蛙のようで。


 そしてそのまま何も言えなくなった彼らは、そそくさとその場を小走りに去っていった。
 小者感満載である。

 
「ダッッッサ!あんたらが目障りだっつーの!」
「ふはは、聖女様は少々お口が悪いようですな」
「フランに似てしまいまして」
「俺のせいにすんなよ!?」


 相変わらずぎゃいぎゃいと言い合いつつ、頭を冷やせと言われた時の気まずさを引き摺らなかったことに安堵した。


「それにしても、まさか怒ってくださるとは意外でしたな」

 ふむ、と顎に手をやったベルザックが少し不思議そうな視線を向けたので、なんだか気恥ずかしくてその視線から逃げるように顔を逸らす。

「別に、腹が立ったってだけよ」
「でも、私のことを疑っておられるのでしょう」

 あっさりと言い当てられた私はどこか気まずさを覚えながら、バレているならと開き直った。


「疑ってるってことと、仲間を馬鹿にされたのを聞き流すのは違うから」

 私の言葉があまりにも予想外だったのか、唖然とした表情を向けられた。

“え、そんなに驚くこと?”

 そんなベルザックに怪訝な顔を向けると、突然大きな口を開けて笑った。


「ご安心を。この国は、……陛下は、貴女を見捨てた訳でも廃棄しようとしている訳でもありませんよ」

 ベルザックの言葉に私だけでなくフランまでもがぽかんとする。

「え?で、でも」
「私が聖女様の守りとして第六騎士団へ配属されたことに裏はありません。文字通りです」
「だ、だが守りと言うなら余りにも少なくないか?」

 そのフランの指摘は最もで、そして私とフランが彼を監視だとそう確信した部分であったの、だが。


「聖女の力をほぼ失われてしまわれたリッカ様に、表立って沢山の護衛をつけることは出来ないというのが現実です」

 どこか残念そうにそう告げられ、反論しようと開いていた口を閉じる。

「だからこそ、この国最高の武力と称される私が選ばれたんですよ」
「……それ、自分で言っちゃうんだ」

 ふふ、と小さく笑うとベルザックもはは、と笑った。
 その声色がとても穏やかで、慈愛に満ちたものだったからだろうか。

“その説明を全部鵜呑みにする訳にはいかないけど”

 でも、そうだったらいいな、と思うくらいには私の中で納得できて。


「だからこそ特にフランチェス殿にはもっと強くなっていただかなくてはな」
「あぁ、わかっている」

 そしてそれはフランもだったようだ。


“殿、ってフランを呼ぶのはやっぱり気に入らないけど”

 でも、きっとフランを認めたら殿呼びは止めるのだろうと漠然とした確信が私の中に生まれる。

 だからそれまではもう少し、このムキゴリのことを見守ってやろうかな、なんて――見守られているのが私の方のだという事実を棚にあげて、私はそう思うのだった。
 
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