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番外編
心の声が聞こえるんだよね
「光希ってめちゃくちゃよく気がつくよね」
予定のない休日は特に約束がなくてもなんとなく一緒にいるのが当たり前になった、そんな土曜日。
コトリと温かいコーヒーが置かれて思わずそう呟いた。
ふわりと香るコーヒーにたっぷりのクリームが乗っていて物凄く甘そうだが、疲れた脳は糖分を求めていたのでありがたい。
“丁度甘いコーヒー飲みたかったのよね”
定番になったカフェで向かい合う私たちは、互いにノートパソコンを開き仕事をする。
休日デートに仕事を持ち込むなんて、と不満に思われるかと最初は心配していたのだが、互いの所属する会社で提携し共同開発したinfingについて確認したいことがあり恐る恐るパソコンを持参したことがキッカケで、気付けば二人とも仕事をするのが定番になっていた。
もちろん休日返上で仕事ばかり、というのは完全にワーカホリックではあるしあまり良くないとはわかっているのだけれども。
“つい光希が許してくれるから……”
それに甘えるのが定番になってしまっている。
「突然どうしたの?」
「こうやってデートに仕事を持ち込んでも怒らないし、然り気無くこうやって一息つくタイミングも作ってくれるし」
光希が追加で買ってきてくれたコーヒーのおかわりをちびちびと飲みながらそう言うと、相変わらず笑い上戸の彼が小さく吹き出した。
「まぁ、俺もなんだかんだで仕事しちゃってるしお互い様じゃない?」
「それはまぁ、そうなのかもしれないけど」
初めて会ったあの時も、言われてみれば光希はノートパソコンを開いていた。
きっとその日も休日返上で仕事をしていたのだろう。
“思えばあの時亮介の言葉に逆上しなかったら、光希を買うなんてやけくそにならなかったし今こうして二人でいることもなかったのよね”
あの日は散々だったし、本当に傷付いた。
けれどそれと同時に、光希と出会えたことに感謝しているのも確かだった。
“あのまま亮介と付き合ってたら、こうやって休日に仕事することもなかったんだろうなぁ”
遊びに行く時はもちろん思い切り遊んだり、のんびりする時はのんびりする。
だがこうして仕事のことを考えるのも好きな私は、一緒にいながら別のことに集中出来るということの貴重さを理解していた。
それに、集中力が切れた時にふと光希の真剣な様子が目に飛び込んでくるというのは、自分の意欲も湧き、そういう彼との時間が本当に大好きなのだと改めて思った、の、だが。
「……実は俺、心の声が聞こえるんだ」
「…………、ハイ?」
突然真顔になった光希にそんなことを言われ、ポカンと口を開いてしまう。
“突然何言い出すのよ”
「突然何言い出すの、って思っただろ?」
「えっ!」
「俺も朱里とこうやって一緒にいながら別のことが出来るのって凄く貴重だと思ってるし、集中力が切れた時にふと目に入る朱里の頑張ってる姿は可愛いし俺も頑張ろうと思えて意欲も湧く」
「それ、まさに私がさっき考えてた……!」
真っ直ぐ射貫くように見つめられながら紡がれる言葉たちは、あり得ないとわかっているのに妙に説得力があり思わず私は息を呑んだ。
“嘘、本当に?”
普通に考えればそんなことはあり得ない。
だが、今までのことを振り返ればあながち嘘だとも言い切れないと気付きじわりと額に冷や汗が滲む。
いつも先回りで行動し、そしていつもタイミングよく現れ助けてくれるのは、彼が本当に私の心の声を聞いているから――
「……ぶふっ」
「…………。」
吹き出したような笑いを辿り、じとりと光希へ視線を送ると彼の肩が小さく震えていることに気付く。
「ふっ、くくっ、――んんッ、朱里は今、早く二人きりになりたいなって思ってる」
「全然思ってない」
「あはははっ」
バッサリそう返事をすると、とうとう我慢が出来なくなったのか光希が思い切り笑い出し、私の目は更に半眼になった。
「あー、ははっ、ごめん。まさか一瞬でも信じるとか思わなくて」
「なっ、そ、それはだって!」
「一応言っとくと、朱里が顔に出過ぎてるってだけだよ」
くっくっ、とまだ笑いながらされるネタバラシに呆れつつ、だがそれは同時にそれだけ私のことを気にして見てくれているということでもあった。
“そんなネタバラシされたら怒れないじゃない”
明らかにからかわれたのだが、悪い気にもならずむしろ少しだけ喜んでいる自分に内心苦笑してしまう。
「でもなんで突然そんなこと言い出したの?」
流石にもう仕事をする気にならず、データを保存してから電源を落としているとふいに光希が拗ねたような表情でふいっと顔を逸らした。
「…………だろ」
「え?」
「さっき、元カレのこと考えてただろ」
「あっ」
指摘されて初めて気付いたが、確かに光希の言葉に心当たりがあった私は思わず目を見開いてしまった。
“それでこんなことを言い出したってこと?”
光希の言う通り亮介のことを思い出したのは間違いなく、だがそれは光希と出会えたことに感謝しているからこそ一緒に記憶から出てきたもの。
その為決して他意などはなかったのだが、私の些細な変化にもよく気付いてくれる彼のことだ。
表情の変化で敏感に気付いたということなのだろう。
“つまり、嫉妬?”
その結論に辿り着いた私からも思わず笑いが溢れてしまう。
どうやら私は想像以上に愛されているらしい。
「ね、もう一回私の心を読んでみてよ」
「え」
ふふ、と自然に上がる口角を隠すことなくそう伝えると、少し戸惑ったような光希と目が合った。
そんなところがやっぱり可愛く、愛おしい。
「ヒントは、さっき光希が言ってたこと、かな? 予言的な!」
「へ? え、えぇっと……、あ、二人きりに、なりたい?」
「正解っ」
私が明るくそう言うと、じわりと彼の頬がほんのり染まる。
「それ、俺に都合いい解釈するけど」
「光希は心の声が聞こえるんだから、それで正解なんじゃない?」
「ほんともう……、可愛すぎない?」
はぁ、と大きくため息を吐いた光希もパソコンの電源を落として鞄へと片付ける。
「スーパー寄って帰ろ」
「スーパー?」
「今日の晩ご飯と、明日の朝ご飯。今日はもう帰す気ないから」
煽ったことは反省して、なんて言いながら繋がれる手は、相変わらず優しくて温かい。
だから私も、彼の手をぎゅっと握り返して頷いたのだった。
予定のない休日は特に約束がなくてもなんとなく一緒にいるのが当たり前になった、そんな土曜日。
コトリと温かいコーヒーが置かれて思わずそう呟いた。
ふわりと香るコーヒーにたっぷりのクリームが乗っていて物凄く甘そうだが、疲れた脳は糖分を求めていたのでありがたい。
“丁度甘いコーヒー飲みたかったのよね”
定番になったカフェで向かい合う私たちは、互いにノートパソコンを開き仕事をする。
休日デートに仕事を持ち込むなんて、と不満に思われるかと最初は心配していたのだが、互いの所属する会社で提携し共同開発したinfingについて確認したいことがあり恐る恐るパソコンを持参したことがキッカケで、気付けば二人とも仕事をするのが定番になっていた。
もちろん休日返上で仕事ばかり、というのは完全にワーカホリックではあるしあまり良くないとはわかっているのだけれども。
“つい光希が許してくれるから……”
それに甘えるのが定番になってしまっている。
「突然どうしたの?」
「こうやってデートに仕事を持ち込んでも怒らないし、然り気無くこうやって一息つくタイミングも作ってくれるし」
光希が追加で買ってきてくれたコーヒーのおかわりをちびちびと飲みながらそう言うと、相変わらず笑い上戸の彼が小さく吹き出した。
「まぁ、俺もなんだかんだで仕事しちゃってるしお互い様じゃない?」
「それはまぁ、そうなのかもしれないけど」
初めて会ったあの時も、言われてみれば光希はノートパソコンを開いていた。
きっとその日も休日返上で仕事をしていたのだろう。
“思えばあの時亮介の言葉に逆上しなかったら、光希を買うなんてやけくそにならなかったし今こうして二人でいることもなかったのよね”
あの日は散々だったし、本当に傷付いた。
けれどそれと同時に、光希と出会えたことに感謝しているのも確かだった。
“あのまま亮介と付き合ってたら、こうやって休日に仕事することもなかったんだろうなぁ”
遊びに行く時はもちろん思い切り遊んだり、のんびりする時はのんびりする。
だがこうして仕事のことを考えるのも好きな私は、一緒にいながら別のことに集中出来るということの貴重さを理解していた。
それに、集中力が切れた時にふと光希の真剣な様子が目に飛び込んでくるというのは、自分の意欲も湧き、そういう彼との時間が本当に大好きなのだと改めて思った、の、だが。
「……実は俺、心の声が聞こえるんだ」
「…………、ハイ?」
突然真顔になった光希にそんなことを言われ、ポカンと口を開いてしまう。
“突然何言い出すのよ”
「突然何言い出すの、って思っただろ?」
「えっ!」
「俺も朱里とこうやって一緒にいながら別のことが出来るのって凄く貴重だと思ってるし、集中力が切れた時にふと目に入る朱里の頑張ってる姿は可愛いし俺も頑張ろうと思えて意欲も湧く」
「それ、まさに私がさっき考えてた……!」
真っ直ぐ射貫くように見つめられながら紡がれる言葉たちは、あり得ないとわかっているのに妙に説得力があり思わず私は息を呑んだ。
“嘘、本当に?”
普通に考えればそんなことはあり得ない。
だが、今までのことを振り返ればあながち嘘だとも言い切れないと気付きじわりと額に冷や汗が滲む。
いつも先回りで行動し、そしていつもタイミングよく現れ助けてくれるのは、彼が本当に私の心の声を聞いているから――
「……ぶふっ」
「…………。」
吹き出したような笑いを辿り、じとりと光希へ視線を送ると彼の肩が小さく震えていることに気付く。
「ふっ、くくっ、――んんッ、朱里は今、早く二人きりになりたいなって思ってる」
「全然思ってない」
「あはははっ」
バッサリそう返事をすると、とうとう我慢が出来なくなったのか光希が思い切り笑い出し、私の目は更に半眼になった。
「あー、ははっ、ごめん。まさか一瞬でも信じるとか思わなくて」
「なっ、そ、それはだって!」
「一応言っとくと、朱里が顔に出過ぎてるってだけだよ」
くっくっ、とまだ笑いながらされるネタバラシに呆れつつ、だがそれは同時にそれだけ私のことを気にして見てくれているということでもあった。
“そんなネタバラシされたら怒れないじゃない”
明らかにからかわれたのだが、悪い気にもならずむしろ少しだけ喜んでいる自分に内心苦笑してしまう。
「でもなんで突然そんなこと言い出したの?」
流石にもう仕事をする気にならず、データを保存してから電源を落としているとふいに光希が拗ねたような表情でふいっと顔を逸らした。
「…………だろ」
「え?」
「さっき、元カレのこと考えてただろ」
「あっ」
指摘されて初めて気付いたが、確かに光希の言葉に心当たりがあった私は思わず目を見開いてしまった。
“それでこんなことを言い出したってこと?”
光希の言う通り亮介のことを思い出したのは間違いなく、だがそれは光希と出会えたことに感謝しているからこそ一緒に記憶から出てきたもの。
その為決して他意などはなかったのだが、私の些細な変化にもよく気付いてくれる彼のことだ。
表情の変化で敏感に気付いたということなのだろう。
“つまり、嫉妬?”
その結論に辿り着いた私からも思わず笑いが溢れてしまう。
どうやら私は想像以上に愛されているらしい。
「ね、もう一回私の心を読んでみてよ」
「え」
ふふ、と自然に上がる口角を隠すことなくそう伝えると、少し戸惑ったような光希と目が合った。
そんなところがやっぱり可愛く、愛おしい。
「ヒントは、さっき光希が言ってたこと、かな? 予言的な!」
「へ? え、えぇっと……、あ、二人きりに、なりたい?」
「正解っ」
私が明るくそう言うと、じわりと彼の頬がほんのり染まる。
「それ、俺に都合いい解釈するけど」
「光希は心の声が聞こえるんだから、それで正解なんじゃない?」
「ほんともう……、可愛すぎない?」
はぁ、と大きくため息を吐いた光希もパソコンの電源を落として鞄へと片付ける。
「スーパー寄って帰ろ」
「スーパー?」
「今日の晩ご飯と、明日の朝ご飯。今日はもう帰す気ないから」
煽ったことは反省して、なんて言いながら繋がれる手は、相変わらず優しくて温かい。
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