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第二章:少しの時間だけ
8.テント暮らしの座敷わらし
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「……こ、ここなの?」
「あぁ、ここだ」
“ここ、って言われても……”
医者、もとい座敷わらしのところへと向かった私たち。
こんちゃんに案内されたそこは、山というよりは丘に近いようななだらかな斜面のある場所で、そしてそのてっぺんには謎に豪華なテントがひとつ。
「も、モンゴルゲルってやつ?」
「まぁ、座敷わらしが住んでいる場所だからな。テントといえど繁栄するんだろう」
「テントに繁栄という概念がある世界!」
なんて、ぎゃいぎゃいと騒いでいた声が聞こえたらしく。
「……誰じゃ、わらわの惰眠を妨げるのは!」
「うわっ」
ジャッと勢いよくテントの扉が開かれたかと思ったら、パッと見で十二~三歳くらいの黒髪パッツン前髪の女の子が顔を出す。
“あれ? この顔”
そのビジュアルに既視感を覚えた私がまじまじと見てしまう。
テレビアニメで観るようなオーソドックスな座敷わらしと言われればそれまでだが、何故か小さな引っかかりを覚えた――の、だが。
「なんッじゃ人の顔をじろじろと! 失礼な童じゃな、そなたの家を没落させてやろうか!?」
「ぅえっ!」
「あはは、相変わらず元気だなぁ」
「あぁん? お主、迦之御ノ杜の小僧じゃないか」
「ご無沙汰しております、清子さん」
見た目年齢的には一番年下っぽい彼女に恭しく頭を下げるこんちゃん。
きっとこの見た目は『座敷わらし』だからこそのものということなのだろう。
「ゆっこにも改めて紹介するね、座敷わらしの目見田清子さん。見た目は確かにこんな感じだけど」
「文句あんのかい!? あぁっ!?」
「年齢的にはもうかなりのおばあちゃんで、いろんなことに詳しいからゆっこの膝もすぐに治してくれるよ」
「ほぉーう、どうやら迦之御ノ杜の小僧は没落したいようだなァッ!」
「あはは」
「ちょ、笑い事じゃないよこんちゃん!?」
ある意味いつも通りの反応をするこんちゃんにこちらの方が冷や汗をかいてしまう。
座敷わらしといえば、あやかしではなく神だったはずで、そして神の宿る家は繁栄し、反対に神の去った家は没落するという伝承があったはずだ。
“つまり座敷わらしさんが言ってる没落も不可能じゃないってことで……!”
そこまで考え血の気が引いた私はへらりと笑っているこんちゃんと、そのこんちゃんを目を吊り上げて睨んでいる清子さんの間に割り込み勢いよく頭を下げた。
“何か、何かいい感じの言葉で機嫌を……!”
なんて思ったものの。
「わ、わぁ~、モンゴルゲルってマイナス20度の寒さにも耐えれるんですよねぇ~! ゲルの中で焚火も出来るっていうし、広くて素敵だな~!」
「ほ、褒めるのが下手すぎんか……?」
「うはっ、ははっ」
「く、ダメか……」
そもそも友人と行った登山で借りた宿泊施設がこのゲルだったというだけで、なんとなくモンゴルにあるくらいの知識しかない。
そんな私ではこのご機嫌取りという任務は少々荷が重かったのだが、幸運なことに怒る気を失せさせることには成功したようだった。
「安心せい、ほんのあやかしジョークじゃ」
「そうそう、清子さんは見た目通りの――んぐっ」
「あはは、こんちゃんってば! 見た目通り素敵ですねぇ!!」
失礼なことを言いそうだと察した私が慌ててこんちゃんの口を両手で塞ぐと、そんな私たちの様子をため息混じりに見ていた清子さんがそっと入り口を大きく開いてくれる。
どうやらこのテントの中に入れてくれるようだった。
促されるまま一歩足を進めると、中は思ったよりも広く快適な空間になっている。
“すごい、ふわふわの絨毯まで敷いてある”
和というより洋な内装で、それがどこか彼女の和な雰囲気とはミスマッチだが、全体的に色が白に統一されているお陰か想像以上に落ち着けそうだ。
「で、どうしたんじゃ」
渋々、という感じでそう聞かれた私は、慌てて着物の裾を少し捲り『バイ菌』の入ったという膝を露にする。
そして清子さんは私の膝にある顔をまじまじと見つめ、すぐにふっと息を吐いた。
「人面疽か」
「こんちゃんは転んだ拍子にバイ菌が入ったっていうんですがっ」
「まぁ、あながち間違っとらん解釈じゃな」
「そうなんですか!?」
「え、ゆっこちょっと疑ってたの?」
「へっ!? いやぁ、あはは……」
“そりゃバイ菌で顔が出来たっていうよりあやかしに取り憑かれたって言われた方がしっくりくるから、つい”
実は半信半疑だったことが露呈し半笑いで誤魔化しつつ、視線を膝へと戻す。
相変わらず私の膝には口をきつく結んだ不機嫌そうな顔がそこにあった。
「治ります、よね?」
「当たり前じゃろ」
もし一生このままだと言われたら……なんて不吉な予感が過り恐々と聞くが、まるでなんでもないことのようにそう返されて安堵のため息を吐く。
そんな私の前にことりと湯呑が置かれた。
「薬を出してやってもいい」
「ありがとうございま……、え?」
“やってもいい?”
その言い方に少し引っかかりを覚えるが、確かに専門家ということは治療することで生計を立てているのだろう。
だとすれば当然タダで、なんてあり得ない。
“お金……、確か人間界と通貨が一緒だったわね”
お財布に入っている金額で足りるだろうか、と考え、最悪支払いは人間界に戻ってから銀行にお金をおろしに行こうと決意し口を開いた。
「いくらですか?」
「ん?」
「治療費はいくらになりますでしょうか?」
“できれば私で払える金額でありますように!”
そんな私の願いを知ってか知らずか、ニタリと笑った清子さんは。
「わらわを喜ばせること、じゃ」
そんな一言を口にしたのだった。
「あぁ、ここだ」
“ここ、って言われても……”
医者、もとい座敷わらしのところへと向かった私たち。
こんちゃんに案内されたそこは、山というよりは丘に近いようななだらかな斜面のある場所で、そしてそのてっぺんには謎に豪華なテントがひとつ。
「も、モンゴルゲルってやつ?」
「まぁ、座敷わらしが住んでいる場所だからな。テントといえど繁栄するんだろう」
「テントに繁栄という概念がある世界!」
なんて、ぎゃいぎゃいと騒いでいた声が聞こえたらしく。
「……誰じゃ、わらわの惰眠を妨げるのは!」
「うわっ」
ジャッと勢いよくテントの扉が開かれたかと思ったら、パッと見で十二~三歳くらいの黒髪パッツン前髪の女の子が顔を出す。
“あれ? この顔”
そのビジュアルに既視感を覚えた私がまじまじと見てしまう。
テレビアニメで観るようなオーソドックスな座敷わらしと言われればそれまでだが、何故か小さな引っかかりを覚えた――の、だが。
「なんッじゃ人の顔をじろじろと! 失礼な童じゃな、そなたの家を没落させてやろうか!?」
「ぅえっ!」
「あはは、相変わらず元気だなぁ」
「あぁん? お主、迦之御ノ杜の小僧じゃないか」
「ご無沙汰しております、清子さん」
見た目年齢的には一番年下っぽい彼女に恭しく頭を下げるこんちゃん。
きっとこの見た目は『座敷わらし』だからこそのものということなのだろう。
「ゆっこにも改めて紹介するね、座敷わらしの目見田清子さん。見た目は確かにこんな感じだけど」
「文句あんのかい!? あぁっ!?」
「年齢的にはもうかなりのおばあちゃんで、いろんなことに詳しいからゆっこの膝もすぐに治してくれるよ」
「ほぉーう、どうやら迦之御ノ杜の小僧は没落したいようだなァッ!」
「あはは」
「ちょ、笑い事じゃないよこんちゃん!?」
ある意味いつも通りの反応をするこんちゃんにこちらの方が冷や汗をかいてしまう。
座敷わらしといえば、あやかしではなく神だったはずで、そして神の宿る家は繁栄し、反対に神の去った家は没落するという伝承があったはずだ。
“つまり座敷わらしさんが言ってる没落も不可能じゃないってことで……!”
そこまで考え血の気が引いた私はへらりと笑っているこんちゃんと、そのこんちゃんを目を吊り上げて睨んでいる清子さんの間に割り込み勢いよく頭を下げた。
“何か、何かいい感じの言葉で機嫌を……!”
なんて思ったものの。
「わ、わぁ~、モンゴルゲルってマイナス20度の寒さにも耐えれるんですよねぇ~! ゲルの中で焚火も出来るっていうし、広くて素敵だな~!」
「ほ、褒めるのが下手すぎんか……?」
「うはっ、ははっ」
「く、ダメか……」
そもそも友人と行った登山で借りた宿泊施設がこのゲルだったというだけで、なんとなくモンゴルにあるくらいの知識しかない。
そんな私ではこのご機嫌取りという任務は少々荷が重かったのだが、幸運なことに怒る気を失せさせることには成功したようだった。
「安心せい、ほんのあやかしジョークじゃ」
「そうそう、清子さんは見た目通りの――んぐっ」
「あはは、こんちゃんってば! 見た目通り素敵ですねぇ!!」
失礼なことを言いそうだと察した私が慌ててこんちゃんの口を両手で塞ぐと、そんな私たちの様子をため息混じりに見ていた清子さんがそっと入り口を大きく開いてくれる。
どうやらこのテントの中に入れてくれるようだった。
促されるまま一歩足を進めると、中は思ったよりも広く快適な空間になっている。
“すごい、ふわふわの絨毯まで敷いてある”
和というより洋な内装で、それがどこか彼女の和な雰囲気とはミスマッチだが、全体的に色が白に統一されているお陰か想像以上に落ち着けそうだ。
「で、どうしたんじゃ」
渋々、という感じでそう聞かれた私は、慌てて着物の裾を少し捲り『バイ菌』の入ったという膝を露にする。
そして清子さんは私の膝にある顔をまじまじと見つめ、すぐにふっと息を吐いた。
「人面疽か」
「こんちゃんは転んだ拍子にバイ菌が入ったっていうんですがっ」
「まぁ、あながち間違っとらん解釈じゃな」
「そうなんですか!?」
「え、ゆっこちょっと疑ってたの?」
「へっ!? いやぁ、あはは……」
“そりゃバイ菌で顔が出来たっていうよりあやかしに取り憑かれたって言われた方がしっくりくるから、つい”
実は半信半疑だったことが露呈し半笑いで誤魔化しつつ、視線を膝へと戻す。
相変わらず私の膝には口をきつく結んだ不機嫌そうな顔がそこにあった。
「治ります、よね?」
「当たり前じゃろ」
もし一生このままだと言われたら……なんて不吉な予感が過り恐々と聞くが、まるでなんでもないことのようにそう返されて安堵のため息を吐く。
そんな私の前にことりと湯呑が置かれた。
「薬を出してやってもいい」
「ありがとうございま……、え?」
“やってもいい?”
その言い方に少し引っかかりを覚えるが、確かに専門家ということは治療することで生計を立てているのだろう。
だとすれば当然タダで、なんてあり得ない。
“お金……、確か人間界と通貨が一緒だったわね”
お財布に入っている金額で足りるだろうか、と考え、最悪支払いは人間界に戻ってから銀行にお金をおろしに行こうと決意し口を開いた。
「いくらですか?」
「ん?」
「治療費はいくらになりますでしょうか?」
“できれば私で払える金額でありますように!”
そんな私の願いを知ってか知らずか、ニタリと笑った清子さんは。
「わらわを喜ばせること、じゃ」
そんな一言を口にしたのだった。
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