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第二章:少しの時間だけ
6.距離の詰め方
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「ちなみに帰り道を教えて貰うことって……」
「教えてもいいけど、迷ったらどっちにも戻れないよ?」
「あぁぁあ……」
緑鬼に食べられかけ、そして遊火を眺めたあの日から数日。
「全ッ然新婚旅行から戻ってこないんだけど!?」
「新婚さんだからねぇ」
あはは、と呑気に笑うこの顔にも頭を抱えたくなるのは仕方ないだろう。
“こんちゃんが側にいてくれるからか、あれから誰かに襲われるようなことはないけど……”
それどころか、こんちゃんの恋人としてここに間借りさせて貰っているお陰か物凄く待遇がいい。
温かいご飯はもちろん、おやつも出してくれるし着替えなどもいつもパリッとした綺麗なものを出してくれる。
“流石にお風呂の手伝いは断ったけど”
これがお金持ち、いや、領主一家の力ってやつなのか、なんてド平民である私はただただぽかんとするばかりだ。
「でも、ただこうやって過ごすのもなぁ」
「んー、そうだねぇ。折角だから、どこかお出かけしてみる?」
「えっ」
私の一人言に反応したらしいこんちゃんが、パチンと両手を叩いてそんなことを提案すると、どうやらその手を叩いた音を聞きつけたお手伝いさんがパタパタと部屋に入ってくる。
「彼女にお出かけ用の装いを」
「はい、白様」
「えっ、えっ、えっ」
「こちらへどうぞ、優子様」
「ちょ、待っ……えぇっ!」
そしてあっという間に着替えさせられた私は――
「凄い、映画村みたい……!」
「あぁ、あの時代劇の世界を体験できるアミューズメント施設ね」
「アミュ……、くっ、そんな俗っぽい単語を聞きたくなかった……!」
気付けばこんちゃんに連れられて、少し時代を遡ったような町並みを歩いていたのだった。
“でも、少しレトロだけど本当に普通の町ね”
外にいけば当たり前にあるようなコンビニなんてものこそないものの、屋台が並び飲み物や食べ物、ちょっとしたお土産になりそうな小物を売っているお店まである。
しかも。
「安いよ安いよー! フレッシュジュースが一杯たったよ200円!」
「円!!」
“通貨が同じだなんて……!”
その驚きの事実にこんちゃんの方をチラッと見上げると、にんまりと目を細めて笑ったこんちゃんがこれ見よがしに千円札を広げて見せてきた。
「ひ、英世じゃない……!」
「いや、お札とはいえ偉人にその言い方はアレすぎない?」
“でも、何で通貨が同じなのかしら”
見渡す限り獣耳や角がある人たちばかりだし、どう見ても人間には見えないものの……
「もしかしてここ、本当は人間界?」
「いや、それはないかなぁ~」
「で、でもだったらなんで……っ」
普通に考えれば通貨をわざわざ人間のものと揃える必要はないだろう。
造幣局? とかもないだろうし、だったらこのお金たちはどこから来ているのかと言うことも気になる。
しかしそんな疑問は、「あやかしの中には普通に人間に紛れて生活してる者もいるからね。物資には事欠いし、ほら、最近は日本でも他国から出稼ぎに来てる人とかも多いだろう?」なんてしれっと言われれば、それ以上は何も言えなかった。
「……って、そんなに頻繁に人間界に行ける人がいるならお姉さんが新婚旅行から帰ってくるの待つ必要なくない!?」
「いやいや、送り届けるって言いながら緑鬼みたいにペロッとしちゃう奴もいるから俺が一番安心安全じゃない?」
「どっちかっていったら胡散臭いの代名詞――きゃっ!」
「ゆっこ!?」
こんちゃんとの会話に夢中になっていたからか、普段履きなれない草履のせいか私はうっかりその場で転んで膝を擦ってしまう。
“だ、大学生にもなって恥ずかしい……!”
膝も痛いが何より心が痛い。
その羞恥から、顔を上げれずただぷるぷるとするしか出来なかった――の、だが。
「大丈夫!?」
ふわりとまるで小さな子供を抱き上げるようにこんちゃんが私を抱えて思わずぽかんとしてしまった。
“私、特別小柄って訳じゃないんだけど”
日本人女性の平均はある身長。
少し胸が足りない分体重は平均よりも軽くはあるが、決してこんなに簡単に持ち上げられるような体重ではないはずで――
「……あ、いきなり持ち上げたから怖い?」
呆然としている私の様子をどう捉えたのか、こんちゃんの耳がしょぼんと垂れる。
“怖くなんてないのに”
その様子がどこか可笑しく、つい彼の頭を撫でるとどこか懐かしい手触りにほわりとした気持ちになった。
「ちょ、ゆ、ゆっこ?」
「ふふ」
「待っ、くすぐったいからっ」
“いつも飄々としてるせいかちょっと面白いかも”
「怖くないわ」
「!」
「高さも、あとこんちゃんのことも」
「俺のことも?」
私の言葉にきょとんとした顔をしたこんちゃんに、私も思わず小首を傾げてしまう。
“違ったのかな”
『持ち上げたから』なんて言っていたが、小さな子供でもない私が少々高く掲げられたところでそこまで恐怖を感じるとは思えない。
なら、彼が一番懸念している『恐怖』は彼自身が“あやかし”だと言うことだと思ったのだが――
「というか、別にこんちゃん以外の皆も怖くはないわよ?」
一応重ねてそのことも告げると、きょとんとしていたこんちゃんは今度はぽかんと口を開けてしまった。
「皆親切にしてくれるし」
“まぁそれはこんちゃんの恋人だと思われてるからだろうけど”
「確かに見た目は少し違うけど、まぁ人間だっていい人もいれば悪い人もいるし? それと一緒っていうか」
「ふ、はっ、あははっ」
「なッ!」
思っていることが伝わるようにと私なりに精一杯言い回しなどを工夫したにも関わらず、それらを全て無にするかの如くこんちゃんが思い切り笑い出す。
「ちょっ、私なりに気を遣って!」
「ははっ、はひっ、うんうん、そうだよねぇ、ありがとー」
「心が籠ってないんだけど!?」
「籠ってる籠ってる」
“やっぱり勘違いだった――、ん?”
そんな彼の様子に思わず口をへの字に曲げたのだが、彼のふさふさの尻尾がゆったりと揺れていることに気が付いて。
“狐も犬みたいに尻尾って振るのかな”
その答えはわからないし、同業他社らしい『犬』と同じか聞くのは流石に憚られたのできっとこの答えは出ないけれど。
“ま、可愛いからいいか”
なんて、そんなことを私は思ったのだった――
「教えてもいいけど、迷ったらどっちにも戻れないよ?」
「あぁぁあ……」
緑鬼に食べられかけ、そして遊火を眺めたあの日から数日。
「全ッ然新婚旅行から戻ってこないんだけど!?」
「新婚さんだからねぇ」
あはは、と呑気に笑うこの顔にも頭を抱えたくなるのは仕方ないだろう。
“こんちゃんが側にいてくれるからか、あれから誰かに襲われるようなことはないけど……”
それどころか、こんちゃんの恋人としてここに間借りさせて貰っているお陰か物凄く待遇がいい。
温かいご飯はもちろん、おやつも出してくれるし着替えなどもいつもパリッとした綺麗なものを出してくれる。
“流石にお風呂の手伝いは断ったけど”
これがお金持ち、いや、領主一家の力ってやつなのか、なんてド平民である私はただただぽかんとするばかりだ。
「でも、ただこうやって過ごすのもなぁ」
「んー、そうだねぇ。折角だから、どこかお出かけしてみる?」
「えっ」
私の一人言に反応したらしいこんちゃんが、パチンと両手を叩いてそんなことを提案すると、どうやらその手を叩いた音を聞きつけたお手伝いさんがパタパタと部屋に入ってくる。
「彼女にお出かけ用の装いを」
「はい、白様」
「えっ、えっ、えっ」
「こちらへどうぞ、優子様」
「ちょ、待っ……えぇっ!」
そしてあっという間に着替えさせられた私は――
「凄い、映画村みたい……!」
「あぁ、あの時代劇の世界を体験できるアミューズメント施設ね」
「アミュ……、くっ、そんな俗っぽい単語を聞きたくなかった……!」
気付けばこんちゃんに連れられて、少し時代を遡ったような町並みを歩いていたのだった。
“でも、少しレトロだけど本当に普通の町ね”
外にいけば当たり前にあるようなコンビニなんてものこそないものの、屋台が並び飲み物や食べ物、ちょっとしたお土産になりそうな小物を売っているお店まである。
しかも。
「安いよ安いよー! フレッシュジュースが一杯たったよ200円!」
「円!!」
“通貨が同じだなんて……!”
その驚きの事実にこんちゃんの方をチラッと見上げると、にんまりと目を細めて笑ったこんちゃんがこれ見よがしに千円札を広げて見せてきた。
「ひ、英世じゃない……!」
「いや、お札とはいえ偉人にその言い方はアレすぎない?」
“でも、何で通貨が同じなのかしら”
見渡す限り獣耳や角がある人たちばかりだし、どう見ても人間には見えないものの……
「もしかしてここ、本当は人間界?」
「いや、それはないかなぁ~」
「で、でもだったらなんで……っ」
普通に考えれば通貨をわざわざ人間のものと揃える必要はないだろう。
造幣局? とかもないだろうし、だったらこのお金たちはどこから来ているのかと言うことも気になる。
しかしそんな疑問は、「あやかしの中には普通に人間に紛れて生活してる者もいるからね。物資には事欠いし、ほら、最近は日本でも他国から出稼ぎに来てる人とかも多いだろう?」なんてしれっと言われれば、それ以上は何も言えなかった。
「……って、そんなに頻繁に人間界に行ける人がいるならお姉さんが新婚旅行から帰ってくるの待つ必要なくない!?」
「いやいや、送り届けるって言いながら緑鬼みたいにペロッとしちゃう奴もいるから俺が一番安心安全じゃない?」
「どっちかっていったら胡散臭いの代名詞――きゃっ!」
「ゆっこ!?」
こんちゃんとの会話に夢中になっていたからか、普段履きなれない草履のせいか私はうっかりその場で転んで膝を擦ってしまう。
“だ、大学生にもなって恥ずかしい……!”
膝も痛いが何より心が痛い。
その羞恥から、顔を上げれずただぷるぷるとするしか出来なかった――の、だが。
「大丈夫!?」
ふわりとまるで小さな子供を抱き上げるようにこんちゃんが私を抱えて思わずぽかんとしてしまった。
“私、特別小柄って訳じゃないんだけど”
日本人女性の平均はある身長。
少し胸が足りない分体重は平均よりも軽くはあるが、決してこんなに簡単に持ち上げられるような体重ではないはずで――
「……あ、いきなり持ち上げたから怖い?」
呆然としている私の様子をどう捉えたのか、こんちゃんの耳がしょぼんと垂れる。
“怖くなんてないのに”
その様子がどこか可笑しく、つい彼の頭を撫でるとどこか懐かしい手触りにほわりとした気持ちになった。
「ちょ、ゆ、ゆっこ?」
「ふふ」
「待っ、くすぐったいからっ」
“いつも飄々としてるせいかちょっと面白いかも”
「怖くないわ」
「!」
「高さも、あとこんちゃんのことも」
「俺のことも?」
私の言葉にきょとんとした顔をしたこんちゃんに、私も思わず小首を傾げてしまう。
“違ったのかな”
『持ち上げたから』なんて言っていたが、小さな子供でもない私が少々高く掲げられたところでそこまで恐怖を感じるとは思えない。
なら、彼が一番懸念している『恐怖』は彼自身が“あやかし”だと言うことだと思ったのだが――
「というか、別にこんちゃん以外の皆も怖くはないわよ?」
一応重ねてそのことも告げると、きょとんとしていたこんちゃんは今度はぽかんと口を開けてしまった。
「皆親切にしてくれるし」
“まぁそれはこんちゃんの恋人だと思われてるからだろうけど”
「確かに見た目は少し違うけど、まぁ人間だっていい人もいれば悪い人もいるし? それと一緒っていうか」
「ふ、はっ、あははっ」
「なッ!」
思っていることが伝わるようにと私なりに精一杯言い回しなどを工夫したにも関わらず、それらを全て無にするかの如くこんちゃんが思い切り笑い出す。
「ちょっ、私なりに気を遣って!」
「ははっ、はひっ、うんうん、そうだよねぇ、ありがとー」
「心が籠ってないんだけど!?」
「籠ってる籠ってる」
“やっぱり勘違いだった――、ん?”
そんな彼の様子に思わず口をへの字に曲げたのだが、彼のふさふさの尻尾がゆったりと揺れていることに気が付いて。
“狐も犬みたいに尻尾って振るのかな”
その答えはわからないし、同業他社らしい『犬』と同じか聞くのは流石に憚られたのできっとこの答えは出ないけれど。
“ま、可愛いからいいか”
なんて、そんなことを私は思ったのだった――
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