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10.やっぱり貴方が
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何故か今私は、極力会うことを避けていたニコラウス殿下と二人きりで王城の庭園でお茶をしていた。
今まで彼からの直接の召集は手順を理由に断ってきたし、ニコラウス殿下自身も王子である俺がわざわざ誘ってやっているのだから、という驕りから彼はその手順を踏んだことはなかった。
だからこそ今までは婚約者候補筆頭として、殿下ではなく王城から召集された時にしかこうして時間を共有することなどなかったのだが――
“まさか正当な手順で召集されるなんて!”
アンドレアス殿下の私室から出たことを聞いたのか、それとも彼との街デートを知ったのか。
理由はわからないが、この状況に焦ったのか初めて正当な手順を踏んだのだ。
アンドレアス殿下からの誘いを受けた以上、同じく正当な手順を踏んだニコラウス殿下の誘いを断るわけにはいかずにやってきたこの場所。
“彼が私を誘うのは、私と婚約することが王太子への近道なのだと理解してるってことね”
だが焦っている割にはいつもと変わらない態度のニコラウス殿下を少し怪訝に思い――
「……、ッ?」
突然くらりと視界が揺れる。手足が痺れ、舌が動かない。つまりは助けがもう呼べないのだ。
“まさか、さっきのお茶に……!”
そんな推測を立てたところでもう遅かった。
「あ……れす、さま……」
そこで私の意識は途切れたのだから。
◇◇◇
「――、ここは……」
ふっと朧気に意識が戻る。
どうやら薬がまだ抜けきっていないのか手足の痺れが残り上手く体が動かない。
だが体に触れるその感触からどうやら私はベッドに寝かされているのだと判断した。
“恐らく王城……、でも、流石にニコラウス殿下の私室ではないわよね”
一番可能性が高いのは貴賓室だろうが、王城の貴賓室なんてかなりの数がある。
助けが来る可能性の低さに絶望しつつも、ならば自分で逃げればいいだけだ。
“体が動くようになれば、椅子で扉を殴ってでも逃げ出してやるわ!”
王太子だったニコラウス殿下ならともかく、今はただの第二王子。
フォシェル公爵家が後ろ盾にならなければ、彼の立太子はあり得ないだろう。
だからこそ、今最も心配すべきは危害を加えられることではなく、私の貞操。……というか、この状況ではそれしかない。
そして子種を注がれてしまってはニコラウス殿下へと嫁ぐしかなくなる。
“それを狙ってるはず!”
衣服の乱れがないことに安堵した私は、少しでも早く体が動くようにと祈りつつ部屋の中を見渡して――
「おや、気付きましたか? ビクトリア嬢」
「……え?」
そして、声をかけられた事に驚いた。
――否。声をかけてきた『相手』に驚いた。
「さ、宰相様……?」
薬を飲ませたのはニコラウス殿下だったはずなのに、この部屋にいるのは殿下ではなく宰相だというその違和感に唖然とする。
“どういうこと?”
ニコラウス殿下から助けてくれた、と断定するのはまだ早い。
この状況にごくりと唾を呑んだ私は、まだ上手く動かせない体に鞭を打ってなんとか上半身を起こした、のだが。
「――ひっ!」
体を起こし視界が変わったことで私の目に飛び込んできたのは、焦げ茶色の髪の毛。
床にうつ伏せで倒れているが、きっとその瞳は琥珀色だろう。
「に、ニコラウス殿下……!?」
「ご安心を、流石に殺したりはしておりませんからな」
あっはっは、と大口を開け楽しそうに笑う宰相の様子にぞわりと鳥肌が立った。
「あぁ、可哀想なビクトリア嬢。無理やりドレスを破かれ襲われた恐怖で体が震えて動かないようだね」
「は?」
嘆くように一瞬顔を覆った宰相は、まるで次の演劇が始まったかのようにわざとらしく両腕を広げ、ゆっくりと私のいるベッドへと足を進める。
「私はドレスを破かれてなどおりませんが……」
“体が動かないのは薬の影響だし”
一体何を言っているのか理解できずただひたすら戸惑っていると、あっという間にベッドの側にまで来た宰相がくすりと笑みを溢し、いまだに自由の利かない私の耳元へと顔を近付け囁いた。
「――いえ、貴女はニコラウス殿下に無理やり犯されそうになったのです。ほら、ドレスだってこのように破かれて」
「きゃあっ!?」
そして私のドレスの胸元を掴み、無理やり引き裂かれる。
「そこへ偶然通りかかった私が異変を察し、襲われている貴女に気が付いた」
「な、なにを……!」
「可哀想なビクトリア嬢。好きでもない男に無理やり体を暴かれてしまった君は絶望してしまったんだね」
ニタリ、と歪む口元に悪寒が走る。
今まで彼からの直接の召集は手順を理由に断ってきたし、ニコラウス殿下自身も王子である俺がわざわざ誘ってやっているのだから、という驕りから彼はその手順を踏んだことはなかった。
だからこそ今までは婚約者候補筆頭として、殿下ではなく王城から召集された時にしかこうして時間を共有することなどなかったのだが――
“まさか正当な手順で召集されるなんて!”
アンドレアス殿下の私室から出たことを聞いたのか、それとも彼との街デートを知ったのか。
理由はわからないが、この状況に焦ったのか初めて正当な手順を踏んだのだ。
アンドレアス殿下からの誘いを受けた以上、同じく正当な手順を踏んだニコラウス殿下の誘いを断るわけにはいかずにやってきたこの場所。
“彼が私を誘うのは、私と婚約することが王太子への近道なのだと理解してるってことね”
だが焦っている割にはいつもと変わらない態度のニコラウス殿下を少し怪訝に思い――
「……、ッ?」
突然くらりと視界が揺れる。手足が痺れ、舌が動かない。つまりは助けがもう呼べないのだ。
“まさか、さっきのお茶に……!”
そんな推測を立てたところでもう遅かった。
「あ……れす、さま……」
そこで私の意識は途切れたのだから。
◇◇◇
「――、ここは……」
ふっと朧気に意識が戻る。
どうやら薬がまだ抜けきっていないのか手足の痺れが残り上手く体が動かない。
だが体に触れるその感触からどうやら私はベッドに寝かされているのだと判断した。
“恐らく王城……、でも、流石にニコラウス殿下の私室ではないわよね”
一番可能性が高いのは貴賓室だろうが、王城の貴賓室なんてかなりの数がある。
助けが来る可能性の低さに絶望しつつも、ならば自分で逃げればいいだけだ。
“体が動くようになれば、椅子で扉を殴ってでも逃げ出してやるわ!”
王太子だったニコラウス殿下ならともかく、今はただの第二王子。
フォシェル公爵家が後ろ盾にならなければ、彼の立太子はあり得ないだろう。
だからこそ、今最も心配すべきは危害を加えられることではなく、私の貞操。……というか、この状況ではそれしかない。
そして子種を注がれてしまってはニコラウス殿下へと嫁ぐしかなくなる。
“それを狙ってるはず!”
衣服の乱れがないことに安堵した私は、少しでも早く体が動くようにと祈りつつ部屋の中を見渡して――
「おや、気付きましたか? ビクトリア嬢」
「……え?」
そして、声をかけられた事に驚いた。
――否。声をかけてきた『相手』に驚いた。
「さ、宰相様……?」
薬を飲ませたのはニコラウス殿下だったはずなのに、この部屋にいるのは殿下ではなく宰相だというその違和感に唖然とする。
“どういうこと?”
ニコラウス殿下から助けてくれた、と断定するのはまだ早い。
この状況にごくりと唾を呑んだ私は、まだ上手く動かせない体に鞭を打ってなんとか上半身を起こした、のだが。
「――ひっ!」
体を起こし視界が変わったことで私の目に飛び込んできたのは、焦げ茶色の髪の毛。
床にうつ伏せで倒れているが、きっとその瞳は琥珀色だろう。
「に、ニコラウス殿下……!?」
「ご安心を、流石に殺したりはしておりませんからな」
あっはっは、と大口を開け楽しそうに笑う宰相の様子にぞわりと鳥肌が立った。
「あぁ、可哀想なビクトリア嬢。無理やりドレスを破かれ襲われた恐怖で体が震えて動かないようだね」
「は?」
嘆くように一瞬顔を覆った宰相は、まるで次の演劇が始まったかのようにわざとらしく両腕を広げ、ゆっくりと私のいるベッドへと足を進める。
「私はドレスを破かれてなどおりませんが……」
“体が動かないのは薬の影響だし”
一体何を言っているのか理解できずただひたすら戸惑っていると、あっという間にベッドの側にまで来た宰相がくすりと笑みを溢し、いまだに自由の利かない私の耳元へと顔を近付け囁いた。
「――いえ、貴女はニコラウス殿下に無理やり犯されそうになったのです。ほら、ドレスだってこのように破かれて」
「きゃあっ!?」
そして私のドレスの胸元を掴み、無理やり引き裂かれる。
「そこへ偶然通りかかった私が異変を察し、襲われている貴女に気が付いた」
「な、なにを……!」
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ニタリ、と歪む口元に悪寒が走る。
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