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本編
12.それって嫉妬ですか?
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魔法で作られた雨雲のサイズは精々50センチほど。
多少ボールのように素早く動くとはいえここは広々とした演習場の真ん中。
普通に考えればピンポイントで私の方に向かってくる可能性低いだろう。
だがここは魔法学園えちはれ。
難易度激甘の18禁同人ギャルゲーという世界で服が紙仕様になった攻略対象とこのゲームの主人公が同じ空間にいたとなれば起こることは決まっている。
「も、もうっ、なんでこっち来るのよぉっ!!」
“……ってくるわよね、わかってた! わかっていたけど!!”
まるで意思でもあるかのようにまっすぐ私へと向かってくる雨雲に文句を言いつつ必死で逃げが、あっさりと追いつかれ私にだけ雨が降る。
「ちょっ、や、待……!」
じゅわっと濡れた部分から服が溶けだし、青ざめた顔が羞恥で一気に赤くなる。
“な、なによこの服トイレットペーパーになっちゃったの!?”
どこからか「うぉぉ」というどよめきが起こり、その声も私の羞恥を一層煽った。
「み、見ないで、誰か服を……っ」
立ち止まり雨雲に素っ裸にされるなんて絶対嫌だと必死に走るが、そうすると溶けた部分からモロモロと崩れてどっちにしろはだけてしまう。
右手で胸を、左手で股を雨から守るがお尻は守られず徐々に溶けていくのを感じる。
あっという間に両肩は露になり、下着の紐も溶けて手で押さえないとここにいる全員におっぱいのお披露目確定だ。
肩から滴った水分で背中もすでにほぼ溶けてしまい、お尻も割れ目くらいは見えているかもしれない。
“どうしてこんなことに――ってそれは私が攻略対象だからなんだろうけど”
ひぇぇ、と半ばパニックになりながら走っていると、突然何かと思いきりぶつかり尻もちをついた。
「な、何……」
「助けに来たよ、ロレッタ!」
「えッ」
颯爽と私を助けに、もとい弾き飛ばしたのはもちろんリドル様――では、なく。
“主人公!!”
何故かすでに鼻息荒くしている主人公が、両手を顔の前でわちゃわちゃと握る動作をしながら近づく。
「こ、来ないでよ、来ないでってば!」
「デュフフ、ツンデレッタモードかな」
“そんなモード搭載されてませんけど!?”
一歩、また一歩と近付く主人公より先に私に到達したのは残念ながら雨雲である。
「ぁっ」
尻もちをついた私の上に陣取った雨雲が頭から雨を降らせる。
私が小さな悲鳴を上げたのとほぼ同時に、まだ残っていた部分がみるみるうちに溶け、上半身にはもう服は残っていなかった。
座っているという体勢のお陰で下半身の服はまだ残っていたが、体を滴る水分で溶けるのも時間の問題である。
「大変だよロレッタ、ハァハァ、君の可愛い乳首やおマンコが公開されないようにすぐに隠してあげるからね!」
「はぁっ!? いらないわよ!」
せめてもの抵抗でキッと睨みつけるが当然効果はなく、というよりむしろ逆に興奮したように彼の手が私のおっぱいへと伸ばされた、その時だった。
「ロレッタ!」
ばさりと上着が私にかけられたのと同時にグイッと体を抱き寄せられる。
“この声と、この手の温かさをしってるわ”
私を抱きしめるその手の熱さと優しさにホッとした私から力が抜ける。
「リドル様」
溢すように小さく名前を呼ぶと、抱きしめる彼の腕に力がこもった。
来てくれた。
授業中なのに抜け出し、演習場まで走って来てくれたのだろう。
少し呼吸を荒くしてここまで助けに来てくれたというその事実が何よりも嬉しい。
「は、はぁ? 何だよ突然、俺とロレッタとの間に割り込んで……」
突然の乱入者に戸惑っているのか、モゴモゴと口ごもりながらそんなことを主人公が呟く。
「レディをこんな姿のままでここに居させる訳にはいきませんので失礼します」
「あ! ちょ、おい……っ」
いつも聞く声ではなく、どこか棘のある声色でそう断言したリドル様は、私の体を彼の上着と彼自身の体で隠しつつ立ち上がった。
「なんで、このゲームに男なんて居なかったろ……描かれてすらいないモブ以下のくせに……」
主人公がボソボソと何かを呟いていたが、しっかりとリドル様に抱き締められている私は自身の鼓動の音がうるさく、それどころではなかった。
「ここって」
リドル様が向かったのは保健室やどこかの教室ではなく学園内にある女子寮だった。
“授業中だから誰にも会わなくてラッキーだったけれど……”
流石に管理人さんはいるだろう、と思ったが当たり前のように誰もいなかった。
「防犯という概念がありませんわね」
思わず苦笑しながらそう口にしたが、リドル様からは返事がない。
「?」
聞こえなかったのかしら、と少し不思議に思ったが男子禁制の女子寮に迷いなく足を踏み入れた彼に焦りすぐにそれどころではなくなった。
“見つかったら処罰されちゃう!”
しかも私は半裸というかほぼ全裸。
辛うじて下半身にスカートの破片と下着が残っているだけで、上は完全に何も着用はしていないのだ。
そんな女生徒を抱き抱えて女子寮へ入るところを見られれば大問題間違いなしである。
もちろん事情を説明すれば彼に非がないことはすぐにわかるだろうが、噂というのは必ずどこか歪んで広まってしまうもの。
リドル様にどんな影響が出るかわからない以上ここからは私一人で戻るべきだとはわかっていた、のだが。
「部屋、どこ?」
「あ、えっとその、二階の奥から三つ目です」
「そう」
いつも優しい彼から何故か圧を感じ、それ以上言葉が出なかった。
そうこうしているうちに自室の前に着く。
しかし今度は何故か扉の前に立ち動かない。
寮の部屋は部屋主の魔力を探知して鍵が開くようになっているので、この距離ならば十分に開くはずだ。
「入らないのですか?」
「部屋に俺を招いていいの」
「それは……」
相変わらずの低く冷たい怒気を含んだ声にギクリとする。
だが、私はすぐに頷いた。
「当たり前です。だって、リドル様ですから」
にこりとそう微笑むと、ふっと息を吐いた彼の表情が少し和らいだような気がし、そしてゆっくりと扉を開けたリドル様はそのまま私を抱いて部屋へと入ったのだった。
部屋へと入り、扉を閉めたリドル様は扉を背にしたまま私を改めて抱き締める。
それは移動するための抱え方や隠すための抱き方とは違い、大切なものに触れるかのようにふわりとした抱き方だった。
“リドル様の髪がくすぐったい”
グリグリと頭を押し付けるようにして私の肩口に顔を埋めたリドル様が、そっと私と視線を合わせる。
「ごめん、悔しくて」
ポツリとそう溢したリドル様の声色は、先ほどまでのどこか冷たいものではなくいつもの柔らかいものに戻っていて私の胸の奥が温かくなった。
「ロレッタの体を見てもいいのは俺だけだったのに」
「助けに来てくださったので、大事なところは見られてませんよ?」
「ロレッタの体で大事じゃないとこないでしょ。この綺麗な肩から背中にかけてのラインもみんなが見たと思ったら全員の記憶を消してやりたい」
子供みたいなことをぶつぶつ言うリドル様がなんだかとても可愛く見えて、気付けば自然と彼の頭を撫でていた。
“リドル様の髪の毛って本当に綺麗だわ”
銀糸のせいで少し硬く見えていたが、触れてみると猫っ毛なのかとても柔らかいその髪がさらりと手に馴染み気持ちいい。
光を反射しキラキラと輝くところも美しく、やはり全てが私の理想。
「……なに、俺そんなことされるキャラじゃないんだけど」
でも、このドストライクな見た目よりも照れた顔を誤魔化すように拗ねた表情で私を見上げる、そんな彼の顔が一番私の心をくすぐった。
「好きです、リドル様」
吸い寄せられるようにそっと彼の唇へ自身の唇を重ねる。
軽く表面が触れただけだったが、私から初めてした口付けだった。
多少ボールのように素早く動くとはいえここは広々とした演習場の真ん中。
普通に考えればピンポイントで私の方に向かってくる可能性低いだろう。
だがここは魔法学園えちはれ。
難易度激甘の18禁同人ギャルゲーという世界で服が紙仕様になった攻略対象とこのゲームの主人公が同じ空間にいたとなれば起こることは決まっている。
「も、もうっ、なんでこっち来るのよぉっ!!」
“……ってくるわよね、わかってた! わかっていたけど!!”
まるで意思でもあるかのようにまっすぐ私へと向かってくる雨雲に文句を言いつつ必死で逃げが、あっさりと追いつかれ私にだけ雨が降る。
「ちょっ、や、待……!」
じゅわっと濡れた部分から服が溶けだし、青ざめた顔が羞恥で一気に赤くなる。
“な、なによこの服トイレットペーパーになっちゃったの!?”
どこからか「うぉぉ」というどよめきが起こり、その声も私の羞恥を一層煽った。
「み、見ないで、誰か服を……っ」
立ち止まり雨雲に素っ裸にされるなんて絶対嫌だと必死に走るが、そうすると溶けた部分からモロモロと崩れてどっちにしろはだけてしまう。
右手で胸を、左手で股を雨から守るがお尻は守られず徐々に溶けていくのを感じる。
あっという間に両肩は露になり、下着の紐も溶けて手で押さえないとここにいる全員におっぱいのお披露目確定だ。
肩から滴った水分で背中もすでにほぼ溶けてしまい、お尻も割れ目くらいは見えているかもしれない。
“どうしてこんなことに――ってそれは私が攻略対象だからなんだろうけど”
ひぇぇ、と半ばパニックになりながら走っていると、突然何かと思いきりぶつかり尻もちをついた。
「な、何……」
「助けに来たよ、ロレッタ!」
「えッ」
颯爽と私を助けに、もとい弾き飛ばしたのはもちろんリドル様――では、なく。
“主人公!!”
何故かすでに鼻息荒くしている主人公が、両手を顔の前でわちゃわちゃと握る動作をしながら近づく。
「こ、来ないでよ、来ないでってば!」
「デュフフ、ツンデレッタモードかな」
“そんなモード搭載されてませんけど!?”
一歩、また一歩と近付く主人公より先に私に到達したのは残念ながら雨雲である。
「ぁっ」
尻もちをついた私の上に陣取った雨雲が頭から雨を降らせる。
私が小さな悲鳴を上げたのとほぼ同時に、まだ残っていた部分がみるみるうちに溶け、上半身にはもう服は残っていなかった。
座っているという体勢のお陰で下半身の服はまだ残っていたが、体を滴る水分で溶けるのも時間の問題である。
「大変だよロレッタ、ハァハァ、君の可愛い乳首やおマンコが公開されないようにすぐに隠してあげるからね!」
「はぁっ!? いらないわよ!」
せめてもの抵抗でキッと睨みつけるが当然効果はなく、というよりむしろ逆に興奮したように彼の手が私のおっぱいへと伸ばされた、その時だった。
「ロレッタ!」
ばさりと上着が私にかけられたのと同時にグイッと体を抱き寄せられる。
“この声と、この手の温かさをしってるわ”
私を抱きしめるその手の熱さと優しさにホッとした私から力が抜ける。
「リドル様」
溢すように小さく名前を呼ぶと、抱きしめる彼の腕に力がこもった。
来てくれた。
授業中なのに抜け出し、演習場まで走って来てくれたのだろう。
少し呼吸を荒くしてここまで助けに来てくれたというその事実が何よりも嬉しい。
「は、はぁ? 何だよ突然、俺とロレッタとの間に割り込んで……」
突然の乱入者に戸惑っているのか、モゴモゴと口ごもりながらそんなことを主人公が呟く。
「レディをこんな姿のままでここに居させる訳にはいきませんので失礼します」
「あ! ちょ、おい……っ」
いつも聞く声ではなく、どこか棘のある声色でそう断言したリドル様は、私の体を彼の上着と彼自身の体で隠しつつ立ち上がった。
「なんで、このゲームに男なんて居なかったろ……描かれてすらいないモブ以下のくせに……」
主人公がボソボソと何かを呟いていたが、しっかりとリドル様に抱き締められている私は自身の鼓動の音がうるさく、それどころではなかった。
「ここって」
リドル様が向かったのは保健室やどこかの教室ではなく学園内にある女子寮だった。
“授業中だから誰にも会わなくてラッキーだったけれど……”
流石に管理人さんはいるだろう、と思ったが当たり前のように誰もいなかった。
「防犯という概念がありませんわね」
思わず苦笑しながらそう口にしたが、リドル様からは返事がない。
「?」
聞こえなかったのかしら、と少し不思議に思ったが男子禁制の女子寮に迷いなく足を踏み入れた彼に焦りすぐにそれどころではなくなった。
“見つかったら処罰されちゃう!”
しかも私は半裸というかほぼ全裸。
辛うじて下半身にスカートの破片と下着が残っているだけで、上は完全に何も着用はしていないのだ。
そんな女生徒を抱き抱えて女子寮へ入るところを見られれば大問題間違いなしである。
もちろん事情を説明すれば彼に非がないことはすぐにわかるだろうが、噂というのは必ずどこか歪んで広まってしまうもの。
リドル様にどんな影響が出るかわからない以上ここからは私一人で戻るべきだとはわかっていた、のだが。
「部屋、どこ?」
「あ、えっとその、二階の奥から三つ目です」
「そう」
いつも優しい彼から何故か圧を感じ、それ以上言葉が出なかった。
そうこうしているうちに自室の前に着く。
しかし今度は何故か扉の前に立ち動かない。
寮の部屋は部屋主の魔力を探知して鍵が開くようになっているので、この距離ならば十分に開くはずだ。
「入らないのですか?」
「部屋に俺を招いていいの」
「それは……」
相変わらずの低く冷たい怒気を含んだ声にギクリとする。
だが、私はすぐに頷いた。
「当たり前です。だって、リドル様ですから」
にこりとそう微笑むと、ふっと息を吐いた彼の表情が少し和らいだような気がし、そしてゆっくりと扉を開けたリドル様はそのまま私を抱いて部屋へと入ったのだった。
部屋へと入り、扉を閉めたリドル様は扉を背にしたまま私を改めて抱き締める。
それは移動するための抱え方や隠すための抱き方とは違い、大切なものに触れるかのようにふわりとした抱き方だった。
“リドル様の髪がくすぐったい”
グリグリと頭を押し付けるようにして私の肩口に顔を埋めたリドル様が、そっと私と視線を合わせる。
「ごめん、悔しくて」
ポツリとそう溢したリドル様の声色は、先ほどまでのどこか冷たいものではなくいつもの柔らかいものに戻っていて私の胸の奥が温かくなった。
「ロレッタの体を見てもいいのは俺だけだったのに」
「助けに来てくださったので、大事なところは見られてませんよ?」
「ロレッタの体で大事じゃないとこないでしょ。この綺麗な肩から背中にかけてのラインもみんなが見たと思ったら全員の記憶を消してやりたい」
子供みたいなことをぶつぶつ言うリドル様がなんだかとても可愛く見えて、気付けば自然と彼の頭を撫でていた。
“リドル様の髪の毛って本当に綺麗だわ”
銀糸のせいで少し硬く見えていたが、触れてみると猫っ毛なのかとても柔らかいその髪がさらりと手に馴染み気持ちいい。
光を反射しキラキラと輝くところも美しく、やはり全てが私の理想。
「……なに、俺そんなことされるキャラじゃないんだけど」
でも、このドストライクな見た目よりも照れた顔を誤魔化すように拗ねた表情で私を見上げる、そんな彼の顔が一番私の心をくすぐった。
「好きです、リドル様」
吸い寄せられるようにそっと彼の唇へ自身の唇を重ねる。
軽く表面が触れただけだったが、私から初めてした口付けだった。
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