-私のせいでヒーローが闇落ち!?-悪役令息を救え!

春瀬湖子

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イリダルルート

31.見直しを何度しても、見落としはあるもので

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もし私が毒を用意するならば。


「ゾーイ伯爵家?」
「えぇ」

“ゾーイ伯爵家とは領地が近い関係で私の数少ない『直接話の出来る』家でもあるわ”


確証があるわけではないが、いくら公爵家の令嬢でも毒を入手出来るルートなんて限られている。
スチルに描かれていた様子を見る限り私の死を本気で怒り悲しんでいた両親は、セシリスが毒を用意した事を知らないはず⋯。

「もし私が両親に気付かれないように毒を手に入れたとしたら、ここしかないと思うの」
「何でセリが毒を用意する前提なんですか?」
「えっ!?」
「毒を用意したのはイリダル殿下なんですよね?」
「そ、そうよ」
「殿下とセリならば殿下には殿下のルートがあるかと思うのですが」
「そ、そうね⋯っ」

“そりゃそうなるわよね~っ!?”
確証がある訳ではないこの説明をどうすればレオにわかってもらえるのかを考え頭を抱える。

“いっそ予言書を⋯いえ、ダメだわ。毎回私が破滅しているのを見ると怒り狂いそうだしそもそも予言書の中の私はルートによって婚約者が違うし⋯”

レオ以外の人と婚約している自分をレオ本人に見られる事を想像する。
嫉妬し暴走するだろうレオが安易に想像できた。

それに。

“レオに、私が他の人と婚約している姿を見られたくないわ⋯”
予言書の中の私は、その各婚約者の事を凄く好きで。
そしてだからこそ破滅してしまう。

もちろんそれだけじゃない。
“レオンルートではレオの婚約者だけど⋯”
レオンルートでレオが選んだのは、私じゃなくヒロインだった。

現実のレオが今からアリスを選ぶとは流石に思えないが、それでも見られたくないと思ってしまったから。


“でもそうなると、レオの疑問の答えがないのよね⋯”

ちらりとレオの方を見ると、きょとんとした顔とバッチリ目が合う。


「⋯ダメかしら」

理由が説明出来ない以上、私に出来るのは『お願い』だけで。

「レオにしか頼めないの⋯」
「はい、セリのおねだりならもちろん叶えますとも」

少しわざとらしいかしら、なんて思いながら上目遣いでレオを見つめるとあっさり了承してくれた。

“いやっ、チョロすぎないかしら!?”

あまりにもあっさり頷かれてしまい逆に不安になった私は、無意識にレオの袖を引っ張って。


「そんなに不安そうにしなくても大丈夫です。何か気になることがあるから調べて欲しいんですよね?」
「そうなんだけど⋯。でもいいの?私には何も説得できる確証なんてないわ」
「構いませんよ。その代わりもし貴族裁判で不当な判決がくだされたその時は、僕に拐われてくれますよね?」

ふっと笑ってこてんと首を傾げるレオ。
その笑顔は、私の不安な気持ちを取り去るようで、思わず私の頬も弛む。

「ふふ、そうね。その時はレオに拐われたいわ」
「⋯⋯ンッ!!」
「レオ!?」

突然胸を押さえうずくまったレオに驚いた私は、慌ててレオの体を支えようと隣にしゃがんで。

「ーーーっ!」

ちゅ、と気付いたら少し乱暴に唇を奪われていた。

「ん⋯っ、はっ」

ぬるりと入ってきたレオの舌に、私の舌が絡め取られる。
そのまま体重をかけられた私は気付けば簡単に組み敷かれていて。


「ほんと今すぐ拐いたいほど可愛いです⋯」
「も、ばか⋯」
「必ずセリの望む証拠を探してきますね、毒も必要なら僕が用意しますから」
「えぇ、期待して⋯って、え!?」

“毒を用意!?”
さらっと重ねられた不穏な単語に、甘く溶かされそうになっていた脳が一気に覚醒する。

「⋯え?毒、いりませんか?」
「いりません!!!」
「冤罪の報復とか⋯」
「しないわよ!?」

そうですか、とどこか少し残念そうなレオに冷や汗をかくものの。

“それでも、私の無実を信じてるからこその言葉⋯よね?そうよね、多分そうよね?”

そう考えると少し嬉しくもあった⋯のは、もうだいぶ色々麻痺してしまっているのかもしれない。






「ーー⋯とか言っても、私に出来るのは予言書を読むくらいなのよねぇ⋯」

渋々という表情で何度も後ろを振り向くレオを見送った私は、投獄時に持ってきていた予言書をパラパラと捲る。
持ち物チェックはされたものの、あくまでもただの本である予言書の持ち込みは許可されていて。

“いや、あの表紙で許可されたことにちょっと驚いたのだけれども⋯”

私以外誰にも読めない文字だから麗しい殿下達の絵画集で通ったのは最早奇跡としか思えなかった。


何かヒントはないかと改めてイリダルルートをしっかりと読み込むものの。

「イリダル殿下とアリスが愛を育むところはしっかり書かれてるんだけど⋯」
イリダル殿下の喜ぶ会話や、喜ぶプレゼントなどを今知ったところで意味などない訳で。

知りたい毒の事や、毒を飲んだ後の展開はあまり書かれてはいなかった。

「と、いうか悪役令嬢セシリスの事は全然書かれてないのよね⋯」

“悪役令嬢が死んだ後の事も、ヒロインが殿下の婚約者になって幸せになりました。としか書いてないし⋯”

予言書を閉じてはぁっとため息を吐く。

「やっぱり悪役にスポットは当たらないわよね⋯」
あまりにも少ない情報にがくりと項垂れた。


「スチルにも、毒に倒れた悪役令嬢セシリスの代わりに婚約者としてイリダル殿下の隣に立つヒロイン⋯って私の事は説明文だけで実際に描かれてるのは幸せそうに寄り添う二人とそんな二人に拍手を送る貴族達ー⋯」


不貞腐れながらスチルを見て、ある事に気付く。

「ーーーこれって⋯」




結局予言書を読み返すくらいしか出来ずに気付けば貴族裁判の日を迎えた私は、思ったよりもしっかりと両手を拘束されて。

“ーー投獄先が快適だったせいで実感があまりなかったけれど、私はやっぱり罪人なのね”

ギチッと縄で締められ自由を奪われている自分の両手を見て、心臓が重くなる。


“もし今日、私の無実を証明出来なかったらーー⋯”
どんどん沈む気持ちに負けそうになって、歩く速度が遅くなると、腕を拘束している縄が私を連行する騎士によって強く引かれた。

「きゃ⋯!」

思わず転けそうになるがなんとか踏みとどまる。
そんな私をちらりと一瞥したその騎士は小さく舌打ちをして。

“罪人ってこんな扱いされるのね⋯”
その理不尽とも思える行動は、この国を大事に思っているからこそだと割り切った。

“今の私は、この国の第三王子毒殺の疑いがかけられてるんだもの”

俯きながら連れられたのはどことなく教会のような場所だった。

「ここが⋯」

真ん中に連れられた私を囲うように椅子が設置され、見にきた貴族達が座っている。
正面には陛下が座り、私を真っ直ぐ見ていた。


「これより、審議を開始する」

陛下のその一言でざわついていた会場が静まり返り、おそらく証言をする為だろうあの日イリダル殿下の護衛だった騎士が前に出てきた。


「あの日のお茶のカップより一口で致死に至る毒が検出されました」

その一言を軽く頷きながら聞いていた陛下は、こちらに視線を移した。

「フローチェ公女」
「はい。私からまずお伝えしたいのは、お茶を用意したのもお茶を入れたのも、カップを用意したのも私ではないのにいつ私が毒を入れることが出来たのか、ということです」
「ふむ⋯」

私の主張を聞いた陛下が今度は視線を横に向ける。
そこにいるのはイリダル殿下本人で、陛下からの視線を受け声を上げた。

「意見を!」
「許可しよう」

すくっと立ち上がったイリダル殿下は、どこか得意そうな顔をこちらに向ける。

「公女の言う通り、正確な混入方法はわかっていません」
「なら⋯!」
「ですが、確実な事があります。それは、公女が『毒が入っている』ということを知っていた事です」
「⋯っ!」

“やっぱりそこを詰めるわよね⋯!”

「誰も口にしていない、いわば犠牲者のいない状況で毒が入っている事に何故気付けたのでしょうか?」
「それは⋯」
「それは、毒を用意したのが公女本人だったからではないでしょうか」

普通なら毒味の者が味を確認し判断するか、もしくは誰かが混入された毒の犠牲にならなくては『毒が入っている』という事を知る術はない。
犠牲者のいない状況で毒が入っている事を知ることが出来るのは、『毒を入れた本人』だけー⋯

“私は予言で毒の混入に気付けたけど、あのタイミングで毒の存在を知れたのは明らかに不自然だわ”


「ーー⋯もし、毒を入れたのが私だとすれば、何故私が毒から皆様を守るような事をしたのでしょうか」
「さぁ、毒殺を目論むような人の考えなんてボクにはわかりかねますが⋯そうですね、狙った相手とは違う人のところに毒が配膳されたか、もしかしたら誰のカップに入れたのかわからなくなったとかではないでしょうか?」
「⋯っ!」

もちろん答えは否。
しかし、違うと証明出来るような言い分は私にはなくて。

“殿下が犯人だからこその強気⋯!”
当然そこを詰められると思っていたし、当然そう言い張られる事も想定していたが、それでも私にはいい回答は思い付かなかった。


「イリダルの言う通り、あの状況で毒に気付けるのは少なくとも『毒が入っている』事を知っている人間。毒を持ち込んだ者だと考えるのが妥当だがー⋯」

再び陛下の視線がこちらに向けられる。
今の私には、これ以上説明できる話も説得できる証拠もなくて。


“でも、俯くのはまだ早いわ⋯!”


「⋯毒を用意した人を、知っています」

私はハッキリとそう宣言した。
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