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本編
エピローグ:その偶然に名付けるのなら
シーサイドエルホールディングスとinforsy connectの共同開発した新システムはかなり評判になった。
企業の内部向けに開発されたこのシステムは形式ばらない、カジュアルなという意味のinformalと輪という意味のringを掛け合わせたinfingという名前でリリースされ、社内ツールとしては珍しく、取り入れた後でも各企業で好きなようにカスタム出来る仕様となっている。
一般普及していたインコネが企業向けに開発したということで注目を集め、互いの会社のネームバリューもあってか問い合わせが多い。
私のいる企画広報課では、いっそ大々的なイベントをして一斉周知をするのはどうかという提案が出るほどで慌ただしい毎日を送っている。
「……っと、変になってないわよね?」
会社を出るのが待ち合わせのギリギリになってしまった為、小走りで向かっていた私は待ち合わせ場所ギリギリでカフェのショーウィンドウに自身の姿を映し身だしなみを整える。
と言っても、出来るのは髪の毛の乱れを整えるくらいなのだが。
うーん、と唸りながらガラスとにらめっこしていると、ふとそのガラス越しに視線を感じて目線を落とす。
なんとそこにはコーヒーを手にした光希がいた。
「お疲れ様、朱里」
“せめて手鏡で確認すれば良かった……!”
私の姿を見てカフェから出てきた光希は、堪えきれないクスクス笑いを溢している。
「いつから見てたの」
「あっちの通りから走ってきたあたり」
「嘘!」
最初から見られていたことに愕然としていると、私の毛先をそっと掬った光希がふわりと微笑んだ。
「凄い偶然だと思わない? ちょっと早く着いたからカフェに入ったら、俺の席の目の前で恋人が俺に会うための最終チェック始めるんだよ」
「それは……その、確かに偶然ね」
私としては恥ずかしいところを見られたと羞恥心が刺激されるのだが、どうやら本気で感心しているらしく光希の表情は明るい。
「思えば朱里とはずっと色んな偶然が重なってたよね」
しみじみと続けられたその言葉に、私も彼との今までを思い返し、確かにと頷いた。
亮介にフラれた時に偶然居合わせた男性、それが光希だった。
そしてその彼こそが私の次の企画にと考えてアプローチをした会社の実権を握っていたなんて、本当に凄い偶然である。
「本当に奇跡みたいな偶然だったかも。そんな偶然に感謝しなくちゃ」
ふふ、と笑うと、私の髪を遊んでいた光希がそっと顔を耳元へ近付ける。
「俺、偶然が重なるってことは運命だって思うことにしてるんだよね」
「!」
甘く囁かれたその言葉に私の頬が一気に熱を持った。
もし彼との出会いが偶然ではなく運命だったのならば。
“ううん、運命じゃなかったとしても”
偶然でも運命でも。私が彼と出会えたというのは事実なのだから。
「私、光希が大好き」
「うん、俺も」
そっと彼と手を繋ぎ、私たちは歩き始めたのだった。
企業の内部向けに開発されたこのシステムは形式ばらない、カジュアルなという意味のinformalと輪という意味のringを掛け合わせたinfingという名前でリリースされ、社内ツールとしては珍しく、取り入れた後でも各企業で好きなようにカスタム出来る仕様となっている。
一般普及していたインコネが企業向けに開発したということで注目を集め、互いの会社のネームバリューもあってか問い合わせが多い。
私のいる企画広報課では、いっそ大々的なイベントをして一斉周知をするのはどうかという提案が出るほどで慌ただしい毎日を送っている。
「……っと、変になってないわよね?」
会社を出るのが待ち合わせのギリギリになってしまった為、小走りで向かっていた私は待ち合わせ場所ギリギリでカフェのショーウィンドウに自身の姿を映し身だしなみを整える。
と言っても、出来るのは髪の毛の乱れを整えるくらいなのだが。
うーん、と唸りながらガラスとにらめっこしていると、ふとそのガラス越しに視線を感じて目線を落とす。
なんとそこにはコーヒーを手にした光希がいた。
「お疲れ様、朱里」
“せめて手鏡で確認すれば良かった……!”
私の姿を見てカフェから出てきた光希は、堪えきれないクスクス笑いを溢している。
「いつから見てたの」
「あっちの通りから走ってきたあたり」
「嘘!」
最初から見られていたことに愕然としていると、私の毛先をそっと掬った光希がふわりと微笑んだ。
「凄い偶然だと思わない? ちょっと早く着いたからカフェに入ったら、俺の席の目の前で恋人が俺に会うための最終チェック始めるんだよ」
「それは……その、確かに偶然ね」
私としては恥ずかしいところを見られたと羞恥心が刺激されるのだが、どうやら本気で感心しているらしく光希の表情は明るい。
「思えば朱里とはずっと色んな偶然が重なってたよね」
しみじみと続けられたその言葉に、私も彼との今までを思い返し、確かにと頷いた。
亮介にフラれた時に偶然居合わせた男性、それが光希だった。
そしてその彼こそが私の次の企画にと考えてアプローチをした会社の実権を握っていたなんて、本当に凄い偶然である。
「本当に奇跡みたいな偶然だったかも。そんな偶然に感謝しなくちゃ」
ふふ、と笑うと、私の髪を遊んでいた光希がそっと顔を耳元へ近付ける。
「俺、偶然が重なるってことは運命だって思うことにしてるんだよね」
「!」
甘く囁かれたその言葉に私の頬が一気に熱を持った。
もし彼との出会いが偶然ではなく運命だったのならば。
“ううん、運命じゃなかったとしても”
偶然でも運命でも。私が彼と出会えたというのは事実なのだから。
「私、光希が大好き」
「うん、俺も」
そっと彼と手を繋ぎ、私たちは歩き始めたのだった。
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