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第四章:可愛い恋敵
19.その伏せた目の意味
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「えーっと、何して遊ぼっか?」
無害をアピールすべく両手のひらを前に出して声をかける。
「あ、けんけんぱって知ってる? 地面に丸を書いて、その上で飛ぶ遊びなんだけど」
「なんですの、その何ひとつ面白い要素の見つからない遊びは。どこを楽しむ遊びなのか説明してくださる?」
「えーっと、私もやったことがないから面白いポイントはちょっとわかんないんだけど」
「そんなの論外ですわよッ!」
長い黒髪がふわりと動き、くりくりした黒目が呆れたように細められる。
烏天狗の美少女であり、自称こんちゃんの正妻である黒曜楓ちゃんから冷たい視線を向けられた私だったが、こんなことでめげている場合ではない。
“最初は戸惑ったけど、こんなに可愛い子と仲良くなるチャンスって滅多にないし!”
恋人を取り合っている立場ではあるが、相手が幼い少女であることも相まってひりつくような感じはない。
それどころか、こんちゃんの後ろをちょこちょこと追いかけるその姿は可愛い以外の言葉は出ないし、そもそも私とこんちゃんはあくまでも仮初めの恋人なのだ。
伝えるわけにはいかないが、なら彼女と敵対する理由だって私側にはもちろんない。
“だったら仲良くなりたいし、それにやっぱり嫌われているのは悲しいもの”
そう考えた私は精一杯楓ちゃんと仲良くなろうと試みているのだが――
「あっ、じゃあけん玉なんてどうかな? 実はお姉ちゃん、けん玉はそこそこ出来るんだよね」
「さっきからなんですの、その古いチョイスは! これだから年増は嫌なんですのよ!」
「年増ッ!? おばさん呼びより悪化してる気がするんだけど!」
「こーら、楓ちゃん、ゆっこお姉ちゃんのことはちゃんと優子さんって呼ぼうね」
「白さま……」
さり気なく私たちの間に入ってくれたこんちゃんがそう言うと、わかりやすく拗ねた表情になる楓ちゃん。
そんなところがやはり年相応で、可愛らしい。
「そういえば、あの女……」
「優子さん」
「あのおん……」
「ゆ、う、こ、さ、ん」
「~~~ッ、……優子」
こんちゃんの圧に負けたのか、渋々私の名前を口にした彼女に私は思わず小さく吹き出した。
「呼び捨てかぁ」
「ふふ、私は呼び捨てで構わないよ」
“年増呼びから大進歩だし”
こんちゃんはまだ少し不服そうだったが、私が笑っているからかそれ以上は言及しないようだった。
「で、何か私に聞きたかった?」
相変わらず拗ねた表情の彼女を覗き込むようにそう聞くと、不満そうだった顔がすぐに不思議そうな顔に変わる。
「どうして貴女は白さまに『ゆっこ』と呼ばれておりますの?」
“そのパターンか!”
こんちゃんのことをどうして『こんちゃん』と呼ぶのか、と鬼さんに聞かれたことは記憶に新しい。
そしてまさかその反対を聞かれるとは思わなかった私は思わず息を呑んだ。
“確かになんでだろ”
『ゆっこ』は、幼い時の私が自分の名前を上手く発音できなくて自身のことをそう呼んでいたことが始まりだった。
自分のことを何度もゆっこと呼ぶ私を面白がった家族がからかい半分で私のことを『ゆっこ』と呼ぶ。
そんなはじまりだから家族は私をゆっこと呼ぶが、友人の中にそう呼ぶ者はおらず、だからこそ何故『家の中』でだけのあだ名を彼が知っているのかはわからなかった。
“なんて答えるんだろう”
思えば彼は最初から私をゆっこと呼んでいたし、私には彼をこんちゃんと呼ぶように言っていた。
彼のあだ名なのかと思ったが、親しい友人である酒吞童子の鬼さんにこんちゃんと呼ぶ理由を聞かれたことからその可能性も低い。
どうして私はゆっこで、彼はこんちゃんなのだろう。
「――もしかして、私が私をゆっこと呼んでいた時に……」
「あぁ、それはね」
“それは……!?”
「ゆっこって顔、してるからだよ」
「……は?」
緊張しこんちゃんの答えを待っていた私は思わず脱力してしまう。
「ゆっこって、顔?」
「そう、よーく見てみて。この大福のようにふわふわの頬とかさ、ゆっこっぽくない?」
「えぇ? うぅん……確かにそう言われますと、シャープさに欠けているからこそ輪郭の緩やかさが気の抜けるその響きに合っているような……」
「ねぇ、もしかして二人とも私の顔が丸いって暴言吐いてる?」
半眼で睨む私の視線をものともしないこんちゃんは、むしろその反応すら楽しむようにくすくすと笑っていた。
“これが狐につままれたってやつかしら”
さっきまでの緊張感が完全に消えた私は、苦笑しながら再び楓ちゃんへと目線を合わせにこりと微笑む。
「けん玉がダメなら凧揚げはどうかな? こんちゃんの家のお庭広いから、凧揚げ出来ると思うんだけど……あ、でも立派な羽がある楓ちゃんだと凧より高く飛べるから退屈だったりする?」
言いながらちらりとこんちゃんの様子を窺う。
パッと見たところ庭自体は整えられているが、この庭は鑑賞用というより子供たちが走り回っても大丈夫なような作りになっていて小さな公園に近い構造だ。
先日なんかは突然鬼さんが乱入してきたが、その様子にも不快感が無さそうだった上に彼が謝罪という名目で逆立ちをしていた部分の地面が何故かへこんでいるがそのままになっている。
だからこそ『遊んでもいい庭』と認識したのだが、私の勘違いである可能性もあるのでこんちゃんの表情から一応確認しようと思い――
――少し目を伏せたこんちゃんに驚いた。
「! ごめん、私勝手な事……」
「凧揚げなんて、しませんわ」
「あ、え? えっと、ごめんね、凧揚げもちょっと古い遊びだったかな」
「知りません!」
「ゆっこ!」
「へっ!?」
そして突然声を荒げた楓ちゃんが私の体をドンッと押す。
しゃがんでいた私は簡単にバランスを崩し後ろへと倒れ込むが、そのままひっくり返る前にこんちゃんが抱き留めてくれた。
無害をアピールすべく両手のひらを前に出して声をかける。
「あ、けんけんぱって知ってる? 地面に丸を書いて、その上で飛ぶ遊びなんだけど」
「なんですの、その何ひとつ面白い要素の見つからない遊びは。どこを楽しむ遊びなのか説明してくださる?」
「えーっと、私もやったことがないから面白いポイントはちょっとわかんないんだけど」
「そんなの論外ですわよッ!」
長い黒髪がふわりと動き、くりくりした黒目が呆れたように細められる。
烏天狗の美少女であり、自称こんちゃんの正妻である黒曜楓ちゃんから冷たい視線を向けられた私だったが、こんなことでめげている場合ではない。
“最初は戸惑ったけど、こんなに可愛い子と仲良くなるチャンスって滅多にないし!”
恋人を取り合っている立場ではあるが、相手が幼い少女であることも相まってひりつくような感じはない。
それどころか、こんちゃんの後ろをちょこちょこと追いかけるその姿は可愛い以外の言葉は出ないし、そもそも私とこんちゃんはあくまでも仮初めの恋人なのだ。
伝えるわけにはいかないが、なら彼女と敵対する理由だって私側にはもちろんない。
“だったら仲良くなりたいし、それにやっぱり嫌われているのは悲しいもの”
そう考えた私は精一杯楓ちゃんと仲良くなろうと試みているのだが――
「あっ、じゃあけん玉なんてどうかな? 実はお姉ちゃん、けん玉はそこそこ出来るんだよね」
「さっきからなんですの、その古いチョイスは! これだから年増は嫌なんですのよ!」
「年増ッ!? おばさん呼びより悪化してる気がするんだけど!」
「こーら、楓ちゃん、ゆっこお姉ちゃんのことはちゃんと優子さんって呼ぼうね」
「白さま……」
さり気なく私たちの間に入ってくれたこんちゃんがそう言うと、わかりやすく拗ねた表情になる楓ちゃん。
そんなところがやはり年相応で、可愛らしい。
「そういえば、あの女……」
「優子さん」
「あのおん……」
「ゆ、う、こ、さ、ん」
「~~~ッ、……優子」
こんちゃんの圧に負けたのか、渋々私の名前を口にした彼女に私は思わず小さく吹き出した。
「呼び捨てかぁ」
「ふふ、私は呼び捨てで構わないよ」
“年増呼びから大進歩だし”
こんちゃんはまだ少し不服そうだったが、私が笑っているからかそれ以上は言及しないようだった。
「で、何か私に聞きたかった?」
相変わらず拗ねた表情の彼女を覗き込むようにそう聞くと、不満そうだった顔がすぐに不思議そうな顔に変わる。
「どうして貴女は白さまに『ゆっこ』と呼ばれておりますの?」
“そのパターンか!”
こんちゃんのことをどうして『こんちゃん』と呼ぶのか、と鬼さんに聞かれたことは記憶に新しい。
そしてまさかその反対を聞かれるとは思わなかった私は思わず息を呑んだ。
“確かになんでだろ”
『ゆっこ』は、幼い時の私が自分の名前を上手く発音できなくて自身のことをそう呼んでいたことが始まりだった。
自分のことを何度もゆっこと呼ぶ私を面白がった家族がからかい半分で私のことを『ゆっこ』と呼ぶ。
そんなはじまりだから家族は私をゆっこと呼ぶが、友人の中にそう呼ぶ者はおらず、だからこそ何故『家の中』でだけのあだ名を彼が知っているのかはわからなかった。
“なんて答えるんだろう”
思えば彼は最初から私をゆっこと呼んでいたし、私には彼をこんちゃんと呼ぶように言っていた。
彼のあだ名なのかと思ったが、親しい友人である酒吞童子の鬼さんにこんちゃんと呼ぶ理由を聞かれたことからその可能性も低い。
どうして私はゆっこで、彼はこんちゃんなのだろう。
「――もしかして、私が私をゆっこと呼んでいた時に……」
「あぁ、それはね」
“それは……!?”
「ゆっこって顔、してるからだよ」
「……は?」
緊張しこんちゃんの答えを待っていた私は思わず脱力してしまう。
「ゆっこって、顔?」
「そう、よーく見てみて。この大福のようにふわふわの頬とかさ、ゆっこっぽくない?」
「えぇ? うぅん……確かにそう言われますと、シャープさに欠けているからこそ輪郭の緩やかさが気の抜けるその響きに合っているような……」
「ねぇ、もしかして二人とも私の顔が丸いって暴言吐いてる?」
半眼で睨む私の視線をものともしないこんちゃんは、むしろその反応すら楽しむようにくすくすと笑っていた。
“これが狐につままれたってやつかしら”
さっきまでの緊張感が完全に消えた私は、苦笑しながら再び楓ちゃんへと目線を合わせにこりと微笑む。
「けん玉がダメなら凧揚げはどうかな? こんちゃんの家のお庭広いから、凧揚げ出来ると思うんだけど……あ、でも立派な羽がある楓ちゃんだと凧より高く飛べるから退屈だったりする?」
言いながらちらりとこんちゃんの様子を窺う。
パッと見たところ庭自体は整えられているが、この庭は鑑賞用というより子供たちが走り回っても大丈夫なような作りになっていて小さな公園に近い構造だ。
先日なんかは突然鬼さんが乱入してきたが、その様子にも不快感が無さそうだった上に彼が謝罪という名目で逆立ちをしていた部分の地面が何故かへこんでいるがそのままになっている。
だからこそ『遊んでもいい庭』と認識したのだが、私の勘違いである可能性もあるのでこんちゃんの表情から一応確認しようと思い――
――少し目を伏せたこんちゃんに驚いた。
「! ごめん、私勝手な事……」
「凧揚げなんて、しませんわ」
「あ、え? えっと、ごめんね、凧揚げもちょっと古い遊びだったかな」
「知りません!」
「ゆっこ!」
「へっ!?」
そして突然声を荒げた楓ちゃんが私の体をドンッと押す。
しゃがんでいた私は簡単にバランスを崩し後ろへと倒れ込むが、そのままひっくり返る前にこんちゃんが抱き留めてくれた。
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