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第二章:少しの時間だけ
7.治療は勝手な判断をせず専門医へ
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「――って、惑わされてる!?」
「ゆ、ゆっこ!?」
狐耳やふさふさの尻尾があっても、彼は私よりも背が高くどう見ても成人男性。
あやかしの成人が何歳なのかはわからないしそもそもこんちゃんが何歳なのかは知らないが、見た目で言えば二十歳は過ぎていそう。
そんな大の男に対して『可愛い』は流石に無いと思い至った私は、その事実プラスこんな町中で抱き上げられたままだということも思い出した。
「お、下りる! おろしてっ!」
「ちょ、いきなり暴れないで!? 危ないからっ」
「ちょっと膝を擦りむいただけだし歩ける範囲だから!!」
「わ、ちょ、……え、膝?」
「ぎゃぁぁあ!! 抱えたまま捲るって何!? せめてどこかに座らせてからっていうか、こんちゃんが捲るのはなんかダメぇ!!!」
ついでに羞恥心も思い出した私がこんちゃんに抱えられたまま暴れるが、どうやらこんちゃんは私の発した怪我の具合の方が気になったらしく、彼の腕に座るような形のまま反対の手でぴらっと着物の合わせを捲られる。
“ひえぇぇえ!”
丈の短いパンツだって私服で持っているし膝を見られることに抵抗がある訳ではないが、それはそういう服だから問題がない訳であって捲られるのとは意味合いが違う。
その焦りのせいか、じわりと額に汗が滲みなんとか降りようと足をバタつかせ――
「確かにバイ菌入ってるね」
「……え」
そんな慌てている私とは対照に、どこか落ち着いた様子のこんちゃんがしみじみとそんな事を呟いた。
“バイ菌って見えたっけ”
バイ菌が入るかも、とかは聞いたことがあるが、ここまで断言されることがあるだろうか。
もしかしてそんなに傷が深いのだろうかと、私も恐々と自身の膝へと視線を落とした、その場所に。
「ぎえぇっ!?」
どこかムスッとした頑固オヤジのような“顔”が、私の膝にあったのだった。
「な、ななっ、なにこれ!?」
「人面疽だねぇ」
「じ、人面疽……!? それって人面犬の仲間!?」
「バイ菌が入っちゃったんだねぇ」
「無視!? っていうかバイ菌!? こっちでバイ菌入ると顔になるの!? 凶悪すぎない!?」
「凶悪顔だね、あはは」
「笑い事じゃないんですけどぉッ!」
どこかズレている会話だが、どちらがズレているかなんて気にしている場合ではない。
顔だ。私の膝に顔がある。
“ひ、控えめに言って気持ち悪い!”
こんちゃん曰く『バイ菌』らしいが、消毒すれば元に戻るのだろうか。
もしこの膝を第二の顔として伴い人間界へ帰ることになったら――……
“い、嫌すぎる!”
ザアッと音が聞こえそうなくらいの勢いで血の気が引いた私は、もう周りの目なんて気にしてる場合じゃないと思い切りこんちゃんの肩にしがみついて。
「私の膝を助けてください!!!」
「あはは、ちょっとバイ菌が入っただけだから大丈夫だよ」
なんて、懇願したのだった。
「人面疽は、一般的には毒や薬を食べさせれば治癒するんだけどね」
「両極端な二つね」
「平和的に殺すか平和的に生かすか、かな?」
「平和的の概念どこいったの!?」
もうだいぶ手遅れだった気はするが、それでも流石に町中であれ以上騒ぐのはあまり良くないと判断した私たち。
こんちゃんに手を引かれ向かったのは町外れの小川のほとりだった。
手頃な石に腰掛け、噛みつかれないかと震えつつ怪我した膝を冷たい川水で洗うとその冷たさが心地いい。
「ただ、ゆっこの膝の場合――」
パシャパシャと膝を洗っている私をチラリと見たこんちゃんは、自身の顎に手を当てうぅんと少し唸る。
“私の膝の場合?”
じっと見られている膝に私も視線を落とし、じっと見つめてみるが膝はムスッと口も目も閉じたままで。
「も、もしかして」
「うん。薬にしろ毒にしろ、どうやって口に入れるかが問題になってくるね」
「確かに……」
こんちゃんにそう言われガクリと項垂れた。
「沢山歩くとかどうかな」
「歩く?」
人面疽とはいえ一応は私の膝なのだ。
沢山運動した結果、俗にいう『膝が笑う』という状況になればもしかしたらこの人面疽の固く結ばれた口も開くかも、なんて思ったのだが。
「ひぃっ、はひっ、ふはっ、そうだね!? その発想はなかった、ゆっこは天才……ぶふっ、ほんと天才だなぁ」
「私は膝を笑わせたいのであって狐を笑わせたい訳じゃないのよ」
「いひっ、誰に上手く言えって言われたの? ふふっ、流石ゆっこ……!」
「ごめん、言い出した私でもわかるくらい面白くない話よ」
“ここまで笑われるともう馬鹿にしてるのかって怒る気も失せるわね”
相変わらずこの笑いの沸点が低すぎる狐を半眼で眺めていると、ひぃひぃと笑っていたこんちゃんも段々と落ち着いてきたようで。
「運動はまぁ、健康にいいからするのはアリとして。でもこの人面疽については専門に見せよう」
「専門?」
「治療したら元の膝に戻るはずだよ」
“治療……ってことはつまりは医者!?”
サクッと出てきた治療という単語にハッとする。
凶悪面に気を取られていたが、そもそもこれはこんちゃん曰く『バイ菌が傷口に入った』ことで現れたのだ。
怪我ならば医者の治療を受けるのが確かに筋と言えるだろう。
「そ、そうね……! 確かにそれが正解な気がする」
「うん、じゃあ早速向かおうか」
「えぇ!」
こくこくと頷きながらこんちゃんの言葉に同意すると、こんちゃんもにこりと微笑みこくりと頷いてくれて。
「医者のところに!」
「座敷わらしのところに」
そして私たちは同時に、違う単語を口にしたのだった。
「ゆ、ゆっこ!?」
狐耳やふさふさの尻尾があっても、彼は私よりも背が高くどう見ても成人男性。
あやかしの成人が何歳なのかはわからないしそもそもこんちゃんが何歳なのかは知らないが、見た目で言えば二十歳は過ぎていそう。
そんな大の男に対して『可愛い』は流石に無いと思い至った私は、その事実プラスこんな町中で抱き上げられたままだということも思い出した。
「お、下りる! おろしてっ!」
「ちょ、いきなり暴れないで!? 危ないからっ」
「ちょっと膝を擦りむいただけだし歩ける範囲だから!!」
「わ、ちょ、……え、膝?」
「ぎゃぁぁあ!! 抱えたまま捲るって何!? せめてどこかに座らせてからっていうか、こんちゃんが捲るのはなんかダメぇ!!!」
ついでに羞恥心も思い出した私がこんちゃんに抱えられたまま暴れるが、どうやらこんちゃんは私の発した怪我の具合の方が気になったらしく、彼の腕に座るような形のまま反対の手でぴらっと着物の合わせを捲られる。
“ひえぇぇえ!”
丈の短いパンツだって私服で持っているし膝を見られることに抵抗がある訳ではないが、それはそういう服だから問題がない訳であって捲られるのとは意味合いが違う。
その焦りのせいか、じわりと額に汗が滲みなんとか降りようと足をバタつかせ――
「確かにバイ菌入ってるね」
「……え」
そんな慌てている私とは対照に、どこか落ち着いた様子のこんちゃんがしみじみとそんな事を呟いた。
“バイ菌って見えたっけ”
バイ菌が入るかも、とかは聞いたことがあるが、ここまで断言されることがあるだろうか。
もしかしてそんなに傷が深いのだろうかと、私も恐々と自身の膝へと視線を落とした、その場所に。
「ぎえぇっ!?」
どこかムスッとした頑固オヤジのような“顔”が、私の膝にあったのだった。
「な、ななっ、なにこれ!?」
「人面疽だねぇ」
「じ、人面疽……!? それって人面犬の仲間!?」
「バイ菌が入っちゃったんだねぇ」
「無視!? っていうかバイ菌!? こっちでバイ菌入ると顔になるの!? 凶悪すぎない!?」
「凶悪顔だね、あはは」
「笑い事じゃないんですけどぉッ!」
どこかズレている会話だが、どちらがズレているかなんて気にしている場合ではない。
顔だ。私の膝に顔がある。
“ひ、控えめに言って気持ち悪い!”
こんちゃん曰く『バイ菌』らしいが、消毒すれば元に戻るのだろうか。
もしこの膝を第二の顔として伴い人間界へ帰ることになったら――……
“い、嫌すぎる!”
ザアッと音が聞こえそうなくらいの勢いで血の気が引いた私は、もう周りの目なんて気にしてる場合じゃないと思い切りこんちゃんの肩にしがみついて。
「私の膝を助けてください!!!」
「あはは、ちょっとバイ菌が入っただけだから大丈夫だよ」
なんて、懇願したのだった。
「人面疽は、一般的には毒や薬を食べさせれば治癒するんだけどね」
「両極端な二つね」
「平和的に殺すか平和的に生かすか、かな?」
「平和的の概念どこいったの!?」
もうだいぶ手遅れだった気はするが、それでも流石に町中であれ以上騒ぐのはあまり良くないと判断した私たち。
こんちゃんに手を引かれ向かったのは町外れの小川のほとりだった。
手頃な石に腰掛け、噛みつかれないかと震えつつ怪我した膝を冷たい川水で洗うとその冷たさが心地いい。
「ただ、ゆっこの膝の場合――」
パシャパシャと膝を洗っている私をチラリと見たこんちゃんは、自身の顎に手を当てうぅんと少し唸る。
“私の膝の場合?”
じっと見られている膝に私も視線を落とし、じっと見つめてみるが膝はムスッと口も目も閉じたままで。
「も、もしかして」
「うん。薬にしろ毒にしろ、どうやって口に入れるかが問題になってくるね」
「確かに……」
こんちゃんにそう言われガクリと項垂れた。
「沢山歩くとかどうかな」
「歩く?」
人面疽とはいえ一応は私の膝なのだ。
沢山運動した結果、俗にいう『膝が笑う』という状況になればもしかしたらこの人面疽の固く結ばれた口も開くかも、なんて思ったのだが。
「ひぃっ、はひっ、ふはっ、そうだね!? その発想はなかった、ゆっこは天才……ぶふっ、ほんと天才だなぁ」
「私は膝を笑わせたいのであって狐を笑わせたい訳じゃないのよ」
「いひっ、誰に上手く言えって言われたの? ふふっ、流石ゆっこ……!」
「ごめん、言い出した私でもわかるくらい面白くない話よ」
“ここまで笑われるともう馬鹿にしてるのかって怒る気も失せるわね”
相変わらずこの笑いの沸点が低すぎる狐を半眼で眺めていると、ひぃひぃと笑っていたこんちゃんも段々と落ち着いてきたようで。
「運動はまぁ、健康にいいからするのはアリとして。でもこの人面疽については専門に見せよう」
「専門?」
「治療したら元の膝に戻るはずだよ」
“治療……ってことはつまりは医者!?”
サクッと出てきた治療という単語にハッとする。
凶悪面に気を取られていたが、そもそもこれはこんちゃん曰く『バイ菌が傷口に入った』ことで現れたのだ。
怪我ならば医者の治療を受けるのが確かに筋と言えるだろう。
「そ、そうね……! 確かにそれが正解な気がする」
「うん、じゃあ早速向かおうか」
「えぇ!」
こくこくと頷きながらこんちゃんの言葉に同意すると、こんちゃんもにこりと微笑みこくりと頷いてくれて。
「医者のところに!」
「座敷わらしのところに」
そして私たちは同時に、違う単語を口にしたのだった。
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